シンイ〜信義〜 |
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第8話〜手帳に書かれた名前〜 ヨンが振り返るとチョルと一緒に出てくるウンスが。 チョル「私に頼みとはなんだ?」 ヨン「私の剣をお返し願いたい」 チョル「あれか。師匠から譲り受けた剣だな」 ヨン「プオングン様には用のない代物でしょうし剣がこちらにあることすらお忘れでしょう?」 チョヌムジャに持ってくるよう合図するチョル。 そしてウンスのために離れるチョル。 ヨン「お元気ですか?」 ウンス「私に会いにきたのかと」 ヨン「剣の用事で」 ウンス「話せる?聞きたいことが・・・」 ヨン「プオングン様と参内なさった。つまりお心はこの屋敷に?王はそうご判断されたが?」 ウンス「私はここに監禁されてる。出たいと言えばあなたは戦って血を流すわ。私は大丈夫。利用価値があるから大切にしてくれてる」 ヨンの袖を掴むウンス。 そして小さくつぶやく。 ウンス「あなたが殺されるかと思った。そう脅されたから。会えて安心したわ」 掴んでいた袖を離し歩きだすが振り返るウンス。 ウンス「慶昌君様にはきれいな服を着せたわ。絹は許して貰えなかったから白い麻の装束を」 それを聞いたヨンはウンスの心が移り変わっていないことを確信する。 ヨン「天界では嘘をつきますか?」 ウンスに近寄り耳元で言うヨン。 ヨン「嘘は上手ですか?」 ウンス「何の事?」 ヨン「嘘も方便です」 何のことかさっぱりわからないウンス、頭を下げて行ってしまうヨン。 帰り道。 テマン「医仙様はお元気でしたか?まさか会えず?」 ヨン「お会いした。気も強いままだ。飯にも満足しているようだ」 テマン「だからあっちがいいと?」 ヨン「監禁されてると」 テマン「だったら・・・」 ヨン「いいんだ。いつからだろう。思い出せない」 テマン「何の話です?」 ヨン「あいつの顔を・・・思い出せないんだ」 スリバンがいると思われる家にやってくる二人。 テマン「空き家ではありません。人の気配がします」 ヨン「先に帰れ。副隊長に伝えろ。戻りが遅くなると」 テマン「隊長!」 ヨン「留守の間を頼むとな」 門をくぐるが人は見えない。 ただ気配だけがある。 屋根の上から飛んでくる1本の矢。 そして後ろから襲ってくる槍。 矢と槍に応戦するヨン。 ヨン「もういいだろう?」 次は剣だ。 ヨン「疲れるだけだぞ?師叔、何とかしてくれよ!面倒でたまらん」 叔父「おい、チェヨン」 ヨン「お久しぶりです」 叔父「新王の飼い犬になったらしいな。どれ、吠えてみろ」 叔母「飯は食ったか?」 ヨン「夕飯はまだだ」 叔母「クッパを食うか?」 叔父「犬にやる飯はねぇよ」 叔母「餌はやんねぇと」 叔母のクッパを食べている。 叔父「今月中に近衛隊を辞めるって話だったろ?」 叔母「こっちに来るって」 叔父「天の医員ってのは本物か?」 叔母「まさか」 叔父「お前も人を騙せるようになったか」 叔母「ご奉仕して7年だ。仏様も詐欺師に変わるよ」 叔父「今日は何の用だ?」 ヨン「人を探してる」 叔父「人探し?」 叔母「嫁を貰う気になったか?私に任せな。お前、女やもめでも構わないかい?」 叔父「おい、馬鹿なことをぬかすな。女やもめなんてとんでもねぇ」 叔母「金は持ってるし男も知ってる。いいと思うがね?」 叔父「死んだ旦那が化けて出るぞ?」 叔母「ヨンに昔の女が化けて出たかい?若い男が7年も想ってる」 ヨン「忠臣がいる」 叔父「本当に王の犬になったのか?」 