シンイ〜信義〜 |
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第12話〜正義の裁き〜 王妃の座はどうか?と言いだすトックングン。 それにはトックングンが王の座につくことが必要だ。 それを手に入れましょうと約束してしまうチョル。 ウンスとヨンの苦悩が更に増えることとなる。 その頃宮中では近衛隊が禁軍を尚宮率いるムガクシがそれぞれ間者と思われる者をとらえる。 王の間。 王「間者が口を開いたか?」 尚宮「自決する寸前に捕らえ厳しく問いただすと吐きました」 王「して何と?」 尚宮「国王の印をと」 王「余の玉璽か?」 尚宮「玉璽を盗み元に訴える口実を作る腹です。元皇帝より賜った玉璽を紛失したとなれば王様を問責する名分ができます」 副隊長「玉璽が狙いならまた襲撃しましょう。隊長に報告し対策を・・・」 言ってから気づく副隊長。 尚宮「もう隊長ではありませぬ」 王「隊長は・・・どうしておる?」 ヨンはその頃ウンスと約束したあの園内で昼寝をしている。 ウンス「ずいぶん探したわ」 ヨン「何か用ですか?」 ウンス「抜糸するから手首を見せて。手首よ」 仕方なく手首を見せるヨン。 ウンス「往診までするのよ。治療費は払ってくれる?どうかな?きれいに閉じてる。私って腕がいいわ。傷の手当程度じゃもったいないわ。さっきね、トックングンが手帳を持って訪ねてきた。急に何のつもりだか。でも手帳にある数字の意味が解ったの」 ヨン「解けたと?」 ウンス「あれは日にちだった。何年何月何日、私の世界での書き方で何時何分まで書いてた」 ヨン「日にちと時刻か」 ウンス「天門が開く時刻を示してるんだと思う。どうかな?」 ヨン「いつ天門が開きますか?」 話してるウンスをじっと見つめてるヨン。 複雑な思いで。 ウンス「西暦から割り出してみるわ。この時代の日付と照合するの。でも簡単じゃないわ。これでよし。驚異の回復力ね。これなら包帯も要らないわ」 ウンスがこっちを見たので急いで目をそらす。 ヨン「判明したら準備しますので連絡を」 ウンス「でも違うかも。西暦1100年から日付っぽい数字が並んでた。でも意味不明なの。さっきね、部屋を覗いたの、いるかと思って」 ヨン「もう私の部屋ではありませぬ」 ウンス「その時にね、これ見つけちゃった」 前にウンスがヨンにあげたアスピリン。 急いでウンスの手から奪い取る。 ウンス「花と薬を一緒に入れちゃって大丈夫?」 ウンスに貰った黄色い菊の花。 もうしおれてしまっているのに大事に入れてある。 唇をきっと結んで何も答えないヨン。 立ち上がったウンスはヨンの向かいに座る。 ウンス「天界にはあなたの歌があるのよ」 ヨン「歌ですか?」 ウンス「『黄金を石のごとく見よ』とのご尊父の志を受け継ぎ・・・」 ヨン「それは!」 ウンス「国に尽くした我が同胞の師チェヨン将軍」 ヨン「どこで聞いたのです?父の言葉を?」 目を見開いて驚くヨン。 ウンス「天界では超有名人なんだってば。お父様の遺言まで歌詞になるほど清廉で立派な将軍だから。賄賂なんて話、天界の人が聞いたら笑って一蹴よ。驚いてるの?私は天界の人だってば。誘拐したくせに。もう戻るね」 笑って歩き去るウンスを驚いた目で見送る。 別の場所では。 イ・ジェヒョンにチョルが王を挿げ替えてはどうかと持ちかけている。 トックングンにしてはどうかと。 息を切らせて隊長に合いに来た副隊長。 副隊長「重臣は隊長の無実を望んでおりませぬ。強引に罪を着せ王と隊長を反目させんとしているのは明らか」 手を上げて副隊長を制するヨン。 チョニシではウンスが西暦とこの時代の年号を照合している。 でも漢字が解らないウンス。 『漢字を勉強しとくんだった!』とイライラしている。 チャン侍医の話声が聞こえ隙間から覗き込むとウンスに合いにきた重臣達が。 