シンイ〜信義〜
第9話〜消えた笑顔〜

ウンス「高官の息子なのね」

尚宮「千戸長イジャチュンの次男のイ・ソンゲです」

それを聞いて固まるウンス。

ウンス「何て名前ですって?」

尚宮「イジャチュンの次男、イ・ソンゲと申しました」

ウンス「まさか・・・それじゃあの子が?」

王「医仙?」

ウンス「あのイ・ソンゲなの?歴史の本に出てくるイ・ソンゲ?」

半ば放心状態でチャン侍医に尋ねる。

ウンス「もし私が治療しなかったら王妃様は助からなかった?」

チャン侍医「おそらくは。深い傷でしたので」

ウンス「もし私が訪ねなければ慶昌君様は毒で死ななかった?腫瘍で命をなくしても毒ではなかったはず」

王「いったい何の話です?」

ウンス「もしあの子を私が治療しなければ亡くなったのかしら?あの子があのイ・ソンゲだとしたら・・・どうしよう」

王「お知り合いか?チョノの息子と」

ウンス「あの子はずっと先の将来・・・李氏朝鮮を・・・」

口を押えて急に恐ろしくなるウンス。

そこへ息をきらせて飛んでくるヨン。

ヨン「王様!医仙をお借りしてもいいでしょうか?」

ウンスを引っ張ってきたヨン。

ウンス「離してよ!ちょっと・・・手を離して!」

周りを警戒しているヨン。

ヨン「お話があります」

ウンス「それより大変なことになったわ。私を連れてきたあなたの責任よ」

ヨン「少し黙って下さい。そのことを話したく」

腕を掴んで引っ張って行こうとするヨンを蹴るウンス。

ウンス「社会常識からほど遠い適当な私でも解るわ。歴史を変えちゃだめだって気をつけてきたのに。最後まで聞いて!今日また手術をしたわ。医者としての使命感からじゃない。キチョルに会うため患者の命を口実にしたの。その結果、手術で助けた患者は誰だと思う?」

