シンイ〜信義〜 |
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第10話〜相棒〜 王妃「チェヨン?あの者が?」 尚宮「やはり心配です」 王妃「止めねばならぬ」 尚宮「言って聞くような者ではございませぬ」 王妃「私が命じてもか?」 尚宮「既に兵舎にはおらず部屋を覗くと荷物も整理されすっきりとしておりました」 王妃「ではどうすればよい?」 尚宮「望みはただ一人。あの方なら」 王妃「あの方?」 尚宮「あの方がいれば思いとどまるのではないかと」 ウンスのことだと気づいた王妃。 王妃「ならば急げ、早く!」 このやり取りを聞いていたムガクシの一人。 後でチョルに伝令を出す。 馬を駆り、急いで出て行ったはずのウンスの後を追う尚宮。 どうか間に合いますようにと願いながら。 その夜。 トクマンが宿の手配をしてくれている。 トクマン「こちらの宿を借ります」 そこへ馬がやってくる。 慌てて刀に手を添え身構えるトクマンだが見るとチェ尚宮。 トクマン「尚宮様」 尚宮「お話があります」 尚宮はウンスの荷物をトクマンに投げて渡しウンスを離れた場所に引っ張っていく。 尚宮「誰も近づかせるな」 階段上まで移動した二人。 尚宮「あの者は医仙の言葉なら聞きます」 ウンス「あの者って?」 尚宮「チェヨン、私の甥です」 ウンス「何か?」 尚宮「何かありそうな気配なのです。もしやあの者が携帯する剣をご存知ですか?師匠から譲り受けたもので古びた紐が1本結わえてあります。その紐は・・・許嫁のものでした」 ウンス「結婚するはずだったのですか?」 尚宮「契りを交わしておりました。国の情勢が落ち着いたらと」 ウンス「過去形・・・ですか?」 尚宮「死んだのです。7年前のこと。二人は師匠のもと武芸を磨いておりました。師匠は当時の王により非業の死を遂げました。その原因はお相手であるその娘で。娘は耐えきれず数日後命を絶ちました」 ウンス「命を絶つ?自殺!?」 尚宮「それからヨンは抜け殻のようでした。寝てばかりいて喧嘩と聞けば飛び込んで。でも近頃生き生きとして見えたのです。何かを成し遂げんと目を輝かせて。医仙と出会ってあの子は変わりました。あの子が言う『あの方』とは医仙のこと」 ウンス「どうでしょう?」 尚宮「あの子に信じないと言いましたか?」 はっと思わず口に手を当てるウンス。 尚宮「守らなくていいと言いましたか?あの子は己を必要とする場所を求めました。それは・・・死に場所だと思うのです」 ヨンはテマンを皇宮に追い返す前に言葉を残す。 ヨン「未練を残す者ももうこの世にはいない。テマン。どうやら俺も命が惜しいらしい」 ウンスは急いで尚宮が乗ってきた馬に乗り込みトクマンの言葉にも答えずに駆け出す。 キチョル邸。 ムガクシからの密使を受けたチョルは、ヨンの決死の覚悟の罠だと知りながら天の手帳を持って自分一人で向かう。 じっと座り込むテマンを見つけたウンスは急いで馬を止める。 ウンス「隊長はどこにいる?いつも一緒でしょ?」 テマン「ついてくるなって言うから」 ウンス「どこにいるの?言って」 イライラしながらウンスは馬を降り夢中で走り出す。 対面するチョルとヨン。 チョル「待たせたな」 ヨン「お一人ですか?」 チョル「さしの勝負でなければ死んでも死にきれまい。死ぬ覚悟で参ったのであろう?」 ヨン「まだ間者がいましたか」 チョル「私と会う程度でなぜ命をかける?」 ヨン「お命をちょうだいするのです。命がけになりましょう」 チョル「殺したい程憎いか?」 ヨン「隠密の軍団が開京に入ったとか。