シンイ〜信義〜
第5話〜仕掛けられた罠〜

椅子に縛られて座る女を見かけるヨン。

そちらへ向かう。

近づくとその女はこの間のファスイン。

ファスインが投げた火炎を盾で防ぎ、不敵な笑みを浮かべてファスインを見る。

ファスイン「あら残念。見破られてたのね」

ヨン「一瞬迷った」

ファスイン「あの女と私似てるでしょ?」

ヨン「あの方がおとなしく座ってるものか」

チョルの兵に取り囲まれるヨン。

それを屋根の上からこっそり見ているテマン。

全ての兵を倒した後先を行こうとするが今度はチョヌムジャに邪魔されるヨン。

上の階からその光景を眺めているチョルと薬師。

チョル「あの者は確か内功の使い手」

薬師「赤月隊でしたので」

チョル「だが剣術しか使っておらん」

薬師「生死をさまよったとかで弱っているせいかと」

チョル「チョヌムジャに音功を使わせろ。早く」

薬師「それは難しいかと。周りの鳥や猫まで死んでしまいます。チョヌムジャはまだ音功をうまく操れないのです。修練はしておりますが」

聞かずに、チョヌムジャに合図をしてしまうチョル。

笛を吹き始めるチョヌムジャ。

その音に動きを止める全員。

もちろん仲間の兵もだ。

その場に倒れ込んだヨンの耳から口から血が流れ出る。

立ち上がったヨンは内気を集中させ全身から否妻を発し持っていた盾を構えてチョヌムジャに近づく。

盾にひびが入る。

そして風と共に全てをチョヌムジャに向けて飛ばすヨン。

そこでいいタイミングでテマンが屋根の上から笛を吹く。

陽動作戦だ。

上の階から眺めていたチョルは初めて目にした雷功で目を輝かせている。

その頃、王の間では副隊長が近衛隊を一同に集め王に直談判している。

副隊長「近衛隊12名だけで構いません。どうか隊長のもとへ行かせて下さい」

王「ならぬ」

副隊長「この7年間隊長に仕えて参りました。この7年間隊長は近衛隊の長として王様のためとあらば命をも捧げて参りました。隊長の偽りなき忠誠心はご存知のはず」

王「下がれ」

副隊長「隊長が王命に背いたのはゆえあってのこと。隊長を連れ戻しお聞きになれば必ずや・・・」

王「余の命に背くなどあってはならぬこと」

副隊長「王様、どうかお慈悲を」

王「なぜ解らぬのだ?医仙のことは余の決断。お前達も聞いたはずだ。それを覆い隠そうと言うのか?」

副隊長「我々はお迎えに・・・」

王「それすなわち反逆である。王命に背けば死罪だ。チェヨンを救う道はただ一つ。あの者は余の命を知らされず、ゆえに医仙を助けに向かった。お前達は行方も知らぬ。昨夜から会ってはおらぬからだ。よいな」