ヨン「お静かに!」

ウンス「あの子は大きくなって将来・・・」

ヨン「黙れ!」

ウンス「怖くてたまらないの!他じゃ話せない」

ヨン「歴史やら行く末やらのせいであなたが危険なのです!」

ウンス「あなたを殺す人を助けてしまったの!どうして私がこんな・・・こんなことをしなきゃいけないの?あなたが答えてよ!」

その時、ふと気配を感じるヨン。

近衛隊を呼び『医仙を守れ』と命じて慌てて走り出す。

気づかれたことに気付いたチョヌムジャも急いで逃げる。

必死で追うが巻かれてしまう。

チョルの屋敷ではチョヌムジャが盗み聞きしてきた内容で天界が本当に実在すると確信するチョル。

もうチョルの頭の中は天界のことでいっぱいになっている。

チョニシに戻ってきたウンスはイ・ソンゲの様子を見にきている。

ウンス「痛みはいかがですか?」

ソンゲ「よくなりました」

ウンス「そのままでいいわ」

ソンゲ「あなたが天から参られた医仙ですか?」

ウンス「そう呼ばれてます」

ソンゲ「命を救って頂きました。もうすぐ父が参ります。ぜひお礼を。急務の任を終えれば急ぎ参りますゆえ」

ウンス「お名前は?」

ソンゲ「私はイ・ソンゲと申します。本貫は全州、元の双城総管府におります。父は・・・」

ウンス「全州・・・李氏」

ソンゲ「そうでございます」

隊長の様子が心配で後をついて回っているテマン。

ヨン「チョニシへ行け」

テマン「はい」

走り出すがまた戻ってくる。

テマン「何のためです?」

ヨン「医仙がおとなしくしてるか見てこい」

入れ替わりで走ってくるトルベ。

トルベ「トクソンプオングンがカンアン殿に入りました」

部屋に戻ってきたウンス。

だがウンスの部屋で待ち構えていたのはファスイン。

ウンス「何してるの?」

ファスイン「一緒にお散歩しない?」

隣には手首を縛られ猿ぐつわを噛まされたトギがいる。

ウンス「その子を離して」

ファスイン「まだだめ」

右手をトギの肩に置くファスイン。

ファスイン「返事が先よ。今から私と一緒にお散歩するわよね?」

ウンス「解放したら答えるわ」

ファスイン「殺した方が早い?」

部屋の前で見張っているトクマンに頼むウンス。

ウンス「中に入って」

トクマン「中に?」

ウンス「トギが重い物を運ぶから手伝ってあげて。中にいるわ」

トクマン「承知しました」

女人の部屋に入るのはいけないこととされる時代。

トクマンは恐る恐る足を踏み入れる。

トギが縛られているのを見つける。

その頃チャン侍医も、寝台からいなくなっているイ・ソンゲをいぶかしく思う。

必死でウンスを探すトクマン。

ヨンはカンアン殿へ入ってくる。

チョル「王様の護衛の者がおそろいですかな。これだけですか?」

王「折り入って火急の話とはなんだ?」

チョル「王様が人材を集めていらっしゃるそうで。常識が高く才のある者達ですか。賢明なお考えです。権力を持ち維持するために持つべきものは人材です。私も考えました。そう簡単に人材を揃えては困ると」

王「なぜか?余と権力をめぐって争うつもりか?」

チョル「それは避けたく思います。ゆえに争わず済むよう片付ける所存です」

チョルが取り出したのはこの間ヨンが副隊長に渡したはずの名簿。

『しまった』という顔をする副隊長。

チョル「裏町の野良猫どもを使い在野の人材を集めた名簿を作らせたとか?王様、私こそ 王様の人材です。他の者を欲するとは納得いきませぬ。私には不治の悪癖がございまして。嫉妬が度を過ぎるゆえに・・・」

王「何だ?」

チョル「名簿にある者達が許せませぬ。死んで欲しいのです」

チョルの首に剣をつきつけるヨン。

ヨン「王に無礼な言動は許さぬ。斬り捨てましょうか?王様」

王「余の号令で斬り捨てることも出来るが覚悟の上で参ったのであろうな?捨て身の覚悟なくして国王の余の前で大それたことを言えようか?」

チョル「策もなく無謀な真似はいたしませぬ」

王「策と?」

チョル「策はまず王妃様がいらっしゃるコンソン殿にあり。策の二つ目は医仙と共にあります」

トクマンとテマンを見るヨン。

二人の申し訳なさそうな顔を見てため息をつく。

ファスインとチョヌムジャに連れられてきたウンス。

見ると檻に入れられたイ・ソンゲが手術の傷も癒えぬ腹を抱えてウンスを呼んでいる。

患者の命を餌にされたらウンスは逃げるわけにもいかず諦めてついていく。

名簿に載っていた名前を一人一人訪ねて殺していく二人。

王の間。

ヨン「王様、この者を殺してから策を立てる方法もあります」

チョル「それが王位です。誰を取り誰を捨てるか、誰を犠牲にして誰を助けるかその繰り返しです」

王「今日のところは刀を下げよ」

チョル「賢明なご判断です」

王「その屈折した言い分に余は疲れ果てた。望みは何だ?どうして欲しい?」

チョル「いいえ。王様には何もなさらないで欲しいのです」

王「恐れ多くも面と向かいお飾りの王でいろというのか?」

チョル「民を憂う王であって欲しいだけです。名簿の者達は王様の民。王様が手を引けば死なずに済みます」

王「何と?」

今頃名簿に書かれた人達は一人ずつ殺されているはずだと聞かされる王達。

驚愕する王に『時間を稼いで下さい、私が行きます』と出ていくヨン。

一人一人殺されていくのを見ているしかないウンス。

あまりの光景に道中で吐いている。

ファスイン「もう十分思い知った?舐めたら痛い目を見るわよ?」

チョヌムジャ「次に行こう」

ファスイン「次はあなたが選んで。3人の中から1人を選ぶの。一人目は王妃、二人目はチャン侍医、三人目はチェヨンよ。一番大切な人は誰かしら?あなたが選びなさい。次の犠牲者を」