ヨン「真の王になりたいと。ただ忠臣が少ない。力を貸してくれ。国中の人も物も把握する情報屋だろ?」 チョルの屋敷。 ウンスは真っ白な衣装をイライラしながら脱いでいる。 元の服に着替えたウンスは門の前に来ている。 そして見張りの兵達に止められている。 ウンス「どきなさい。私は天の医員よ。恐れ多くも刺すつもり?天が怖くないわけ?」 バッグを振り回している所へやってくるチョル。 チョル「どちらへ?」 ウンス「言う必要ある?」 チョル「解ってないようですが医仙はもう私のもの」 ウンス「死ぬまでそう思ってて」 チョル「王が差し出されたのです。医仙を私に」 ウンス「身勝手な人達ね。贈ったり貰ったり冗談じゃないわ。私は天の人よ。解ったらどいて」 チョル「兵達が握っている剣ですが切れ味鋭くうっかり刺すと大変です」 ウンス「構わないわ。刺すなり斬るなり好きにして」 チョル「手首を鎖で縛りましょうか?」 ウンス「拷問でもする気?私が語る未来の予言は真実なのかあるいは嘘か、確かめられるわね。未来の予言をするときはいつ誰に告げるか私が決める。私によく思われた方が得でしょう?」 チョル「悪いがもう我慢ならぬ。捕らえよ」 チョルの屋敷へきた尚宮。 チョル「王妃殿の尚宮が何の用だ?」 尚宮「火急の用にて急ぎ参りました。王妃様の首の傷が思わしくなく容体が急変したのです」 チョル「それは一大事」 尚宮「ゆえに医仙をお迎えに参った次第です。もともと天の神技で治療して下さった傷。下界の医員では到底できませぬ。プオングン様のお力添えをお願いしたく」 チョル「私の?」 尚宮「医仙はプオングン様にお心を託されたとか。真ですか?」 チョル「まさしく」 尚宮「ゆえにご尽力を賜りたく存じます」 チョル「差し出しても万が一王妃が崩ずることあらば医仙も死罪」 尚宮「一緒にお越し下さるようにと」 チョル「私も共に?」 尚宮「王妃様からも内内の話があるようですし」 眠る王妃の手首で脈を取っているチャン侍医。 意識が戻らないから香をもっと炊いてくれと部下に頼んでいる。 チョルの屋敷では密偵からの報告を受けて『王妃の危篤は本当らしい』と話している。 医仙を連れて皇宮へ出向くチョル達。 王妃の様子を見にやってくる王。 王「容体は?」 チャン侍医「思わしくなく」 王「少し話せるか?」 寝台で横になる王妃に近づく王。 王「このような難儀をかけ合わせる顔もない」 起き上がる王妃。 王妃「難儀ではありませぬ」 王「うまくいくか解らぬのに王妃にここまで・・・」 王妃「望んだことです。この身を捧げてもお役に立ちたく。ですが私はいつも王様を怒らせるばかり。お心に添わぬことがつろうございます」 王「余が未熟だからだ」 王妃「そのようなお言葉、聞きとうありませぬ」 ウンスを取り戻す計画が幕を切って落とされる。 皇宮に入るチョルとウンス。 スリバンに頼んでカンファ郡主の財産を調べさせておいたヨン。 その書類をスリバンから受け取る。 使いの者を置いてチョルとウンスだけが通される。 だが通されたのは王妃のいるコンソン殿ではなく王のカンアン殿。 いぶかしく思うが入る二人。 王「医仙、お元気でしたか?」 ウンス「いいえ。王様はお元気?」 王「おかげで」 ウンス「王妃様が危篤と伺いましたが」 王「その件は後程」 ヨンが入ってくる。 ヨン「王様、尋問をどうぞ」 王「では」 チョル「尋問・・・ですか?」 ヨン「医仙、天界での名はユ・ウンス。