シンイ〜信義〜
第2話〜約束の行方と現実〜

王「国の行く末を思えば一個人の約束より大事なことがあろう?違うか?」

ヨン「重臣は国のためなら約束を犬のえさにし私は武士ゆえ国のために人を斬ります。しかし王様だけはあるべき姿で正道を歩んで頂きたいのです。理想ですが」

その言葉をじっと吟味している王。

その頃開京(ケギョン)。

徳省府院君(トクソンプオングン)キ・チョルの屋敷。

高麗の大臣達の暗殺計画を練っている。

キ・チョルは部下に全員殺せと命を下す。

密旨を受け取った大臣達は指定された場所に一同に会すがそこで全員暗殺される。

ウンスは通された部屋に幽閉されている間お茶を入れてくれている侍女に『どうか逃がしてくれ』と懇願している。

密偵に裏で報告していた侍女だ。

ウンス「今は手持ちがなくて。近くにATMがあれば行きましょ。ローンの利息払いで貯金も少ないけど貸付サービスでお礼の分借りるわ。50万ウォン?100万ウォン?」

必死で持ちかけるウンスだが相手にしてくれない侍女。

最後の『200万ウォン!』の言葉に反応する侍女は黙って外へ通ずるドアの鍵を開けてくれる。

喜ぶウンス。

部屋の前ではヨンの命でテマンが見張りをしている。

テマン「おとなしくしています」

ヨン「見張ってろ」

テマン「いつまで?」

ヨン「じき王命が下る。辛抱しろ」

あまりに静かなので心配になったテマンは部屋をこっそり覗いてみるがウンスの姿が見えないことに気付く。

開いたドアから急いでウンスを探しに行くテマン。

逃げ出したウンスは訳も分からず村の中を走り回っている。

村人に道を尋ねるが誰も返事をしてくれない。

持っていた携帯を見るが電波が入らない。

テマンが追いかけてきていることに気付いたウンスは近くにあった洋服屋に隠れる。

それを覗き見ているのはこの間の密偵達。

王妃のみならずウンスの命も狙っている。

テマンがよこした使いの伝令でウンスが逃げたことを知るヨン。

宿の護衛が手薄になることを恐れて自分一人でウンスを探しに出かける。

背中には2012年のソウルから持ってきた強化アクリル材の盾を担いで。

その頃ウンスを逃がした侍女は、王妃の部屋でまだ意識の戻らない王妃を殺そうとしている。

そこにやってきた副隊長のせいで果たせずに終わる。

テマンと合流したヨン。

テマン「あそこです。俺なんかが天のお方を捕まえていいものか。無理矢理しょっ引くわけにもいかないし」

見張っていたはずのウンスを取り逃がしてしまい隊長に怒られると怯えるテマンは必死に言い訳している。

テマンを巻いたウンスは山中まで逃げてきた。

ウンス「巨大な撮影所ね。ありえない!どこまでセットの中なの?」

村まで戻ったウンスは村人を探すがどこにもいない。

やっと見つけたのは刀を作る鍛冶屋の男。

ウンス「ちょっとお尋ねしますがここは・・・」

反応がない。

行こうとするが数人の男たちに捉えられてしまうウンス。

殴られて気絶したウンスはそこに血痕と履いていた片方のハイヒールを残しどこかに連れ去られる。

必死で探すヨンは子供達が持っていたハイヒールの折れたヒール部分に目を止める。

この時代にはないものだ。

ウンスの危機を知る。

テマンが偶然見つける。

ウンスが履いていたと思われる靴の片方だ。

そしてそこに残された血痕。

ウンスのものだと察するヨン。

ヨン「賊は3人だ。刺客とこの賊はおそらく同じ一味だ。これは医員の血だ。まだ時間はたっていない」

テマン「急がないと」