涙をこぼしながら考えるウンス。

ヨンはスリバンに伝令を出しいなくなったイ・ソンゲを探させる。

ソンゲを見つけウンスの行方を尋ねるが解らないと言われる。

そこへテマン。

口笛で合図して『あっち』と知らせにくる。

選択を迫られているウンス。

ファスイン「これで最後よ。答えなければ・・・」

ウンス「何よ?誰か選んだらどうするつもり?」

ファスイン「一番大切な人を殺せと言われたの。従順になるまで飼いならせってね」

ウンス「飼いならす?」

ファスイン「それが兄者よ。手に入れるために周りの人を消すの。兄者の所へ行くしかないわ」

ウンス「まさか慶昌君に毒を渡したのも・・・」

ファスイン「もちろん兄者よ。でも飲ませたのはチェヨン。知ってたでしょ?いいから早く決めて」

ウンス「好きにして。そんな質問絶対に答えられない。勝手にすれば?」

立ち去ろうとするウンスに刀を突きつけるチョヌムジャ。

ファスイン「あの患者はいいの?あなたのせいで死ぬわよ?」

ウンス「ご勝手に。どいて。私には手を出せないんでしょ?自分以外の人間が死のうが生きようが関係ないわ」

首に刃を当てられるウンス。

だがそのまま歩き出す。

そこへ近衛隊が駆けつける。

チョヌムジャが笛を吹く。

耳をおさえて崩れ落ちる隊員達を見てやめさせようと戻ってくるウンスだがウンスも耳をおさえて座り込む。

そこへ駆けつけるヨン。

座り込むウンスの耳から血が流れている。

それを拭いてあげる。

ヨン「一戦交えるか引くか」

ファスイン「そうねえ」

チョヌムジャ「十分だろう」

ファスイン「収穫はあったようだし。その男が最初の一人ね。いつもあなたを守ってる。影のように必ず。またね」

ヨン「大丈夫ですか?」

そういってウンスに触れようとするが手を振り払われる。

黙って歩き出すウンス。

ヨン「医仙をチョニシへ送り届けて指示を待て」

元気のないウンスについて歩くトクマン。

馬に乗ったヨンは後ろから無言で通り過ぎていく。

急ぎ王の間へ戻ったヨン。

これを機にもう誰も王につく者はいないだろうと言い放つチョル。

今月15日に開かれるソヨン会議で余につく者達が徳目を教えてくれようと言い放つ王。

つまり15日までに新たな忠臣を集めなければならなくなったわけだ。

危険を覚悟した王は王妃の部屋に出向き無理矢理自分の部屋へ連れてくる。

慌てて追いかける尚宮。

王妃に事情を説明し危険が完全に排除されるまでの処置だと言う王。

『お傍に置いて下さい』という王妃。

ヨンとウンスの二人はそれぞれ違う場所で相手のことを考えている。

さっきファスインに言われた言葉を思い出すウンス。

『あの者が1番ね。いつもあなたを守ってる。影のように必ず』

隊員達の耳を見にきたウンス。

皆無事だと解りほっとする。

次はイ・ソンゲに会おうとやってくるがヨンと話しているので入口で立ち止まる。

ソンゲ「隊長はすごい人だと皆申してます。100人の敵も倒すとか」

ヨン「信じるのか?」

ソンゲ「見たそうです。剣の一振りで数人の敵が一度に倒れたと。その剣ですか?鬼剣でございますか?」