チョルの屋敷。

テマンが案内している。

テマン「こっちです」

襲いくる兵たちを切り捨て先を急ぐ。

そして医仙がいると思われる部屋の前で立ち止まるヨン。

口と耳から流れる血をぬぐう。

そして刀を振り上げ、鍵を破壊する。

ベッドに寝ていたウンスは入ってきたヨンに驚き慌てて降りる。

ウンス「サイコ・・・」

ヨン「遅くなりました」

ウンス「意識が戻ったのね」

ヨン「お怪我は?」

ヨンの頬に手を当てるウンス。

ウンス「熱も下がってる!生きてるのね、サイコ。思いが通じたわ。私閉じ込められて」

ヨン「解ってます」

ウンス「昨夜ここに連れてこられてこの部屋に・・・」

後ろで刀の音が。

チョルが部下を引き連れてやってくる。

チョル「近衛隊チェヨン」

ヨン「ご挨拶は改めて」

チョル「そこの女」

ヨン「王が医仙と称された方です。改めて頂きたい」

チョル「この前もそなたは礼儀を守れと言ったな。チェヨン、そなたは命より礼儀が大事か?」

ヨン「そう聞こえましたか?礼儀を盾に時間を稼いでいるのです」

チョル「何のために?」

ヨン「私の後ろの方を連れて逃げるためです」

チョル「ここから逃げられると思うか?女人まで連れて」

ヨン「そのつもりです」

チョル「近衛隊を屋敷の屋根に潜ませておるのではあるまい?」

ヨン「違います。私が個人的に参ったゆえ王はご存知ありません。近衛隊も王命がない限り動きません」

チョル「個人的にとはなぜか?」

ヨン「個人的にの意味が解りませんか?私が個人的に・・・あの方を恋い慕っております」

驚くウンス。

チョル「今、何と申した?」

ヨン「恋しい女が連れ去られ囚われたと聞き心穏やかでいられず飛んで参った次第。どうかこれ以上犠牲を出さぬよう行かせて下さい」

笑いだすチョル。

ウンスに近づこうとするファスインの前に盾を叩きつけて遮るヨン。

皇宮では、王妃が王に会いにきていた。

王「もう2度と会いにこないのではなかったのか?」

王妃「私をなじるのは話を聞いてからにして頂けませんか?」

座れと合図する王。

王妃「隊長が医仙を迎えに行ったとか。元の双城総管府に縁者がおります。力添えを頼みますか?このような話お嫌でしょうけれど元の王女である私をお使い下さい」

王「使えと?」

王妃「トクソンプオングンの気勢が強かろうが総管府の要請では断れますまい。医仙と近衛隊長を連れ戻すのです」

王「忘れてはおるまいな。余はこの国、高麗の王だ」

王妃「私は高麗の王妃です」

王「トクソンプオングンがいくら横暴とはいえ余の民であり臣下である。それを承知で元に頼れと申すのか?何と頼むのだ?余が至らぬ王ゆえに臣下の一人も従わせられない。王を立てるよう忠告してくれと頼むのか?真の高麗王妃ならそのような事は言えぬはずだ」

王妃「そうですか。解りました」

王「頭を垂れて何を考えておる?この無力でしがない王は死にゆくわずかな忠臣より己のメンツを守ることしかできぬと思っておるのか?」

涙をこぼす王妃。

それを見て目をそらす王。

王「話は済んだか?」

黙って立ち去る王妃。

だが尚宮だけがそこに立ち止まる。

尚宮「王妃様はこちらへ伺うことを悩んでおられました。それこそ捨て身で来られたのでございます。失礼します」

王「仕方がなかった。医仙は嘘偽りなく天より参った方だ。それを認めればトクソンプオングンといえど医仙をたやすく殺せまいと思うた。ただ差し出したのではない」

尚宮「そうでしたか」

王「差し出すだけであればすぐにでも医仙を殺しかねぬゆえ条件をつけた。7日間は殺せぬ。7日で医仙の心をつかむこと。心をつかめば医仙をやると。医仙かどうか調べよと。そうすれば7日間は手を出せまい。その日までに手を打たねば。余を哀れんでおるのか?」