重臣達と向かい合って座っている。 ジェヒョン「行く末を占うのですか?」 ウンス「それは・・・」 イルシン「華佗のお弟子でもあり医術は神業のごとく」 ジェヒョン「行く末はいかがか?」 チャン侍医「医仙をお守りするのが私の務めゆえ伺いますがお答えせねばなりませぬか?」 ジェヒョン「国のためだ」 チャン侍医「国の?」 ジェヒョン「うわさが真なら医仙の知識と力を国のために使いたい。だが王を惑わす騙りなら見過ごせぬ」 呆れるウンス。 イルシン「ご容赦を。偽りなきことは存じております」 セク「先生伺いましょう。大臣らの前でじき元が滅び新王朝が興るとお告げになったとか」 ウンス「あの時はここに長居するつもりもなかったし腹もたったから・・・」 セク「告げましたね」 ウンス「確かにそう言ったわ」 セク「いつ滅びますか?」 ウンス「正確な日時までは知らないわよ。そうだわ、ちょうど年を割り出してて・・・」 ジェヒョン「国に必要な王は?年はともかく王の治績はご存知か?現王は国の益になりますか?現王の最後は?」 ウンス「天の機密です!」 ジェヒョン「知らないのではなく?」 ウンス「何か聞きたいのであれば王が聞きにきなさい。そうすれば天の機密を少しだけ話してあげるわ。いいですね」 イルシン「御意」 素直に返事してしまう馬鹿なイルシン。 ジェヒョンとセクに睨まれる。 部屋に戻ったウンスは一人ぶつぶつと怒っている。 ウンス「聞きたいならお包みでもしなさいよ。私は無料の検索サイトかっつーの」 振り向いたウンスはそこに黙って立つヨンに驚く。 ウンス「いつからいたの?全部聞いてた?」 ヨン「王に聞かれれば少し話すというくだりから」 ウンス「とにかく来てくれて嬉しいわ。入って。お茶でもいれるわ」 ヨン「明け方、発つ準備をして来て下さい」 ウンス「発つ?」 ヨン「荷物は詰め込まず身軽に」 ウンス「追い出すの?」 ヨン「堅物の先生達はあなたを拷問にかけかねません」 ウンス「まさか」 笑うウンスだが思いのほか真剣な目のヨンに。 ウンス「嘘よね?」 ヨン「野宿は寒いので厚手の服を」 ウンス「あなたは?来られないわよね。だって今王様と・・・」 ヨン「行きます。一緒に」 まだ判決待ちのヨン。 にっこり笑って『行きます』と断言する。 ため息をつくウンス。 ウンスは黙ってあちこちから必要と思われるものを物色し集めている。 それらを風呂敷に詰め急ぎ荷造りを始める。 ふと思いつき、目の前にあった小さな器を手にする。 大きな荷物と共に王妃の部屋を訪れるウンス。 王妃「私の顔に何か?」 ウンス「お美しくて」 王妃の手を握る。 ウンス「チャン侍医に頼んでおきました。子宮にいいものを処方してって。専門外だから婦人科の治療が出来なくて」 王妃「どこか悪いのですか?」 ウンス「天界の情報を少しだけ教えますね。いいですか?」 うなづく王妃。 ウンス「この国にはたくさんの王様と王妃様がいました。これからも出てきますがお二人の愛の絆が最強なんです」 王妃「私と王様が?」 ウンス「そう、お二人です。王様は王妃様を慈しんでおられ王妃様がご病気になったりどこか遠くに行かれたりなさったら食事も国政も疎かに・・・それほど王妃様を愛していらっしゃいます」 王妃「私は王様を置いてどこにも行かぬ」 ウンス「そうですね。抱きしめてもいいですか?天界の姉として許してね」 王妃を思い切り抱きしめる。 そこへ入ってくる尚宮。 尚宮「始まりました」 王妃「チェヨン隊長への尋問じゃ」 王の間へ連れていかれるヨンを心配して集まっていた近衛隊達。 ヨン「乙の配置がなってないぞ」 トルベ「直させます」 そして入っていくヨン。 つべこべと御託を並べヨンを非難するイルシンを戒め『今日の議題はヨンの賄賂ただ一点のみだ』と言い放つ王。 