この女人は先月5日幽閉中の慶昌君を訪ね天界へお連れするとそそのかし2日間連れまわしました。指示したのはカンファ郡主、アン・ソンオ。慶昌君と医仙をかくまい私チェヨンに取引を持ちかけた」 縛られたカンファ郡主が入ってくる。 そして開いた口がふさがらないウンス。 郡主「何とも口惜しきこと、濡れ衣でございます。プオングン様、アン・ソンオでございます」 王「知り合いか?」 チョル「私は存じませぬが?私が賜った医仙が何をしたと?」 ヨン「医仙に問う。誰の命に従った?」 ウンス「待ってよ。私と一緒にいたで・・・」 ヨンが目で合図をする。 ヨン「慶昌君の治療を命じたのはカンファ郡主か?」 ウンス「それは・・・」 この間のヨンの言葉を思い出すウンス。 『天界では嘘をつきますか?』 ウンス「私に命じた人は・・・」 またヨンが目で合図をする。 ウンス「この・・・カンファ郡主です」 ヨン「このようにカンファ郡主アン・ソンオは慶昌君の治療のため屋敷にかくまいました。そればかりか私にこう問うたのです。『慶昌君が復位を望んだらどうするか』と」 チョル「しばし王様に伺いとうございます」 王「何か知っておるのか?そなたは言ったな?屋敷から医仙を近衛隊長が連れ去ったと」 チョル「それは・・・」 ヨン「私がなにゆえプオングン様の屋敷から連れ去りましょう?プオングン様が医仙を送り出さぬ限り不可能です」 王「送り出したのか?」 チョル「身に覚えございませぬ」 王「只今をもってカンファ郡主を罷免する。カンファ郡主の全財産を国庫に奉じよ」 さっきスリバンから受け取った書類を王に渡すヨン。 王「カンファの人参畑に入り江、大した財産だ。おや、税の3分の2が政客に収められておる。もしやプオングンのところに?」 チョル「違います」 王「ならばよい。謀反人アン・ソンオはおん部に引き渡し処罰する。この者に同調し慶昌君をかくまい死に至らしめた医仙。この者も相応の罰に処す」 ウンス「そんな・・・」 王「医仙はそなた(チョル)のものだが状況をかんがみると法で裁かねばなるまい。よいな?」 ムガクシに捕らえられて連れていかれるウンス。 ウンス「離してよ!なんで私が・・・」 それをじっと見つめるヨン。 郡主「チェヨン、なぜ私がこんな目に?」 ヨン「郡主の子子孫孫に富を継ぐ3ヶ条。つく側を間違えた」 郡主「近衛隊長、全て私が悪かった。この通りだ、命だけは!」 ヨン「悪いが、私は根に持つ性分でして」 郡主も連れていかれる。 残ったチョル。 暴れるウンスが連れてこられたのは王妃の部屋。 尚宮「お待ちかねです」 王妃「案じておりました。医仙に水を」 ウンス「私のことを謀反人とか逆賊の大罪人とか嘘をつけというからそれで・・・」 尚宮「プオングンを裁くには影響が大きく代わりにカンファ郡主を処罰しました」 ウンス「じゃ私も処罰されるの?」 尚宮「天界の方が事情も知らず犯した罪です。王妃様のお命を救った功により・・・」 ウンス「これから私はどうなるの?」 尚宮「今後、王妃様のお身体の康寧を担当し居住はチョニシに限ると王命が下りました」 宮中に潜む間者の目をもくらますために練られた巧妙な罠。 見事成功しウンスを取り戻すことは出来たが、大罪人に仕立て上げられたウンスの心はズタズタに。 王妃の部屋から出てくるウンス。 そしてウンスが出てくるのを待っていたヨン。 ウンスは一瞬ヨンを見るが、そのまま目をそらして通り過ぎようとする。 だが思い直して足を止め振り返る。 