シンイ〜信義〜 |
---|
第14話〜王の証〜 いきなりドアが開き身構える近衛隊たち。 入ってきたのはヨンだった。 頭を下げる隊員達と驚く王。 ヨン「お迎えに上がりました。ヒョンゴ村に家を用意し王妃様もそちらにいらっしゃいます」 王「王妃は無事か?」 ヨン「むしろ状況を楽しんでおられる様子。道中は近衛隊とスリバンが遠近両方から護衛します」 王「そなたは?」 ヨン「開京で一仕事してから参ります。皇宮の外でしばしご辛抱下さい」 王「実の所すぐ皇宮に戻りたいとは思っておらぬ。外でないと罪人のそなたともゆっくり話せぬ」 ヨン「玉璽のことで大変なご心労を」 王「それどころかこうして皇宮まで追われた」 ヨン「お許し下さい」 王「医仙は無事なのか?」 ヨン「回復しましょう」 ふっと笑うヨン。 チョニシではチャン侍医とトギがウンスの毒を調べている。 チャン侍医「医仙の毒の種類が解りました。無五毒です。発作は量によります」 ヨン「解毒薬は?」 チャン侍医「珍しい薬剤も要りすぐには無理かと。解毒効果も検証せねばなりません」 においを嗅ごうとしたヨンに。 チャン侍医「ご注意を。無色無臭ゆえ危険です」 ヨン「におうだけでも?」 チャン侍医「服毒により胃液と混ざることで症状が出ます」 チャン侍医から毒を受け取ったヨンはウンスの所に急いで戻る。 王妃様の避難場所へ向かうヨンとウンス。 ウンス「とにかく私を信じてちょうだい」 ヨン「あと少し歩けば王と合流出来ます。一緒に行動を」 ウンス「あなたは?」 ヨン「仕事が山ほどあります」 ウンス「悪い癖ね。全部自分で抱える所」 ヨン「そんな身体で何を・・・」 ウンス「私の解毒薬よ。なぜあなたが取りにいくわけ?」 ヨン「私のせいで・・・」 ウンス「違うってば!私が狙われてるからよ。あなたのせいじゃない」 ヨン「それで?何をする気です?」 ウンス「私も動いてみる。だから頭ごなしに否定しないで私の話も聞いて」 立ち止まって話しているウンスとヨンを待っているトクマンとテマンに『先に行け』と指示するヨン。 ウンス「つまり私は・・・」 そこまで言いかけて気分が悪くなったウンスはその場に座り込む。 ヨン「医仙、どうしました?痛みますか?」 心配そうに覗き込むヨン。 ウンス「大丈夫。解毒薬を飲んだ日は調子がいいのに次の日には悪くなる」 ヨン「明日には・・・」 ウンス「さらに悪くなってる」 かすかに笑って言うウンス。 ヨン「よく笑顔で言いますね。死ぬかもしれないのに」 ウンス「やめて」 ヨン「何をです?」 ウンス「怒ってばかりだと悲しくなる。私が帰ったら怒る相手がいなくてその分寂しさが増すわ」 何もいえなくなるヨンは立ち上がって周囲を見回す。 ヨン「立って。少し休憩しましょう」 そこに置いてあったござをウンスのために敷いてあげるヨン。 並んで座る。 ウンス「夜は冷えるわね」 それを聞いたヨンはちょっと考えてほんの少し近づきウンスの肩を抱いてあげる。 ヨンの肩にもたれるウンス。 ウンス「本当に不器用な人」 ヨン「何て?」 ウンス「そんな性格で天界に行ったら独居老人になるわ」 ヨン「行きません」 ウンス「じゃあ天界じゃなくプオングンの屋敷へは?」 ヨン「しつこいですよ」 ふっと笑うウンス。 ウンス「ねえ気づいてる?」 ヨン「いいえ」 ウンス「私が聞いたら答えてくれるようになった。最初は無視してたのに」 ヨン「口数も多くて意味不明な天界語ゆえ」 ウンス「数える程なのに・・・」 ヨン「何です?」 ウンス「寄りかかるのが癖になったのかな。落ち着くの。このまま眠ったらおんぶしてくれる?」 ヨン「そうしたら・・・剣が使えません。断ります」 何も見ていない、遠くを見る目。 翌日。 チョルの屋敷を訪れたウンスとヨン。 ウンスが来たと聞き飛んでくるチョル。 ウンス「お久しぶりです」 チョル「お探ししました」 ウンス「ええ」 チョル「国中必死な思いで。それがこうして・・・自らおいでに」 ウンス「ディールよ」 チョル「ディール?」 ウンス「天門がいつ開くか解ったの」 チョル「真ですか?」 