シンイ〜信義〜 |
---|
第6話〜消えた小さな命〜 ヨンがドアを出ると刺客が潜んでいるのに気付く。 ファスインが出てくる。 急いで家の中に戻るヨン。 ヨン「慶昌君様、私から離れないで下さい」 ウンス「何なの?」 ヨン「大門まで走り抜けます。立ち止まらぬよう遅れずついてきてください。いいですね?」 ウンス「いったい何事よ?」 ヨン「行きますよ」 剣を抜くヨン。 その様子に急いでウンスも追いかける。 ウンス「行こう」 ヨン達に向かってくる兵達と、ヨン達を庇護する兵達の二つがぶつかり合っている。 慶昌君とウンスを後ろに従え、どうするべきかと悩むヨン。 ファスイン「逆賊として官軍のお縄になるか、私達のもとへ来るか」 ヨン「それより中に戻りたいのだが」 ファスイン「早く決めて。長引く程無駄な死が増えるわ」 ヨン「身勝手だな」 ウンス「あれって私達のせい?」 ヨン「はい」 ウンス「味方はどっち?」 ヨン「さあ、どっちやら」 ウンス「じゃあ無視して逃げましょ?」 ウンスを笑って見るヨン。 ヨン「先にあちらへ」 二人を先に逃がし追手を次々に始末していくヨン。 ヨン「出来るだけ遠くへ。じきに雨が降ります。悪天候では追手も諦めます」 慶昌君「ヨンは?」 ヨン「後程参ります」 ウンス「あなたは?何で私達だけなの?」 ヨン「黙って言うとおりにして下さい。行くのです。必ず探し出します。隠れていてください」 ヨンは二人と別れ、残りの追手を一人残らず片付ける。 その頃、副隊長から密命を受けて隊長を探しにきたチュソク。 途中見張りがいて動けなくなるが、怪しい山賊が一人やってくる。 聞くと同じく隊長を探して連れ戻せと密命を受けてやってきたという。 その山賊から話を聞くと、隊長が慶昌君を連れ出し逆賊となることを官軍は始めから知っていて待機していたと言われる。 つまりヨンとウンスは罠にはめられたのだ。 逆賊となれば処刑はまぬがれない。 これがチョルの狙いだった。 だけどチョルの誤算はウンス。 ウンスが本物の天人だと気づくのが遅すぎた。 全ての事情を知るチュソク。 二人は共に山中を進み隊長を探す。 まだ解毒も出来ていないのにとチャン侍医に怒られるが、寝ているテマンを無理やり起こして王妃の所に連れて行く尚宮。 王妃「チェヨンと一緒だったのか?」 テマン「さ・・・さようで」 王妃「キチョルはすぐ医仙を引き渡したか?」 テマン「はい、しかし・・・」 王妃「チェヨンと医仙はキチョルの命でカンファドへ?」 テマン「はい、ですが・・・」 王妃「なぜじゃ?チェヨンはキチョルの手先か?」 テマン「ち・・・違います」 王妃「ではなぜキチョルの命に従った?」 テマン「それは・・・その・・・」 王妃「もうよい。下がれ」 チャン侍医「事情があるかと。医仙をめぐりプオングンが脅したとも考えられます」 尚宮「私もそう思います。慶昌君を治せなければ医仙を処刑する。医仙を助けたくば病を治せなどと」 王妃「どうでもよい。聞きたくもない」 尚宮「王妃様、チェヨンは仕方なく・・・」 王妃「チェヨンの立場など知らぬ。不利な者の肩を持つより責める方がずっとたやすく面白かろうに」 途中で山小屋を見つけ避難したウンスと慶昌君。 外は激しい雨。 馬小屋に繋いだ馬に餌をあげているウンスはふと物音に気付き馬に括り付けてあった短剣を手に身構える。 思い切って短剣を振り下ろすと、それはヨンだった。 ヨン「確かめて下さい」 ウンス「あなたならよけてくれると思ったんだもの」 ヨン「むやみに振り回してはいけません。