シンイ〜信義〜 |
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第11話〜謎の手帳〜 外は激しい雨。 気配はあるがやはり姿は見えない。 ヨン「この辺でやめないか?金を稼ぐための殺人に命をかけるな」 そこに座り息をきらしながら剣を抜く。 ヨン「ある方がこう言った。この世でもっとも大事なことは生きることだと。お前らや俺には実感ないよな。生きるとは死なないこと、ただそれだけだ。だがあの方は違う。あの方こそ生を生きている。それも、輝いて・・・」 剣を構え直し一気に突き刺す。 ヨン「だからあの方を見てると思う。おい・・・俺は何を言ってるんだ」 4人目。 あと3人。 園内でチャン侍医から教わった脈の見方を復習しているウンス。 軒下に垂れ落ちる雨水で手に流れる血を洗うヨン。 後ろに立ったチルサルを切り捨てる。 5人。 園内にいるウンスの元に一人の男が訪ねてくる。 トックングン「医仙ですか?」 急いで飛んでくるムガクシ達。 ウンス「あなたは?」 トックングン「皆、トックングンと呼びます。現王の叔父です」 ウンス「叔父さん?」 トックングン「天より参られたとは真ですか?これを贈れば喜ばれると伺った。いかがか?」 差し出されたのはこの間の手帳。 最後の一人を切り捨てたヨン。 血の流れる右腕を抱えてその場に座り込む。 皇宮の園内。 ウンス「これをトクソンプオングンが?」 トックングン「そうです」 ウンス「つまりあなたはプオングンの仲間ですか?」 トックングン「その言いざま」 ウンス「それで?ただじゃないんでしょ?」 トックングン「その通りです。ただ見せればついてくると」 ウンス「人をもてあそばないで」 トックングン「これは何です?なぜ重要なのです?」 ウンス「さあね。キチョルに伝えて。いらないから一人で遊べって。あなたは出ていって。ここは許可なく入れないのよ」 トックングン「天から参られたとか。人を救い行く末を占う」 ウンス「消えて」 トックングン「キチョルの様子からして騙りとも思えぬ。これに釣られませぬか?」 無視して行ってしまうウンス。 全てのチルサルを片付け皇宮にもどったヨン。 ウンスと約束した場所にやってくる。 血のにおいが嫌いなウンスに何か言われるかと自分の首と手の血をぬぐう。 だけどウンスは見当たらなかった。 一晩中戦い続け疲れ切ったヨンはそこに座りしばし休む。 ウンスは別の場所で自分が作った歯磨き粉を隊員達とムガクシに配っている。 ウンス「柳の枝で歯を磨く時にこれを混ぜて。少しずつ使って磨いてね。これは私が作った歯磨き粉よ。朝晩少なくとも2回。武人は歯が丈夫じゃなきゃ」 皆で笑いあっている所に来るヨン。 怖い顔で。 気付いた隊員達は慌てて整列。 ヨン「何をしてる?副隊長まで」 トルベ「乙は非番で・・・」 ヨン「なら身体を休めるか鍛えるかしろ」 慌てて逃げる隊員達。 除け者にされた感、ウンスを独り占め出来ない不満がここに出るが素直になれない。 残ったウンスに。 ヨン「コンソン殿にいて下さい」 ウンス「隊長の部屋はそこ?行こう」 ヨンの手を見ようとするがよけるヨン。 ウンス「ここが隊長の部屋ね。もっと広いと思ってたわ。ここに座って」 ヨン「王様に謁見しますので着替えたいのですが」 ウンス「いいから座って!“診察できませぬ”王妃様に頼むわよ。医仙に従いチェヨンは治療を受けよって」 諦めて座るヨン。 ウンス「手は凍傷じゃない?」 ヨン「平気です」 ウンス「血が・・・紐をほどいて」 バッグから道具を取り出すウンスをじっと見つめるヨン。 