ウンス「天界へ行きますか?」 チョル「して条件は?」 ウンス「教えて」 チョル「何なりと」 もう行きたくて仕方がないチョル。 ウンス「手帳で見せてくれたのは前半の部分?あれに・・・続きはある?」 チョル「ございます」 ウンス「見せて」 嬉しそうだったのに急に顔が曇るチョル。 チョル「奪われ・・・」 ウンス「ここにないの?」 チョル「今皇宮にいるトックングンのもとに。必要ですか?それがないと天界へ行けぬと?」 ウンス「前半に日時が記してあった。続きには道順が書いてあるかもしれないの」 チョル「取り戻して参ります!」 ウンス「3つ目の形見って?」 チョル「それは・・・口では何とも説明しずらく」 ウンス「それも・・・奪われた?」 チョル「取り戻します!」 立ち上がるがふと思い出すチョル。 チョル「ところで、なにゆえ教えてくださるのか?」 ヨンの顔を見るウンス。 ヨン「医仙の命が危なく」 チョル「何だと?」 ヨン「私は医仙を救うため仕方なく参った次第」 驚くチョル。 目の前で『手が動かない』と訴えるウンス。 それを労わるヨン。 二人を見るチョルも開いた口がふさがらない。 王妃のいる隠れ家へ到着する王の一行。 尚宮「王様、よくご無事で」 王「苦労をかける。王妃は?」 尚宮「こちらに」 王「いや、余が参ろう」 一人で家に入ろうと入口に立つとそこに微笑む王妃が。 王が来たことにまだ気づいておらず、侍女達と花で髪飾りを作って楽しんでいる。 侍女達に頭に乗せられた花飾りに笑う王妃。 王が今まで一度も見たことがない満面の笑顔だった。 尚宮「いつになく明るくお過ごしです。衣食全てお粗末なのにも関わらず・・・」 王「こういうものか」 尚宮「え?」 王「夫の目にはこのように映るのだな」 王に気付く王妃。 王妃「王様」 王「楽しそうだな」 王妃「待ちわびておりました」 王「待つのも悪くなかろう」 頭に乗せた花飾りを思い出す王妃は急いで取る。 王「副隊長は聞け」 副隊長「はい、王様」 王「ここに近衛隊は?」 副隊長「ただ今調べましたところ50名程」 王「それなら官軍500名に匹敵するとか。真か?」 副隊長「少なく見積もってもその程度には」 王「ドチ」 ドチ「はい、王様」 王「余はここで国政を執り行う」 ドチ「え?」 王「しばらくとどまると朝廷に知らせろ。上疏あればここへ参れと伝えよ」 ドチ「まだ王様を狙う者達がおります」 王「解らぬか?余が身を隠せば敵も襲ってこよう。だが堂々としておればむやみに手はだせまい。これでも余は高麗の王だ」 ドチ「承知しました」 王「王妃よ、案内してくれ」 王妃「私達の部屋はあちらです。参りましょう」 尚宮「隊長には会えたか?」 副隊長「はい」 尚宮「医仙は?」 副隊長「部下の話だと開京におられるとか。ご案じますな。お二人ご一緒ですし。まあ・・・きっと・・・」 トックングンのいる皇宮に乗り込んできたヨン、ウンス、そしてチョル。 怒り心頭のチョル。 ウンス「あなたが毒を盛ったのね。その笑みは何?人を殺しかけといて」 ヨン「プオングン様お任せします」 チョル「お聞きしますが、私の医仙に毒を?」 トックングン「言ったろう?見よ。ぴったり3日で自ら現れた。なのに恨み節とは」 チョル「トックングン様、穏やかに済ませましょう。解毒薬と私から奪った物をお渡し下さい」 トックングン「私の持ち札を出し切ればあの者(ヨン)が私を殺めよう」 チョル「まさか国王の代理の方を恐れ多くも」 やっていられなくなったヨンは持っていた剣をウンスに預けそこにいた禁軍兵を全員叩き潰す。 チョル「続けろ」 ヨン「医仙に使ったのは無五毒だな」 トックングン「ここは皇宮だ。いかに無頼漢でも・・・」 頭に来たヨンは最後まで聞かずにトックングンの首を掴んで机に押しつける。 ヨン「解毒薬は持ってないが同じ毒ならある」 チャン侍医から貰った毒だ。 それを懐から取り出しトックングンに無理矢理飲ませるヨン。 ヨン「観念して解毒薬を渡せ」 チョル「ちと飲ませすぎでは?」 