敵か味方か見分けて下さい」 家の中に入る二人。 ウンス「今まで何してたの?遅いわよ。よくここが解ったわね?馬も中に入れたの。見つかると困るから。お手柄でしょ?でも糞をしたら・・・」 眠る慶昌君の様子を見るヨン。 外は大きな雷が鳴っている。 その光でヨンの顔が血だらけなのに気づく。 ウンス「すごい血!見せて」 ヨン「返り血です」 ウンス「拭いて」 その場で拭こうとするヨンを突き飛ばすウンス。 ウンス「あっちで。この子が寝てる」 ヨン「この子とは無礼な」 遠くの柱に寄りかかって座り布で返り血を拭くヨンは、雷の光に照らされたウンスの横顔に見とれる。 慶昌君を労わりながらいつの間にか一緒に寝てしまったウンスはふと目が覚める。 ヨンを見ると柱に寄りかかって座ったまま眠っていた。 ウンス「(小声で)ねえ、昨日の夜は少し眠れた?」 何も言わずにそっぽを向くヨン。 ウンス「意識が戻ってからろくに寝てないわけ?なのに戦って馬を走らせて私達を守って・・・」 ため息をつく。 ヨンの隣に座るウンス。 黙って移動するヨン。 むっとした顔でもう一度ヨンの隣に座るウンス。 ヨン「何をなさる?」 自分の肩を叩いて。 ウンス「ここで寝れば?今度は私が守るから少し眠って」 ヨン「男が女の肩に寄りかかれますか」 ウンス「弱ってる人に肩を貸すだけよ。男女は関係ないわ。さあもたれて。守ってあげる。寝るのが趣味なんでしょ?部下から聞いたわ。『放っておくと3泊4日寝ます。起きたら一気にメシを食らって寝なおします。それがすごい所です』寝太郎が強がらずもたれて眠りなさいよ。睡眠の乱れは食欲の乱れ。集中力も落ちて鬱や肥満になる。だから寝て。物音がしたら・・・」 ヨンの頭がウンスの肩に。 ヨンが眠ったのを確認して手首の脈を調べ、ヨンの額に手をあて熱を見る。 ウンス「(独り言)血のにおい・・・」 一瞬だけ薄目を開けるヨン。 翌日。 痛がる慶昌君に質問するウンス。 痛がってるのにやたら質問するなと怒るヨン。 『私があげたアスピリンはまだある?』とヨンから奪い慶昌君に飲ませる。 そして薬が効いてくるまでの間気をまぎらわせてあげるためにウンスは慶昌君に歌を歌って聞かせるが、あまりに音痴で笑いだす慶昌君とヨン。 誰かが近づいてくる音に気付くヨン。 シッと黙らせる。 チュソク達だった。 チョルの屋敷ではファスインが二人を殺すはずだったのに失敗して取り逃がしたことに必死で言い訳している。 だがチョルから『でかした』と言われ当惑するファスイン。 チュソク達と合流したヨン達は今までの事情とカンファ郡主の話を聞かされている。 これが罠なのか謀反なのかを公平に判断し庇護してくれるらしいと。 チュソク「カンファ郡主と面識はあるのですか?信用出来ますか?」 ヨン「面識もなく信用もできんが頼るしかない。逃げ続けるわけにもいかん」 チュソク「他に身を寄せますか?」 ヨン「お前は戻れ」 チュソク「隊長は?」 ヨン「王に伝えてくれ」 チュソク「王はご機嫌が悪く・・・これは副隊長の密命です。隊長のもとへ来たことを知ったら」 ヨン「伝言くらいで殺しはせぬ」 チュソク「本当に?」 ヨン「自信はないが」 チュソク「隊長」 ヨン「お咎めなく生き長らえたら王の返事を知らせに戻れ。待ってるぞ」 チュソク「王が返事を下さいますか?」 ヨン「言ったろ?俺も自信はない。俺のせいで命を落とすかもしれん。許してくれ」 皇宮。 ますます不仲になる王と王妃。 