シンイ〜信義〜 |
---|
第13話〜生きろ、生きてくれ〜 解毒薬を意識のないウンスにのませているチャン侍医。 ヨン「解毒できそうか?」 チャン侍医「今は見守るしか。幸い血は汚さず心経を麻痺させる毒でした。でなければ臓器がやられます」 ヨン「いつまで?」 チャン侍医「しばし。3日に1度、全部で7回服用するのですね。成分を特定し私に作れるか調べてみます。よく手に入れましたね。ただではなかったはず」 ヨン「とるに足らない物と交換したのだ」 チャン侍医「取るに足らない物?」 ヨン「侍医、手が氷のようだ。いつもは火照るようなのに。温かな手で」 チャン侍医「解毒が効けばよくなります」 ヨン「待つしかないのか?」 チャン侍医「それでは声がけを。薬が効けば先に意識は戻りますが身体が動かず動揺なさるかも」 氷のように冷たいウンスの手を自分の両手で包み込むヨン。 あの時ウンスがしてくれたように。 チョルの屋敷でトックングンは手にいれた玉璽を見せている。 トックングン「ご覧あれ」 チョル「これはまさか」 トックングン「玉璽らしいが本物かどうか見てくれ」 チョル「なぜお持ちなのです?」 トックングン「チェヨンが持ってきた」 チョル「チェヨンがなぜ?」 トックングン「解らぬ。現王に不満なのだ。そなた同様にな」 チョル「あの者を黙って帰したのですか?医仙と共にいるのを知りながら野放しに?」 トックングン「仕方あるまい。剣の使い手には歯向かえぬ」 チョル「役立たずめ!何をしておった?」 チョヌムジャ「お付きの者がいて」 トックングン「狙っておったのだろう?盗む計画まで立てて」 チョル「まさしく。では・・・この玉璽をどうなさる?」 トックングン「言ったろう?私は何の考えも持たぬ。そなたの好きにせよ」 チョル「条件次第では王にして差し上げることも」 トックングン「医仙が欲しいのだろう?その心を得た男は今や私の掌中にある。何簡単な話だ」 宮中。 王はカンカンに怒っている。 王「昨夜の件は決して口外するな。騒ぎを問う者があれば訓練だと答えろ。よいな。宮中に侵入した者はおらず何も盗まれてはおらぬ」 副隊長「王様。近衛隊の力及ばず奪われました。不祥事の責任は指揮官の私にありこれ以上隊の指揮は出来ませぬ。処罰を」 王「余の話を聞いたであろう。何事もなかったのだ。よって罰する理由もない」 副隊長「王様」 王「ただ万が一この件が外に漏れ誰に盗まれたのかが公になればお前達を厳しく処罰する。よいな」 副隊長「承知しました」 王を案じた王妃はカンアン殿へやってくる。 王「チェヨンが余を裏切った」 王妃「信じられませぬ」 王「余に言い放ったのだ。医仙を助けるために王座を明け渡せと」 王妃「真ですか?王位を渡せと?」 王「玉璽を出せと言ったのだ。王位を狙う余の叔父に渡すためだと」 王妃「にわかには信じがたく」 王「無理もない。余でさえ信じられぬ。天地が背を向けようがチェヨンだけは余の忠臣だと信じておった」 王妃「王様、あの者が何と申したのか詳しくお聞かせ下さい」 王「詳しく?あの忌々しい言葉をか?」 王妃「どうか。今一度」 王「余の命で連行しここに留めた女人ゆえ助けるために玉璽を出せと申した。はばかりもせず」 王妃「王様はなんと?」 王「聞くまでもなかろう?目には迷いすらなかった。王である余に指図したのだ」 王は急に思い出す。 『玉璽を下したのは誰ですか?』 王妃「王様?」 思い立った王は急いで机にある書簡を全て引っ張り出してみる。 そこに押されている印を確認する。 そう、玉璽を下したのはまさしく元だ。 そこに記された文字は元の配下であることの証でもあった。 王「気にも留めてなかった。高麗の玉璽になんと刻まれておるのかを。元に与えられた印形を惜しんですがるあまりあの者に暴言を吐いた。正気とは思えぬと」 ヨンが何を言いたかったのかやっと気づいた王。 