ヨン「毒の扱いには不慣れゆえ解りませぬ」 トックングン「キチョル、こやつと手を組むのか?」 チョル「仕方ありませぬ。解毒薬を渡して終わらせましょう」 トックングン「行こう、医仙」 トックングンの胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。 ヨン「何だと?」 トックングン「解毒薬のある場所にお連れし治療するのだ。2人きりでな」 ウンス「行くわ」 チョル「あの者が死ねば医仙も死ぬ」 行こうとするヨンをチョルが止める。 チョル「お前が行けば薬は渡すまい」 二人だけになったトックングンとウンス。 ウンス「解毒薬は?」 トックングン「天の医員があの程度も治せぬとは」 ウンス「出してちょうだい」 トックングン「医仙なら死なぬと思った。殺す気などなかった」 ウンス「解毒薬はないの?」 トックングン「あの男の焦った顔を見て医仙は偽物だと解った」 ウンス「このまま死ぬ気?」 トックングン「お前も私と同様か?嘘で身を固め生きながらえるだけの命だ」 ウンス「解毒薬を飲まなきゃ死ぬわ。無駄口叩いてる場合?この時代の人は人の命をなんだと思ってるの?」 トックングン「ほら、解毒薬だ」 ウンス「飲んだのと違うわ」 トックングン「あれは偽物だ」 ウンス「3日ごとに・・・」 トックングン「毒の性質だ。3日ごとに発作を起こす。これが本物だ。プオングンは天界を信じてる。私と組めばプオングンと高麗は意のまま。医仙と称される者よ、手を組まぬか?どうだ?」 ウンス「手帳の続きを持ってる?」 トックングン「ああ」 ウンス「まず見せて」 トックングン「よかろう」 解毒薬を受け取って立ち上がるウンス。 ウンス「それと、チェヨンに何かしたら許さないわ」 心配で心配でイライラしながら待ってたヨン。 ヨン「解毒薬は?」 うなづくウンス。 ヨン「それじゃ」 ウンス「もう平気。行きましょ」 ヨンの腕を掴んで引っ張っていくウンス。 それを後ろから眺めているチョルとトックングン。 トックングン「医仙を手に入れたいか?それには・・・」 チョル「あの者(ヨン)が邪魔ですな」 一人村を歩いている重臣の一人セク。 たまたま通りすがった男から『この先の家で王様が何でも占ってくれる』とのうわさを聞きやってくると、そこには本当に王様がいた。 13歳の器量のいい娘を占って欲しいと訴えている親子に語りかける王。 大勢の民に囲まれてなごやかな笑い声があふれるその光景を、微笑みを浮かべてみるセク。 この話を持ち帰ったセクで重臣達の考えははたして変わるのか。 王と王妃の隠れ家へ向かう途中のヨンとテマン。 テマン「医仙様も王様のところにいればいいのに。隊長と喧嘩でも?」 ヨン「黙れ」 テマン「はい」 ヨンは立ち止まって思い出している。 ********************************************************************** ヨン「ここに留まる?チョニシへ戻ると?」 ウンス「ええ」 ヨン「俺は天門へ送るために・・・」 ウンス「これはマタハリ作戦なの」 ヨン「もとのところに戻るのが作戦ですか?」 ウンス「違うわ。色仕掛けで敵の情報を探るのよ」 ********************************************************************** ヨン「考えてないのだ」 テマン「え?」 ヨン「あの方は・・・俺の気持ちなど」 ヨンは今までウンスに語りかける時はいつも自分を『私』と称していた。 ウンスの質問にいちいち答えるようになった。 ヨンは自分を『俺』と言った。 この気持ちの移り変わりをウンスが受け入れる日は・・・。 ジェヒョンとセクに呼ばれてやってきた村の飲み屋にヨン。 ヨン「手配中の罪人といては不都合でしょう?」 ジェヒョン「濡れ衣だと解っておる。あの騒乱で両陛下がご無事だったのは近衛隊のおかげらしい。今王がなさっていることも知っている」 ヨン「そうですか」 ジェヒョン「王は皇宮を出て外に新たに造られたのだ。