食卓を挟み向かい合って座っている。 王「(チャン侍医へ)心を痛めているのかと聞いてみよ」 チャン侍医「(王妃へ)心を痛めでおいでなのかと問うておられます」 王妃「(チャン侍医へ)そうだと伝えよ」 チャン侍医「(王へ)そうだとのこと」 王妃は自分が代わりに人質となりチェヨンとウンスを取り戻すべきだと言い張っている。 王は首を切られたせいで頭までおかしくなったのかと王妃をなじっている。 『そんなに余をおとしめたいのか!それほどチェヨンを好いておるのか!』と怒る王。 でも涙をこぼしながら訴える王妃。 王妃「王様には私などよりもあの者が必要だと思いました」 王「なぜだ?」 王妃「王様はご存知なくご興味もないでしょうが私は・・・」 そこへ大声を上げて入ってくるイルシン。 王はこの時、副隊長の密命で近衛隊の一人が隊長に会いに行ったことを知ってしまう。 大事な告白をそがれた王妃の悲しい目。 大事な部下達に騙された気分の王。 そして逆賊の汚名をかぶってしまった近衛隊の隊員達。 カンファ郡主の邸宅に到着したヨン達。 郡主「ご案内致します」 慶昌君「ソンオ、久しぶりだな」 郡主「医仙様ですか?」 ウンス「ええまあ・・・初めまして。ところで先に慶昌君様を休ませてもらえませんか?ご挨拶は改めて」 慶昌君を布団に寝かせたウンスは具合を尋ねると『医仙の薬はよく効くんだな』と喜んでいる。 郡主に事情を説明しているヨン。 ヨン「本当に慶昌君を擁立するおつもりか?いかがです?」 郡主「そなた、チェヨンだったな。私は国の禄を食べておる。それを子子孫孫に継承するには何が大事か」 ヨン「子孫のことなど考えたこともなく」 郡主「いつか機会があらばお教えしよう。そなたが納得ゆくまで」 庭に咲いているハーブをつんでいるウンス。 黄色い菊の花を見つけ近づき見ている。 それを見つめるヨン。 ヨン「どうしました?」 ウンス「鎮痛剤になる薬草を見てるの。これはハッカ。ペパーミントよ。私の大好きなカクテルにも入ってる。モヒートよ。おいしいのよね」 ヨン「慶昌君様の所に戻らねば」 ウンス「ここは安全でしょ?心配なら先に戻って。でも鎮痛剤の作り方が問題なのよね。汁を絞り出すのかな?煎じるのかしら?」 ヨン「解らないのですか?」 ウンス「私達の時代は医者は薬を作らないの」 菊の花を一輪もぎ取るウンス。 ウンス「製薬会社が大量生産して薬局に卸すの。医者は薬の名前をパソコンに入力するだけ。私が使いたい薬は全部・・・どうぞ」 菊の花を差し出す。 ヨン「何です?」 ウンス「あなたにあげる」 ヨン「戻ります」 ウンス「ちょっと待って!少しじっとしてて」 ヨン「何だ?」 ウンス「じっとしててよ。何かついてるみたい。何かしら、変ね」 言いながらヨンの耳に菊の花を挿す。 そして大笑いするウンス。 ウンス「ウケる!似合いすぎ!」 慌てて花を振り払うヨン。 ヨン「そんなに楽しいですか?」 ウンス「花のいい香りが血のにおいを和らげてくれるわ」 二人で慶昌君の所に戻る途中、部屋の周りに警護に立つ官軍を見るヨン。 いぶかしく思い急いで慶昌君の部屋へ入ろうとするが郡主に眠っているからと止められる。 食事はいかがか?と郡主に問われると『昨日から何も食べてない!』と大喜びして一緒に向かってしまうウンス。 仕方なくヨンも後を追うことに。 まだ怪しんでいるヨン。 慶昌君の部屋にはプオングンが来ていた。 あれこれと悪知恵を吹き込みチェヨンと医仙を手にいれるための算段を慶昌君に話している。 