ウンス「何針か縫わなきゃ。麻酔薬がなくて痛いけど我慢してね。チャン侍医特製の消毒薬よ」 うっと痛がるヨン。 ウンス「他は?」 ヨン「大丈夫です」 ウンス「右肩と左の太ももは?」 ヨン「かすっただけですので」 ウンス「痛いわよ?」 ヨン「始めて下さい」 ヨンの手首を縫い始める。 ヨン「もうチョニシに戻れますよ。コンソン殿にもこもってはいませんでしたが」 ウンス「チルサルとかいう隠密の軍団は?」 ヨン「もう来ません」 あえて全員殺したとは言わないヨン。 ウンス「本当に我慢強いのね。私の世界の人達は痛みに弱いからいろいろ要るの。麻酔薬や鎮痛剤とかお酒やゲームで気を紛らわせたり。いいわ。これが最後の粘着包帯。持ってきたものは全部使っちゃった」 またウンスをじっと見る。 ウンス「傷を水につけないでね。1日おきに経過を見ます」 ヨン「天穴に部下を送り見張らせています。異変があれば伝書鳩で知らせがくるはずです。天穴の近くに家を用意出来ますが正直それは不安で」 うんうんと頷いて出ていこうとするウンス。 足を引きずっているウンスを見て驚く。 ヨン「足に怪我でも?」 ウンス「何?」 ヨン「左足を引きずって・・・」 ウンス「剣が重いのよ、解った?」 護身用にと足首につけた短剣。 ため息をついて考えるヨン。 園内を散歩しに来たウンスは護衛のムガクシ達に話しかけている。 ウンス「景色を見てるの。もとの世界に戻るには時間がかかりそうだし。しばらく暮らすんだもの。ここはどういう世界で何があるのかこんな風にじっくり見てなかった気がする。でもしっかり目に焼き付けたらかえって離れがたくなるかな。お名前は?私はユ・ウンス」 ムガクシ1「ウォルです」 ムガクシ2「ヨンシです」 ウンス「化粧品知ってる?私作ろうかな?もうなくなりそうなの。お肌のお手入れはどうしてるの?」 王の前に戻ったヨン。 王「無事か。気をもんだぞ」 ヨン「正装するのに手間取りまして」 王「必要ない。余のもとへ来るときは気にするな」 カンアン殿へ移動した一同。 王「プオングンはもう学者達を狙わぬ」 ヨン「所在を知るのは私だけのはずですが?チルサルも居所を問うことはなく。ただ斬りかかるだけで」 王「よく無事であった」 尚宮「万一に備え万全を期さねば」 ヨン「私が学者達をソヨンにお連れします。ただし警護の策は王様がお考え下さい」 王「やってみよう。皆の身の安全は余が守る」 尚宮「どうも気がかりです」 王「何だ?」 尚宮「プオングンが学者の抹殺を放棄したのはそれに代わる悪事の始まり」 王「何だろうか?何が始まる?」 ヨン「政や方策などは王様にお任せしたく。私は警護に徹します」 尚宮「近衛隊長の態度が日増しに悪くなるばかり」 ヨン「ご無礼を」 笑って見てる王。 チョルの屋敷にはトックングンがいる。 チョル「手応えは?」 トックングン「面白いおなごだ」 チョル「いかにも。医仙は常に周りを驚かせるお方」 トックングン「では山寺の隠居である私を呼んだのは引き合わせるためか?」 チョル「医仙をものに出来るようお力添え頂きたく」 トックングン「王が手放さないのか」 チョル「若い王に真価が解りましょうか?」 トックングン「それでは」 チョル「王つきの近衛隊長が医仙を守っております」 トックングン「近衛隊?」 チョル「現王の政権を支える中枢です。王は常に顔色を伺う有様で」 トックングン「近衛隊を消滅させよ」 チョル「いずれそうなります。だが問題はあの女人の心」 トックングン「あまりにおかしゅうて」 チョル「医仙は地上の女人ではありません。あの方が握る宝は心を許さぬ者には見せませぬ。