我々もそこへ」 ヨン「何用で?」 ジェヒョン「高麗の国璽を作った。元ではなく我らの国璽を持って参りたい」 ヨン「朗報です。では」 帰ろうとするヨン。 セク「まだお話が」 ヨン「もう私は近衛隊ではなく官服を見れば逃げねばならぬ身。政の話をする相手ではありませぬ。これにて」 セク「新たな玉璽を王にお届けすることが外に漏れれば危険極まりなく」 ジェヒョン「玉璽を届けるまでで構わぬ。守ってくれ。そなたが己で選んだ王だ。その方の玉璽だぞ。明朝早くに発つ。付き添ってくれ」 ため息をつくヨン。 その頃チョニシ。 チャン侍医「ここへ届けると?毒を使うような人間は信用できませぬ」 ウンス「解ってる。卑怯で薄汚い人間よ」 使いの者達が箱を持ってやってくる。 使い「半分だそうです」 ウンス「全部じゃないの?」 開けてみるウンス。 1枚目には『ウンスへ』とハングルで書かれている。 『この手紙があなたに届きますように。切実な願いと思い出が二人を巡り合せるはず』 ウンス「この字・・・私の字にそっくり。どうして?ありえないわ」 チャン侍医「見覚えありませんか?」 ウンス「手帳も・・・手紙も初めて見るわ。字もにじんで紙も色褪せて全部は読めないわ」 『どうかこの手紙をあの人と一緒にいるうちに読んで。どうか手遅れになる前に』 スリバンに指示を出しているヨン。 ジェヒョンとセクを王の所にお連れすると決めたのだ。 ヨン「4人を無事送り届ける。夜明けに発つぞ。馬車で移動する。準備せよ」 スリバン「はい」 ヨン「テマン、副隊長のところに行き近衛隊12名でトジン橋で出迎えろ」 テマン「ではひとっ走り」 ヨン「護衛は少人数で。目立たぬように。学び舎からお連れするときは・・・俺一人で」 スリバン「解った」 チョニシ。 ウンス「いったいどういうこと?誰が書いたの?自分なら覚えているはず。しかも紙が古すぎてポロポロ落ちるし。誰が何のために『ウンス』って呼ぶの?本当に私あてなの?なぜハングルの手紙が高麗にあるの?」 チャン侍医と酒を飲んでいる。 ウンス「酔う前に話すべきだと思うから言うわね。私には『あの人』と呼べる人はいなかった」 チャン侍医「ゆっくり飲んで」 ウンス「男性と出会って好きになろうと努力してもいつも心を開けなかった。心が惹かれてもつまずいて立ち止まってそのうち冷めて。めんどくさい。そうやって自分の殻に閉じこもるの。いつもこう思ってた。『もっといい人がいる』チェヨンと出会った時もそう。接するたびに線を引いて入ってこないで、入ってこないでって。それはいずれ離れる人だからじゃなくてただ・・・私の心が線をひいてた。一緒にいるとあまりに自然で傍にいても無性に恋しくて運命の人かもって。でもそれはあり得ないと思ったり。なのに振り向けばそこにいて、いつも私を見守ってる。姿が見えない時も『いるの?』と聞けば『傍にいる』と答える」 涙がこぼれる。 ウンス「飲みすぎね。寝なきゃ」 大事な手紙をそのまま置き去りにして部屋に戻るウンス。 それを丁寧に箱に戻すチャン侍医。 ウンスは手紙の内容を思い出している。 『あの日、あなたは遠くへ旅立った。その夜訪ねてくる人がいてあなたに頼みごとをするはず。その人の頼みを聞いて。どうかあなたは引き返してあげて。戻ればあの人は助かる。それから確か、その日の朝あの子が薬陶器を割るわ。それから・・・何があったかしら。そうだわ。窓の外に菊が見事に咲いてたわ。その日、あの人を行かせないで。待ち受けているのは罠。ウンス、どうかあの人を引き留めて』 遠くへ旅立ったのは一人天門を目指した時。 その夜尚宮が訪ねてきてヨンの刺し違えを未然に防いだ。 急いでチョニシへ行くとトギが薬陶器を割って片付けているのを見る。 窓辺には黄色い菊がきれいに咲いていた。 全て手紙に書いてある通りだった。 問題はその後。 『待ち受けているのは罠』 大変だと気づいたウンスはそこにあった上着を掴んで急いでトックングンの元へ走る。 見張り兵に告げる。 ウンス「よく聞いて。トックングンに伝えてちょうだい。