ウンス「あんまりだわ。あなたが無理矢理連れてきたんでしょ?忘れちゃった?」 ヨン「覚えております」 ウンス「汚い所で手術させたり縛ったり担いだりして」 ヨンの足を思い切り蹴るウンス。 『うっ』と悶えるヨン。 ウンス「嘘は上手かですって?逆賊だから罰を受けろ?」 もう一度蹴ろうとするがヨンがよけたので倒れるウンス。 ヨンが抱き留める。 ウンス「私に触らないで!近づかないでよ。こんな男に誘拐されるなんて・・・」 ウンスの後ろ姿を悲しい目で見つめる。 そして今までウンスと共に過ごした時間を回想する。 チョニシにきたウンス。 半ば放心状態だ。 チャン侍医も出てきて驚く。 チャン侍医「医仙」 チャン侍医を見て泣きだすウンス。 そしてチャン侍医に抱きつく。 チャン侍医は目の端でヨンが見ているのを確認する。 ウンス「私・・・もう心が折れてしまいそう。こんな所・・・こんな時代はもう嫌。なんでこんな目に?私・・・お母さんが恋しい。お父さんにも会いたい。もう頑張る気力もない」 チャン侍医の胸で大泣きするウンス。 チャン侍医「オンガム茶です。心を穏やかにします」 ウンスの肩にショールをかけてくれるチャン侍医。 チャン侍医「いつも明るい方だけに驚きました」 ウンス「自分でも驚いてる。私泣かない女なの。惨めになるから」 チャン侍医「おつらくとも隊長が約束したのです。必ず帰れます。昨今は激務のさなかですが・・・」 ウンス「私はこの時代の人間じゃない。ここに居場所はないわ。ここにいながら生きる世界じゃないって感覚。解る?」 チャン侍医「いえ・・・」 ウンス「ここにいても何の役にも立たない。幼い王が危ない時あの人はこう言った。医者のくせに手だてはないのか?って」 チャン侍医「慶昌君様が火苦毒に倒れたとか」 ウンス「韓方医の先生なら何か方法があった?」 チャン侍医「火苦毒では救う術はなくいかにして苦しまずに死を迎えるかだけです」 ウンス「先生でも無理なら仕方なかったのよね?」 チャン侍医「でも私なら・・・」 ウンス「いい対処ができた?」 チャン侍医「隊長に剣は抜かせませぬ」 ウンス「なぜ?」 チャン侍医「チェヨン隊長は主君を守る武官です。自らの手でかつての主君を殺めるなど」 ウンス「そうでしょ?あの人が刺したのを見たわ」 チャン侍医「いいえ。チェ隊長が殺めたのは己の心」 ウンス「どういうこと?」 チャン侍医「あのことがあって隊長は皇宮に残る決心をされたのです」 ウンス「何の事?」 チャン侍医「隊長はずっと願っておりました。皇宮を下がり自由に生きたいと」 キチョル邸。 カンファ郡主のせいで王に取られた資金を数えあげている薬師たち。 だが一人違うことを考えているチョル。 そしてまた何かを思いつく。 宝箱から次の華佗の形見を取り出すチョル。 ウンスに会いに行く。 ウンスの部屋にチョルを案内する。 ウンス「私達だけよ。見せて」 チョル「私の屋敷で用意した部屋よりも手狭ですな」 ウンス「天界ではこういうわ。とっととカードを見せろとね」 チョル「書物と思われます。長年の苦労の末文字の一部は西域の数字と解りました。だが他が読み解けず」 ウンス「私に読めと言うのね?見せて」 包まれた布を開けてみるとそれは日記帳。 表紙には『DIARY』と書かれている。 ウンス「これが華佗の形見なの?」 チョル「そうです」 ウンス「じゃあ数百年前の物よね?」 チョル「華佗は千年前の御仁です」 恐る恐る中を開けてみる。 チョル「いかがか?」 数字が羅列している。 