王冠をかぶろうとする者、その重さに耐えろ〜相続者たち〜
第4話

タンは着いたら電話するようにとラヘルに言い残し、ウンサンのもとへ走る。

タン「なぜ電話してこない?お前の友達から聞いてないのか?」

ウンサン「聞いたわ」

タン「聞いたなら電話しろよ!帰るのか?今」

ウンサン「まだ何かあるの?」

タンは自分の携帯を取り出して、ウンサンに差し出す。

タン「お前の電話番号を打ってくれ。何してるんだ?早く」

ウンサンは向こうでじっと立ち尽くすラヘルを一瞥する。

ウンサン「今までありがとう。感謝の言葉も言ったし、さよなら。別れの挨拶もしたよ。私は全部した。だからこんなことを聞くために婚約者を一人ぼっちにしないで」

一言残して、行ってしまう。

携帯を持ったまま一人呆然と立ち尽くすタンの表情を見たラヘルは、タンが本気なことを悟る。

帰りの飛行機の中。

ウンサンが税関申請書に記入している所にラヘルがやってくる。

ウンサン「何してるの?」

ラヘル「全部書くのを待ってるのよ。書き終わらせて」

ウンサン「なんなのよ?」

ラヘル「考えてみたけど、どうもまた会うような悲しい予感がしてね」

ウンサン「そんなことはないわ」

ラヘル「それはあんたがキムタンをよく解ってないからよ。悲しい事があったら一番にあんたに会いたがる気がするけど、あんたについて何も知らないから。だから」

ウンサン「だから?」

ラヘル「これを初対面の挨拶としましょう」

ラヘルは無理矢理ウンサンの手から税関申請書を奪って行ってしまう。

返して貰おうと慌てて追いかけるが、ラヘルはファーストクラスのため添乗員からそれ以上は入れませんと断られるウンサン。

無事韓国に到着したウンサンが自宅に帰ってくると、全てがすっきりと片付けられもぬけの殻となっていた。

ウンサンが帰ってきたことに気付いた大家から『お母さんは引っ越した』と聞かされる。

ウンサンは母に連絡すると、家政婦先の家に住み込みを始めたと知らされる。

つまり、今日からウンサンも帝国グループ本家に住み込むことになる。

狭い物置小屋のような部屋で、アイロンがけをしながらウトウトする母を見る。

そんな母を見ながら一人こっそり涙するウンサン。

そしてまた、いつもと変わらぬアルバイトの日々に戻っていく。

一方タンはその頃、いつもと変わらぬ日々を送りながらあれこれ思い悩み始める。

ふと目にするドリームキャッチャー。

タンは無償に寂しかった。

一度も自分の味方をしてくれない父。

肩身の狭い思いをしている産みの母ギエ。

冷たい腹違いの兄。

その全てが恋しかった。

その頃本家では。

会長「何を突っ立ってるんだ?座れ」

ウォン「仕事があるのですぐ出て行きます」

会長「なんていい加減な言い訳だ」

ウォン「タンに会いました」

会長「パーティに出席した人達はお前より私の方が親しい。でも誰もタンのことを言ってなかったんだが?もう弟の流刑を解いてあげなさい。そうでないなら私が解く。お前の傷は解る。だから公平にお前がタンを傷つけるのを見逃してあげたんだ。でも私が思っていたのよりもひどい。これは公平ではない」

ウォン「傷の重さが同じくなることがお父さんの考える公平ですか?」

会長「お前の顔色を伺ってタンを抱いてあげた記憶もない。そのうち後悔する気がする」

ウォン「まるで私は愛で育てたという意味みたいですね。私には後悔しない自信がありますか?」

会長「私が君の意見を聞いていると思うのか?」

ウォン「これで失礼します」

一方、タンの実母ギエ。

ウォンがアメリカに行っていたと聞き、タンの様子を聞きに行く。

ギエ「入るわよ。アメリカに行くなら行くって言ってくれれば・・・」

ウォン「タンのことならお父さんに聞いて下さい」

ギエ「タンと会ったの?元気だった?どこか悪い所は?私のことは聞かなかった?」

ウォン「タンの電話番号を知らないんですか?教えて差し上げましょうか?」

ギエ「電話に出ないから聞いてるんじゃない。そうだ、話が出たついでに聞こう。タンいつまで帰らせないつもりなの?ここまでしないと気が済まないの?たかが18歳の子供・・・」

ウォン「私はあの歳で帝国グループの後継者で議決権8%を行使する大株主でした」

ギエ「そう。じゃ取り消す。でもキム社長、私タンに合わせる顔がないのよ。仮にも母なのにあの寂しがり屋を・・・」

ウォン「ここは聖堂ではありません。告解なら他を当たって下さい」

ギエ「私は仏教よ!」

言い捨てて去るギエ。

その頃タンは浜辺で一人回想にふける。

農園パーティでのウォンとの会話を思い出す。

タン「3年ぶりだよ俺達。俺、背も伸びたんだ」

ウォン「それしかないだろ?お前がアメリカでしたのは。ここに来たのもお前の分にすぎる勇気だったから・・・」

帝国グループ本家で暮らすことになったウンサンは、早速メイドルームにダンボールの箱で作った棚に自分の教科書たちを並べる。

そして部屋に戻ってきた母にアメリカのお土産を渡す。

母「(手話で)姉ちゃんのことを思いながらツマミにしろってか?」

ウンサン「ダイエットにいいんだって。とにかく私はバイトを始めるから母さんはこれでダイエットしてお金持ちの男をカモにするの。それが私達がこの生活から抜け出す一番早い方法なの」