至急医仙が会いたがっていると」 トックングンの部屋に走ってやってくる。 トックングン「何だ?慌てて」 ウンス「今日、チェヨンを殺すの?そう?本気で殺す気ね」 トックングン「なぜそれを?」 ウンス「本当だったのね。手を出さないでって約束したはずよ」 トックングン「だがな。王の代理である私を毒殺せんとしたのだ。私は指一本触れず逃がしてやったろ?願い通りにな」 ウンス「今日はどんな罠?場所は?」 トックングン「なぜ罠だと?」 ウンス「どこで殺すつもりなの?」 トックングン「どうやって知ったのだ?罠だと?早く答えよ、でないと罠が動き出すぞ」 ウンス「手帳の続きに書いてあったわ。助けてと」 トックングン「手帳とは何だ?数枚の紙に罠の詳細が記されていたと?信じられるか」 ウンス「何だってするわ。言うとおりにするからお願い」 重臣達をかくまっている家の近くを歩くヨンは危険を察知する。 家の周りには複数の賊が潜んでいる。 ヨン「この家の場所を知ってる者が他に?」 セク「私達だけですが?」 ヨン「玉璽は貴重な物ですか?」 ジェヒョン「何を言う。これは王様のご意志に従い・・・」 ヨン「ご意志に従えば何度でも作り直せる。外の賊は玉璽が狙いか?それとも他に理由があるのか?」 ジェヒョン「外の賊?」 セク「先生、あの文学士は?」 ヨン「文学士とは?」 セク「この家の主人で会合の場を提供してくれました。この大事な時に・・・」 ヨン「動かないで」 ヨンが確認に行くと、窓という窓ドアも含めて全て目張りがされていた。 家の周り中一瞬で吹き飛ぶ程の火薬が仕込まれている。 皇宮。 トックングン「チェヨンは剣で倒せぬがプオングンが言うには奴の弱点は名分らしい。己を売った裏切り者でさえ名分があれば許す。ゆえに名分という罠を仕掛けかかるのを待っておる」 ウンス「罠にはめて殺すの?もう近衛隊長じゃないわ。逃走中の罪人よ。自分が攻撃されない限り人に危害は加えない」 トックングン「邪魔なのだ。そなたが欲しい」 ウンス「何ですって?」 トックングン「そなたがいないとプオングンも操れぬ。100斤の火薬をまく手筈になっている。武功の手練れとはいえまず助かるまい」 ウンス「何でもするから」 トックングン「そなたと私、祝言を挙げぬか?」 ウンス「何て?」 トックングン「王族の私と婚姻すればそなたを王妃にしてやれる。これは作戦中止の指示書だ。急ぐがよい」 ウンス「それだけ?結婚するだけ?お安い御用よ」 ウンスの答えで作戦中止の命が飛ぶ。 家の周りに巻かれた火薬に火のついた矢が放たれる寸前に中止の伝令が届く。 ヨンがドアをぶち破って外に出てみると、賊は一人もいなくなっていた。 チョニシに戻ったウンス。 チャン侍医「隊長は難を逃れスリバンと合流したそうです。何かご質問は?」 ウンス「十分よ。無事ならいいの」 そこへ侍女が大きな箱を抱えてやってくる。 チャン侍医「何の用だ?」 侍女「トックングン様より医仙様へ。今宵の宴会においでくださいと」 ウンス「何なの?」 侍女「後程お迎えにあがります」 チャン侍医「(ウンスに)どういうことです?」 ウンス「私・・・トックングンと結婚するの」 チャン侍医「まさか?」 王の隠れ家まで重臣達をお連れしたヨン。 ヨン「不用心だな」 副隊長「王が昼夜問わず開けておけと」 ヨン「襲撃にあうぞ?」 副隊長「目を光らせ、鋭い勘で一撃する所存」 ヨン「私はこれで」 ジェヒョン「チェヨン」 ヨン「何でしょう?」 ジェヒョン「感謝する。よく引き受けてくれた」 ヨン「失礼します」 中に入る重臣達。 ついでに仕事を手伝えと王に言われ拍子抜けする。 隠れて会っている尚宮とヨン。 ヨン「裏に何かあるようで気になる」 尚宮「閉じ込めて爆破しようとしたのか?」 ヨン「だが直前で突然姿を消した。火薬を残して。何だろう?」 尚宮「プオングンか?」 ヨン「プオングンが老人相手に手の込んだことはすまい」 尚宮「ならトックングンか」 ヨン「玉璽を壊すため?」 尚宮「またはお前の命を狙ったか」 ヨン「俺か」 尚宮「じい様達は餌でお前が本命」 ヨン「理由は?」 