だがヨンをよく知る慶昌君は泣きながらめんどくさがりのヨンは絶対にかしづいたりはしないと言い張る。 食事をしているヨン達。 ガツガツ食べているウンスを見ながらも慶昌君が気になって仕方ないヨン。 郡主「もしも慶昌君が復位を望み力を貸せと頼まれたらどうする?」 ヨン「おやめください」 郡主「そう言わず考えてみなされ」 ヨン「剣を振り回すだけの武官にも頭はあります。今の状況でそのような問いかけには答 えかねます」 郡主「私は危険を覚悟しあなた方を招いたのだ。問いかけ一つ答えてくれぬのか?」 チョルと慶昌君。 チョルは懐から毒の入った小さなツボを取り出す。 チョル「これが解りますか?一飲みで五臓六腑を燃やす火苦毒です。五臓六腑からじわじわと燃やし尽くします。その激痛は想像を絶するほど。チェヨンにおっしゃいませ。薬を飲んで死んでくれと。そしてキチョルはお前にだけ罪を問い私は助けると約束したと。快く薬を飲むか確かめましょう」 涙をこぼしながら薬をじっと見つめる慶昌君。 食事しているヨン達。 郡主「復位の話を持ちかけられたらどうなさる?」 ヨン「慶昌君様に剣を向けます」 むせるウンス。 ヨン「私は王の近衛隊ゆえ王を脅かす者それが誰であれ斬らねばなりませぬ」 更にたたみ掛けるチョル。 チョル「慶昌君様に罪はありません。チェヨンさえ死ねば何事もなかったように収めます。さもなくば慶昌君様が命を落としますぞ?生き地獄のような極刑です」 慶昌君「そなたはヨンを手に入れたいのだろう?なのになぜ殺すのだ?」 チョル「慶昌君様のせいです。人間の本性を暴き教えて差し上げたいのです。どの道チェヨンは死ぬ定めにあります。死なせておやりなさい」 慶昌君「ヨン・・・ヨンを助ける道はないのか?」 チョル「慶昌君様が身代わりになりますか?死なば擁立も何も謀反も起こせませぬゆえ」 慶昌君のことが気になり急いで向かうヨン。 ウンス「ねえちょっと待って。こうしない?」 ヨン「話は後程」 ウンス「慶昌君様と私を天門まで連れてって。私の世界に行けばちゃんと手術出来る。抗ガン治療も受けられるわ」 ヨン「天門は開いてますか?」 ウンス「じゃ、ここにいて何とかなる?逆賊だと疑われてるのよ。時代劇じゃ逆賊は処刑されるのが定番よ。私まで殺されるかも。黙ってないで何とか言いなさいよ」 ヨン「天門までの道のりは?」 ウンス「それは途中で人に道を聞いて・・・」 ヨン「官軍を振り切れますか?」 ウンス「それは・・・」 歩き出すヨン。 背中に語りかける。 ウンス「一緒に行こう」 止まるヨン。 ウンス「あなたが誰も殺さずに済む所へ。天界へ一緒に行こう。私と」 黙って歩き出すヨン。 ヨンが部屋の前まで来ると、さっき見かけた官軍の兵が一人もいなくなっていた。 横になっている慶昌君に語りかける。 ヨン「よく眠れましたか?」 慶昌君に近寄ると痛がって震えてるように見える。 ヨン「痛みますか?」 ヨンはウンスを呼ぶ。 慶昌君「ヨンよ」 隊長と会い伝言を伝えるために皇宮に戻ったチュソク。 だが官軍が大勢走り回り物々しい空気に気付く。 隠れていたが見つかって捉えられてしまうチュソク。 ヨンの呼ぶ声に飛んでくるウンス。 ウンス「いつから?いつ痛み出したの?これは・・・何をしたの?」 慶昌君の腕が真っ赤に焼けただれている。 そこにあった小さなツボを見つけるヨン。 ヨン「慶昌君様、まさかこれを?火苦毒のにおいが・・・」 ウンス「何なの?」 ヨン「慶昌君様に誰がこれを?」 ウンス「教えてよ!」 