母「(手話で)そう、そうしましょう」

そして二人で笑いあう。

もちろん冗談だと解っている。

ウンサン「母さんを置いて出て行ってごめん。本当にごめん・・・」

そして泣き笑いの二人。

ウンサンは、カフェ、チキンの配達、皿洗いと毎日必死でバイトに励む日々。

そしてチャニョンに借りた飛行機代を早速振り込む。

タンはウンサンと一緒に見た『HOLLY WOOD』のサインが見える場所に再び訪れる。

サンドイッチを頬張りながらふと見るドリームキャッチャー。

思いは自然とウンサンへ。

とある朝、会長の寝室。

会長「おはよう」

ギエ「おはようじゃないわよ。タンが心配で。真っ黒の夜を真っ白に過ごしたいの」

会長「イビキをかいていたが?」

ギエ「もう!空気が乾いてるの!」

そういって水を飲むギエ。

会長「タンは帰る気はあるのか?」

ギエ「別に出たくて出たわけでもないし。帰る気がなくても帰らせるわよ。3年ならウォンの顔色も十分伺ったわ。あんた、タンに会いたくないの?」

会長「それは会いたいさ」

ギエ「ウォンだけいればいいんじゃなくて?」

会長「二人ともいればもっといい」

ギエ「本当?それって許可したのよね?ウォンはあなたが責任とってくれるんでしょ?」

会長「兄が怖くて帰れないなら帰らない方がマシだ」

ギエ「なんだよ、もう!タンに電話するからね!」

その場で電話するも、タンはまた電話に出ない。

ギエ「なんでまたでないの、また!」

その頃タンは学校のベンチでエッセイを書いている。

『俺は想像する。俺がいて寂しかった人達。一度くらいは俺がいなくて寂しがって欲しい。帰りたいお父さん。会いたい母さん。そんな風に俺を追い出して一度くらいは痛かったはずだと信じているよ、兄さん』

タンは決意する。韓国に帰ろうと。

ユン室長に電話する。

そして最後に、今まで書き連ねてきたエッセイを先生に提出しに行く。

提出する予定のなかったエッセイを。

先生「もう提出する気になったのかい?」

タン「今までありがとうございました」

深々と一礼し出ていくタン。

心の声『王冠をかぶろうとする者、その重さに耐えろ』

空港にはユン室長が迎えに来てくれていた。

秘書からタンが帰国したと知らされるウォン。

そしてユン室長と共に一番に兄に会いに行く。

タン「ただいま」

ウォン「何日の予定だ?」

タン「ここにいるよ」

ウォン「何日の予定なのかと聞いている。アメリカに行く時に私が言ったことを覚えてないのか?それとも理解出来なかったのか?」

タン「兄さんが何を心配しているのかは解っている」

ウォン「解っているのに来たのか?」

タン「家族にも会いたかったし・・・」

ウォン「泣き言を言いに?」

タン「なんと言ってもいいけどもうアメリカには行かない。ここで遊ぶからいさせて。兄さんが心配するようなことはない」

ウォン「何?私が心配することは庶子ごときが『あるない』と言える程度のものではない。ふざけないでよく聞け。一つだけ確かなものはお前は私があげたチャンスを逃したということだ。腹違いの兄弟でも少しは優しくなれるチャンス。お前が帰ったということはそういう事だ。アメリカに行きたくない?ではここにいろ。私に何が出来る?(ユン室長を見ながら)みんながお前の味方なんだから」