ヨン「宿を襲った刺客の仕業だ。船を隠し足止めを食らわせ宿を襲う。これくらいは誰でもたくらむがなぜ医員を知った?」

テマン「まさか内部に間者が?」

ヨン「いる」

急いで船の持ち主をあたるヨン達。

ウンスがいるであろう場所を突き止めるがそこにウンスの姿は見つからず宿を毒で襲撃する計画を知ってしまうヨン。

王と王妃が危ないとウンスを後回しにし急いで宿まで戻る。

危機一髪の所で王妃を救うヨン。

その騒ぎに目を覚ました王妃。

王も王妃も無事なことを確認し再度ウンスを探しに戻る。

怒りを爆発させるヨンは『見回るから副隊長に知らせろ』とテマンに伝え歩き出すがそこにウンスが持っていた携帯が鳴り出す。

携帯のアラーム「恵んで下さい。何か食べ物を。何か下さい」

聞き慣れない電子音に気付いたヨンはテマンを待機させ電子音に近づくとそこに猿ぐつわを噛まされたウンスが。

テマン「逃げられなかったらこの女を道連れにすると言ってます」

ウンスにナイフを突きつける刺客を憎悪の目でにらみつけながら刺客の隙をついてナイフを投げウンスを助ける。

そして縛られていた手首のロープと猿ぐつわをはずしてあげる。

ヨン「手間のかかるお方だ。むやみに逃げるからこうなるのです。顔に傷まで作って。見せて」

ヨンの手を振り払って持っていたバッグを探すウンス。

ウンス「ついてこないで!ただじゃおかない」

テマンが持っていた自分のバッグを奪って逃げようとするウンス。

ヨン「王妃の意識が戻りました。お帰しします。天界へ」

ウンス「また荷物みたいに扱ったら承知しないから!」

そう言われたヨンは今度は担ぐのではなくウンスを抱き上げる。

暴れるウンスに笑うヨン。

ヨン「暴れないで」

天門へと続く山道を歩く二人。

ウンス「ここさっきの所よね?でもカンナムまでどう行くの?どうやって来たのかさっぱり。ゆっくり歩いてよ!」

天門は既に閉まりかけている。

ヨン「見て下さい。門が小さくなっています。閉じれば戻れなくなる。さあ早く」

ウンス「中に入ればいいの?門があるの?その後は?」

ヨン「入るだけです」

ウンス「簡単に言うけどちゃんとテストしたの?問題はない?」

ウンスの前まで行ききっちり頭を下げるヨン。

ヨン「ご苦労をおかけした」

あと少しで天門という所でイルシンが呼び止める。

イルシン「お帰しできませぬ」

ヨン「高麗の武士の名にかけて誓った。我が名を汚す者断じて許さぬ!」

剣を抜くヨン。

王命によりウンスを帰すなと決定したと言い張るイルシン。

王命と言われたら従うしかない。

悩んだあげく自分の剣を地面に突き刺しウンスを捕まえるヨン。

暴れるウンスを悲しい目で見つめながら。

そして閉まりかけていた天門は完全に閉じてしまう。

ヨン「臣下チェ・ヨン、王命に従い天の医員を捕らえました」

ウンス「最低の人間ね。約束したでしょ?帰してくれるって言ったのに。人殺し!殺してやる!」

地面に刺してあったヨンの刀を掴んでヨンに向けるウンス。

向かってきたウンスの剣をよけずに、その剣を甘んじて受けるヨン。

ウンスはヨンの腹を刺してしまう。

そしてウンスの手を掴んで自分で更に深く突き刺す。

ウンス「どうして・・・なぜなの?何でよけないの?」

ヨン「命で・・・償う」

自分の腹に突き刺さった剣を掴んでそこに倒れ込むヨン。

その頃王は宿の部屋で酒を飲んでいる。

王妃「高麗の武士が命をかけた約束、それを反故にせよと命を下された。つまり王命に背くか死か。選ばせたのですか?どちらを選んでも待つのは死。あの者(ヨン)は死ぬしかないのですね」