ヨン「よく聞け。人の剣を物欲しげに見るな」

ソンゲ「失礼しました」

ヨン「敵が100人いたら尻尾を巻いて逃げろ。斬るべきは大将のみ。戦いは不要だ。違うか?」

ソンゲ「確かに。大将だけです」

出ようとするとそこに立っていたウンスと鉢合わせする。

ヨン「耳は?」

ウンス「大丈夫。あなたの部下達もチェック・・・検査したけど重傷者はいなかった。安心して」

ヨン「あいつらは平気です。少し話せますか?」

外までやってきた二人。

後ろから部下達がこっそりついてきていることに気付いているヨンはそこにあった小石を後ろに投げる。

慌てて逃げる部下達。

ヨン「あの者ですね。将来私を殺すというのは。しかしそうは思えません。王に願い出ます。しばらく皇宮を離れるお許しを頂き一緒に天門へ」

ウンス「行ったって天門が開いてる保証はない」

ヨン「ええ」

ウンス「チェヨンさんには王様と成すべきことがある」

ヨン「ええ」

ウンス「私の約束も守るのよね?」

ヨン「ここにいるのは危険です」

ウンス「未来を知ってるからキチョルが私を狙うってこと?」

ヨン「他の者も狙います。大勢の者があなたを狙う前にここを離れましょう」

ウンス「一つ聞いてもいい?」

ヨン「何ですか?」

ウンス「前に私が逃げようとして崖から落ちそうになった時に支えてくれたのはあなたね?あなたでしょ?あの日私の身が危険だったら助けるために戦った?」

ヨン「誓ったのです」

ウンス「私を守る。必ず帰すと?」

ヨン「はい」

ウンス「あなたはキチョルに勝てるの?」

ヨン「おそらく負けます」

ウンス「この世界での負けは死ってことよね?」

ヨン「負ければ死にます」

ウンス「解ったわ。私も考えてみる」

歩き出したウンスの背中に語りかけるヨン。

ヨン「もう、笑いませんか?私の前だからですか?それとももう・・・笑わないのですか?」

じっとヨンを見つめた後、何も言わずに歩き出すウンス。

チョルの屋敷ではソヨンに参加した者を殺す算段を練っている。

面倒になったチョルはチルサルを呼び寄せると言いだす。

チルサルとは謎の隠密暗殺集団。

姿を見た者はなく気配すらも感じる暇もなく殺されるのだ。

イソンゲの父が大量のお礼を持って訪ねてくる。

そしてあろうことか、息子を治してくれた天の医仙の自慢話を元に持ち帰ると言われてしまう。

広まれば広まるほど危険は増す。

それを聞いたチャン侍医も心配になる。

ウンスは自分の部屋でよく見えない鏡に向かい顔を作っている。

『笑わないのですか?』と言われたから笑顔を作っているのだ。

ウンス「まさか。ウンスよ。ドンドウォーリー、ビーハッピー。笑顔よ」

トクマンにここから天門までの道のりを教えて貰い紙に書いている。

チャン侍医「何ですか?」

ウンス「人に道を聞いたら覚えておかなきゃね。西京の次は?」

筆を取り上げられるウンス。

ウンス「行って頼んでもだめ。キチョルの変態め。手帳を出せって言っても絶対出さない。だからもうあてにしない。天門まで行って待つことにしたの。一度開いたんだもの。また開くはず」