尚宮「そこだよ」 ヨン「ここの警備は何だ?まったく気にいらねえ」 尚宮「王が町へ出かけるためさ」 ヨン「出かける?」 尚宮「どこへでも王妃とお出ましに。近衛隊もムガクシも手を焼いておる。昨日は栗拾いで裏山まで歩き回った。疲れたよ」 ヨン「気に入らねえ」 尚宮「それより医仙は?一緒にいたんだろ?」 それを聞いてヨンは右に歩き出し、思い直して左に引き返すがまた止まる。 尚宮「何だよ?」 ヨン「何ってその・・・次に何をすべきか解らない」 王に新しく作った玉璽を渡すセク。 セク「重臣達で作った高麗の玉璽です」 王「これを届ける名目で余の様子を見にきたのか?皇宮を捨てた王は心を病んでいるのか己の叔父を王の代理に立てるほど深刻かと。違うか?」 王妃「元皇帝に陳情書を送る期日も迫り王を見極めんと参ったのか?」 王「中立を装っているのを悟られんと追放した者に護衛までさせるとは」 王妃「護衛の者も情けなや」 王「まったくだドチ、新たな玉璽が出来た。この国璽で最初の王命を申し渡そう。チェヨンを復職させる。事由を述べよう。チェヨンはこたびの乱で王妃の命を救い王や護衛の者を守り功を立てた。これまでの過ちに恩赦を与えたい。余の様子が解ったか?」 何もやることがなく、外で座ってぼーっとしているヨンのもとに王が寄ってくる。 ヨン「お一人ですか?護衛は?」 王「一人にせよと言ったのだ。掛けよ」 ヨン「これではお守り出来ませぬ。無防備すぎます。護衛から離れるなど」 王「ではそろそろ皇宮に戻るか」 ヨン「トックングンが居座り禁軍2千はあの者の配下。何より毒を使います。毒から王様を守るのは至難の業です」 笑う王。 ヨン「おかしいですか?」 王「近衛隊の頃も、罪人となった時も、余が背を向けても、そなたは変わらぬのう」 ヨン「変われぬのです」 王「今も漁師になりたいか?」 ヨン「その夢は・・・忘れておりました」 王「先程の玉璽で隊長に恩赦を与える。従4品から正4品に昇給させ職級ホグン(将軍)とする」 ヨン「重臣が反発します」 王「余はいつまた罷免し島流しにするやもな。なぜなら余が王だからだ」 ヨン「はい」 王「それでもそばにいてくれるか?許せ。また官職を与えた」 トギが歩いていくのを見るヨン。 チャン侍医からの書簡を持ってきたトギ。 それを尚宮と王妃が受け取る。 王妃「何とある?」 読んだ尚宮は驚き言葉をなくす。 王妃「私が読もう」 『医仙がトックングンとの婚姻を承諾』とある。 王妃「これはいったい・・・なにゆえ。知らせるべきでは?」 尚宮「え?」 驚きすぎて一瞬思考が止まる尚宮。 王妃「隊長に知らせてやらねば」 トギがなぜここにいるのかと不思議に思ったヨンは入口でトギを待っている。 必死で手で話すもヨンには意味が解らずそのまま去っていくトギ。 後を追うように尚宮も出てくるが、そこにヨンがいたので驚いて飛び退く。 ヨン「何事だ?」 尚宮「何事って、別に・・・」 ヨン「何かあったな?俺に隠すのか?」 尚宮「医仙が・・・婚礼を挙げると。トックングンがお相手だ。詳しくは知らないがチャン侍医の書簡によれば医仙も承諾したとか」 ヨン「馬鹿らしい」 尚宮「チャン侍医も医仙の了見を計りかねると」 ヨン「あの方が・・・結婚だと?あの男と?」 尚宮「そのようだ」 ヨン「叔母さん、王より官職を賜ったばかり。ここを離れる手続きを頼む」 尚宮「私が行こうか?お前は命を狙われておる。出向くのは危険だ」 ヨン「俺がいく」 歩きだすが立ち止まって何かを考える。 自分が死なずに済んだ代償がこれだと気づいたヨン。 ウンスは部屋で侍女達から着替えをさせられている。 とてもきらびやかな衣装に。 最後に髪に金の髪飾りをつける。 チャン侍医「大丈夫ですか?」 ウンス「行ってくるわ」 侍女達に連れられて園内を歩く。 柱にもたれて笑うヨンの幻を見る。 近衛隊達とじゃれあうヨンの幻を見る。 トックングン「来たか。こうしよう。これより私は天より参った王妃に丁重に接する。そなたも私への態度を改めて欲しい。どうだ?私の姿は。