尚宮「そのようなことは」

ヨンとウンスはチョルの屋敷で酒をふるまわれようとしている。

チョルが二人の酒を注いでくれる。

それを飲もうとするウンス。

ヨン「まず私が」

ウンスが持っている酒を横取りして自分で飲むヨン。

チョル「どうだ?毒は入っておるまい?」

それを聞いたウンスはまた怒り出す。

ウンス「あなた毒見したの?」

ヨン「はい」

ウンス「もし入ってたらどうするのよ!」

ヨン「医仙がおられますゆえ」

ウンス「(チョルに)悪い冗談だわ」

薬師「その言葉お前に返そう。天から来ただの華佗の弟子だの。ここにはお前の作り話に騙される者などおらぬ。正直に話せ。お前はいったい何者だ?」

ウンス「はんっ、救いようのない人達ね。こっちは我慢してるのに。患者はどこ?連れてきて」

隣のヨンに小声で話す。

ウンス「王様と賭けをしたらしいの。この家の病人を治せるか」

ヨン「それで?」

ウンス「のんきね。一晩監禁しといて朝飯もなしよ」

ファスイン「聞いてないの?失敗した場合のこと」

ウンス「どうなるの?」

ファスイン「国を騒がせた妖魔として処刑されるの。首をばっさり。綺麗な顔が三門に吊るされるわ。ああ悲しや。生首っておぞましいだけ」

ウンス「冗談がひどすぎてまったく笑えない!」

頭にきたウンスは近くにあった酒を掴んで自分で勝手に注いで飲もうとする。

ヨン「いけません」

ウンス「飲まずにいられる?今の話聞いたでしょ?」

そういって酒をがぶのみするウンス。

ヨン「おやめください!」

笑いだすチョルに。

ヨン「患者は?」

チョル「適当に見繕うつもりがそなたが来て気が変わった。ふさわしい病人がおる」

ヨン「どなたです?」

チョル「そなたが3年間主君と崇めたお方だ。カンファドに幽閉されている慶昌君がご病気だ。真の神医であれば治せるはず。そこでだ。チェヨン同行しろ。情人を一人で行かせられまい」

ヨン「トクソンプオングン様、いったい何が狙いですか?聞かせて下さい」

チョル「一箭双雕、一矢で二羽の鷲を落としたい」

意味の解らないウンスと恐ろしい顔のヨン。

皇宮ではチャン侍医がウンスの代わりに王妃の首の傷を診察している。

自分がチョルの屋敷に出向いて医仙と隊長を取り戻すと言いだす王妃。

止める尚宮の言葉も無視し支度を始めてしまう。

チャン侍医が止めるも聞かない王妃。

そのやり取りを部屋の外でじっと聞いているムガクシが一人。

ウンスとヨンはカンファドへと向かう準備をしている。

ウンス「馬車じゃないの?」

ヨン「馬に乗ります」

ウンス「乗馬には興味ないから馬車にしてよ。王妃と乗った奴」

ヨン「馬で行くんです。乗って下さい」

ウンス「じゃ一緒にどう?私が前に乗るから」

ヨン「長旅ゆえ馬が参ってしまいます。二人も乗せられません」

ウンス「待って!心の準備をするから」

ため息をついて先に行ってしまうヨン。

ウンス「サイコ、怒っちゃった?」

必死で後を追いかける。

カンファドへ向かう山中。

ウンス「いつから?恋い慕うってつまり『恋』に『慕う』だから大好きってことよね?愛ってこと?いつからなの?私ったら全然気づかなくて。もともと鈍いんだけどあんな態度じゃね。怒った顔ばかりで治療させてもくれないし。目は合わさないし、今も顔を見ようとしない。よく一人であの屋敷に来られたわね。マフィアのドンの家みたいだったわ。笑っちゃ悪いわね。ところであなたは私より年下?」