そう実感しております」 トックングン「医仙の心を持ってこいと?見返りは?」 チョル「何なりと。お望みのものを」 トックングン「なぜそれほど医仙にこだわる?」 チョル「医仙ゆえにです。医仙が手に入れば何も望みませぬ」 兵舎ではソヨンに向けて学者達をいかにして守るかの算段に。 ヨンの指示が隊員達に飛ぶ。 そして最後に『蟻一匹入れません!』というチュソクの前に足元の蟻を見せる副隊長。 ヨンは師叔と会っている。 叔父も叔母も栗を剥いている。 叔父「ヨン、次の朝貢使節の商談にうちの馬車を・・・」 叔母「5台いれとくれ」 ヨン「2台にしろ」 叔父「少しは叔父を敬ったらどうだ?」 ヨン「2台だ」 栗に手を出そうとした手を叔母に叩かれる。 叔母「学者達やその家族をかくまい食事や身の回りの世話」 叔父「いくら使ったかよし計算してみよう。どれまずは・・・」 叔母に叩かれる前に栗を取って食べるヨン。 叔母「やめな。言っても無駄さ。いっそ学者をどっかに捨てちまおう」 ヨン「捨てるなら1人残らず宮中に捨ててくれ」 叔父「聞いたか?こいつ俺らより一枚上手だ」 ヨン「薬売りでも行商人でも使える奴を使え」 叔母「それじゃ馬車は5台だね」 ヨン「2台」 そういってもう一つ栗を盗んで立ち上がる。 叔母「なら3台は?」 飛んでくるテマン。 テマン「隊長!医仙様が」 ヨン「どうした?」 テマン「市場の薬剤通りで買い物をしています」 ヨン「ムガクシは?」 テマン「一緒に・・・」 そちらに向かおうとしてふと見ると叔父も叔母もいなくなっている。 市場で買い物中のウンス。 ウンス「いい香り。これ抹茶ですよね?」 叔母「そうだよ」 ウンス「これ貰うわ。カテキンやビタミンCは美容にいいの」 叔母「何だって?今何て言ったか聞き取れなかったもんで」 ウンス「独り言です、すみません。これおいくら?」 叔父「これくらいタダでやるよ」 刀を向けるムガクシ達。 叔父「これは質が劣る。おい」 叔母「そうさ。最高級のを持ってくるよ」 叔父「姉ちゃん達、タダでやると言ってるのに刀を抜くなんてなあ」 後ろに来たヨンに驚くウンス。 ヨン「ここで何を?」 ウンス「急にあの人達が・・・」 叔母「ヨンや、べっぴんさんだ」 叔父「天女と言われりゃだまされらあ。これが天のお人か?」 買い物を終えて戻る途中。 ウンス「つまりね、石鹸と化粧品を作って最初はタダで配る。気に入ってまた使いたくなったら次はお金を貰うの」 ヨン「商売を始めると?」 ウンス「高麗の貴族の奥様方に売り込めば大ヒットよ。高麗で成金になるの。大金持ち、財閥よ!」 その話をニヤニヤしながら聞いているヨン。 ウンス「売る方法も考えたの。私の世界ではピラミッド方式と言って・・・」 屋根の上からその光景を眺めていた叔父と叔母。 叔父「おい、見たか」 叔母「見たよ」 叔父「ヨンが笑ってる」 叔母「笑ってるね」 叔父「魂の抜け殻みてえな笑いじゃねえ」 叔母「生きてる人間の笑顔だよ」 うんうんと頷き合う叔父と叔母。 偶然トックングンに会う。 トックングン「奇遇ですな」 ウンス「先日はどうも」 ヨン「チャウン様どなたですか?」 チャウン「無礼な。どなたと心得る」 トックングン「そなたが医仙を守る近衛隊か?」 ヨン「ご存知で?」 ウンス「王の叔父さんよ」 チャウン「トックングン様だ」 トックングン「散歩ですか?久しぶりの都を見物しております。いかがです?私とご一緒しませんか?」 ウンス「見物してきてください。もう帰る所なので」 ヨンの袖を引っ張って『行こう』と合図する。 帰り道。 ヨン「あの方とは?」 