王「チェヨンが否認すれば閉廷する」 イルシン「あの悪鬼をお傍に置くつもりですか?」 イルシンの胸ぐらをつかむ王。 王「そのように呼ぶな。あの者は余の為に血を流し人も斬ってきた。自らの手を汚してまで余の為に」 イルシン「あやつは高麗君主の・・・王様の足かせです。お認め下さい」 王「余の心は決まった。参ろう」 王座へ座る王。 王「始めよ」 セク「近衛隊元隊長チェヨンを尋問します。この7日間オサデは弁明の余地を与えました。罪人チェヨン、潔白を証明しなさい。証拠や証人の用意はあるか?」 王「証拠はないが証人ならここに。無罪を証明するため余が証人となろう。じかにチェヨンと接してきた。その者の人間性を高麗王の名にかけ証言する」 トックングン「ピョンジャンジョンサより進言がございます」 王「拝聴しよう」 トックングン「ここは王様が尋問なさる場。裁く立場の王様が私情を挟むなど許されませぬ」 ヨン「罪人より申し上げます。私は7年間近衛隊長を務めて参りました。そして王様のご寵愛を受けお仕えし驕慢になりました。そんな中物欲に駆られ武器商人から収賄致しました。認めます」 王「チェヨン」 ヨン「王様を裏切り心が痛みます」 怒り立ち上がる王。 イルシン「自白致しました。オサデは罪状に相応の処罰を。王様に申し上げよ」 セク「罪人チェヨンには収賄の金額をかんがみ徒刑を科し官ガに拘禁し奴役を科すのが妥当です。刑期は1年から3年が適切でしょう」 何も言えずイライラと座る王をじっと見るヨン。 ヨンはニっと笑いそしてわずかに首を横に振る。 王はその合図に気付く。 チョニシで発つ準備をしているウンス。 ウンス「捕縛された?」 チャン侍医「身柄を拘束され明朝には鍛冶場送りに」 ウンス「嘘よ」 チャン侍医「医仙」 ウンス「約束の場所で待つわ。来るって言ったんだもん。有言実行の人じゃない」 チャン侍医「今手術の道具をお持ちします。それからしばし待って来なければお戻りを」 ウンス「必ず来るわ」 チョルの屋敷。 チョル「自白したと?」 トックングン「何の抵抗もせず」 チョル「そんな男ではない。あの者は反逆罪で死にはしても収賄罪など認めるはずがありませぬ。して刑量は?」 トックングン「徒刑1年」 チョル「王が言い渡したのですか?」 トックングン「いかにも」 チョル「直接王の口から何のためらいもなく?」 トックングン「思い返すと王とチェヨン、両人は審判を下す者と罪人にしては妙で憤りや無念、絶望の気配がまったくなかった」 チョル「してやられた!」 トックングン「何と?」 怒り心頭のチョル。 夜、王妃の寝所。 王「間違いない。余には確かに聞こえた。チェヨンの心の声を確かに聞いたのだ。『大丈夫だ、何も心配ない』とな」 ため息をついて座る王。 王「以前隊長が投獄された折、余は心に決めたのだ。二度と投獄や捕縛の憂き目に合わせぬとな。あの者を縛るは道理を踏みにじるも同然」 王妃「昼に医仙が参りました。その時は何も思いませんでしたが思い返すと気になり。医仙は別れの挨拶に来たのです」 チョニシに入ってくるチョヌムジャとファスイン。 何者かの侵入を感じたチャン侍医は急いでろうそくの火を吹き消す。 薬院を捕まえて刀を突きつけるチョヌムジャ。 チョヌムジャ「医仙はどこだ?」 逃げたことを知り急いで近くを探す二人。 イムミルポプで男女の二人が近くにいることを察するチョヌムジャ。 急いで駆け付けるといたのはチャン侍医とトギ。 チャン侍医「あなた方はプオングン様の・・・」 ファスイン「医仙はどこ?」 チャン侍医「薬草園かと存じます。何か用で?」 機転を利かせたチャン侍医。 ウンスは約束の場所でウロウロしながらヨンを待っている。 物音に怯えながら。 ヨンが投獄されている獄の前では忍び込んだテマンが見張り兵を倒し鍵を奪ってヨンを脱獄させる。 王の間。 王「脱獄?