最後のページを見たウンス。 そこには一言だけのハングルが。 『ウンス』とサインが書いてある。 ウンス「何なの?ありえない・・・」 チョル「中には何と?」 ウンス「まさか、そんな・・・夢だと言って」 チョル「医仙、何と書いてあるのです?」 ウンス「これは長くて・・・複雑で・・・ありえない夢だわ」 涙がこぼれる。 ウンス「夢だと言って。夢じゃなきゃ・・・いったい何なの?目を覚ませば全て終わると言ってよ」 チョル「医仙が動揺する程の内容なのですな。ぜひ伺いたい。これが何か?天界の文字ですね?」 ウンス「私の名前よ。見て、ウンスと。私の名前・・・」 数字の部分をめくって問うチョル。 チョル「この意味は?」 ウンス「解らない。だけど・・・1171・・・1116・・・1315X。座標かしら?もしかしたら私が帰れる門、その場所の手がかりかも。私の世界の・・・時間じゃ?だとしたら・・・」 急いで片付けるチョル。 チョル「見せませぬ」 ウンス「ひどいわ」 チョル「帰られては困る」 ウンス「貸して!」 部屋の外で待っていたチャン侍医とチョヌムジャ。 その騒ぎに駆けつける。 手帳を持って帰ってしまうチョル。 泣き叫ぶウンスを必死で止めるチャン侍医。 チャン侍医「天の書とはなんです?」 ウンス「ハングルだった。手帳にあった文字。私の名前も。目を疑ったわ。信じられない。私の字にそっくり。名前の書き方が同じだった。でも・・・手帳に覚えはないわ」 落ち着きなくウロウロしているヨンの周りで心配そうな隊員達。 トルベ「行かないのですか?」 ヨン「トクマン」 トクマン「はい、隊長」 ヨン「医仙をお守りしろ」 トクマン「承知しました」 テマン「俺が行きます。医仙様を・・・」 ヨン「前に逃がしたろ?」 テマン「汚名返上で・・・」 トクマン「ご安心を。命がけでお守り・・・」 頭を叩かれるトクマン。 ヨン「容易に言うな。いくつも命があるのか?」 トクマン「しかし医仙様の護衛として・・・」 ヨン「命を粗末にしたら俺が許さん」 トクマン「はい」 トルベ「隊長は・・・?」 ヨン「何だ?」 トルベ「医仙様の所に・・・」 トクマン「お待ちかと」 また叩かれると思って頭を引っ込めるトクマン。 ヨン「万が一の時は医仙を背負って逃げろ。戦うな」 トクマン「背負う?じゃあ身体に触れても・・・」 今度は足を蹴られるトクマン。 その頃チョニシでは、急病患者が運ばれてくる。 チャン侍医が対応に当たっている。 部屋の外でこっそり見張りをしているトクマンを見るウンス。 トクマンは慌てて隠れるが簡単に見つかる。 トクマン「近衛隊トクマン。医仙様を護衛します。隊長の指示です」 ウンス「ユ・ウンスよ。よろしく」 無気力なウンス。 慌ててトギが走っていくのを見るウンス。 トギの後を追ってやってくると、患者が寝台で唸っている。 ウンス「救急だったの?」 チャン侍医「腸ようです。湿熱とお血のせいでしょう」 ウンス「見てもいい?」 チャン侍医「お願いします」 ウンス「ここは?」 患者「痛みません」 別の所を押すと痛がる患者。 ウンス「虫垂炎ね。発熱と吐き気もあった?」 お付き「ございました」 ウンス「CTがなくても明らかね。開腹するわ。手術道具・・・取られたままだわ」 トクマンを説得し護衛として連れてチョルの屋敷へ向かってしまうウンス。 取引として一緒に天界へ行かない?と誘った上で手術道具を返して貰う。 王の間にはヨンが呼ばれてやってくる。 