ウンス「何日か前に宮中で」 ヨン「なぜ黙ってたのですか?」 ウンス「なぜって・・・」 ヨン「テマン、チェ尚宮に伝えろ。トックングンがプオングンの所にいると。急げ」 テマン「はい」 ヨン「医仙の言動は全て俺とチェ尚宮に報告しろ」 ムガクシ「承知しました」 ウンス「ちょっと待ってよ。何なの?」 ヨン「隠し事はしないという約束では?」 ウンス「私はただ・・・」 ヨン「ただ何です?」 ウンス「王の叔父さんだし・・・」 ヨン「何の話を?これは重大なことです。王に報告すべき・・・」 ウンス「キチョルが持ってる手帳を持ってきたの。でも挑発するから要らないから消えてって追い返した」 ヨン「それで?」 ウンス「あなたに告げ口したら責任感に駆られて手帳を取ってくるって言いかねないわ。だから黙ってたの」 怒って先に行こうとするウンスだが目の前にファスインとチョヌムジャが目に入る。 急に怖くなって反対に引き返して走りだす。 何事かとウンスが見ていた方を見るヨンもファスインとチョヌムジャに気付く。 テマンからトックングンの報告を受けた尚宮は王妃の部屋へやってくる。 尚宮「医仙が何やら珍しい物をお作りになると。女人を美しくする品々だとかで・・・」 話しながら紙と筆を用意する。 外で間者が聞いている前提で、大事なことは筆談で話す尚宮と王妃。 尚宮「今日は材料の調達に市場へお出ましに」 尚宮「(筆談)トックングンがキチョルの屋敷に」 王妃「(筆談)トックングンとは?」 尚宮「(筆談)唯一残る王家の血筋」 王妃「(筆談)なぜその者を?」 尚宮「(筆談)王座を脅かすためかと」 王妃「(筆談)間者はまだ泳がせる?」 尚宮「(筆談)全員を把握出来ておらず。まだ利用価値もありますゆえ」 立ち上がる王妃。 王妃「今宵、酒と肴を用意する」 尚宮「え?」 王妃「二度も言わせるでない。王様にお出しする酒を支度せよ」 尚宮「はい」 王妃の決意。 叔父にトックングンを調べて貰ったヨン。 叔父「トックングンはチュソン王の庶子。女官との間に出来たお子だ」 叔母「幼い頃母親と皇宮を離れ寺を転々とした」 叔父「日陰の身でいたから生きてこられた」 叔母「まあね。現王を除き唯一生き残った王族だ」 叔父「1度だけトックングンを見かけた」 ヨン「じかに?」 叔父「商売で津補に行った時だ。もう3年になる。キーセンの家に品物を届けに行ってな」 叔母「キーセンの家?」 ヨンは店先にあった短剣を見ている。 叔父「そうさ。女をたらしこむのがすっげえうまい奴がいるってんで見に行ったら」 赤い刺繍をほどこした可愛い短剣を手に取って中身を確認している。 叔父「僧のいでたちでキーセンをはべらせてよ」 叔母「僧の格好でキーセンをかい?」 刃を眺めてかすかにニヤっと笑う。 叔父「碁を打ってた」 叔母「僧の格好でキーセンと碁?」 短剣を鞘に戻す。 元に手を回しトックングンのために官職を手配したチョル。 でも何の反応も示さないトックングン。 トックングン「私を王に?」 チョル「そのつもりです。どんな王を目指しますか?」 トックングン「長く耐えうる王だ」 ソヨンはいよいよ明日だ。 尚宮が王を呼びに来る。 尚宮「王妃様よりお伝えします」 王「慣れないカンアン殿で不便したな。コンソン殿に戻れて喜んでおるか?」 尚宮「今宵コンソン殿にお越し頂きたいとのこと」 王「今宵?」 王妃「お酒のご用意がありますと」 それを聞いて顔色が変わるドチ。 持っていた本を落とす。 ドチ「王様・・・」 また土下座する可哀そうなドチ。 それを見て必死で笑いをこらえる尚宮。 意味の解らない王。 