シンイ〜信義〜 |
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第19話〜刀の重さ〜 次から次に襲い来るチョルの私兵達をひたすら斬り続けてるヨン。 全身に返り血を浴び私兵達と睨みあう。 ひたすら待ち続ける王。 まだ禁軍の応援は来ない。 ヨンの右手も限界を迎えている。 皇宮の重臣達。 未だ結論が出ない。 見かねた王妃は最後の手段に出る。 額には汗がにじんでいる。 王妃「いっそ王を見殺しにすると申せ。我らは主君を見捨てる。それが答えだと。王様は家臣を信じ待っておられる。一晩でも百晩でも待ちましょうが私は待てぬ。いっそ見捨てなさい。捨てる勇気も、救う勇気もないのか?」 アンジェのもとに王の玉璽が押された書簡が届く。 ジェ「作戦開始!王を迎えにいくぞ!」 王妃の言葉でやっと決心した重臣達。 征東行省に押し寄せる禁軍。 そして征東行省を制圧する。 それを知り急いで逃げるトックングン。 駆けつけたアンジェに『トックングンを追うと王に伝えてくれ』と言い残しヨンは一人で探しに行く。 だがトックングンはタンサガンが放った使いにつれられて逃げた後だった。 ウンスは一人ヨンの部屋で薬剤を切っている。 ふと外の足音に気付き走り出す。 外では近衛隊達の無事の帰還を喜び合っていた。 そこへ飛んでくるウンス。 ウンスはヨンを見るなりヨンの身体を見回し安堵する。 だけどヨンは隊員達に『ご苦労だった』と一言だけを残しウンスを無視して行ってしまう。 後を追いかけるウンス。 部屋に入るなり持っていた刀を放り投げるヨン。 ウンスはそれを丁寧に机に置く。 ウンス「鎧を脱ぐの手伝うわ」 ヨン「結構」 ウンス「やめてよ。背を向けたり拒絶したりしないで」 ヨンの返り血がついた頬に触れようとするウンスの手を振り払うヨン。 ヨン「返り血です」 ウンス「解ってる」 ヨン「今日の相手は訓練を受けぬ私兵ゆえ斬るのは難しくありませんでした。ゆえに・・・」 返り血にも構わず黙ってヨンの首に腕を回すウンス。 言葉もなく抱きしめあう。 同じく王と王妃。 王「トックングンは逃がしてしまった。捕らえていれば殺す名分も立とうに。王を殺そうとしたのだ。言い逃れはできまい。征東行省は制圧した。今後あそこをどう使おう?案が浮かばぬ」 王妃「今日の心配事は何です?」 王「昼は重臣達の心を動かし、夜は王の心中を案ずるのか?余はチェヨンに詫びきれぬ」 王妃「怪我でも?」 王「犠牲を最小限に留めんとつらい役目を負わせた。余は大義名分を得たが代償は隊長が払った。どう努めても心がざわつく」 タンサガンのところに逃げ込んだトックングンは今すぐ高麗を出ろと言われるが『自分は高麗の王だぞ』と反論する。 今王の禁軍に攻め入られたら太刀打ちできぬからだと言いくるめられるトックングン。 転んでもタダでは起きたくないトックングンはその足でプオングンのもとへやってくる。 今まで天など信じていなかったトックングンはウンスが持っていたフィルムケースの話をチョルに話して聞かせる。 そして『天かどうかは定かではないがあの女はまだ知らぬ地からやってきたのは確かだ』と告げる。 奪った華佗の形見の隠し場所を教える代わりにヨンとウンスを殺せと言われるチョルだが、疑っていたはずのトックングンまで信じるようになったのなら間違いなく医仙は天界の人だともうその一点しか頭にないチョル。 ヨンの部屋。 ヨンの手を調べるためウンスが指示を出している。 ウンス「力いっぱい引いて。うーん。大きくて頼もしい手なのに。器具があれば検査出来るのに。神経の異常なのか心理的なものか。横になって」 ヨン「横に?」 ウンス「治療なの。