新しい臣下となる者の名簿を検討している。 テマンがヨンに報告する。 『医仙様がキチョルの屋敷へ出向いた』と。 ヨン「何だって?」 さっきの名簿を投げてテマンに渡す。 ヨン「副隊長に渡せ。印のついている者の所在を調べよ」 チョニシでは患者の手術をしている。 突然つかなくなるライト。 部屋で元の時代から持ってきたライトを調べているウンス。 そこへ入ってくるヨン。 ヨン「プオングンの屋敷へ行かれたとか」 ウンス「それが?」 ヨン「王が苦労して連れ戻されたのだ」 ウンス「余計なことをして。あの屋敷で不自由なかったのに。逆賊だの何だの必要ない芝居をして」 ヨン「解りました」 立ち去ろうとするヨン。 ウンス「あの時は・・・ごめんなさい。慶昌君様のこと。苦しんでいるのに医者として何もできずに。そしてあなたにあんなことをさせてごめんなさい。あの時天門の前で刺したことも謝るわ。生きててくれてありがとう。迷惑ばかりかける私をいつも守ってくれて本当にありがとう」 ヨン「何です?」 ウンス「もう一人で大丈夫」 ヨン「どうする気です?」 ウンス「私ね、プオングンと折り合う方法を見つけたの。昼間試したら手応えを感じた。あの人私から欲しいものがあるの。それを盾にうまく取引すれば手帳も取り返せる」 ヨン「あの者の狙いは何です?」 ウンス「知る必要ないわ。私のことよ」 ヨン「言って下さい!」 ウンス「私の知る歴史よ。未来のことを知りたがってる。だから・・・」 ヨン「そんなに大事なことをあの者に?」 ウンス「教えるふりだけよ。望んでる答えをそれらしく言ったり。事実かどうか解りっこないもの」 ヨン「プオングンを甘く見てはいけません」 ウンス「もう私に構わないでって言ってるの。自分の力でもとの世界に戻るから。もう会えないかもしれないから。お礼も言いたかったし謝りたかった。それから出来るだけ戦いは避けて怪我しないで。傷が癒えたらしっかり食べて」 頭を下げるウンス。 トクマンに『二度とあの方を外に出すな』と命じて出ていくヨン。 ヨンはなんとなく異変に気付く。 屋根にはチョヌムジャが潜んでいる。 さっきヨンから託された、これから集めようとしている忠臣達の名簿を副隊長に渡すテマン。 たまたまぶつかったムガクシに名簿を盗まれてしまう副隊長。 そしてキチョルの屋敷ではその名簿を見ている。 薬師「こちらが名簿です」 チョル「医仙がそう言ったのか?教えるふりをするだけだと」 さっき屋根に潜んで盗み聞きしてきたチョヌムジャ。 チョヌムジャには音功だけでなく、遠くから人の声だけを聞き分ける特殊能力もある。 チョル「望む情報だけをそれらしく言うとな?」 チョヌムジャ「事実かどうか解るはずもないと」 ファスイン「医仙とかいう女、偽物かもよ?王に王妃、近衛隊長が一芝居うったのかも」 チョル「医仙が治療した者は?」 チョヌムジャ「医術の腕は確かです。重篤な患者を救いましたから」 ファスイン「兄者、コケにされる前に諦めたら?天門だの天界だのうさんくさいったらないわ」 薬師「この名簿は?」 チョル「私を愚弄した者達め。一人ずつとくと思い知らせてやる。惜しいのう。今少し、騙りだと確信するまで手を尽くしたい。まだ天の女人が偽物だと思いたくないのだ」 宮中でこっそり会っているヨンと尚宮。 尚宮「行く末を知っている」 ヨン「そう言っている」 尚宮「では医仙は占い師なのか?」 ヨン「いや、天には記録簿に似た物があって・・・この話はいい。プオングンがそれを信じてるとしたら?」 