あなた様が呼んだのですね」 チョル「いかにも」 ヨン「王に仕えんとする者を消すおつもりか?」 チョル「そのつもりだ」 ヨン「数百人になろうとも?」 チョル「これしきで憂えてどうする?よく武士でいられたな」 ヨン「大勢の罪なき者の命を奪い何になるのです?」 チョル「当ててみよ」 ヨン「そこまでして王をかしずかせたいのですか?」 チョル「望むところだがそれだけではない」 ヨン「私の考えは正しいようです」 チョル「考えとな?」 ヨン「あなた様を殺せばこの世は生きやすくなりましょう」 チョル「それで?罠はどうした?命がけの待ち伏せをするくらいだ。罠があるのだろう?」 ヨン「やめました」 チョル「なぜだ?」 ヨン「罠に頼るはこの世に未練がある証拠。捨て身にならねばあなた様は倒せませぬ」 チョル「腹を決めたか?」 ヨン「最後に一つ。医仙の書はお持ちですか?」 チョル「持ってきた」 ヨン「上等です」 互いに向かって走り出す二人。 腕を斬られるヨン。 今度は太ももを斬られるヨン。 斬られた足をおさえながら必死で立ち上がりチョルに向かっていく。 首に突き付けられた剣の刃を掴みチョルを背にして立つ。 自分の腹を自ら突き刺し貫通した刃でチョルを刺そうと思ったが失敗する。 お互いにお互いの腕を掴みあい、そしてお互いの内功を発する。 ヨンの右手は氷で焼けただれている。 一度離れた二人。 お互いに向かって駆け出そうとしたその瞬間、ウンスが叫ぶ。 ウンス「やめて!」 二人の間に立ち戦いを止める。 ヨン「医仙」 ウンス「あなたもよ!」 ウンスの手には短剣が。 ウンス「こないで。ここまでよ。もうやめて」 チョル「物騒ですな。こちらへ」 ウンスは持っていた短剣の刃を自分の首に押し当てる。 ウンス「私は天界の医員よ。どこを切れば一思いに死ねるか知ってるわ」 チョル「まさか本気ですか?」 ウンス「見殺しにする?」 チョル「ならばお答えください。私はいつ死にますか?聞けねば生かす理由はありませぬ」 ウンス「よ・・・4年くらい先よ。5年後かしら」 チョル「誰の手によって?私の死後もあの王は王座に?」 ウンス「いるわ」 チョル「ならば私を殺すのはあの王だ。私の狙いを聞きたいのだろう?まずはこの女人の言う天の記録を書きかえられるか試す。もしこの手で記録を変えられようものならその時には山ほど伺いたいことがある。どうかその時までご自愛下され」 帰っていくチョル。 ウンスが自分の首にあてていた短剣を急いで奪い取るヨン。 ヨン「何のつもりですか?こんな真似をして。首に刃を当てるなど!正気ですか?」 ウンス「私の方が聞きたいわ。そんなに死にたいの?一人で挑んで死んだら終わりなわけ?そんなの身勝手すぎる」 ウンスを置いて歩き出すヨン。 ウンス「プオングンから逃げられないって解ってたのね。なのに意固地になってあなたの助けを拒んだから刺し違える覚悟を?でもこれで死んだら私は自分を責めるわ。残された人の気持ち・・・知ってるくせに」 軒下に移動した二人。 ヨンの手に包帯を巻いてあげるウンス。 そして隣に座る。 包帯を巻いてもらった手と反対の手を見ているヨン。 チョルの内功を受けて氷漬けになった手をいじっている。 ウンス「やめて。触らないで」 ヨンの凍りついた手を引き寄せようとするがヨンが拒否する。 無理矢理ヨンの手を掴んで自分の掌で温めるウンス。 ウンス「凍傷になるから血流がよくなるまで指は動かさないで。お湯があればね」 驚くヨンはほんの少しウンスを見る。 ヨン「解りました」 ウンスは自分の掌で包んだヨンの手に息を吹きかけて温める。 