言うことをきいて」 ヨンの刀を手にしたウンスを見てせっかく寝たのにまた起き上がる。 ウンス「師匠の剣よね?」 ヨン「ええ。座って」 隣に座るウンス。 ヨン「これは鬼剣といいます。人を斬れば普通は刃が鈍りますがこれは岩でも折れませぬ。めったに血がつくこともありませんが昨日は血に染まりました。鞘から抜く音もよく暗闇でも淡く光ります。月光のごとく」 ウンス「私はこれであなたを刺したのね」 ヨン「こいつが私の師を刺しました」 ウンス「すごくつらかったわね。師匠を亡くして」 ヨン「ええ」 ウンス「だから寝てばかりいたの?夢で会うために?」 ヨン「最初は夢に見ましたがもう出ません。待っているのに」 ウンス「もし・・・」 ヨン「もし?」 ウンス「私と出会わなければ今も寝てばかりいた?」 ヨン「どうでしょうか。あなたに出会わなければなどと考えませぬ。あなたに毒を刺した奴を取り逃がしました。あなたを脅した奴も捕らえられず。この剣は斬るべき者を斬れず罪なき者を斬ってしまう」 解毒薬がダメになったことを言えずにいるウンス。 王の指示を聞いている護衛達。 トックングンを直ちに探し出すこと。 プオングンを反逆罪に処すこと。 会議が終わり一斉に席を立つが、ヨンだけを呼び止める王。 王「医仙が帰るまであと何日ある?」 ヨン「あと13日です」 王「今日は捜索が終了次第、医仙と過ごすように。作った解毒薬がダメになったと聞いた。今日は一緒に過ごせ」 寝耳に水だった。 つまりこれで二人が一緒に生きる道はなくなったのだ。 テマン「口止めされたんです。泣きながら頼まれて俺も言えませんでした」 ヨン「泣いてた?」 テマン「あんなに泣く人初めて見ました」 次は尚宮だ。 尚宮「己よりお前の心配ばかり。帰った後のことを気にして。自分が死んだらお前が苦しむかなど。己のことは考えもせずお前のことだけ。直接聞くように言ったがどうだ?」 トックングンを探すためタンサガンに会いに行ったヨンは既に元へ送りだしたと言われる。 そしてタンサガンから『医仙のせいで自分が死ぬかもしれない』と聞かされる。 ひとまず捜索が終わったヨンはウンスに問いただすため自分の部屋に戻るが、部屋の前で躊躇する。 目にはうっすらと涙が。 部屋に入ると誰もいない。 作りかけの解毒薬が置いてあった場所を見ると、ウンスが新たに作り始めた新しい器が3つ置いてあった。 蓋を開けて中を覗き、そして机ごとひっくり返す。 ウンスはその頃王妃の部屋で王妃の脈を診ていた。 自分で作った石鹸と化粧品を王妃に渡すウンス。 王妃から『別れの準備ですか?』と問われるがこの間の質問に答えますと言う。 ウンス「お子を授かる時期とその後のご様子をお知りになりたいと言ってましたね。もし私が10年後に授かると言ったらどうしますか?10年後まで顔も見ませんか?」 王妃「よく解りました」 ウンス「お二人は長くは一緒にいられません。100年もは無理でしょ?だから今を大切に愛して下さい」 王妃「愛して?」 ウンス「言葉に出来ないほど相手を思い傍にいるのに恋しいと思うのが愛です」 王妃の部屋から出てくるとヨンが待ち伏せしていた。 何も言わずにウンスの腕を掴んで引っ張っていくヨン。 ヨン「私の部屋で襲撃を受けたとか。解毒薬がだめになったことも私に黙ってた」 ウンス「それは・・・」 ヨン「何のつもりです?」 ウンス「なかったことにするの」 ヨン「何?」 ウンス「近衛隊が守ってくれて無事だったし解毒薬はまた作るつもり」 ヨン「また作る?その前に死ぬぞ!」 ウンス「生きたくて作るのに死ぬ話?部屋に戻りましょ」 ヨン「この一度だけ・・・誓いを破りかけた。あなたを帰すという誓い。己の欲に負けて、守れる保証もないくせに、あなたの命まで懸けて!