詳しく申せ」 尚宮「護送する罪人を一同に集め待機していた折見張りの者達を倒し逃走しました」 副隊長「禁軍が血眼で探しておりますがあの者達では・・・」 王「解った」 尚宮「逃走した罪人の件でご指示は?」 王「ない。もう下がれ」 二人残された王と王妃。 王「そもそもあの男は縛り付けられぬ。意思の強い者ゆえ」 王妃「牢を破ったということは戻らぬ覚悟でしょうか?」 王「余の足かせとなることを恐れたのか。何を考えておるのか解らぬ」 あちこちを歩く禁軍の兵に見つからないように必死で隠れるウンス。 柱の陰から歩く兵を見ながら必死に足首につけてある短剣を取ろうとしている。 ヨン「すばやく」 驚いてはっと振り返るウンス。 ヨン「時間をかけすぎです」 本当に来てくれた感動で涙目になるウンス。 ヨン「待たせました。チョニシまでお迎えにあがるつもりでした」 ウンスは夢中でヨンに走り寄り思いきり抱きつく。 あまりに驚いて何も言えなくなるヨンだが恐る恐るウンスの背中に手を回す。 抱きしめあう二人。 その頃チョルの屋敷ではヨン達の捜索を命じている。 開京をしらみつぶしに探し道という道を全て閉鎖しろと。 村を歩いているヨンとウンス。 チョルの私兵をあちこちで見かける。 ウンス「私を追ってるの?脱獄したのはあなたよね?」 ヨン「プオングンの私兵はあなたを追っているようです」 ウンス「万が一の場合、私は観念して戻るからあなたは逃げて。考えると高麗に来てからプオングンの屋敷がベッドも食事も豪華で最高だった。きれいな服もくれて・・・」 真顔で見てるヨン。 ウンス「笑ってよ。ふざけたのに」 ヨン「笑えません。あの者が案内します。私は見回りを」 ウンスを置いて行ってしまうヨン。 スリバンの家に連れてこられたウンス。 叔母「あたしのクッパは絶品だよ」 叔父「開京一だ」 叔母「食べてみな」 二人がじっと見つめる前でクッパを食べ始めるウンス。 そこへ入ってくるヨン。 ヨン「くそ。どの道にも兵がいる」 叔父「お前だけなら心配いらねえけどこの方を連れては無理だろ」 叔母「(ヨンに)クッパ食うか?」 ウンスのクッパを横取りして食べ始めるヨン。 ヨン「航路はどうだ?海に出る」 叔父「裏はもっと危ねえ。今朝船を出そうとしたら兵が来て船底まで調べる有様だ」 ウンスはヨンが食べているクッパをじっと見ている。 叔父「お前らが隠れてないかってな」 叔母「数日ここに潜んでなよ」 叔父「どれほど必死に探そうが手下は手下」 叔母「たかが知れてる」 叔父「割り込むな。数日すりゃそのうち奴らもやることが尽きてだれてくる。その時を狙って動けばいい」 まだクッパを気にしてるウンス。 叔母「人目につかない部屋もある」 叔父「そうだとも、ひとつある」 ヨン「まあ仕方ないな」 ウンスを見る。 ウンス「ちょっと」 ヨン「何です?」 ウンス「私の分は?」 もうほとんど食べてしまっている。 『しまった』という顔をするヨン。 ヨン「チャンソンサのチャ・イルシンを知ってるか?」 スリバン「知ってるさ」 ヨン「尾行しろ。誰と会い何を話したかを知りたい」 スリバン「宮中じゃなく外での行動を調べるのか?」 ヨン「そうだ」 叔父「いったい何を考えてる?」 叔母「性懲りもなくあの王に尽くす気かい?」 ヨン「おう」 叔父「お前に濡れ衣を着せた王をまだ助けるってのかい?」 ヨン「鍛冶場送りの刑になった」 叔母「そんな奴に仕えたいか?」 ヨン「うん」 頬杖をついているウンスに、頬杖をついて話しかけるヨン。 ヨン「数日身を隠そう」 ウンス「聞いてたわよ」 ヨン「静かに隠れていられますか?」 ウンス「息を殺して?」 ヨン「決して騒がず」 ため息をついて考えるウンス。 しばしの沈黙。 ウンス「ご飯は?」 笑って答えるヨン。 ヨン「山盛りにします」 宮中では。 トックングンがイルシンと極秘で会っている。 