ヨンポをまとってはおらぬがよく見よ。さあ、どう見える?」 ウンス「自己愛の強い人格障害者ね。出世欲が強く欲望のためなら手段を選ばない冷血漢。この類の人はうぬぼれも強い」 トックングン「面白い。こうしないか?これまでは水に流し今から始めるのだ」 ウンス「毒を盛ったことは忘れてあげる。治ったから。でもね、あの人を殺そうとした恨みは何かにつけ思い出すわ。よくもあの人をって」 トックングン「そんな感情は隠せ。致命的な弱点にもなろう。参ろう」 チョニシに到着したヨン。 ヨン「あの方は?奥か?」 チャン侍医「参られました」 ヨン「どこへ?」 チャン侍医「トックングンのもとへ。トックングンの寝所には禁軍がおります。まず座って話しましょう。お掛けを」 ヨン「それが・・・できぬのだ。座っていられぬ」 トックングンと酒を前に向かい合って座っている。 ウンス「屈折した性格?」 トックングン「屈折?」 ウンス「解毒薬は3日に1度7回も飲まなきゃ効かないし、手帳の続きも半分だけよこすなんて」 トックングン「手帳の続きとはあれか」 ウンス「そうよ。残りはいつくれるの?」 トックングン「正直に答えろ。何が書いてある?」 ウンス「『トックングンは決して王にはなれない。見果てぬ夢は諦めて高麗を去れ』とね」 トツクングン「どうすれば正直に答える?」 ウンス「残りをちょうだい」 トックングン「どうだ?私達が夫婦となった夜渡すというのは?」 そこへ禁軍を殴りながら入ってくるヨン。 全身から怒りがにじみ出ている。 ウンス「無駄な争いだわ。止めて」 ヨン「お離し下さい」 禁軍を止めるトックングン。 ヨン「真ですか?ご結婚なさるとか」 ウンス「本当よ」 ヨン「なにゆえ?」 ウンス「それは・・・」 トックングン「勇ましいのはいいが私は王の代理である。人目を考えろ」 ヨン「静かにしろ。この方と話がある」 トックングンに刀を突きつける。 トックングン「剣を抜けば逆賊になるぞ」 ウンス「今日は帰って。事情があるの」 ヨン「その事情とは・・・私の命のことですか?4日前の朝、九死に一生を得ました。この男の条件ですか?そうでなければありえませぬ。(トックングンに)そうですか?」 トックングン「だとしたら?」 ヨン「許せませぬ!」 殴りかかろうとするヨンを必死に止めるウンス。 ウンス「やめて!もういいから・・・」 禁軍を引き連れて出ていくトックングン。 二人だけ残される。 ヨン「さあ、一緒に行こう」 ウンスの腕を掴んで無理矢理連れていこうとする。 ウンス「婚礼は1か月も先よ。その前に天門が開くわ。私も考えてる!」 ヨン「どんな考えです?」 ウンス「やるべきことがあるの」 ヨン「一緒にやります!最初から帰りたがってましたね。出会ってから今まで熟睡できる日もなく何度も泣かせました。全部私のせいです。でも!それでも・・・あの男には渡しません。あなたが帰るまで残された日々はわずか。奴の傍になど。だから・・・俺ではだめか?」 もう泣きそうなウンス。 ヨン「返事を・・・くれないのか?」 ウンス「私は天から来たのよね?おかしなことを言っても信じてくれる?」 ヨン「話して下さい」 ウンス「私がずっと気にしてた手帳の続きには・・・ある人の命に関わる出来事が記されてた」 ヨン「それで?」 ウンス「数日前あなたを助けられたのはそのおかげ。ある人とは・・・あなたよ」 ヨン「なぜ私のことが?」 ウンス「言ったでしょ?あなたは天界の有名人だから。でも見たのは半分だけなの。卑怯なトックングンは残りをくれなくて。でもそこにも命に関わることが書いてあるかもしれない。あれを見なきゃ」 ヨン「それゆえ、ここにいると?」 うんと頷くウンス。 ヨン「俺の死期を知るために?」 ウンス「あなたを守れるわ」 ヨン「奴はいつ渡すと言ったのですか?」 ウンス「婚礼の日の夜に」 ヨン「それまでここに?」 ウンス「その前には・・・」 ヨン「どうやって?」 柱までウンスを追い詰めたヨンは柱に手をついてウンスを閉じ込める。 そしてウンスの耳元でささやく。 