チェヨンの言葉の裏にはきっと何かあると信じて疑わなかった王妃は、そっと後ろから王を抱きしめる。 スリバンの家にもチョルの私兵達が押しかけてくる。 クッパを腹いっぱい食べろとうまく追い返す叔父と叔母。 ウンスの意識はまだ戻らない。 チャン侍医から声をかけ続けろと言われたヨンは眠るウンスに話かけている。 ウンスの手を握りしめながら。 ヨン「乗馬や短刀の使い方は手ほどきしましたから次は釣りを教えましょう。もし釣りがお気に召さなければ代わりに中秋節の嘉俳遊びを」 ウンスは夢の中。 ウンスは野原を息をきらしながら必死で走っている。 何かを探しながら。 無我夢中で走る。 そして見つけた小さな家。 横たわるヨンを見る。 急いで身体を起こして声を掛けるが答えない。 目を開けない。 涙を流しながらヨンのおでこにそっとキスをするウンスがいる。 ヨン「満月が昇ってから沈むまで通りは人で賑わい皆踊り明かします。きっと喜ばれると思います。それから・・・」 ウンスが呻き出す。 ヨン「医仙、解りますか?医仙、しっかりしろ。聞こえるか?」 呻きながら泣いているウンス。 焦ったヨンは急いでウンスを抱き起こす。 ヨン「どうしたんだ?チャン侍医!いないのか?」 ウンス「だめよ・・・」 ヨン「何です?」 ウンス「目を開けて。嫌よ・・・死なないで・・・」 ヨン「何かうわごとを言っている。なぜ泣いてる?」 ウンスの脈を調べるチャン侍医。 チャン侍医「脈は乱れておりませぬ。まだ麻痺はありますが峠は越しました」 尚宮が会いにくる。 尚宮「罪人はどこだ?」 テマンが『あっち』と手で示す。 尚宮「医仙の具合は?」 ヨン「一命は取り留めたが話が本当なら解毒薬を続けなければならぬ」 尚宮「キチョルより悪党がいたとはね」 ヨン「俺がそんな奴を近づけた。宮中の様子は?近衛隊は追放されてないか?あれほど鍛えたのに。相手の動きに惑わされず腹を読めと」 尚宮「自ら収賄の汚名を着て盗みを働き国賊となってどうするんだい?」 ヨン「まず医仙だ」 尚宮「それで?」 ヨン「お帰しする」 尚宮「天界へかい?その後は?」 ヨン「さあな。あの方についていこうか?天界へ。王のご様子は?」 尚宮「どう思う?」 ヨン「トックングンとキチョルが玉璽を盾に騒ぐだろう。あの堅物の学者達も王を小突き回すだろう」 尚宮「王はお前の言葉の真意に気付いたと聞いた」 ヨン「そうか」 尚宮「プオングンは明朝に会議を開くと知らせてきた」 ヨン「相手は速戦即決か」 尚宮「チョイルシンがトックングンと密会を」 ヨン「やはりな」 尚宮「王は孤独でいらっしゃる。戻ってこぬか?戻らぬか?」 ヨン「言ったろう。医仙の回復を待ち帰すのが先だ。その後だ」 部屋からチャン侍医が出てくる。 チャン侍医「私は一旦チョニシへ帰ります。医仙は丹田に毒が残っています」 ヨン「あの者の言う通りまだ解毒薬が必要か?」 チャン侍医「少し持ち帰り成分を調べてみます。代わりに湯薬を。解毒は出来ませぬが麻痺は解けましょう」 部屋の入口に立つヨン。 ウンス「私死にかけたのね」 ヨン「私の責任です」 ウンス「何でも自分のせい?」 ヨン「私がトックングンを近づけたのです。あなたに天の書を渡すよう脅して」 ウンス「トックングンから解毒薬を貰ってきてくれたのね。傍にきて」 剣を置きウンスの横に座るとウンスがヨンの腕を引っ張っている。 ヨン「何です?」 ウンス「身体を起こして」 ヨン「なぜ?」 ウンス「あなたのせいなんでしょ?言うとおりにして」 ウンスの身体を起こしてあげる。 ウンス「私の後ろに座って」 ヨン「後ろに?」 ウンス「もたれたいの」 ウンスの後ろに移動するヨン。 ウンス「横になってると胸が苦しくて息をするのも辛い」 ヨン「解毒薬は3日に1度、あと6回飲まねばならぬと、そうあの者が・・・」 ウンス「夢を見たわ。