だがその息にかすかに嗚咽が混じっていることに気付くヨン。 ウンスの肩が震えている。 ヨンは勇気を出してうつむくウンスの髪を耳にかけ顔を覗き込む。 涙がこぼれ落ちるのを見る。 ヨン「一番簡単な解決法だと思ったんです。挑んでみて及ばねばそれまで。そうやって生きてきましたゆえ。もう無駄に命は・・・懸けませぬ。二度と。だから・・・泣かないで」 黙って『うん』とうなずくウンス。 チョルの屋敷では薬師がチョルの治療に当たっていた。 チョルの身体は着々と弱っていた。 弱っているところへさっきのヨンとの戦いで内功を使ったことで更に悪化していた。 次の日。 ヨンとウンスは皇宮の園内を歩いている。 ウンス「いいわ、決めた。もう逃げも隠れもしない」 ヨン「よくぞ」 ウンス「逃げないと決めたらいく道は一つよ」 後ろからついてくるトルベとテマンに『あっちへ行け』と合図をするヨン。 ウンス「正面から戦うだけ」 ヨン「ここに大人しくいて下さい」 ウンス「呼吸だけして生きるなんて私には無理。だからね」 そういって向かい合う二人。 ヨン「はい」 ウンス「私のパートナーになって」 ヨン「え?」 ウンス「私はキチョルが持ってる手帳が欲しい。チェヨンさんはキチョルから王を守りたい。でしょ?」 ヨン「任務ですから」 ウンス「簡単に手帳は手に入らないしあなたの王が力をつけて医仙に手帳を渡せ!って言えればね。つまり、私達の目指す所は一つ。観念してパートナーになって」 また意味不明なことを言っているという目でウンスを見るヨン。 ウンス「言ってみて。『パートナー』よ」 目をそらすヨン。 ウンス「天界語も覚えたら?『パートナー』よ。発音も簡単だし」 ヨン「それで・・・それはどういう意味です?」 ウンス「一つの目標に向かって一緒に戦う仲間。ま、そんなところね」 ふっと笑うヨン。 ウンス「ちょっと座って」 ヨン「え?」 ウンス「命を救ったんだからそれくらい聞いてよ」 無理矢理座らせるウンス。 ウンス「パートナーにはいくつか条件があってね。一つ、お互いに秘密はナシ。例えば今みたいな時どこへなぜ行くのか言うこと」 ヨン「カンアン殿に行きます。あなたを王妃様のもとに置いて頂きたく」 ウンス「いいわ!そんな感じ。二つ、お互いを守ること」 ヨン「互いにですか?」 ウンス「一緒に戦うんだもん。相手に黙って一人で行ってはだめよ」 ヨン「解りました。ただし、あなたも誓って下さい。どこへも行かないと」 ウンス「いいわ。じゃあ握手」 手を差し出すウンス。 ヨン「出会いと別れの時にするものでは?」 ウンス「交渉成立!頑張ろう!って時にもよ」 咳払いをして手を握ろうとしないヨン。 ウンス「手を握って力いっぱい上下に振るの」 ヨンの手を掴んでやってみせる。 周りが気になって仕方ないヨン。 ヨン「助けあうんですよね?」 ウンス「そうよ!あなたが私を守り私があなたを守るの。それがパートナーよ」 ヨン「ならば、私の体面も守って頂きたく・・・」 気づくと左側にはトルベとテマンが覗いていて、右側には尚宮達が。 気まずい空気。 王の間へ来たヨン達。 王「去って行かれたのかと」 ウンス「そうだったんですけどこの人(ヨン)が危険だと聞いて戻りました。ああ一晩中大変だったわ!」 王「何かあったのですか?」 ヨン「いいえ」 ウンスに余計なことを言われる前に間髪入れずに答えるヨン。 ウンス「よく言うわ・・・この人・・・」 ヨン「ささいなことゆえ」 指差すウンスの手を掴んで止めるヨン。 ウンス「解ったわよ!」 ヨン「開京に隠密の軍団がおります。