チャン侍医「炭が」

ウンスの鼻を拭いてくれるチャン侍医。

ウンス「それで考えたの。ここから遠いでしょ?旅費も要ることだし。王妃様に旅費を頼みたいんだけどいくらが妥当?」

チャン侍医「王妃様から旅費を?」

ウンス「手術したのよ。少しくらいくれても」

チャン侍医「隊長には?黙って一人でいくなど恐れ知らずな」

ウンス「男物の服を下さい。時代劇で女の人がそうしてた。男装して笠もかぶって」

チャン侍医「ここが怖くて?近衛隊では安心できませんか?」

ウンス「一番怖いのは私自身。ここで何かしてしまうかもって。何をするか解らなくて怖いの。私は歴史も政治も大嫌いよ。そんなものの責任も取りたくない」

ヨンはスリバンの情報を頼りに有力となりうる者の家を訪ねて回っているとウンスがいなくなったと知らせが来る。

ウンスはイ・ソンゲの父がウンスにと置いて行ったお礼金を掴んで荷物をまとめて一人で出て行ったのだ。

開京に隠密軍団チルサルが入ったというのに、何も知らずに。

道を歩いていると途中木々の隙間からヨンがこちらを見ている姿を見かける。

『やばい』と先を急ぐがヨンに捕まるウンス。

ヨン「考えてみるとはこのことですか?天門まで行こうと?こんなに詰め込んで」

ウンス「治療代としてイソンゲの家の人がくれたの。名前を言うと身震いしちゃう」

ヨン「怖くないのですか?一人で・・・」

ウンス「またお小言?」

ヨン「縛るべきか話して解ってもらうか」

ウンス「あの約束は忘れましょ?」

ヨン「何です?」

ウンス「言った通りよ。誘拐は忘れるわ。腹をくくることにしたの。運が悪かったせいだって思うから。必ず帰すって約束は忘れて」

ヨン「反故にするのですか?」

ウンス「そうよ」

ヨン「私が約束に命をかけるのが心配で?」

ウンス「それは・・・」

ヨン「だから行こうとしたのですか?私のために?」

ウンス「握手は?」

ヨン「何ですか?」

ウンス「私の世界では初対面の時や久しぶりに再会した時、別れ際にするの。さあ握って。早く」

ウンスが握手のために差し出した手を掴んで元来た道を戻るヨン。

ヨン「私の約束です。守るも破るも私が決めます」

ウンス「ちょっと待って」

ヨン「だから信じて待って下されば・・・」

ウンス「連れ戻したってまた逃げるわよ」

ヨン「逃げると?」

ウンス「行かせて。これ以上目の前で人が死ぬのは嫌なの。この世界にも関わりたくない。それに、あなたのために泣きたくない。行かせて」

ヨン「黙って見送るなどできませぬ」

ウンス「ここまでにしてちょうだい。もう私を守らないで。約束や誓いをナシにするのは簡単よ。もう、終わり。やめましょ」

荷物を抱えて去っていくウンスを見送るヨン。

心の支えを失ってしまったのような脱力感を抱えて。

その夜、今月15日の会議までに集めなければならない有力な学者達を内密に集めたヨン。

これから説得が始まる。

ヨン「近衛隊チェヨンでございます」

学者「本日そなたに確かめたいことがある。誠心誠意答えてくれるか?」

ヨン「お答えします」

学者「そなたの父上が言っておった。息子に残したい言葉があると。聞いたか?」

ヨン「遺言には『黄金を石のごとく見よ』と」

学者「つまり欲をかくなと」

ヨン「はい」

学者「そなたのことを調べた。新王のそばで実勢を握ることもできように黄金のかけらはおろか銑鉄の釜一つ持たぬとな」

ヨン「確かめたいこととはそのことですか?」

学者「なにゆえか?」

ヨン「何と?」

学者「7年間出世にも財にもこの世にさえ執着しなかった。なぜ今の王だと違う?」

ヨン「王の品評をしろとおっしゃいますか?」

学者「高麗王室に未練などない。皆余生を静かに過ごしておる。ゆえになぜ今の王なのか聞かせてくれ」

ヨンの心の内をなんとか探ろうと必死にあれこれ尋ねてくる学者たち。

最後に聞かれる。

学者「新王に残りの人生を捧げる見返りは何だね?」

ヨン「こちらも最後に伺ってもいいですか?理想の王のお姿とはいかに?諸葛孔明な頭脳を持ち慈愛は釈迦のごとく忠臣には名声不死不老まで与えうる。そんな望みをかなえる王であるのかをお探りなのですか?私が初めて自ら選んだ王ゆえ」