夢なのかいつかの記憶なのか。きっと夢ね。見たこともない家や見たこともない私の姿が」 ヨン「だから泣いて?」 ウンス「夢の中であなたを見たの」 ヨン「私ですか?あなたの夢に?」 嬉しそうなヨン。 ウンス「ねえパートナー」 ヨン「はい」 ウンス「私ね、日付が解ったの。意識を失う前に。天門の開く日が・・・解った」 聞くのが怖くてほんの少し躊躇するヨン。 ヨン「いつです?」 ウンス「1か月くらい・・・あとよ。その日に帰れなければ次は67年後になるみたい。天門の開く日をそう手帳には記してあった。生きてるうちに帰るには1か月後のその日しかない」 かける言葉が見つからないヨンは黙ってウンスの手を握る。 翌日の皇宮。 これからトダン会議が始まる。 案の定プオングンから玉璽をなくされたのでは?と問われる王。 だがその玉璽は自分が処分したと言う王。 元の配下ではなく高麗王にふさわしい玉璽をこれから作るのだと。 叔父と叔母から逐一イルシンの報告を受けているヨン。 ウンスが自分で座れるよう背もたれを作ってあげながら。 叔父「なんで急にチャンソンサが気になるんだ?」 叔母「商売もある。いつまで尾行させるんだい?」 そういいながらウンスに飲ませる湯薬を必死で絞っている。 ヨン「俺を陥れたのはあの男だ。近衛隊を配下に置くためだろうがそこまで兵力を募る理由が気になる。そんなんでちゃんと絞れるかよ。貸せ」 自分で絞るヨン。 叔父「一ついいか?骨を折ってすっげえ情報を得てお前が王に報告したとする。王は労い早く戻って隊長をやれと言うのか?」 ヨン「商売人だな。見返りがなきゃダメか?」 ウンスに湯薬を差し出す。 ヨン「飲んで」 ウンス「苦そう」 ヨン「良薬は口に苦しです」 ウンス「飲ませて」 咳払いしてちょっと迷うが素直に飲ませてあげるヨン。 それをニヤニヤしながらじっと眺めている叔父と叔母。 ヨン「冷ましてます、一気に」 一口でやめてしまうウンス。 ヨン「困ったお方だ。さあ一息に飲んで。もう少し」 せき込むウンスを見てニヤっと笑うヨン。 そのほほえましい光景に、同じくニヤニヤしながら眺めてる叔父と叔母。 ヨン「解毒薬を取りに行きます」 ウンス「トックングンのところ?」 ヨン「ええ」 ウンス「殴ってきて」 ヨン「既に殴りました」 ウンス「聞いてきて欲しいの」 ヨン「何です?」 ウンス「手帳に続きがあるのか知りたくて。夢で見た時はまだ続きがあったから」 ヨン「夢と事実が一致するか確かめたいのですか?」 ウンス「もし続きがなければただの夢ってことだわ。ただの夢っていう確信が欲しいの」 ヨン「聞いて参ります」 刀を持って振り返る。 笑いあう二人。 その光景を笑いながら見ていた叔父と叔母だが、ヨンが出ていくと急にウンスが苦しみだす。 慌てて飛んでくる叔父と叔母。 叔母「ねえどこか悪いのかい?」 叔父「どうした?」 ウンス「手が・・・動かない」 叔母「なんて冷たい」 ウンスの手を温めてあげる叔母。 次の解毒薬のためにトックングンに会いにきたヨン。 ヨン「今日の条件は?条件があるんだろう?」 トックングン「朝まで世話をせよ。それが今日の条件だ。碁はやらんか?夜明けまでだ」 ヨン「夜が明ければ3日になる」 トックングン「そうだな。ギリギリだ。解毒薬の服用は時間が要だ。何度か試したゆえ。以前うっかりして半刻ほど服用が遅れた。呼吸困難で死んだよ。碁は出来るか?」 トックングンの相手をせず寝ていたヨンだが人の気配に置いてあった剣を掴む。 入ってきたのはチョル。 チョル「なぜ罪人がここに?」 ヨン「こちらに質問を」 チョル「トックングン様、この者と会う時はお知らせいただかないと」 トックングン「舎弟に見張らせておろう。待っておったぞ。早く座れ。もはやチェヨンは私の配下。プオングンは私を招いた者。