王妃の部屋に来た王。 王「この酒は?」 王妃「トックングンがプオングンの屋敷に」 王「聞いておる。近衛隊長チェヨンより報告があった」 王妃「キチョルはその方を招き王位を脅かさんとしています」 王「そのようだ」 王妃「王様は即位なさって日も浅いゆえキチョルには別の王を欲する名分が要ります。元皇帝への名分です。総管府にいる縁者に力添えを頼んでみます。キチョルより先に皇帝と話をつけておくのです。どうか・・・お許しを。お役に立ちたく」 王「火急に注文し王妃に似合う色を用意した。気に入るか?」 王妃「王様・・・」 王「これを・・・」 別の箱を渡す。 王「これを・・・覚えておるか?」 それはあの日、二人で逃げた時王妃が口元に巻いていたスカーフ。 王「そなたは余のことを知っておったのだな」 王妃「存じておりました」 王「だが黙っておった。そなたの身分を」 王妃「言えなかったのです」 王「なぜそなたが身分を明かさなかったのかずっと理由を考えていた。嘲笑っていたのかと」 王妃「違います」 王「己は口を開かぬくせに何か聞き出さんと余を付け回したのか?余は王になった。だが何も持っておらぬ。権力も人材も。余に何かあるとすれば決して譲れぬこの原理原則。元に屈せず我が国を守りぬく。不心得な官僚を制し我が民を守る」 王妃「元の力を借りることは原理原則に反するのですね」 王「だが既に原則を破った。元のおなごになど死んでも心は許さぬと固く誓ったのに守れなかった。あらがえなかったのだ。既に心に住みつき追い出せぬゆえ冷たく突き放した。余は弱い男だ。もう二度と原則を破らぬよう傍にいてくれ」 涙をこぼす王妃。 その涙をそっと拭って王妃の手に自分の手を添える王。 翌日。 兵舎に大きな箱が運ばれてくる。 中を見ると大量の剣。 新調した覚えはないと言い張る隊員達だが、もう一つ隊長宛の赤い箱を預かる隊員。 隊長に赤い箱を届けにきたトクマン。 窓辺に箱を置いて出ていく。 いよいよソヨン開始。 ヨンを先頭に歩いてくる多くの学者達。 チャン侍医からツボの名称を教わっていたウンスは宮中でトックングンに会う。 チャン侍医「どなたですか?」 ウンス「トックングンだったかな?王の叔父さんよ。重要人物じゃないわ」 チャン侍医「その記憶、大丈夫ですか?」 ウンス「教科書で見たくらいよ。でも試験には出てない。心配いらないわ」 ソヨン。 今までの官職たちを次々に免職させ今日新たに参列した学者達に新たな官職を与える王。 見ていられなくなったチョルが人事をつかさどる機関はチョンバンだと直訴するも『チョンバンは廃止だ』と言い放つ王。 だがそこへ入ってくるトックングン。 チョンバンの廃止は我が父も考えていた、受け売りですかと馬鹿にされる王。 宣戦布告だ。 その夜。 王に会いにきたヨン。 王「一つ、聞きたい。隊長が余の臣になると決意した第一の理由は・・・医仙との約束を守るためか?医仙を帰すためにはプオングンと戦わねばならずそのための力を得んと余を選んだのか?」 ヨン「理由が要りますか?」 王「時折魔物がささやく。プオングンに医仙を渡せば何もかも片がつくのだとな。だがそうなればそなたは余を捨てよう。約束さえ守れぬ王に仕えはすまい」 それだけ言って寂しそうに出ていく王。 ヨンは懐から赤い短剣を取り出す。 この間見ていた赤い刺繍の可愛い短剣だ。 ウンスに渡そうと部屋へ向かう。 その頃ウンスは寝台でうなされていた。 額から汗が噴き出している。 ファスインとチョヌムジャが人を殺して歩いた場面。 ヨンが慶様君を刺した場面。 最後に自分がヨンの腹に剣を突き刺した時の場面。 