俺は何てことを・・・」 ウンス「二人の約束よ。私も一緒にいたい」 ヨン「ここに残って欲しいと言ったことは取り下げます。私が間違っていたのです」 ウンス「あのね・・・」 ヨン「先に戻ります」 行ってしまうヨンの背中を悲しい目で見つめるウンス。 チョルの屋敷では反逆罪で屋敷を追い出されるため荷物の整理をしている。 が、タダでは出て行きたくないと何かを画策しているチョヌムジャとファスイン。 深夜。 部屋に戻れないウンスは一人座り込む。 黄色い菊の花を見つめて。 そこに副隊長が通りかかる。 副隊長「夜も更けました」 ウンス「そうね」 副隊長「兵舎までお送りします」 ウンス「もう少ししたら自分で帰るわ」 副隊長「隊長は気持ちを伝えるのが苦手ですが意地の悪い方ではありません」 ウンス「どうかしら」 副隊長「もし一緒の部屋が嫌なら別にご用意を?」 ウンス「お願い」 副隊長「やはり・・・皆案じてました。あの隊長が寝床を譲るはずがないと。部下の話では毎晩椅子2つでお休みのようだと。布団だけでもと・・・部下が申して」 ウンス「やっぱり送って」 副隊長「困ったことがあれば遠慮なく申して下さい」 部屋に戻ったウンス。 ウンス「今戻りました」 ヨン「明日、発ちましょう」 ウンス「嫌よ」 ヨン「明朝早く」 ウンス「さっきから一方的ね。今度は私の番」 ヨン「聞きましょう」 ウンス「私は自力で解毒薬を作ってここに残る」 ヨン「なりません!」 ウンス「ここに残ってあなたの傍にいるわ。帰るか帰らないか悩んで時間を無駄にしたくない」 ヨン「今何を言ったか・・・」 ウンス「解ってる。薬が作れなければ私は死ぬわ。あなたの目の前で。そうなったらあなたが傍にいて。最後まで抱きしめていて。一人にしないで」 部屋から出ていくヨン。 ドアを叩きつけて閉めそこで立ち止まり必死で涙をこらえる。 そして部屋に戻る。 ヨン「荷物をまとめるのです。天門の前に張り付いて開くのを待つ」 ウンス「どこへも行かないわ!ここに残る」 ヨン「縛って担ごうか?」 ウンス「その後は?私が帰った後は?私はどうなると思う?」 ヨン「帰れば助かる」 ウンス「命は助かるわ!天界にある私の家で平凡に暮らすはず。毎日よく知らない人達を診察して心にもないことを言って夜になれば誰も待つ人のいない家に帰る。眠りにつくたびきっと聞くわ。『そこにいる?』って。解ってる。返事なんてない。そしてまた朝がきていつもの1日が始まる。死人と同じ。それがどんな人生か解らない?解るでしょ?あなたなら」 ヨン「あなたの命が削られる間傍にいられず、惚れた女の薬も放って人を斬ってた!そんな俺が傍にいろなんて言えない!」 ヨンの右手が震えている。 たまらずヨンの右手を取って自分の胸に当て泣き出すウンス。 ヨンの手を濡れタオルで冷やしてあげる。 手首の脈とヨンの首に指を当て確かめる。 ウンス「頭痛はない?」 ヨン「ええ」 ウンス「検査はしてないけど診た限りでは手の震えは精神的なものかも」 ヨン「タンサガンの一行は高麗を出ました。もう戻りませぬ。でも居所を知る以上安心は禁物。帰るまで・・・」 そっぽをむくウンス。 ヨン「こっちを見て」 それでも見ないウンス。 ヨン「俺を見て」 仕方なく見る。 ヨン「あなたが去った後俺は大丈夫かと聞きましたね?」 ウンス「ええ」 ヨン「大丈夫です。しっかり食べ元気に過ごします。時間が経てば忘れます。思い出すこともありません。ゆえにお帰り下さい。あなたもつらくてもすぐ元気になれますよ。人一倍明るい方だ。そう信じています」 ウンス「帰ったら私はダメだわ。耐えられなくてあなたを探すわ。