後ろからヨンの腕に手をかけたウンスはヨンに後ろ手に縛り上げられる。

ヨン「剣を使う者の背後には近寄らぬこと。触るなどもってのほか。手首がなくなりますよ」

ウンス「脅しても無駄よ」

ヨン「剣を使う者は・・・」

ウンス「研修医から外科に何年いたと思う?周りは刃物を使う人達ばかりよ」

ヨン「もう一つ誤解なきよう。恋い慕っているというのは・・・」

ウンス「いいの、解ってるって」

ヨン「解ってるとは?」

ウンス「告白の後じゃ恥ずかしいんでしょうけど。私無神経なとこがあって、ごめんね」

ヨン「あれは仕方なく・・・」

ウンス「大丈夫、聞かなかったことにするわ。愛の告白でしょ?」

そういってヨンの胸を叩いて走り出すウンス。

ウンス「早く来て!」

放心状態のヨン。

後ろからテマンが話しかけるも聞いていない。

だが我に返りテマンの胸ぐらをつかんで言う。

ヨン「天界には他にも医員がいようになぜあの女人なのだ?なぜだ?」

テマン「わ・・・解りません」

ヨン「治療となれば医仙の道具がいる」

テマン「持ってきます」

ヨン「他言無用だぞ」

テマン「はい」

ヨン「明日の昼にはカンファだ」

テマン「それまでに戻ります」

ヨン「そうしろ。夜更け前に戻れ。パピョン県で落ち合おう」

テマン「夜は二人きりですね」

怒り出すヨン。

ヨン「何だと!?」

テマン「で・・・では」

ウンス「早く!何してるの?」

チョルの屋敷では密偵からの報告を受けていた。

王妃がこちらに向かっていると。

また何かたくらんでいるチョル。

そして王の間でも同じやり取りが繰り広げられている。

王妃が一人でトクソンプオングンの屋敷へ向かったと。

怒った王は副隊長に『王命』として全権をゆだね縛ってでも引きずってでも王妃を直ちに連れ戻せと命ずる。

王妃がチョルの屋敷へ向かう途中、賊に襲われるがムガクシが必死で戦っている。

皇宮に到着したテマンは隊長に言われた通り医仙の手術道具を探す。

だが何かを察するテマン。

チョルの兵が侵入しようとしているのをトギが一人で抵抗していた。

同じく医仙の道具を奪いにきたチョル一派。

テマンは、トギを助けるかこのまま急いで隊長のもとへ向かうか一瞬悩むがトギのもとへ向かう。

応戦しようとするが毒を嗅がされてしまうテマン。

もだえ苦しむテマンをよそに医仙の道具を奪われてしまう。

その頃ヨンはテマンを待っている。

飲食店でウンスにご飯を食べさせ、向かいの席でため息をついている。

この時間になってもテマンがこないことに何かを察するヨン。

ヨン「少々お待ちを」

ウンス「なんで?」

ヨン「不吉な予感が」

ウンス「どんな?どこ行くのよ!」

ヨン「二度は言わぬゆえ。なぜどうしてには答えません。黙って従って下さい。少しの間待ってて下さい。まんじゅうを食べてればいい」

ウンス「一つだけ教えてよ。天門はどっちの方向?」

ヨン「何です?」

ウンス「悪いけど賭けはどうでもいいの。病気を治せなければ生首なんてお断り。行き方だけ教えてよ。一人で行くわ。命の恩人なんだから見逃してよ。行かせて」

ヨン「医仙」

ウンス「サイコはサイコの道を行って。私は逃げたことにしてよ。でも旅費だけ貸して。返せないと思うけど。そのくらいしてよ、ねえ?恋い慕う相手よ」

賊に襲われている王妃を守るために必死で戦っているムガクシ達。

そこへ副隊長率いる近衛隊が到着し難を逃れる一行。

王は副隊長から報告を受ける。

王妃から詫びの言葉はなかったこと。

隊長と医仙のために道具を取りに戻ったテマンが猛毒に侵され意識不明でチャン侍医が治療していること。

そして途中王妃を狙った賊がチョルの手先だと思われることを。

ヨンと医仙の消息が解らぬ王はいらだちを隠せない。

カンファドへ向かう道中。

ウンスは馬に乗ろうと構えている。

ヨン「乗って」

ウンス「ちょっと待って」

ヨン「カンファドも天門も馬に乗らねば行けません」

ウンス「心の準備が必要なんだってば!急かさないで。馬って背が高いのね」

しびれをきらしたヨンはウンスを抱き上げて無理矢理馬の足かけに上げる。

ヨン「左手はここ、右手はここです。ここに足を乗せて」

ウンス「馬が動くんだもの!」

ヨン「踏んで跨ぐ」

ウンス「馬をとめてよ!」