医仙を王妃様と共にお守り出来るようお計らいを」 王「どうか?」 王妃「それがよいかと。チェ尚宮とムガクシがおり私と同じ護衛がつきますゆえ」 王「医仙、先日おっしゃった来る世の話を聞きたい。あの時確か『朝鮮』と申された。どういう意味か?」 ウンス「国の名前です。朝鮮というずーっと向こうの東南アジアの下の方のどこかで・・・そこに李さんが大勢暮らしていて・・・王様」 王「何か?」 ウンス「実はよく解らないんです。先のことは」 ヨン「やめましょう」 ウンス「私が来たからそんな歴史になったのか、初めからそんな歴史なのか」 ヨン「黙って下さい」 ウンス「このくらいいいでしょ?」 ヨン「いずれにせよ・・・」 ウンス「事実を言ったの!」 ヨン「なさおらです!」 ウンス「分からず屋!パートナーがこんな一方的じゃ・・・」 ヨン「黙って!」 ウンス「だから何なのよ!」 この二人の夫婦喧嘩とも取れる激しい言い合いをポカンと口を開けて見ている王、王妃、尚宮、ドチ。 そして咳払いでごまかすヨンと王。 部屋に戻ったウンスはまだ怒っている。 王から貰った高麗青磁のつぼに怒鳴りつけている。 ウンス「どうしろっていうの?おおきなカメの中で隠れて暮らすの?面会謝絶で病人も見て見ぬふりで息もするな?歴史も未来も犬の餌よ。知ったことじゃない。私は私よ!何よ?やり方に文句ある?」 その頃兵舎では案の定ヨンとウンスのさっきの光景の話で盛り上がっている。 まるで女に興味がない隊長に浮いた話など一度もなかったので隊員達は珍しくて仕方がない。 トクマン「先に手を握ったのは医仙様だった。こうだ。隊長は握った手をぐっと掴んでこうやって」 トルベ「隊長が?」 トクマン「あの隊長が」 トルベ「医仙の手を?」 チュソク「嘘つけ。他に見た者がいないと言いたい放題だ」 トクマン「本当ですよ!」 トルベ「隊長が女の手を・・・しかも医仙の・・・ありえない」 トクマン「この目で見た!」 テマンを捕まえて。 トクマン「お前も見たろ?医仙様の手を引っ張ったろ?」 テマン「見てない」 トルベ「ほら吹き野郎め!」 皆から一斉に叩かれるトクマン。 でもニヤニヤしたテマンが戻ってくる。 テマン「あれ見た」 チュソク「何だよ?」 テマン「医仙様が隊長を生き返らせるとこ」 トルベ「もっと解りやすく話せ!」 テマン「医仙様が隊長に接吻して息を吹き込んでた。数回どころか何度も。それで息を吹き返したのを目の前で見た」 信じられないと言葉をなくす隊員達と笑って立ち去るテマン。 ヨンは自分の部屋でじっと一点だけを見つめて座っている。 そしてため息をついて持っていた剣に巻いていた布を外す。 メヒの想い出のバンダナだ。 それを道具箱にしまう。 ヨンの部屋に入ってきたのは尚宮。 尚宮「医仙が間に合ってよかった。大事に至らずに済んだ。しかし驚いたよ。この世にお前を止められる人がいたとはな。いや、医仙はこの世の人ではないがね」 ヨン「おかげで大変になった。敵がキチョルだけじゃ済まなくなった」 頭を叩かれるヨン。 尚宮「刺し違えようなどと馬鹿たれが」 ヨン「叩くなよ!俺は死ぬほど忙しいんだ。まずソヨンの出席者を避難させ・・・」 尚宮「ムガクシを貸そうか?」 ヨン「チルサルが相手だぞ?」 尚宮「奴らの居所が解れば話は早いが」 ヨン「奴らの最大の武器は姿を消し探しだせぬこと。仕事の時だけ現れる」 尚宮「そういえば王妃殿に間者がいるのか?」 ヨン「正確に把握してた。俺が死ぬ気で行くとか。どこから漏れたのか」 尚宮「私が王妃に話した」 ヨン「誰がいた?」 尚宮「この件は私が」 ヨン「泳がせよう」 尚宮「何だって?」 