つまり同じ船に乗る者達だ」 チョル「いつからトックングン様の配下になった?」 トックングン「ところで今は何時だろう?」 その頃チョルの屋敷にはイルシンの指示で禁軍が押し入っていた。 それを知った王はイルシンを捕らえよと近衛隊に命を出す。 王に無断で禁軍2千の兵を動かしたのだ。 重罪に値する。 妓楼。 薬師達が血相を変えて飛んでくる。 薬師「奇襲です。禁軍が討ち入りました」 慌てて飛び出そうとするチョルだがふと立ち止まる。 チョル「待て。あの王にそんな度胸はない。お前(ヨン)もおらぬ折に。私と弟妹をこの時間にこちらへ来るように仕向け屋敷を空にさせた張本人・・・」 トックングンを殺そうとしたチョルに剣を突きつけるヨン。 ヨン「死なれては困るのです」 解毒薬を貰えなくなる。 チョルの屋敷ではチョルの弟が必死に抵抗するもあっさり殺される。 そしてそこにあった華佗の形見を箱ごと全て持っていかれる。 本当にヨンがトックングンの配下についたと思い込んだチョルは全兵をかき集めて皇宮を奇襲しろと命を出してしまう。 今度はヨンが焦る。 皇宮を助けに行き解毒薬を諦めるか、皇宮を見捨て解毒薬を手にいれるかの選択を迫られるヨン。 急いでスリバンを呼ぶヨン。 両陛下をお連れして外へ逃げろと近衛隊に伝えるように命ずる。 とにかく逃げて皇宮を明け渡せと。 ヨン「貴様がどんな奴か解った」 トックングン「3回目にはこの条件を出そう。王様には礼儀をわきまえろとな」 ヨン「貴様には薄っぺらな舌と浅知恵しかない。俺の相手になるならプオングンについてろ」 トックングン「案ずるな。信頼などすぐ回復出来る」 ヨン「俺は皇宮へ向かう」 トックングン「女はいいのか?そのうち死ぬぞ?」 スリバンを呼ぶヨン。 ヨン「解毒薬を受け取り医仙に届けろ。今すぐだ」 トックングン「渡すとでも?」 ヨン「医仙が死ねば貴様は最後の切り札を失う。俺とプオングンへの切り札だ。言ったろ?貴様のことがよく解ったと。命をかける度胸などない」 解毒薬を受け取ったというスリバンの口笛の合図を確認したヨンは急ぎ皇宮へ走る。 その頃皇宮では必死に近衛隊が禁軍の相手をするも数が多すぎて太刀打ちできず。 王妃の安否が解らぬまま王のみ近衛隊の援護で逃げることとなる。 そこへヨンの伝令を持ったテマンが到着する。 テマン「隊長の指示だ、全員逃げろ!」 テマンの笛の合図で残りの近衛隊も全員退避する。 だが退避しようとした瞬間仲間の隊員が斬られそれを助けようとしたトクマンの肩に矢が突き刺さる。 矢が突き刺さったまま禁軍の兵を斬り捨て必死で逃げる。 最後まで王妃を案ずる王。 『隊長の指示だ』と訴える副隊長。 王は皇宮を後にする。 その頃、王妃を援護している尚宮率いるムガクシ達。 向かってくる禁軍兵に必死で立ち向かうも数が数。 次から次に増えるばかり。 だが、急に目の前でバタバタと倒れていく禁軍兵達。 何事かと見るとヨンが。 そこにいた禁軍達をあっさり全員片付ける。 ヨン「ご誘導致します」 王妃「王様は?」 ヨン「既に避難なさったようです」 また追ってくる禁軍達。 ヨン「失礼します」 王妃の手を引いて禁軍を全員斬り捨てる。 ヨン「参りましょう」 翌日の皇宮。 重臣達が一同に会し王がいなくなったと騒いでいる。 そこへトックングンが入ってくる。 今回の一件はトックングンに踊らされて王に無断で兵を動かしたイルシンの言動が大きい。 だが掌を返したトックングンがイルシンを責め『王をトックングンに挿げ替える』との発言を全重臣達に言い放ってしまう。 『我が甥を暴いた罪は償って貰う』とイルシンを刺し殺すトックングン。 そしてプオングンの怒りはイルシンの屍を見せれば抑えられると。 不敵なまなざしで王座を見つめる。 目を覚ましたウンス。 とりあえず手を動かしてみる。 湯薬のおかげで麻痺は解けている。 