ヨン「毒です。飲めば体中を燃やし尽くします」 ウンス「これ・・・塩酸かしら?」 ヨン「火苦毒だ!医仙だろ?早く何とかしろ」 ウンス「強い劇薬なの?」 ヨン「一思いに死ぬことも出来ぬ。生殺しの状態で肉が焼かれていく」 ウンス「胃を洗浄してみる?」 ヨン「医仙、もしや対処を知らぬのか?手立てが・・・ないのか?」 ウンス「残念だけど」 ヨン「冷や水を頼む。熱だけでも下げねば」 水を取るに走るウンス。 慶昌君を抱き寄せるヨン。 もう全身が焼けただれている。 ヨン「慶昌君様」 慶昌君「プオングンが教えてくれたのじゃ。どうすればお前を助けられるのか」 ヨン「キチョルが・・・来ていたのですか?あの者のせいで」 慶昌君「あの者は何も知らずに」 ヨン「あやつが・・・慶昌君様に毒を?」 慶昌君「どうせ長くは生きられぬ。あの者はそうとも知らずこの毒をヨンに飲ませよと言った。愚かだな。つまらぬ浅知恵だ」 ヨン「それで慶昌君様が代わりに毒を?」 大粒の涙をこぼすヨン。 ヨン「どれほどの苦しみか」 慶昌君「私も行けるだろうか?あの上・・・天界に」 ヨン「もちろんです」 慶昌君「聞かせてくれ。天界の・・・話をしてくれ」 慶昌君を抱きしめるヨン。 ヨン「馬のない馬車がすいすい走っておりました。すごく広い道に馬車があふれんばかり。辺り一面光に満ちて夜空はキラキラ輝いていました」 慶昌君「痛い・・・苦しい。ヨン・・・」 ヨン「ゆえに向こうでどれほどの闇夜でも道には迷いませぬ」 慶昌君「すごく・・・痛い」 ヨン「もう、楽にして差し上げます。そうしてもよろしいですか?」 慶昌君「頼む・・・そうしてくれ。もう・・・耐えられぬ」 腰に刺した短剣にゆっくり手を持っていく。 慶昌君を抱きしめると同時に短剣で刺すヨン。 嗚咽を必死にこらえて慶昌君を抱きしめる。 そこへ水を持って戻ってくるウンス。 急いで平静を装う。 胸から血を流す慶昌君を見て言葉をなくすウンス。 ヨンの手には血のついた短剣が。 ウンス「まさかあなたが?刺したの?」 ヨン「家の主人が裏切ったようです。すぐに発ちます。ここにいて下さい。様子を見てきます」 近づいてくるヨンから後ずさりするウンス。 逃げようとするウンスの手を掴む。 ヨン「私に従ってくれ、そばにいろ、離れては守れないと言ったはずです」 ウンス「触らないで!汚れた手をどけて」 ヨン「行くな!頼む」 それでも出て行くウンス。 ウンスを追いかけるヨン。 階段でつまづいて落ちそうになったウンスを抱きかかえるチョル。 チョル「危ない」 ヨン「キチョル・・・その方を降ろせ。お前に用がある」 剣を抜くヨン。 チョルに向かって行こうとするがチョヌムジャに邪魔される。 チョヌムジャと戦うヨンだが、ウンスの肩に右手を置くファスインが目に入る。 そう、火功の右手。 ファスインに向けて投げた盾はチョルの氷漬けに合い粉々に砕け散る。 チョル「チェヨン、慶昌君様はどこだ?」 ヨン「どこまで腐ってる?ぬけぬけと。知らぬとは言わせぬ!」 ウンスを取り返すため近寄ろうとするがチョルの配下にある大勢の官軍に取り囲まれてしまう。 チョル「ここに廃位された慶昌君を逃がし王に謀反を働いた罪人がおる。取り押さえよ」 ウンスの肩に置かれたファスインの右手。 ヨンは諦めて剣を捨てそこに跪く。 悲しい目でそれを見つめるウンス。 跪いたまままた、悲しい目で見つめるヨン。 だがウンスは目をそらす。 涙をこぼしながら。 鎖で縛られ檻に入れられるヨン。 