ヨン「手綱は握ってますから。1、2、3。腰を立てて」

ウンス「無理」

ヨン「正しく座って」

ウンス「怖いのよ。お馬さん、じっとしててね。いくわよ。座るからね」

待ちきれなくて無理矢理馬を走らせるヨン。

ヨンの指導でなんとか馬に乗れるようになったウンス。

『ほら、私走ってるわ!』と一人感動するウンスを笑ってみるヨン。

その夜。

山中で野宿する二人。

ウンス「本当にすごい回復力ね。あと数日で抜糸出来るわ。これほど生命力が強いのに死にかけるんだもの。アスピリンはまだある?忘れずに飲んでね」

返事をせず黙って馬に積んでいた毛布をウンスに投げて渡すヨン。

ヨン「敷いて下さい」

離れようとするウンスに『ここに』と自分の傍を差すヨン。

ヨン「ここで寝て下さい」

ウンス「夜更けの山中に男女がいるだけで変なのにくっついて寝るわけ?」

ヨン「離れていては守れません」

諦めたウンスはそこに毛布を広げる。

ウンス「あなた、守りたいタイプ?それとも職業病?王も約束も守らなきゃいけないし、その上私まで」

誰かがつけてきているのを察するヨン。

ウンス「手も抜かずに。身を挺して守ろうとする。これから会う患者の人ってつまり前の王ってことになるのよね?前の王も守ってたの?そう?」

ヨン「3年間先王の近衛隊でした」

ウンス「親しいの?」

ヨン「王と臣下の間柄です」

ウンス「親しくなきゃ誰も見てないのに律儀に私を連れてかないわ。先王の病気が心配なの?」

ヨン「寝て下さい」

追手が気になるヨン。

ウンス「少し話さない?お互いのこと知らないし。私の名前知ってる?ウンスよ、ユ・ウンス」

『ユ・・・』と小さくつぶやくヨン。

ウンス「あなた結婚してる?昔は結婚が早いんでしょ?結婚よ。どうなの?」

ヨン「してません」

ウンス「そうなんだ。当然か。人を殺してばかりの男じゃ皆敬遠するわね」

ヨン「休んで下さい。早朝に発ちます」

ウンス「私も同じ」

ヨン「何がです?」

ウンス「結婚してないの。実家は地方で農場やってて私は華麗なシングル。ソウルから誘拐されてきたの。一人娘だからお母さん寝込んじゃったかな」

ヨン「もうお休み下さい」

ウンス「約束は必ず守ってね?先王の治療が終わったら天門まで送るって約束。ねえサイコ」

ヨン「何です?」

ウンス「グッドナイト。おやすみってことよ」

向こうを向いて寝てしまったウンスを見つめた後、裾からウンスに貰ったアスピリンを出すヨン。

言われた通り2錠取り出して飲む。

皇宮では、隊長と医仙の消息を心配して眠りもせず食べもしない王が。

それを心配した尚宮は王の間まで出向き、何でもいいから食べて欲しいと願う。

そして王の幼少の頃によく食べた尚宮手製のタラク粥を食べたいと言う王に作ってあげる尚宮。

ウンスが寝たことを確認したファスインはヨンのもとへやってくる。

ファスイン「早く呼んでよ。待ちくたびれたわ」

寝ているウンスに近寄ろうとするファスインの足元に木の枝を投げるヨン。

ヨン「部下が戻らぬ。お前の仕業か?」

ファスイン「さあ?あなた達が面白くて他はどうでもいいわ」

ヨン「一つ聞こう」

ファスイン「何?情人には内緒の話かしら?でも本当に恋仲なの?」

ヨン「お前の主人は・・・」

ファスイン「情人なのにあなたを人殺し呼ばわりしてたわ」

ヨン「本当に慶昌君を案じているのか?」

ファスイン「よく安心しきって眠れること」

ヨン「俺や医仙を殺すために行かせるとは思えぬ」

ヨンの膝に座り首に手を回すファスイン。

ファスイン「あなたのことが知りたいわ。どうやって女を信用させるの?」

ヨン「やはり狙いは王か?」

ファスイン「ねえ、私にも信頼されたくない?」

ヨン「王の何が目的だ?」

ファスイン「意気地なし。がっかりだわ。王への忠誠心の話なんかつまんない。素敵な夜なのに」

ヨン「聞くだけ無駄か」

ファスイン「何よ?」

ヨン「主人の目的さえ知らぬ手先に過ぎない。ザコは去れ」

ファスイン「主人じゃなく舎兄よ。私はあの方の舎妹。大事な妹分よ。軽く見ないで」

ヨン「この辺で寝て医仙が起きる前に去れ。大人しくな」

ファスイン「明日の朝舎兄があなたの王に会うわ。そしてこういうはず。残りの5日で医仙を我が物にするとね。もしかしたらあなたの名前も挙げるかも。あなたをすごく欲しがってるようだから」