ヨン「逆手に取る」 尚宮「間者を逆に利用するわけだね」 ヨン「出来るか?」 尚宮「チルサルをおびき寄せよう」 ヨン「指定の場所に集めてくれ。その方がやりやすい」 尚宮「解った。それで、どうやった?」 ヨン「何が?」 尚宮「あの方は何と言ってお前を止めた?天の法度でも説いたか?」 ヨン「捨て身で」 尚宮「は?」 ヨン「命がけで止めた。猪突猛進だ。周りなど見えていない。首に刃を押し当てて・・・まったく!」 刀を叩きつけて苛立たしげに出ていくヨン。 その後ろ姿をまたポカンと口を開けて見ている尚宮。 王妃の部屋で一緒に過ごすことになったウンス。 王妃に服を貰ってこれから着替えようとしているのだが、あまりに枚数が多く怒っている。 尚宮「お前達は下がりなさい。私がお手伝いします」 服をウンスに当てながら小声で話す尚宮。 尚宮「医仙にお願いがございます」 ウンス「何でしょう?」 尚宮「ヨンには気の進まぬ話のようですが医仙は天のお方ゆえ嘘はお嫌いだと申して」 ウンス「てことは嘘をつけというお願いですか?」 尚宮「難しければ別の手を」 ウンス「待って。そのまま。見せて下さい」 尚宮を椅子に座らせる。 尚宮「何でしょう?」 ウンス「二十歳の頃の顔って?」 尚宮「二十歳ですか?」 ウンス「ちょっと手を加えれば若返りますよ。目元を引き上げてシワたるみを取って、こめかみと目の下をふっくらさせて」 尚宮「手を加えるとはいったい・・・?」 ウンス「どうです?」 尚宮「二十歳の頃の顔に?」 ウンス「お嫌ですか?」 尚宮「可能でしょうか?」 ウンス「ははーん。ひっかかった。私、嘘は得意なんです」 すっかり騙される尚宮。 間者が誰なのかをあぶり出す計画が幕を切って落とされる。 ウンスが語る予言をイルシンが必死に書き留めている。 名簿の中の誰を忠臣として取り入れるかを相談している。 ウンスはあらかじめ取り入れたい者達の名を知らされていてその者達に対しあえて反対の事を言う。 動き出した間者をチラっと見る尚宮。 だが一人じゃないはず。 更に泳がせて全員をあぶり出す算段だ。 その間、ムガクシと近衛隊の隊員達はあえて平民の様相に着替え取り入れたい者達を一か所に集めていた。 ソヨンが開催されるまであと4日。 この2日間が山となる。 そしてこの後ヨンはチルサルとの戦いが待っている。 チルサルは全部で7人いる。 決して楽ではない。 ウンスの最後の予言をイルシンが書き留めている。 ウンス「そうだわ。その年、王は人材を募るためにある措置を講じた。真に必要な者達は証人保護プログラムに従い隠れ家に移したの」 イルシン「保護プ・・・?」 ウンス「エステティック・フィットネス・保護プログラムよ。FBIが行うものです。まぁ天界語は聞き流してね」 それらしく聞こえるようわざと横文字を入れるウンス。 イルシン「はい、医仙」 ウンス「こう記しなさい。王は重要人物達を集め極秘に保護なさった。保護した場所はただ一人。ただ一人のみ知っていた。それは・・・王の護衛だった」 イルシン「かしこまりました。王に進言致します」 動くムガクシを目で追う尚宮。 キチョルの屋敷では間者の報告で誰が味方か敵なのかが解らなくなり混乱している。 面倒になったチョルはチョヌムジャとファスインに『ある人』を迎えに行けと命令する。 ウンスは一人、園内を散歩している。 そしてそこに座り景色を眺める。 ヨン「そこで何を?」 ウンス「びっくりした!足音も立てないのね」 ヨン「護衛は?」 ウンス「いるわ、向こうに。ほらね、あっちにも。散歩させてと頼んだの。