そこで飛び起きる。 部屋の前まで来たヨンはウンスの叫び声に驚く。 急いで駆け寄るがチャン侍医に止められる。 チャン侍医「毎夜うなされております」 ヨン「悪夢を見ただけか?」 チャン侍医「何度も危険な目に合い、天では見ないことを目にし心労が重なり」 ヨン「気づかなかった」 チャン侍医「医仙は笑顔の裏に隠すのがお上手なので」 何でも知っているチャン侍医。 悲しい目でウンスの部屋のドアを見つめるヨン。 そしてウンスのうなされる声をドア越しに聞いている。 トックングンは女をはべらせて碁を打っている。 それを見張っているファスインとチョヌムジャ。 そこへ現れるヨン。 外から二人がいる2階へ石を投げる。 また投げる。 笛で打ち返すチョヌムジャ。 だが3回目、ヨンが投げようとした矢先別の場所からテマンが投げチョヌムジャが笛を落とす。 それを奪って逃げるテマン。 取り返そうとテマンを追うチョヌムジャ。 残ったファスインに『降りて来い』と手で合図を送るヨン。 トックングンを放って喜んでヨンの所へ向かうファスイン。 見張りがいなくなったトックングンをスリバンが無理矢理連れていく。 ファスイン「何か用?」 ヨン「挨拶だけだ」 ファスイン「挨拶だなんて。他人行儀ね」 ヨン「警告も一つ」 ファスイン「警告?」 ヨン「二度と医仙の前に現れるな。お前に怯えてる」 ファスイン「訪ねて行こうかな?」 ヨン「その時は右手がなくなると思え。時間も十分稼げた。じゃあな」 気付いたファスインが走って戻るとトックングンが消えている。 してやられたと気づくファスイン。 目隠しをして連れてこられたトックングン。 前にはヨンが。 ヨン「ご足労を」 トックングン「近衛隊か」 ヨン「チェヨンと申します」 トックングン「王族の私をさらうとは王の命令か?だが法度に反する所業」 ヨン「御身を救ったのです。賊にさらわれるところでした。お礼の代わりにお願いがあります。医仙の書を?」 トックングン「医仙の書?それが目的か?愚か者め。貴重なものを持ち歩くものか。プオングンの引き出しにしっかり・・・」 ヨン「手に入れ医仙にお渡し下さい」 トックングン「何だと?」 ヨン「書を読み解けば天界に戻れるやもしれぬと医仙は信じております。医仙と共に書の謎解きを」 トックングン「真意は?」 ヨン「トックングン様が読み解ければプオングンは粗末に扱いませぬ。お気づきでしょう。プオングンは必要なくばトックングン様を殺しましょう」 トックングン「続けろ」 ヨン「トックングン様にはこれが切り札となり」 トックングン「それで?」 ヨン「医仙は天界に戻れます」 トックングン「近衛隊長は何を得る?」 ヨン「お役御免です。先程の賊がまたいつ襲うやもしれませぬ。次はお救い出来るかどうか。ゆえに自重下さい」 帰ろうとするが思い出すヨン。 ヨン「医仙は刃物の扱いに慣れた火のような性分のお方。くれぐれも礼を失したことはなさりませぬよう」 皇宮に戻ったヨンは副隊長と話しながら歩いている。 ふと聞こえるウンスの声。 隙間から覗くヨン。 ウンス「治療も終わったし、一つずつどうぞ」 作った石鹸を皆に配っている。 ウンス「チャン侍医の監修で生薬と緑豆を最適に配合した石鹸なの。朝晩の洗顔に使えば肌が見違えるわ。今日まではタダよ。サービスするわ」 はぁとため息をつくヨン。 約束の場所で向かい合って立つヨンとウンス。 ヨン「短剣を抜いて」 足首から服を何枚もどかしてやっと抜くウンス。 ヨン「のろのろ抜いてる間にやられます」 ウンス「私が刃物を使うのは手術台に横たわる患者だけよ」 ヨン「こっちの方が軽い。