ファスインに見張られているウンス。 部屋の中をうろうろしている。 ウンス「おかしいわ。歴史はこんなはずない。チェヨン将軍は歳を取って死ぬはず。ということはこの件じゃ死なない」 ファスイン「本当に・・・未来を予知する天人なの?」 ウンス「史実がそうだから」 ファスイン「私のことも?ファスインの名前は出てこない?何てある?火功の名手、ファスインって?世の男の胸を焦がせた女人とか?」 ウンス「何かがおかしいわ。わずかだけど少しづつ歴史が変わってきてる。チェヨンはこれからどうなるの?」 ファスイン「反逆者の運命?死ぬしかないわ。しかも凌遅刑でね。大勢が見ている中で罪人を柱に縛り付けて肉を切り落としていくの。一気にはやらないわ。すぐに殺さずゆっくりと。激痛にもだえて死んでいくようにするの」 ウンス「裁判はないの?私が証人になるわ。あの人はいつも人ばっかり斬ってるけど反逆は濡れ衣よ。私見てたもの」 ファスイン「私より舎兄に言えば?」 ウンス「舎兄って?」 ファスイン「王より舎兄の方が頼りになる。うまくやってね。あんないい男を殺すのは惜しいわ」 ウンス「あなたの舎兄に弱点ってある?」 ファスイン「弱点?私だって知りたいくらい。一つだけ絶対に強気で行くこと。弱い者は虫けらみたいに踏みつける人よ」 檻の中で寝てるヨン。 郡主「近衛隊チェヨン。恨むなよ」 ヨン「罠にかかった自分の責任です。恨むなど」 郡主「そうか。ところでまだ教えてなかったな。国の禄を子孫に残す方法だ」 ヨン「それを言いにわざわざ?」 郡主「詫びのつもりで聞いてくれ」 ヨン「傾聴します」 郡主「大事なことは3つ。その1、力のある者を見分けろ。その2、何としてもその者につけ。その3、これが重要だ」 ヨン「何です?」 郡主「己の選んだ道を信じ抜け」 ヨン「子孫とは何ともわずらわしいものですね。私はいりません」 チョル達と一緒に出てくるウンス。 ヨンは檻の中からウンスをじっと見つめている。 最後に一度だけヨンに振り返り、チョルの後を追うウンス。 皇宮は周りをプオングンの手先である官軍に包囲されおまけにプオングンの私兵までもが我が物顔で歩いている。 そして王もまた、王室に監禁されていた。 王でありながら部屋から出ることも許されず。 トギは荷車に山のような糞を積み門の前にやってくる。 見張りを続ける官軍がその匂いに大騒ぎしている間にテマンがこっそり兵舎に忍び込む。 副隊長「お前だけか?チュソクは?」 テマン「王に会うと言ってカンアン殿の方へ」 副隊長「王に会うとは何のつもりだ?」 テマン「隊長がその・・・お・・・王に伝言があるとか」 副隊長「隊長は無事か?何だ?どういうことだ!?」 テマン「王は禁軍とキチョルの私兵に囲まれ幾重にも警備され入る隙間もないし。それに隊長は・・・隊長は捕まったって」 副隊長「何で隊長が捕まる?」 テマン「カンファドで捕まって連行されて」 副隊長「でたらめだ!」 テマン「皆そう言ってます。すごい騒ぎです」 トクマン「近衛隊はどうなります?」 トルベ「あんな門蹴破って出ましょう。門を蹴破って隊長を助けに行きましょう」 トクマン「名案だ。それがいい」 副隊長「隊長を助けた後は?」 トルベ「こんな国、捨てます。逆賊になって死ぬくらいならパーっと暴れて大盗賊になって・・・」 副隊長「馬鹿野郎!鎧も武器も持ってかれた。どう戦うんだ?」 頑丈な鎖で繋がれ牢に閉じ込められるヨン。 それはヨンのために特別にしつらえられた、とても強固な鎖だった。 第7話へ |