トックングンから自分が王になればプオングンの地位をお前にやると言われその気になってしまうイルシン。 部屋を用意して貰っている間、案内がくるまでウンスは紙に書き写した年号を必死に解読しようとしている。 ウンス「R=補数係数のk。公式に見覚えあるんだけど」 ぶつぶつ言いながら頭をかきむしっている。 ぼさぼさになるウンスの髪。 ヨン「日が暮れます」 ウンス「この公式知らない?」 ヨン「迎えがきたら行きます。その前にその・・・頭をどうにか・・・」 ウンス「R=k(10g+f)!!」 ヨン「は?」 ウンス「地球科学Uに出てた!ウォルフ数だわ!」 指を舐めながら必死で紙をめくる。 ウンス「黒点郡数がg。補数係数がk。黒点数f。やった!全部思い出したわ!センター試験で満点だったの!」 でも突然顔色が暗くなるウンス。 それをじっと見つめるヨン。 ウンス「でも・・・何よこれ」 また頭をかきむしる。 頭を抱えて机に突っ伏すウンスの髪にゆっくり手を伸ばすヨン。 でもあと少しのところで手を引っ込める。 ヨン「解ったんですか?」 ウンス「でも日付はこの時代のと違うしチャン侍医にもらった元の授時歴と照合するのに全部漢字なの!もう泣きたい!」 まくしたてるウンスをじっとみてるヨンに。 ウンス「何よ?」 ヨン「天界では皆そうですか?それともあなただけでしょうか?」 ウンス「何が?」 ヨン「挙動の全て」 ウンス「私が何よ?」 ヨン「早く謎が解ければその分早く帰れます」 チョルの屋敷ではトックングンがいなくなったと騒いでいる。 そして今皇宮にいると知らせが入る。 夜。 隠れ家に移動したヨンとウンス。 風呂に入っているウンスを見張りのため入口で待っているヨン。 ヨン「まだですか?」 ウンス「終わったわよ。待てないなら行けば?入口に立って急かさないでよ」 タオルで髪を拭きながら出てきたウンスを見て一瞬固まるヨン。 急いで目をそらして歩き出す。 ヨン「狭い部屋ですが野宿よりはマシでしょう」 そういって振り向くと目の前にウンスの顔が。 暗い部屋の中で見つめ合う二人。 先に目をそらしたのはウンス。 ウンス「でも・・・」 ヨン「休んで下さい」 頭を下げて急いで出ていくヨン。 部屋の入口に座りため息をつく。 ウンス「いるの?」 ヨン「ここにおります。まだ寝ませんか?」 ウンス「眠れなくて。私達MTをしてるみたい。MTはね、メンバーシップトレーニング。仲間で旅行して親睦を深めるってわけ。天界語の解説って意外と難しいわね。MTって具体的にはね、そうだ真実ゲームよ。質問されたら正直に答えるゲーム。聞いてる?」 ヨン「聞いております」 ウンス「じゃあ私から。真実だけ言って隠したり嘘を言ってはだめよ」 ヨン「嘘などつきませぬ。面倒ですから」 ウンス「じゃあいくわよ?もし私が手帳にある数字の謎を解いて天門の場所へ行ったら門が開いていてそれで・・・私は帰ることになっても、それでもあなたは平気?優しくて腕もいい主治医が消えるのよ。傷を縫合して薬を塗る人がいなくても構わない?」 ヨン「大丈夫・・・とは言えませぬ」 ウンス「そうよね。私も平気でいられない。私の世界に戻ってもきっと思い出す」 障子に映るウンスの影をじっと見つめるヨン。 そしてウンスの影の通りに指でなぞる。 ウンス「王様や王妃様、優しいチャン侍医、近衛隊のみんな、そして・・・あなた。恋しくて仕方ないわ。長い夢を見た後のように。でも夢なら朝には忘れてしまうはず。次はあなたの番よ。私に聞きたいことはない?」 ヨン「ありません」 そして小さな声で付け足す。 ヨン「聞きたいことがありすぎて・・・」 それだけ言って目を閉じる。 皇宮。 深夜に尚宮を訪ねてきたトックングン。 尚宮「コンソン殿のチェ尚宮ですが何か?」 トックングン「チェヨンの叔母だな?」 