でも天門を見つけられずおかしな世界を彷徨ってしまう」 ヨン「どうかそんなことはしないで下さい」 大きなため息をつく。 ヨン「残された時間は出来る限り傍にいます。安心出来ませぬし。あと、あなたが笑顔で過ごせるよう努めます」 翌日。 いつものように作戦会議をしていると王に話があるから人払いをと頼むヨンがいる。 ヨン「私は師のもとへ行きたいようです」 王「何と?」 ヨン「師匠が他界する数日前見たのです。師匠が剣を落とす姿を」 それを聞いた王は先日ふいにヨンが剣を落としたのを慌てて拾う姿を思い出す。 ヨン「今ならその意味が解ります」 王「何だ?」 ヨン「剣を置く時がきたようです。人を斬ることがつらいのです。あと7日。ご奉公は医仙をお送りする日までで」 王「その日まで医仙と過ごすがよい。それと余はそなたをいつまでも待つ」 一室に集まった近衛隊達。 ウンスもいる。 ヨン「プオングンの屋敷へ行き財産を整理しろ。金目の物は他へ移したろうが残りを・・・」 そこでちらっとウンスを見る。 ヨン「かき集めて整理し国庫へ封じる。副隊長」 副隊長「はい」 ヨン「分担を決めろ。トルベ」 トルベ「はい」 ヨン「トクマン」 トクマン「はい」 ヨン「ユ・ウンス」 え?っという顔で返事がない。 まさか自分が呼ばれるとは思っていない。 ヨン「返事!」 ウンス「はい?」 ヨン「俺の護衛につけ」 プオングンの屋敷の捜査に来た近衛隊。 キョロキョロしてるウンスの手を引いて無理矢理連れていく。 もう逃げた後なのでチョル達一派も兵もいなくなって閑散としている。 チョル達がいたであろう部屋に入るとウンスが必死で引き出しという引き出しを探し始める。 チョルがもっていた華佗の形見の品が残っていないかと。 解っているヨンはそれを見てため息をつく。 ヨン「形見の品は探しましたがありません」 落胆するウンス。 ヨン「捜索を続けろ。我々はあちらへ」 そう指示を出してウンスの手を引いて外に出るヨン。 出ていく二人をニヤニヤしながら眺めているトルベとトクマン。 二人で歩いているとあの日を思い出すウンス。 ヨンが剣を取りに来たと称し『嘘は上手ですか?』と尋ねられたこと。 ヨン「ここが懐かしい?」 ウンス「ああ・・・ご飯も山盛りで服もくれた」 ヨン「服もお好きですか?」 ウンス「大好きよ。高価できれいな服が好き」 ヨン「他には何が?」 ウンス「風の吹く日も雨が降る日も好き。中でも雨が降り出す瞬間が一番かな。雨が一粒二粒降りだしておでこにポツって落ちた瞬間。あら?って空を見上げる時。その瞬間」 ヨン「それだけ?」 ウンス「そうねえ・・・黄色の小菊や・・・」 ヨンの鎧や服を見て。 ウンス「灰色。青色。それから・・・」 ウンスの心の声『背の高い男。それに合う大きな手』 ヨン「他にはありませんか?」 ウンスの心の声『それからその声も』 ウンス「そうね。欲がなくなったのかな。隊長は何が好き?」 しばらく考えてウンスを見た後、ウンスの肩にそっと手を置く。 『あなただ』 言葉にはしないがそれが精いっぱいのヨンの愛情表現。 そんな会話をしているとふと一人の男が目に入るヨン。 トルベにウンスを任せ急ぎその男を追う。 捕まえるとその男が短剣を持っているのが解る。 ヨン「下人が物騒だな。プオングンの使いか?」 奪った短剣を思わず落とすヨン。 その隙に男は逃げだす。 いよいよヨンの右手は使い物にならなくなっていく。 そして急いでウンスのもとへ戻るとウンスは隊員達と楽しくおしゃべりしていた。 また怖い顔のヨン。 ヨン「副隊長」 副隊長「はい」 ヨン「ここは任せる」 副隊長「はい」 いつもの調子で返事をしてから『え?』っという顔になる副隊長。 副隊長「隊長は?」 