タンが帰ってきたことを知るとさっさとホテルを予約しウォンは家を出て行ってしまう。

自分の部屋を懐かしく眺めるタン。

荷解きをしているとあのドリームキャッチャーが出てくる。

それをまた窓辺に飾るタン。

ウンサンを思い出しながら。

2階の窓からドリームキャッチャーを見つめるタン。

庭の噴水に座り物思いにふけるウンサン。

こんなに近くにいるのに気付かない二人。


あくる朝、タンは目覚めると外の空気を吸おうと庭に出る。

ふと見ると洗濯物に真っ赤なスニーカーが干してある。

いぶかしく思いながらも素通りする。

ご飯を食べていると何やら13日の金曜日のテーマソング(携帯の着信音)が聞こえてくる。

急いでドアを開けてみるとほんの一瞬だけ見える髪の長い女の子の後ろ姿。

いぶかしく思いながらもやはり素通り。

一方ウンサンは、早朝に母にたたき起こされる。

帰ってきた2番目の息子とばったり鉢合わせしないように気をつけて、早朝に家を出ろと言われる。

ウンサンの母がお世話をしてるのはタンの実母ギエだった。

マダムの機嫌を損ねるわけにはいかないとウンサン母。

仕方なくまだ半ボケのままウンサンは近くのコンビニへ。

ジュースを1本買いレジでお金を払い、立ち食いコーナーで一気飲みし、そのまま外にあるテラスへ向かい椅子に座ってテーブルに突っ伏して寝てしまうウンサン。

その一連の動作を面白おかしく眺めていたのはチェ・ヨンド。

食べようとしていたラーメンを持って、ウンサンの向かいの席へ。

手を当てて本当に寝ていることを確認するヨンド。

そこへやってきた幼稚園児二人が、目の前で大喧嘩を始める。

ヨンド「おい、ガキども。お姉ちゃんが寝てるだろ。静かにしろ」

そう言って泣かせてしまう。

そしてその騒ぎに目を覚ましたウンサンは、やはり半ボケのまま行ってしまう。

『おかあさん』を連呼しながら大泣きする幼稚園児二人にヨンド思わず。

ヨンド「チッ、こいつら!お前たち、母さんがいるって自慢してるのか?俺もお前たちくらいの頃はいたんだけど?」

そこへヨンドを迎えにきたチョ・ミョンス。

ミョンス「おいチェヨンド!何してんだ?」

ヨンド「この子たちに喧嘩売られてさ。こいつらが俺に母もいないといじめてるんだぜ」

ミョンス「最近の子供は怖いよな。怪我はないのか?」

ウンサンの後ろ姿をじっと見つめるヨンド。

ヨンド「心さ」


ウンサンは帰国後、ハリウッドでの思い出のかけらを一つSNSに投稿した。

ウンサン『昨夜の夢の中に私がいたことを証明する道がないように・・・私は本当にあそこにいたんだろうか?』

写真は飛行機チケットの切れ端。

ウンサンに携帯を貸した時のままわざとログアウトしていないタンは、そこにコメントを付ける。

タン『お前は確かにそこにいた。俺が証明する』

それを見たウンサンはほんの少し悩むがすぐにピンときて、チッと舌打ち。

ウンサン『 ちょっとログアウトしなさいよ!人生からログアウトされたい?』

タン『あぁしないさ。俺がそんなに良心的に見えたのか?薬のディーラーなのに?お前どこだ?腎臓はまだ元気か?』

ウンサン『元気だよ、それで?必要なら取りに来てみなさいよ』

タン『正直に言ってみろ。俺に現れて欲しいだろ?』

タンは家の中。

ウンサンは庭。

二人の距離はすぐそこ。

まだ気づいていない二人。

『なんで返信してこないんだ、ったく』とタンはぶつぶつ言いながら庭へ出ると、家政婦とすれ違う。

その家政婦が着ていたTシャツにふと目が止まる。

あの時自分がお揃いで買ったものと同じだったから。

一方ウンサンはマダムに頼まれたものを届けに来るが、マダムが履いている靴下に目が止まる。

ピンクのうさぎの絵の靴下。

自分のと同じだったから。

マダムに頼まれて母が持ってきたワインを間違え、ウンサンが代わりに行くことに。

大豪邸の地下にあるワイン倉庫に初めて足を踏み入れたウンサンは、その広さと量に圧倒されていた。

ウンサン「(独り言)はぁ・・・ワイン達まで贅沢な暮らししてるのね」

やっと目的のワインを見つけて屋敷に戻る途中庭を横切るウンサン。

庭のベンチに座り『なんで返信してこないんだ!!』とぶつぶつ怒るタン。

タンがふと振り返るとほんの一瞬垣間見えた女の子の後ろ姿。

ますますタンは疑い始める。

タンは母に尋ねる。

タン「母さん。ここでうなされたことある?」

ギエ「悪夢でも見るの?」

タン「女の子の後ろ姿が・・・髪は長くて・・・」

ギエ「あぁ、お手伝いさんの娘さんね。ここで一緒に住んでるの。あんたと同じ歳で名前はなんだっけ・・・チャ・ウンソ(サ)ン?いないように過ごせとは言ったけど、お化けのように過ごせとは言ってないのにね」

タン「なんでここで暮らしてる?」

ギエ「アメリカにいる長女が結婚するとかで家の保証金を全部渡しちゃったんだって。だから仕方ないじゃない?」

部屋に戻ったタンは複雑な思いでウンサンのSNSを見る。

そして急いでメッセージを入れる。

タン『今どこで何してる?早く答えろ』

イライラしながら返信を待つタン。

タン「(独り言)早く返事しろよ!」

ウンサン『水飲んでるけど?』

返信を確認したタンは急いでキッチンへ走る。

ドアの前で躊躇する。

一度大きく深呼吸。

そして勇気を出してドアに手をかける。

ほんの少し開けたドアの隙間から中を覗き込むタン。

そこにはまぎれもなく、携帯片手に水を飲むウンサンの姿があった。

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