二人の会話でトックングンがウンスに毒を持ったことが解る尚宮。 ウンスが書き写した紙の隅に毒を塗っておいたのだ。 別れた後急ぎ尚宮はチャン侍医に伝令を出す。 夜中にふとウンスのうめき声で目を覚ましたヨン。 ヨン「医仙?医仙?」 呼びかけるがうめくばかりで返事はない。 部屋へ入りウンスの肩をゆすってみるが起きない。 ヨン「医仙、起きて下さい」 額には汗がにじんでいる。 持っていた大事な刀を放り投げ、急いでウンスを抱き上げる。 ヨン「おい!医仙!」 そのままヨンの肩にもたれて意識を失うウンス。 その頃尚宮の伝令でチャン侍医が馬を駆りこちらへ向かっていた。 スリバンに連れられて走るチャン侍医。 部屋を飛び出したヨンはやってきたチャン侍医を見る。 ヨン「よく来てくれた。医仙の様子が変だ」 チャン侍医「毒が回ったのですね」 ヨン「毒?」 慌ててチャン侍医を追う。 ヨン「毒とは何だ?なぜ来た?」 チャン侍医「チェ尚宮から毒の話を聞き」 ヨン「誰が?何のために?いや、解毒の処置に来てくれたのか?」 チャン侍医「無臭だ。石化か?」 懐から急いでアスピリンを取り出す。 ヨン「この薬は医仙から貰った。使えないか?」 チャン侍医「毒が特定できれば解毒できますが。紙の隅に毒が塗られておりました。持ち帰って毒を割り出すしかありませぬ」 ヨン「この方を助けられるのか?」 チャン侍医「トックングンが先日の妓楼で待っております」 ヨン「トックングン?」 チャン侍医「あの方が毒を。解毒薬が欲しくば来いと」 ヨン「時間はどれくらいある?」 チャン侍医「石化毒ならまず指先、そして臓器、心臓が麻痺・・・」 ヨン「残された時間は!!」 チャン侍医「対処しますが長くて1日」 刀を掴んで立ち上がるヨンに。 チャン侍医「隊長」 アスピリンを返す。 必死で走るヨン。 一緒に走るスリバンに伝える。 ヨン「侍医に尾行がいないか調べろ」 スリバン1「解った」 ヨン「師叔に伝えろ。医仙は毒で動けない。守ってくれと」 スリバン2「ああ」 無我夢中で妓楼へ向けて走る。 入口で待っていた別のスリバン。 スリバン3「中には奴一人だが外に一人いる」 ヨン「近づかせるな」 ヨンの後を追いかけるテマン。 トックングン「来たな」 ヨン「解毒薬はどこだ?」 トックングン「待っておった。座れ」 そこにあったテーブルをひっくり返すヨン。 そしてトックングンの胸ぐらを掴む。 ヨン「解毒薬はどこだ?」 トックングン「気安く触るな」 ヨン「出せ」 トックングン「話にならぬ」 ヨン「俺は大勢人を斬ってきたが苦しまぬよう刀を振るった。だが貴様だけは」 トックングンを壁に押し付け首に短剣を突きつける。 ヨン「手足を切り落とされたくなければ正直に答えろ」 トックングン「私の運命は二つに一つ」 ヨン「解毒薬はどこにある?」 トックングン「王になるか死か」 首をわずかに斬る。 ヨン「ほんの小手調べだ。次は切り落とす」 トックングン「私を殺せばお前の女も死ぬ。お前の女だろ?」 部屋の周りに香を炊きウンスの治療に当たっているチャン侍医。 ウンスはその頃夢の中にいる。 たくさんの薬草に囲まれた場所。 子供の治療をしている。 隣で心配そうに覗き込む母親。 妓楼。 トックングン「医仙はそのうち死のう」 ヨン「条件を言え」 トックングン「そなただけが宮中の全てに通じ近衛隊も動かせる」 ヨン「何が欲しい?」 トックングン「王の印、玉璽だ。奪うなり盗むなり。解毒薬と交換だ」 ヨン「玉璽を取って来いというのか?」 トックングン「夜が明け日が中天に昇れば高麗一の名医でも助けられぬ」 歩き出すヨン。 皇宮へ向かう。 後をついて歩いているテマン。 テマン「もうじき夜が明けます」 ヨン「ここで持ってろ」 剣をテマンに預けて行くヨン。 園内を歩く王。 その後ろには近衛隊。 副隊長が警戒しているとそこへヨン。 