あそこからここまで少し歩いただけ」 ヨン「ご承諾なさったとか」 ウンス「承諾って・・・?ああ天の知識のことね。お役に立てたかしら?」 ヨン「ではもう止められませんね」 ウンス「いつも深刻な顔で悩んで心配ばかりして病気になるわよ?気楽にね!」 そういってヨンの胸を叩く。 叩かれた胸に手を当てる。 ウンス「この服どう?王妃様がくれたの。高麗の人っぽい?」 ヨンの前でくるくる回って見せる。 開いた胸元をチラっと見て咳払いしつつ目をそらすヨン。 ヨン「戻りましょう」 ウンス「どうかしら?」 ヨン「何です?」 ウンス「パートナーは仕事を終えたら飲み屋なんかで一杯やるの。宮中に飲み屋はないし毎日この時間にここで会うのはどう?」 ヨン「何のためです?」 ウンス「無事を確認したり相談し合ったり、励ましあったり」 ヨン「当分忙しく」 ウンス「解ってる。私のせいだもの。知る者はただ一人、王の護衛のみ」 ヨン「演技が上手で首尾よくいったとか」 ウンス「これからまた一人で戦うつもり?」 ヨン「探し回るより待ち伏せの戦法で」 ウンス「勝算はあるの?」 ヨン「一騎打ちなら負けません」 ため息をついてうなづくウンス。 ヨン「裾を上げて」 ウンス「何なの?」 ヨン「じっとして」 ウンスの足に短剣を付けている。 ウンス「それ剣よね?」 ヨン「抜いてみて」 ウンス「これ・・・どうするの?」 ヨン「護身用です」 ウンス「私は医者よ。人なんか刺せないわ」 ヨン「刺した後治療して下さい。私にしたように」 ウンス「使い方も知らずに振り回すなってあなたが言ったのよ」 ヨン「教えますから。毎日は解りませんが来られたらここで。ムガクシの傍にいて下さい。3歩より離れては守って貰えません」 行こうとするヨンの背中に語りかける。 ウンス「ねえ」 振り返るヨン。 ウンス「いってらっしゃい」 笑って手を振るウンス。 ふっと笑うがすぐに真顔に戻すヨン。 ヨンは師叔に会いにきている。 叔父「間違いなくお前だけを狙うんだろうな?」 ヨン「そのはずだ」 叔母「合わせて7人とは多勢に無勢だ」 叔父「とにかく連中の十八番は奇襲だが一騎打ちならヨンに勝ち目がある」 叔母「問題はどう持ち込むかだ。横から手出しされちゃそれまでだ」 叔父「だから俺らが手を貸すんだろうが」 ニヤニヤしながら二人のやり取りを見ているヨン。 叔父「ヨンや、一人ずつお前を追うように仕向ける」 叔母「でもそこまでしかやらないよ。チルサルの獣どもと関わりたくないからね」 叔父「ヨンや、何をニヤけてやがる?」 ヨン「二人の協力がうれしくてさ」 叔母「何が言いたいんだい?」 ヨン「正直に言えよ。久しぶりに腕が鳴るんだろ?謝礼が目当てじゃないくせに」 叔父「昼間から酒に酔ったか?チルサルに挑む奴が軽口叩くな!」 ヨン「その顔に書いてあるじゃないか」 叔父「お前!捕まえて塩辛に漬けてやる!行こう」 叔母「飯を出してやるから食え。一晩中戦うんだ。腹に力を蓄えな」 叔父「ほっといていくぞ!」 叔母「あの短気、死ななきゃ治らんね」 まだニヤニヤしてるヨン。 そしてため息をついて真剣な目に戻る。 皇宮ではウンスがチャン侍医に脈の取り方を教わっている。 そこへ医仙に会いにきたというチョルがやってくる。 だがここは王妃のコンソン殿。 簡単に出入りできる場所ではないと近衛隊に連れられ王のカンアン殿に連れてこられるチョル。 今ここにチェヨンがいないのは王が勝手に豪語したために必死で奔走しているからではないのか?と問われる王。 医仙も賢い人でありいずれチェヨンも嫌気がさして王の元を去るであろうと言われる。 