王「そなた、余を責めるのか?」

王妃「まさか、確かめただけです。本当に死なせたいとお考えかと伺いたくて」

天門では、ウンスに手を差し出すイルシンを無視して突き飛ばしヨンに駆け寄るウンス。

ウンス「声は聞こえる?剣は抜かないで!出血がひどくなる。点滴も輸血も無理。何かテープに代わるものを。巻きつけて運びます。固い布はない?」

後ろでウンスに語り続けるイルシンを全部無視するウンス。

ヨン「構わぬ・・・もう話せない、痛む。皆戻れ、早く」

ウンス「私は行かない。この人が死ねば私は殺人者になる。行かないわ」

それを聞いたイルシンはヨンに刺さっていた剣を引き抜いてしまう。

イルシン「近衛隊長は私が殺しました。ご安心を」

ウンス「手術の道具をここに!」

急いで取りに走るテマン。

意識が薄れゆくヨン。

宿まで手術道具を取りにきたテマン。

テマン「天の医員様の命で道具がいります」

王「なにゆえに?」

テマン「いただきます」

チャン侍医「負傷者は誰だ?」

テマン「隊長が剣を受けて・・・」

王「隊長が刺されたと?では余の命に背いたため斬ったというのか?」

テマン「隊の中に隊長を斬れる者などいません。お願いです。隊長が死にます。行かせて下さい」

王「答えよ!近衛隊長チェ・ヨンは余の命に背いたのか?」

テマン「いえ、従いました。そのために死にかけています」

王妃「行きなさい。私が許します」

王妃の言葉であわてて走り出すテマン。

だが急ぐあまり抗生剤のビンを落としたことに気付いていなかった。

王妃「チャン侍医、そなたも。近衛隊長は命の恩人。王妃として命じます。あの者を救うのです」

チャン侍医も後を追う。

残された王と王妃。

王妃「よろしいですか?王様」

ヨンを担架に乗せ山道を急ぐ一同。

ウンス「しっかり。声は聞こえる?」

ヨン「体中をなでられては気も失えません」

ウンス「心拍数が上がれば循環血液量減少症になる。点滴も出来ないし・・・」

ヨン「構うな」

ウンス「何て?」

ヨン「俺は甘んじて剣を受けたのだ。本当に俺を助けたいならここに置いて行け。何とか生きのびる。俺を捨てて行くんだ。頼む」

ウンス「シャラップ!」

ヨン「何だ?」

ウンス「黙ってよく聞くのよ。まず私があなたを助けるわ。そしたら死ぬも生きるも好きにして。今は死なせない」

宿に到着するなり手術の準備を始めるウンス。

ウンス「明かりは全部ともして。お湯を沸かして。きれいな布も必要です。抗生剤は?これくらいのビンです。こんな汚い所じゃ敗血症になってしまう!抗生剤と麻酔薬の代わりが必要よ。セファロチンはない?」

ウンスの言葉の半分も理解出来ないがしばし考えるチャン侍医。

二人残された王と王妃。

王「一度しか言わぬゆえよく聞きなさい」

王妃「聞いております」

王「今後は何事も余の許しを得よ。先に王妃が出ることのないよう言葉一つ歩み一つ全てです。いいですね」

返事をしない王妃。

王「高貴な元の姫君が余に嫁ぐのは腹立たしかろう。祖国を離れ見知らぬ地へ行くことにも納得いくまい。だが余は一国の君主でありそなたと縁を結んだ。礼は尽くしなさい。返事をせよ」

王妃「返事をしてよいというご命令がなく。できませぬ」

麻酔薬が必要だとまだ騒いでいるウンス。

チャン侍医は考え自分で作った麻沸散を使っている。

メスで腹を切ろうとするウンスの手を止めるチャン侍医。

チャン侍医「何をなさる?」

ウンス「開腹するのよ。腹を開くの」

チャン侍医「刺し傷だけの治療ではないのですか?」

ウンス「みぞおちからヘソまで切開し損傷を確認します。おそらく肝臓は傷ついてる。まずは観ないと。このまま出血が続けば手の施しようがないわ。やらせて」

チャン侍医「殺しかけた者を助けるとおっしゃった。本当ですか?」

ウンス「信じて」

チャン侍医「無理です」

ウンス「私は天から来たんでしょ?だったら信じて」

やっとヨンの手術が始まる。

その頃キ・チョルの屋敷では『王妃がまだ生きている』と話している。

王妃に刺客を放ったのはキ・チョルだった。

王妃が生きていると報告にきた密偵を殺せと命を受けたチョヌムジャは自らの笛の音で息の根を止める。

宿では。

ウンス「胃は無傷ね。自己消化は起きてない。肝臓の裂傷を縫合します。太い血管は縛って止血。微小血管は・・・困ったわ。ボビーがあればね。一番太い針はどれ?太すぎるから別のを。クランプを固定。微小血管を焼きます。縫合」