一同は隊長に気付くと安心して警戒を解く。 王「誰かと思えば国法を犯し逃走中の罪人か」 ヨン「お変わりなく」 王「そなたは?」 ヨン「お願いがございます」 王「その前に取り押さえるべきか」 ヨン「王様」 王「(近衛隊に)下がれ。相手はチェヨンだ。皆下がっておれ」 距離を置く近衛隊。 王「聞こう」 ヨン「医仙が毒に侵され」 王「毒?なにゆえ?」 ヨン「解毒薬のため王様の物が要ります」 王「余の物とな?何が要る?」 ヨン「王様の印です」 王「王の印?玉璽か?」 ヨン「なければ医仙は助かりませぬ」 王「そなた、玉璽が何を意味するか知っておろう?」 ヨン「医仙は王様の命でこの国に連行され帰れずにおります。そればかりか王妃様のお命を救い王様の支えにもなりました。その方が死の淵にいます。どうか玉璽を」 王「そなた誰に渡すつもりなのだ?」 ヨン「トックングンです。時間がありませぬ」 王「余に対してたかが女人一人のために玉璽を渡せと申すか?」 ヨン「なにとぞ」 王「余を守ると言ったのは偽りだったのか?」 ヨン「王様は私を友であり民と。その民が助けを請うているのです。誰のための王であるのかお考え下さい」 王「玉璽を渡せば王座も渡すことになろう」 ヨン「玉璽を下したのは誰ですか?」 王「何を言っておる?正気とは思えぬ」 ヨン「お渡し願えなくば奪うまで」 王「こやつを捕らえよ」 副隊長「ご下命に従います」 一斉に剣を抜く近衛隊。 副隊長「丸腰ですか?」 ヨン「そうだ。俺を止めてみろ。近衛隊らしく」 副隊長ですらヨンには敵わない。 王の前で全員倒して先を急ぐヨン。 途中、今度は矢が飛んでくるが全てかわす。 近衛隊は玉璽がしまわれている部屋へ急ぐ。 トクマン「近づくな!お覚悟」 トクマンの声が震えている。 隊長に剣を向けるなどありえないことだ。 ヨン「来い」 トクマンをかばい腕を斬られるが全員倒して先を急ぐ。 玉璽を見張りながらヨンを待つ一同。 でも一向にヨンは現れない。 箱を開けてみると既に玉璽はなくなっていた。 ウンスはまだ夢の中で自分の姿を見ている。 夢の中の自分が日記帳に『ウンスへ』と題した手紙を書いている。 玉璽を持ってトックングンの元に戻ったヨン。 ヨン「薬は?」 トックングン「持ってきたのだな」 ヨン「先に解毒薬を」 トックングン「偽物じゃあるまいな?」 ヨン「見くびるな」 急須から取り出した小さなツボを奪い取るヨン。 ヨン「貴様を生かしておく理由がなくなった」 トックングン「その薬、1度では効かぬ。3日に1度飲ませろ。仕方あるまい。我が身が大事だ」 ヨン「3日に1度取りに来いと?」 トックングン「7回飲めば解毒出来る」 ヨン「医仙は?」 トックングン「死にはせぬ。何度か試した。もう一つ、口のききかたを改めろ。主君になるやもしれぬ」 ヨン「3日後に来る」 トックングン「何だ?もっと暴れるかと思うたのに。まだ話があろう?」 ヨン「俺はまっとうな人間としか話さぬ」 解毒薬を意識のないウンスにのませているチャン侍医。 ヨン「解毒できそうか?」 チャン侍医「今は見守るしか。幸い血は汚さず心経を麻痺させる毒でした。でなければ臓器がやられます」 ヨン「いつまで?」 チャン侍医「しばし。3日に1度、全部で7回服用するのですね。成分を特定し私に作れるか調べてみます。よく手に入れましたね。ただではなかったはず」 ヨン「とるに足らない物と交換したのだ」 チャン侍医「取るに足らない物?」 ヨン「侍医、手が氷のようだ。いつもは火照るようなのに。温かな手で」 チャン侍医「解毒が効けばよくなります」 ヨン「待つしかないのか?」 チャン侍医「それでは声がけを。薬が効けば先に意識は戻りますが身体が動かず動揺なさるかも」 氷のように冷たいウンスの手を自分の両手で包み込むヨン。 あの時ウンスがしてくれたように。 第13話へ |