どこからか聞こえてくる近衛隊達の懐かしい声。 部屋を出て声がする方へ歩いていきこっそりのぞいてみるとヨンが隊員達に指示を飛ばしている。 ついその光景が懐かしくなり微笑むウンス。 ヨンがトクマンの肩を心配している。 ヨン「トクマン、動けるか?」 トクマン「少し痛みます」 ヨン「まともに食らうな」 頭を叩かれるトクマン。 それを見てウンスは道具を取りに戻る。 ヨン「スリバンは重臣達を見張れ。動向を知りたい」 ドアが開き隊員達は一斉にそちらを向く。 ウンス「ごめんなさい。続けて」 急いで飛んでくるヨン。 ヨン「寝てて下さい」 ウンス「腰が痛いの。私は寝太郎じゃないから」 勝手に入るウンス。 ウンス「傷の手当をします。まずトクマンさんから」 ヨン「医仙」 ウンス「話を続けて。邪魔はしないから(トクマンに)傷見せて」 苦虫をかみつぶしているヨン。 トクマンの背中を見て。 ウンス「何の傷?」 トクマン「矢です」 ウンス「無理に引き抜いた?周囲まで傷つけて神経をだめにしたら大変よ。診察して縫合するわね」 トクマン「はい」 それを見た負傷した隊員達。 一斉に服を脱ぎ我先にとウンスの周りに集まる。 開いた口がふさがらないヨン。 今にも全員殺しかねない顔つきだ。 叔父に声をかけられる。 叔父「キチョルの私兵が皇宮を取り囲んでる」 ヨン「トックングンは宮中に?」 叔父「早朝から」 ヨン「奴の仕業だろう」 叔父「キチョルの屋敷からトックングンが禁軍を呼び戻した」 ヨン「奴ら取引を始めたか」 皇宮にいるトックングンに会いに来たチョル。 チョル「お忙しかったようで」 トックングン「忙しいなど」 チョル「禁軍を指揮し我が屋敷へ奇襲をしかけたのはチョ・イルシンだとか」 トックングン「そう自白した」 チョルは弟を殺されたことと華佗の形見をごっそり取られたことを思い出す。 チョル「弟が殺されました!」 トックングン「知らなかった」 チョル「私の私物も奪われました」 トックングン「禁軍が何か押収したらしいな。調べて知らせよう。まずは掛けよ」 チョル「私を敵に回して怖くないのですか?」 トックングン「敵とは心外だ。我らで決めたことだろう?私は王位、そなたは医仙を得る」 チョル「では医仙をお渡しください」 トックングン「3日以内にやろう。約束する」 チョル「3日」 トックングン「その代わり王が皇宮に二度と戻れないようにせよ。それが条件だ」 ウンスは部屋で夢で見た内容を思い出している。 横たわるヨンを抱き起している自分。 ヨンの死を告げているようで怖くなる。 ヨンがドアを開ける。 ヨン「王妃様の避難先に参らねばなりません。しばらく歩いても平気ですか?」 ウンス「しばらくって?」 ヨン「人目を避けて移動します。おそらく1日か1晩」 ウンス「ここに座って」 躊躇しているヨン。 ウンス「背もたれにしないから近くに来て」 隣に座る。 ウンス「例の・・・聞いてくれた?」 ヨン「例の?」 ウンス「手帳に続きがあるのか」 すっかり忘れたと気づいたヨンは急いで向かおうとするがウンスが止める。 ウンス「どこへ?」 ヨン「聞いてきます」 ウンス「今から言うことを怒らないで聞いてね。考えたんだけどプオングンに会わなきゃだめみたい」 ヨン「え?」 ウンス「それか王の叔父さんに会うわ」 ヨン「本気ですか?あなたに毒を盛った張本人ですよ?」 ウンス「手帳に続きがあるのか確かめたいの。続きが実在するならそれは・・・私に宛てた手紙だわ」 ヨン「手紙とは?」 ウンス「自分でも変なことを言ってると思う。でも気になって・・・たわいもないただの夢だと確かめない限り不安なの」 ヨン「本当にそれだけですか?寝れば悪夢にうなされ泣きながら目を覚ましていますね。どんな夢なのか話して下さい」 夢の中とはいえヨンが死んでいたなどとは口が裂けても言えないし言いたくない。 