ヨン「あなたに毒を盛った男だ。怖くないのか?結婚だと?俺のために?」 ウンス「じゃあ助けられるのに知らんぷり出来る?あなたならどうする?私を救うで・・・」 最後まで聞かないでウンスを引き寄せて抱きしめる。 ヨン「馬鹿なお方だ。どうすればいい?」 プオングンから奪った華佗の形見が入っている箱を急いで取り出すトックングン。 その中にある手帳の残り半分をろうそくの火で全て燃やしてしまう。 翌日。 トックングンの使いが王のいる隠れ家へやってくる。 トックングンとウンスの婚礼話を王も知ることとなる。 王に取り仕切って欲しいと言い残して帰る使いの者達。 侍女達に連行されて自分の部屋までも移動させられるウンス。 準備は着々と進んでいく。 焦った王はヨンを呼ぶ。 ヨン「皇宮に?」 王「戻れないものか?」 ヨン「皇宮へお帰りに?」 王「トックングンを余の玉座から引きずりおろしたい」 ヨン「御意」 王「重臣は皆余が軟弱ゆえ逃げたと思っておろう」 ヨン「今一度重臣の吟味を」 王「禁軍2千はトックングンの配下だ」 ヨン「禁軍を取り込んでみます」 王「プオングンはトックングンとつるみ私兵も脅威だ」 ヨン「策を考えます」 王「まさか近衛隊50名で禁軍と私兵に挑むつもりか?」 ヨン「それ以外の策を探します」 王「これを」 封筒を差し出す王。 王「地位を用意した。事を起こす折必要だ。医仙の話は聞いた。隊長は医仙を連れて逃げはしまいな?頼んだぞ」 こっそりウンスに会いにきた尚宮。 尚宮「今度はいったい何事ですか?」 ウンス「私どうかしてて」 尚宮「座りましょう」 向かい合って座る。 尚宮「日取りは?」 ウンス「とんでもない。結婚する気はないの。婚約だけで適当に破談にするわ」 尚宮「王を除く唯一の王族トックングンとの婚約ですよ?安易には壊せませぬ」 ウンス「無理?」 尚宮「チェヨンには会いましたか?」 ウンス「大変でした。来るなり怒り出して『行こう!』の一点張りで」 尚宮「どこへです?」 ウンス「逃げようって」 尚宮「王族の婚約者と逃げれば凌遅刑は免れません。王妃も目を覚ますようにと仰せです」 ウンス「違うの、話を聞いて。あれはただの口約束よ。婚約披露パーティも開いてないし・・・」 そこにあった箱を黙って開ける尚宮。 謹封と書かれている。 尚宮「ホンソ(結納の書)まで受け取って」 ウンス「漢字が苦手でまだ読んでないの」 山のように積まれた婚約の品々を見る尚宮。 尚宮「結納品も」 ウンス「勝手に置いていったの。返品する?」 大きなため息をつく尚宮。 ウンス「それよりあの人、子供の頃から無鉄砲なの?」 尚宮「ヨンですか?」 ウンス「大勢の兵士に囲まれても顔色一つ変えないの。私と逃げてたら逆賊になってたの?」 尚宮「そうです」 立ち上がって怒り出すウンス。 ウンス「あの人!私の心配なんかお構いなし!いっつも口先だけ!」 その様子にまんざらでもない尚宮。 重臣達を集め玉座に座るトックングンに王命を言い渡すヨン達。 ドチ「王のご命令です」 重臣「それはまた寝耳に水だな。トックングン様が執政をなさっておろう」 ジェヒョン「謹んで賜ります」 ドチ「お伝え致します。高麗国王信宝により王命を下す。一国に国璽はただ一つ。混乱せぬように。次もお伝え致します。これより政務を再開する。摂政を務めあげたトックングンの労を称える。重臣の皆様、王がいらっしゃる外宮まで朝会にお出まし下さい。王は更に護軍チェヨンは新たな任務として兵馬副使(ピョンマプサ)の責務を担い余が皇宮に戻るまで宮中の安寧と秩序を保て」 ヨン「しかと賜りました。早速任務を遂行します。トックングン様、そこは王だけが座ることを許された玉座。今すぐお立ち下さい」 トックングンに呼ばれて皇宮に来るチョル。 王が戦法を変えたことで王を打つか、医仙をどうするかと相談している。 ウンスから天門が開くのは2か月後と聞かされているチョル。 だから婚礼を1か月後に設定した二人。 でも騙されているのかもしれないと言いだすチョル。 婚礼を早めようと決めてしまう二人。 第15話へ |