尚宮「キチョルは新しい玩具を欲しがる子供と同じ。医仙を新しい玩具だと思っておるなら一時は楽しもう」 ヨン「だが医仙を皇宮に返したのを見るとある程度は医仙を尊重していると取れる」 尚宮「お前は解っておらぬ。玩具ってのはさんざん遊んで飽きれば捨てる。切り刻み壊してな」 ヨン「叔母さんはたまに大げさに言うだろ?」 尚宮「金仙を知ってるか?元にまで名を轟かせた画家でその絵は生き写し花を描けば蝶が止まると言わしめた。キチョルも目をかけ瓦屋根の屋敷や遊船まで与える入れ込みようでな」 ヨン「それが?」 尚宮「かなり熱を上げてたがある日描かせた絵が気に入らなかった。自画像を描かせたらしいが蛇の絵を描いたらしい。その夜両手を切り落とされ両目をくり抜かれクダン川に捨てられた。あくる日の夜までもがいていたが皆見てるしかなかった。明日は我が身だ」 ヨン「玩具はどう生きるべきか?」 尚宮「決して逆らうな。機嫌を取り可愛がられよ」 ヨン「無理だな。機嫌取りが出来るお方じゃない」 尚宮「私もそう思う」 ヨン「逃がすか?」 尚宮「どこへ?キチョルの手は高麗を超えて元に届くほどだ。お前が連れて逃げるのか?だが逃走するにも事が大きくなりすぎた。覚悟はあるのか?」 村の飲み屋で待機しているヨンとテマン。 ヨン「落ち着け」 テマン「は・・・はい」 ヨン「飲めないのか?」 テマン「飲んだら死にます。俺じゃなく周りの者が」 ヨン「一杯くらいいいだろ?」 テマン「だめです。あそこに・・・」 ヨン「解ってる」 ヨンに向かって矢を射ろうとしているスリバン。 叔父「愚かな奴だとは思っておったが薄汚れた犬に成り下がるとはな」 やってきたのはスリバンの叔父と叔母。 ヨン「師叔」 叔母「犬に罪はないのに例えちゃ気の毒だ」 叔父「別にいいじゃないか」 叔母「王の手先め」 叔父「後ろ盾を得て威勢がいいな。俺達を売っていくら貰った?」 叔母「馬鹿だね。金など貰うか。金の使い道すら知らない子だよ」 叔父「じゃなんでこんなクソ野郎に成り下がる?」 叔母「それはあたしが聞きたいね。うちの商売を邪魔して商売道具を壊すわ。薬を没収して殴るわ」 叔父「ヨン、王の命令か?足元で尾を振るまで捕らえて痛めつけろと言ったのか?」 ヨン「王に伺って下さい」 そう言ってヨンが立ち上がると入れ代わりにやってくる王。 周りは近衛隊が包囲している。 ヨン「王様です」 急いで跪く叔父と叔母。 王「表向きはマンボの薬売り、実の正体は高麗に通じる情報屋スリバンか。マンボ兄妹だな?余が呼んでも参るまい。行方さえくらましかねぬと一席設けたのだ。一献受けよ」 また盗み聞きしているチョヌムジャ。 『天の記録ではこうよ。高麗はいずれコリアになる。全世界は私達をコリアと呼ぶの。全世界とはね・・・』 その頃チョニシでは、ウンスがチャン侍医に話して聞かせている。 ウンス「その頃にはすごくたくさんの国が興ってて、つまんない?」 チャン侍医「はい」 ウンス「どうしよ。歴史じゃちょっとね。科学技術の話はどうかしら?電気とか・・・あまりに進歩しすぎね。高麗時代に必要なものってなんだろ?火薬に銃・・・武器はだめね。上水道や下水道がいいわ。民の健康にとっても大事だし水洗式トイレとか今私が一番欲しいわ」 チャン侍医「天界の情報と引き換えに手帳をもらうのですか?」 ウンス「手帳の座標と数字が解析出来れば帰る方法が見つかるはず」 チャン侍医「確信はあるのですか?」 