皇宮へやってきたチョル。

チョル「近衛隊長チェヨンをご存知かと」

王「知っておる」

チョル「あの者が弊家から医仙をさらったのです」

王「何とも信じがたい話だ。プオングンの屋敷の警備は皇宮にも勝る。そこへ討ち入りさらえるものか?」

チョル「お恥ずかしい限り。奇襲のうえあやつの武術に太刀打ちできず」

王「余の護衛隊長が天人の医仙を連れ去ったとな。なぜだろう?」

副隊長「見当もつきません」

チョル「私が推察してもよろしいでしょうか?」

王「構わぬ」

チョル「あの者は先代の慶昌君のご寵愛を受けておりました。慶昌君のご病気はご存知でしょうか?」

副隊長「以前より目と耳を患っておいででした」

チョル「チェヨンは慶昌君を案じ医仙をさらったのです。ですがなぜ王様のお許しを得ないのでしょう?王様も甥のため尽力は厭わぬはず」

王「プオングン、お互い言葉遊びは不得手だ。単刀直入に申せ」

チョル「僭越ながらお聞きします。王様は本当にチェヨンをご存知ですか?元から高麗までわずかひと月見知った程度。チェヨンと先代の慶昌君は主従を超えた間柄とか。わずか12歳の王となりチェヨンは頼もしい護衛武官であり師でありその親密さは兄弟程と聞きます。医仙を先代のもとへ連れて行く折り王様にお許しを請いましたか?」

王「なるほど。プオングンは余の近衛隊長が慶昌君を擁立し謀反を企てていると言うのか?」

チョル「違いますか?」

慶昌君のもとに到着したヨンとウンス。

ヨンがドアを開けると慶昌君が飛び起きてヨンに駆け寄り転ぶ。

慶昌君「ヨン?ヨンか?」

ヨン「慶昌君様お元気でしたか?」

慶昌君「来てくれたのだな」

早速ウンスが調べるもかなりの重症で手術が必要なことが解る。

それを目でヨンに伝える。

ウンスが足を調べてる間、先王に天界の話をするヨン。

ヨン「ごく一部しか見ておりませぬが、天界の家は空に届きそうな程高く夜でも明るく昼間のようでした。馬のない馬車が走りそれは光を放ち道を照らすのです。空には明かりで出来た絵がありました」

痛がる慶昌君を寝かせた後、ヨンに説明するウンス。

ウンス「ちゃんと検査はしてないけど症状を見る限りラブドミオザルコーマね。横紋筋肉腫かも」

ヨン「治せますか?」

ウンス「足にまで症状が出てる。おそらく悪性ね」

ヨン「治せますよね?」

ウンス「腹腔にも腫瘍があるかも。転移が進んでいれば手術が必要よ。それに・・・」

ヨン「治療には時間がかかるのですね?」

ウンス「手術も抗がん治療もいるの」

ヨン「医仙」

ウンス「チョニシに移しましょ。手術器具も手伝いもいるわ」

ヨン「不可能です」

ウンス「手術は?」

ヨン「行けませぬ。慶昌君様は幽閉された身ゆえ一歩でも外に出れば法を犯すことになります」

皇宮では副隊長が隊長の身を案じ、部下に使いを出している。

決して慶昌君を連れ出すことのないよう隊長に伝えろと伝言するために。

王も既に疑い始めている。

チョルの屋敷ではヨン達を罠にはめる計画を練っている。

慶昌君の幽閉されている家付近で待機しているファスイン達。

そして医仙から奪ってきた道具を見るチョル。

かなり驚く。

その昔華佗の形見だという理由で手に入れたものとそっくりだったから。

自分がもっていた昔の物と見比べてみるチョル。

メスもはさみもクランプも、どれも皆そっくり同じだった。

それを見てウンスが本物の天の人だと気づくチョル。

ヨン共々ウンスも殺す計画を練っていたが『医仙は殺すわけにはいかん』と急いで伝令を出す。

が、部下から指示がもう遅すぎると言われ慌てるチョル。

ウンスの手術道具とチャン侍医を連れてくるために一人出掛けるヨン。

ヨンがドアを出ると刺客が潜んでいるのに気付く。

ファスインが出てくる。

急いで家の中に戻るヨン。

ヨン「慶昌君様、私から離れないで下さい」

ウンス「何なの?」

ヨン「大門まで走り抜けます。立ち止まらぬよう遅れずついてきてください。いいですね?」

ウンス「いったい何事よ?」

ヨン「行きますよ」

剣を抜くヨン。

その様子に急いでウンスも追いかける。

ウンス「行こう」

ヨン達に向かってくる兵達と、ヨン達を庇護する兵達の二つがぶつかり合っている。

慶昌君とウンスを後ろに従え、どうするべきかと悩むヨン。

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