ウンス「言えない」 ヨン「昼食後に発ちます」 立ち上がるがヨンの顔を見ようとしないウンスにため息をつき座り直す。 ヨン「私が反対したら黙って会いに行く気ですか?勝手は許しません」 ウンス「プオングンは私を傷つけないわ」 ヨン「なりません」 ウンス「じゃあトックングンから自分で解毒薬を貰うわ」 ヨン「いいえ」 ウンス「だめ?」 ヨン「なりません」 ウンス「天界には映画っていうのがあってその中にあらゆる策略が出てくるの。使える策があるの。だめ?ねえ」 ヨン「私の思惑はまず残る兵力を集結させます。途中王と合流。残りの解毒薬も手に入れます。トックングンが持つ切り札の情報を集めつぶさに奪います。まず奪うべきはプオングンという後ろ盾です」 話しているヨンの横顔に指で四角を作りカメラのように構えるウンス。 ヨン「何です?」 ウンス「カシャッ」 王の隠れ家。 トルベ「至る所に印をつけました。今日中には連絡が来るはずです」 王「王妃や隊長の情報は?」 トルベ「まだ不明です」 副隊長「動くなら夜です。路地裏にまでプオングンの私兵がおります」 王「おかしなものだ。実におかしい。余は王なのに今通りにいる民に『余が王だ』とそう言った所で誰が認めようか。誰も余の顔すら知らぬ。プオングンの私兵が走り寄り余を捕らえ殺したとしても『この者は王を詐称した。死んで当然だ』そう言おうとも誰が擁護してくれよう?余が真の王であると。ドチ」 ドチ「はい、王様」 王「皇宮を出た途端余を証明するものが何もない。きっと余ではなく皇宮が王だったのだ」 何も言えない一同。 皇宮を我が物顔で占拠しているトックングン。 運ばれてきたのはプオングンから押収した華佗の形見の入った箱。 それを開けてみる。 いくつか取り出してみるとカバーからはずれた紙が数枚出てくる。 紙が古くもろくなったゆえはずれてしまったものだった。 そこで重臣達に呼ばれるトックングンはその紙をそこに置いたまま出て行く。 その紙に書かれたハングル文字。 『ウンスへ。この手紙があなたに届きますように』 重臣達の前に出たトックングン。 トックングン「待たせたな」 ジェヒョン「王様を待っております」 セク「騒乱は静まりプオングンの私兵も撤収しました。なのになぜ王様はお戻りにならぬのです?」 トックングン「お若いゆえ気が動転しておるのだろう。10年連れ添った忠臣が乱を起こし目の前で刃を向けたのだ。皇宮が怖くもなろう」 プオングン「王様からのご命令です。某所におわす王様より預かりました。禁軍の乱に遺憾の意を表されこちらをトックングン様にお渡しするようにと」 トックングン「王は当分の間叔父の私に国政を任せると。重臣達に回せ」 プオングンが作り上げた偽物の勅書。 王がいない間の代行をトックングンが担うことになってしまう。 堂々と王座に座るトックングン。 王の隠れ家の周りをウロつくチョヌムジャとファスイン。 イムミルポプで居所を掴もうとするチョヌムジャ。 中で警戒する近衛隊達。 だがいいタイミングで邪魔をするテマン。 イムミルポプが使えなくなる。 いきなりドアが開き身構える近衛隊たち。 入ってきたのはヨンだった。 頭を下げる隊員達と驚く王。 ヨン「お迎えに上がりました。ヒョンゴ村に家を用意し王妃様もそちらにいらっしゃいます」 王「王妃は無事か?」 ヨン「むしろ状況を楽しんでおられる様子。道中は近衛隊とスリバンが遠近両方から護衛します」 王「そなたは?」 ヨン「開京で一仕事してから参ります。皇宮の外でしばしご辛抱下さい」 王「実の所すぐ皇宮に戻りたいとは思っておらぬ。外でないと罪人のそなたともゆっくり話せぬ」 ヨン「玉璽のことで大変なご心労を」 王「それどころかこうして皇宮まで追われた」 ヨン「お許し下さい」 王「医仙は無事なのか?」 ヨン「回復しましょう」 ふっと笑うヨン。 第14話へ |