学者「何故にそうさせたのだ?」

ヨン「線が細く臆病でもあり決断力もございませぬ。己の決断にさえ迷いがある。それでも恥をご存知です。ゆえに決めたのです。この方が恥を失うことなきようお守りすると。いいでしょうか?」

次の日、ウンスはトクマンの護衛であの店でまんじゅうを食べている。

周囲を見張るトクマンの背中を見ながら、あの日のヨンに重ねて見る。

ウンス「どうぞ」

トクマン「頂きます」

ウンス「悪いわね。一人で行けるのに」

トクマン「一人じゃ無理です!山賊は多いし元の女狩りもあります。俺にはお構いなく。それに楽しいです」

王の間で話す王とヨン。

ヨン「医仙は行きました」

王「余や王妃に一言もなく去ってしまった」

ヨン「また捕まると思って」

王「余に遠慮せずに言うな」

ヨン「王様」

王「何だ?小言は聞き飽きたぞ」

ヨン「近衛隊は命令がなくとも臨機応変に対応出来ますゆえ常にお傍に置いて下さい」

王「頼む」

ヨン「ジェヒョン先生はよき相談役になりましょう。王妃様もカンアン殿で過ごされているとか」

王「それはあらゆる状況に対処すべく・・・」

ヨン「しっかり、対処なさいませ」

こっそり会っているヨンと尚宮。

尚宮「チルサルが開京におるらしい」

ヨン「隠密軍団のことか?」

尚宮「そうだ」

ヨン「誰が呼んだ?」

尚宮「解るだろ」

ヨン「あいつか。本気で王の臣を消すつもりなのか」

尚宮「お前一人で戦うつもりなのか?」

ヨン「そうだな」

尚宮「学者のじい様らを守らねばならぬのだろ」

ヨン「さすが早耳だな。昨日の夜の話なのに」

尚宮「腹を刺された時に頭までやられちまったようだな。全員は守れまいに」

ヨン「信じないのか?」

尚宮「解らない子だね。プオングンの玩具は医仙も王も民もこの世の全てなんだ」

ヨン「俺には阻止出来ないと言いたいのか?」

尚宮「出来るのか?」

ヨン「メヒも・・・信じてくれなかった。俺が守るってことを。あの方もだ。信じてない」

尚宮「あの方?」

ヨン「叔母さん、メヒの・・・顔が思い出せない」

尚宮「何だって?」

ヨン「ずいぶん昔のことで思い出せなくて」

尚宮「それで?」

ヨン「向こうに行った時気づかなかったら悲しいだろ。だから本当に忘れてしまう前に会いたい」

尚宮「何の話だい?」

ヨン「やれるだけやるさ」

尚宮「やれるだけ?」

ヨン「父上の口癖だった。最善の策は単純に出来ていると。先に戻る」

ヨンが何を考えているのか尚宮は薄々気づいていた。

誰もいない王座をみつめた後、深々と頭を下げるヨン。

鎧を脱ぎ捨て、剣一つのみを手に出て行く。

その後ろ姿を物陰から静かに見ている尚宮。

ヨンは一つ罠を仕掛ける。

隊長を心配してついてきたテマンを無理やり帰し、そしてある場所へ向かう。

翌朝。

王妃「チェヨン?あの者が?」

尚宮「やはり心配です」

王妃「止めねばならぬ」

尚宮「言って聞くような者ではございませぬ」

王妃「私が命じてもか?」

尚宮「既に兵舎にはおらず部屋を覗くと荷物も整理されすっきりとしておりました」

王妃「ではどうすればよい?」

尚宮「望みはただ一人。あの方なら」

王妃「あの方?」

尚宮「あの方がいれば思いとどまるのではないかと」

医仙だと気づいた王妃。

王妃「ならば急げ、早く!」

このやり取りを聞いていたムガクシの一人。

後でチョルに伝令を出す。

馬を駆り急いでウンスの後を追う尚宮。

どうか間に合いますようにと願いながら。

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