夜明けを迎える。

ヨンはわずかに目を覚ます。

起き上がろうとして腹の痛みに気付く。

横には夜通し治療し続けたウンスが椅子に座ったまま眠っている。

ヨンは痛む腹をおさえながら自分の剣を掴むがよろけてしまう。

その音に目を覚ますウンスは近くにあったメスを掴んでヨンに向ける。

ウンス「動かないで!剣を置いて。逆らえば・・・」

ヨン「どうするんだ?自分で刺して夜通し治療してまた刺すのか?その繰り返しか?」

王もまだこの宿にいることが解ったヨンは急いで出立せねばと痛む腹を押さえて準備にとりかかる。

事情が解っていないウンスはヨンを追ってきて『絶対安静なのに!』と騒いでいる。

ヨン「敵はあなたの正体を知って連れ去った」

ウンス「敵って?」

ヨン「どこまで把握しているのか。とにかく今は逃げるのが先決」

ウンス「なんで私が逃げるのよ?」

ヨン「解らないお方だ。お帰しすると約束した。果たすまで死なせない。その時まで必ず守るから黙って俺の傍にいろ」

私は行かないと叫ぶウンス。

天門はここにあるのに!と。

テマンにウンスを任せて行ってしまうヨン。

道中の馬車の中。

ウンスは王妃と同じ馬車に乗っている。

ウンス「何なのよ。クッションもなし?それにしてもあのサイコ、傷が開いても知らないから。精一杯やったわ。訴えるならご勝手に」

王妃の手首の脈と顔色を確認したウンス。

ウンス「名前は?私はユ・ウンス。あなたより年上かしら?」

王妃「元の魏王の娘です」

ウンス「王の娘ってお姫様ってこと?悪い夢を見てるんだわ。前の馬車に乗ってるのは?」

王妃「王様です」

ウンス「王様にお姫様ね。元って中国の元?じゃあ韓国は何時代?高句麗か新羅?医学部だったから歴史に疎くて。それじゃここは・・・」

王妃「先程高麗に入りました」

ウンス「私はタイムマシンに乗ったってこと?大韓民国のカンナムから高麗に来ちゃったわけ?2012年から・・・高麗は何年?数百年か千年くらい前?」

王妃「家臣に聞きました。天からおいでになったと。近衛隊長が無理にお連れしたとか。私の治療のために。心から詫びます」

ウンス「なんて長い夢なの!」

馬車に向かい話しかける声が。

もうじき目的の皇宮に到着するが宣仁殿(ソニンデン)に行ってくれと。

首の傷も隠したいし長旅ゆえ風呂にも入りたいのにと怒り出す王妃。

王妃が持っていた鏡で傷を気にしているのを見たウンスは自分のバッグから鏡を取り出し王妃に渡す。

ぼんやりとしか写らない自分の鏡とは違いはっきりと写るウンスの鏡に驚く王妃。

そしてバッグから取り出した自分の化粧品で王妃の顔を作ってあげる。

初めてわずかに微笑む王妃。

皇宮に到着する一行だが、出迎えが誰ひとりとていないことに驚く。

その頃王を出迎えるはずの重臣達はキ・チョルの屋敷で祝いの宴に盛り上がっていた。

王とキ・チョルを天秤にかけた重臣達はキ・チョルを選んだということだ。

皇宮はもぬけの殻、閑散としていた。

王だけが座ることを許された王座にゆっくり近づく王。

そこへやってくる侍女たち。

王の前で跪く。

チェ尚宮(サングン)「王様、王妃様おかえりなさいませ。覚えておいでですか?まだ10歳の幼い王様が元に行かれる折、私の手を握っておられました」

王「チェ尚宮か?」

尚宮「そうでございます。今日まで生き長らえておりました。立ち上がりお仕えするご命令を」

王「あの頃のままだ。変わっておらぬ。立ちなさい」

尚宮「ひとまずお部屋へ移りお疲れを取って下さい。何をしているのです。早くご案内なさい」

尚宮が何を話しかけても反応しない王妃。

そして尚宮はヨンの顔を見る。

尚宮「その顔色は何です?王を守るべき者己を管理なさい」

ちっと舌打ちして王妃の後を追う尚宮。

そう、チェ尚宮はチェ・ヨンの叔母に当たる。

だから厳しい言葉が言えるのだ。

尚宮の言葉にふとヨンの顔色を見るウンス。

抗生剤がなかったせいで敗血症になってしまったのではと心配するがウンスの手を振り払って行ってしまうヨン。

だが一人になったヨンは大量の汗を流しフラフラになりながらそこにへたり込んでしまう。

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