これを足首に」 この間買った赤い短剣を取り出して差し出す。 ヨンを一睨みして赤い短剣を足首につけ直す。 ヨン「抜いて」 抜いて短剣をヨンに向けるウンス。 ヨン「それでは力が入りません。逆さにして」 ウンス「どう?」 ヨン「振り下ろす」 振ってみせるウンス。 ヨン「思いきり」 振り直すが納得いかない目で見るヨン。 ヨン「短剣の利点は方向が自在なため打撃を与えやすい。重要なのは集中力です。こうです。持ち手を変えて。1、2、3」 ウンスの後ろに立って短剣を持つ手を掴み身体で教える。 ヨン「次は私に振り下ろして」 思いきりヨンに振り下ろすが簡単に交わされてよろけるウンス。 ヨン「では私を刺して」 思いきりヨンに向かって剣を突き出すが、腕を掴まれて後ろから羽交い絞めにされ首に剣を突きつけられるウンス。 気づくとヨンが後ろからウンスを抱きしめる形に。 咳払いして急いで離れるヨン。 ヨン「足を開いて!腹に力を入れて!もう一度」 気まずい空気を壊すために語気を強める。 やってみせるがまだ納得いかないヨン。 ヨン「へっぴり腰だ」 ウンスから短剣を奪って自分でやってみせる。 ヨン「よくみて。こう一思いに!」 笑いだすウンス。 ウンス「足を開いて、腹に力を入れて、ひと思いに!」 大笑いするウンスを見て自分も笑いだすヨン。 ウンス「この世界も悪くない。空気が新鮮で静かで」 ヨン「でも故郷が恋しいのでしょう?我慢してますね」 ため息をつくウンス。 複雑な心境をまだ自分の中で説明出来ないでいる。 兵舎へ乗り込んでくる禁軍達。 この間運ばれてきた新しい剣が入った大きな箱を受け取った者は誰かと尋ねられている。 そして同じくトクマンが隊長の部屋に届けた赤い箱。 禁軍が隊長の部屋でその赤い箱を必死に探している。 赤い箱に入っていたのはたった500両を受け取ったと書かれた手形。 近衛隊一同は罠にはめられたのだ。 医仙に会いにきたトックングン。 ウンス「診察ならチャン侍医に言って」 トックングン「これです」 取り出したのはあの手帳。 トックングン「こっそり拝借して参りました。書き写しますか?今日は使いではありませぬ。お気を楽に」 ウンス「それを見ろというの?」 トックングン「さよう」 ウンス「何が条件?」 トックングン「強いて申せば写す間お傍に」 部屋に通す。 ウンス「千年前の物なの?」 トックングン「華佗の形見だとか」 ウンス「嘘よ。それほど昔の紙質じゃない。ほら、蛍光ペンの跡もくっきり。せいぜい100年」 トックングン「中には何と?」 ウンス「数字と英語」 チョニシにやってきたヨンは窓の向こうに向かい合って座るウンスとトックングンを見る。 歩いていると突然禁軍の兵達に取り囲まれる。 ヨン「何用だ?」 王の間へ連れて行かれると、そこには近衛隊一同もいる。 ヨン「近衛隊長チェヨンが参りました」 王「続けよ」 ジェヒョン「箱に見覚えは?」 ヨン「ありませぬ」 セク「500両の手形です」 王「この重臣らは余から官職を得た初の職務がそなたの不正を暴くことらしい」 セク「チェヨンは武器商人から賄賂を受けております。手渡した者と受け取った者達です。隊長の部屋に手形もありました。弁解してみなさい」 ヨン「今500両とおっしゃいましたか?50万両ではなく500両と?」 セク「現時点で暴いた額です」 笑いだすヨン。 ジェヒョン「王様は王命による武装解除以外は認めず軍政干渉も禁じる特権をお与えになりました。ですが恩典には蛆が湧きます」 王「イ・ジェヒョン、余が申しただろう?」 ジェヒョン「王様は私におっしゃいました。