ウンス「ないから確かめたいの」 チャン侍医「医仙、私も隊長と同じ考えです」 ウンス「なに?」 チャン侍医「プオングンは恐ろしい人です」 ウンス「平気よ。私はカンナムに住んでたの。そこには数倍も恐ろしい人達が大勢いて顔で笑ってても腹の中は真っ黒」 チャン侍医「天界にも?」 ウンス「それだけど、天界じゃないのよ。チェヨンさんには話したけどもう忘れてるかもね」 チャン侍医「天界ではない?」 ウンス「私はね、未来から来たの」 そのやり取りを聞いているチョヌムジャ。 それを見つけたトクマン。 目をつむって聞いていたチョヌムジャの耳元で思い切り手を叩く。 耳を痛がるチョヌムジャを『気持ち悪い奴だな』と追い払う。 王達。 王「では、意見を聞きたい」 叔母「こんなむさ苦しい者の所へわざわざお越し頂きご聖恩感謝し尽くせません。ではこの辺で失礼しましょ」 ヨン「王様、このような連中は味方につけるか根絶やしにするかです。ここで逃がせばそれまでゆえご決断下さい。召しあげますか?抹殺しますか?」 叔父「ヨン!なんて野郎だ!」 ヨン「王様、お命じ下さい」 王「マンボよ、どうか?余は二者択一を迫られている。余が進むべき王の道。血を見ようとも楽な道をゆくべきか時間はかかろうとあるべき姿で正道を歩むか。今ここで余はそなたの出方で決断しよう。どうだ?」 その様子を遠くから眺めているのはファスイン。 あくる日。 ウンスは王妃の首の傷を見ている。 後ろで心配そうに見つめる王。 そして近衛隊。 ヨン「何だと?名簿をなくしただと?」 副隊長「それが・・・テマン、確かに俺に渡したか?」 テマン「確かです!ま・・・間違いなく」 ヨン「ふざけるな」 副隊長「受け取った気がします。ここに入れました」 トルベ「隊長、スリバンから連絡が」 ヨン「何て?」 トルベ「チョヌムジャが医仙を見張っている。奴のイムミルポプに気をつけろとのことです。ところでイムミルポプとは何でしょう?」 ヨン「遠くから話を聞く妖術だ。医仙は?」 副隊長「コンソン殿かと。先程見かけました」 屋根の上でこっそり盗み聞きしているチョヌムジャ。 王妃の部屋。 ウンス「傷は閉じたわね。もう一月もすれば跡も消えるでしょう。私、腕はいいんです。いかがです?傷口もきれいでしょ?」 王「まさしく」 ウンス「薬は先生からお願いします」 チャン侍医「承知しました」 王妃「今日も一人助けたそうですね」 ウンス「あの子ですね。簡単な処置でした」 王「双城総管府の高官の息子だとか。余の膝元で命を落としていたら立場がなかった」 ウンス「高官の息子なのね」 尚宮「千戸長イジャチュンの次男のイ・ソンゲです」 それを聞いて固まるウンス。 ウンス「何て名前ですって?」 尚宮「イジャチュンの次男、イ・ソンゲと申しました」 ウンス「まさか・・・それじゃあの子が?」 王「医仙?」 ウンス「あのイ・ソンゲなの?歴史の本に出てくるイ・ソンゲ?」 半ば放心状態でチャン侍医に尋ねる。 ウンス「もし私が治療しなかったら王妃様は助からなかった?」 チャン侍医「おそらくは。深い傷でしたので」 ウンス「もし私が訪ねなければ慶昌君様は毒で死ななかった?腫瘍で命をなくしても毒ではなかったはず」 王「いったい何の話です?」 ウンス「もしあの子を私が治療しなければ亡くなったのかしら?あの子があのイ・ソンゲだとしたら・・・どうしよう」 王「お知り合いか?チョノの息子と」 ウンス「あの子はずっと先の将来・・・李氏朝鮮を・・・」 口を押えて急に恐ろしくなるウンス。 第9話へ |