王の仕事が山積みになって困っている所にやってきた王妃。 代わりに私がやろうと王の席へ座る。 王妃「チェ尚宮」 尚宮「はい」 王妃「高麗の女人はどうか?」 尚宮「何でしょうか?」 王妃「夫がつらく沈んでおる時どうしておる?」 尚宮「それが私はそちらの方は疎く・・・」 ドチに尋ねる。 尚宮「妻がおるな?」 ドチ「ええ、おります」 尚宮「つらく大変な時奥方は何をする?」 ドチ「そうですね、私の妻は・・・酒を用意します」 尚宮「酒だそうです」 王妃「酒か・・・どんな酒じゃ?」 尚宮「米から作ったイファジュや交易商が持ち込んだ焼酎もよいお味かと」 王妃「酒で心が楽になるのか?」 ドチ「酒と申しましても・・・ただ酒を置くのではなく何と申しましょう。一緒に酒を楽しんだ後その・・・酔いが回りました後に・・・これ以上は耐えがたく!どうかお許し下さい」 いきなり土下座するドチ。 王妃「聞いて悪かったのか?」 尚宮「申し上げられないとは何事ですか。王妃様が案じておられる。酔いが回って何です?」 ドチ「王妃様・・・」 王妃「構わぬ」 ドチ「妻と私の場合は・・・床を共に致します」 その意味が解り黙ってしまう王妃。 王が入ってくる。 王「何かあったか?」 無言で立ち去る王妃と、土下座したままのドチ。 王が尚宮を呼んでも王妃の後を追って行ってしまう尚宮。 残された王は意味が解らずドチに当たる。 王「ドチ、何があったのかと聞いておる。答えよ」 ドチ「王様・・・死にとうございます」 半分泣きそうなドチと、意味不明な王。 チョルに命令されて『ある人』を迎えに来たチョヌムジャとファスイン。 ファスイン「徳興君(トックングン)様ですね?プオングンの迎えの者です。書簡でお知らせしたかと」 チョヌムジャ「ご案内致します」 ファスイン「乗馬かそれとも馬車を用意しますか?」 トックングン「山重水複 道なきを疑えば柳暗花明 また一村」 笑い声だけを残し歩き去るトックングンを怪しい目で見る二人。 チョヌムジャ「なんて言ったんだ?」 チルサルをおびき寄せた場所にやってきたヨン。 気配は感じるが姿は見えない。 一騎打ちが始まる。 その頃ウンスは一人また園内を散歩している。 ヨンと約束した場所。 ウンス「空気が新鮮ね」 全ての気を集中させ目を閉じ剣を振るうヨン。 一気に3人片付ける。 あと4人。 別の場所に移動する。 外は激しい雨。 気配はあるがやはり姿は見えない。 ヨン「この辺でやめないか?金を稼ぐための殺人に命をかけるな」 そこに座り息をきらしながら剣を抜く。 ヨン「ある方がこう言った。この世でもっとも大事なことは生きることだと。お前らや俺には実感ないよな。生きるとは死なないこと、ただそれだけだ。だがあの方は違う。あの方こそ生を生きている。それも、輝いて・・・」 剣を構え直し一気に突き刺す。 ヨン「だからあの方を見てると思う。おい・・・俺は何を言ってるんだ」 4人目。 あと3人。 園内でチャン侍医から教わった脈の見方を復習しているウンス。 軒下に垂れ落ちる雨水で手に流れる血を洗うヨン。 後ろに立ったチルサルを切り捨てる。 5人。 園内にいるウンスの元に一人の男が訪ねてくる。 トックングン「医仙ですか?」 急いで飛んでくるムガクシ達。 ウンス「あなたは?」 トックングン「皆、トックングンと呼びます。現王の叔父です」 ウンス「叔父さん?」 トックングン「天より参られたとは真ですか?これを贈れば喜ばれると伺った。いかがか?」 差し出されたのはこの間の手帳。 最後の一人を切り捨てたヨン。 血の流れる右腕を抱えてその場に座り込む。 第11話へ |