いかなる特権にも動じず不偏不党に徹し責務に励めと」 プオングンを睨み付けるヨン。 ヨン「汚名を着せるなら逆賊の大罪はどうです?こんなはした金」 チョル「そのはした金に目がくらみ兄弟同然の部下に汚れた武器を握らせた」 セク「近衛隊長に覚えがないのなら部下達の勝手な悪行と見てよろしいか?」 ヨン「この箱を受け取ったか?」 トクマン、トルベ「はい」 ヨン「中身は見たか?」 トクマン、トルベ「いいえ」 ヨン「中身を確認せず俺の部屋に届けた」 トクマン、トルベ「そうです」 ヨン「お聞きの通り中身を知りませぬ。ゆえに任務に戻らせます(二人に)行け。行かんか!お話の続きを」 王「訴えがあったそうだ」 ジェヒョン「身の潔白を証明する機会を与えよう。弁明せよ」 ヨン「それは・・・この場で身の潔白を証明しろということですか?」 ジェヒョン「時間が必要か?」 ヨン「潔白です」 王「隊長」 ヨン「以上です。信じていただけぬのなら免職なり投獄なり処分を甘んじて受けます」 頭を下げて出ていくヨン。 王「これで満足か?」 チョル「誤解なさらぬよう。訴えたのは私ではありませぬ。ただ立ち会ったかいがありました。チルサルでさえ仕留められなかった男の意外な弱点に気付けました」 ヨンが来るのを待っていたトルベとトクマン。 声を掛けるが『俺に近づくな』と一言吐きその場にあったものをぶち壊す。 自分の部屋に戻ると、荒らされた跡が。 ヨンの部屋まで追ってきたトクマン。 追ってきたのはトクマンだけでなくイルシンも。 そこで身の潔白が明らかになるまで職務の剥奪を命じられる。 ヨン「あなたですか。俺に濡れ衣を着せた張本人ですね」 イルシン「私が成すことは全て高麗と王のため」 ヨン「裏金の剣は高麗と王のためではないはず」 イルシン「貴様」 王の間では王が必死に訴えている。 そなたらを殺めようとしたキチョルに目をつぶり、そなたらを命がけで守ったチェヨンを咎めるのかと。 それもたった500両で。 最後は王の判断に従いますと言われてしまう王。 選択を迫られた王やいかに。 その頃ウンスは自分の部屋でトックングンが持ってきた手帳の内容をトックングンから貰った紙に書き写していた。 トックングン「判明しましたか?どうです?」 ウンス「まだ不確かだけどこっちは・・・アインシュタインの相対性理論の公式でこっちはファインマンの物理法則」 トックングン「その列に?」 ウンス「ええ。よく研究しないとだめだわ。時間もかかりそう」 手帳を取り上げられる。 ウンス「ちょっと。まだ全部写せてないわ」 トックングン「私は風来坊ゆえ西域の人も存じています。かの地の文字も習い数字くらいは解ります」 ウンス「騙してごめんなさい。あなたが敵か味方か解らないし。教えるべきか迷って」 トックングン「プオングンの言う通り医仙の心をつかむのが先か。では、また」 ウンス「待って!もう一度だけ最後のページを見せて」 『ウンス』と書かれている。 ウンス「ありがとう。行って」 トックングン「一筋縄ではいかぬな」 尚宮は間者である者を追い確信を得る。 そして部下に指示を出す。 チョルから『医仙の心は掴めそうか?』と尋ねられるトックングン。 トックングンはあの時ウンスがヨンの袖を引っ張っていた光景を思いだし、ウンスの心が既にヨンにあることに薄々気づいていた。 だがトックングンもまたチョルとは違った意味でウンスが欲しいと思っている。 王妃の座はどうか?と言いだす。 それにはトックングンが王の座につくことが必要だ。 それを手に入れましょうと約束してしまうチョル。 ウンスとヨンの苦悩が更に増えることとなる。 第12話へ |