ヨン「用がある」 それだけ言ってウンスの手を掴んで無理矢理連れていく。 それを見ている副隊長、トルベ、トクマン、テマン。 やっぱりヨンを指差してニヤニヤしている。 同じく逃げ出したチョル一派。 チョルの身体も内功の使い過ぎで日に日に限界に近づいていた。 最後の手段ですと薬を差し出す薬師。 薬師「いいですか?これは最終手段です」 チョル「構わぬ」 薬師「内功を強化し夜叉の力を得る薬ですがもって数時間です。恐ろしい副作用も伴います」 チョル「覚悟の上だ」 そこへ入ってくるファスイン。 ファスイン「女の居所を突き止めたわ」 意気揚々と立ち上がるチョル。 ヨンの部屋に戻った二人。 ヨン「プオングンもここを嗅ぎつけたようです」 ウンス「どこかへ逃げる?隠れる?」 ヨン「気晴らしを」 鎧を脱いでいたが驚いて振り返るウンス。 ウンス「今何て?隊長?」 ヨン「気晴らしに買い物にでも行きましょう」 ウンス「買ってくれるの?」 ヨン「服がいいですか?」 ウンス「お金あるの?」 ヨン「これまでの禄がかなりたまってます」 ウンス「じゃあ何でも買ってくれる?」 ヨン「ええ」 ウンス「服も靴もアクセサリーも?」 ヨン「何でも」 ウンス「いつ?」 ヨン「部下に指示をしたら行きましょう」 もう嬉しくて仕方がないウンスはニヤニヤして早速支度を始める。 ヨン「そんなに嬉しいですか?」 うんうんと頷くウンス。 その間ヨンはウンスが新たに作り始めた解毒薬を見る。 ヨン「諦めないのですね」 ウンス「何が?」 ヨン「解毒薬を作ってこの地に残ることです」 ウンス「見てて。必ず成功させるわ」 ヨン「本当に頑固なお方だ」 ウンス「だから早く慣れたら?抵抗するだけ無駄よ」 同じく王の間。 王に聞こえないように小声で何かを話している王妃と尚宮とドチ。 わざとこれ見よがしに音を出す王だがそれでも構わずまだこそこそ話している3人。 いよいよ王も怒り出す。 王「大事な話か?」 王妃「王様、絵を描きに参りませんか?」 王「外へ?」 王妃「はい。野外で絵を描くには護衛が必要です。近衛隊長を呼びましょう。私も医仙と参りとうございます。もし冷気で風邪などひいても医仙がいれば・・・その・・・2人が共に過ごせる時間は残りわずか。でも医仙は身を隠さねばならず隊長も多忙」 尚宮「王様も早朝から夜半まで激務に追われしばし気晴らしをなさってはいかがかと」 王「解毒薬はできなかったのか?」 王妃「はい」 王「医仙は帰らねばならぬのだな」 王妃「致し方ございませぬ」 王「それで隊長は大丈夫だろうか?」 尚宮「隊長がこれしきで心を乱したりはしませぬ」 王「甥を労わってやれ。隊長にとり医仙はただの女人ではない。隊長は医仙と出会い余への態度も変わった。先代の跡を継いだ新王、その程度だったのに初めて王と認めるまでに」 別の小屋に潜むチョル一派。 まだ元へは逃げず高麗でグズグズしている。 ウンスの居所は既に突き止めたゆえ皇宮へ行くと言いだすチョル。 王の禁軍が大勢いるというのに。 止めるチョヌムジャとファスインの声は耳に入っていない。 チョニシ。 トギが探し物をしていると偶然チャン侍医が書き残したと思われる書を見つける。 チャン侍医の研究日誌だ。 中をチラチラ覗いてみるとあらゆる毒について書かれている。 それを見つけたトギは急いでウンスのもとへ走るがウンスには漢字が読めず尚宮に読んで貰うことにする。 尚宮「飛虫と類似の毒は次の通り、とあります」 ウンス「類似の毒?」 尚宮「似た症状が出る毒で治療する、とありますが何のことだか」 ウンス「同種療法かしら?類似の毒は何です?」 尚宮「ノクチュ毒と書いてあります」 書を閉じてしまう尚宮。 ウンス「叔母様?」 尚宮「だめです。毒を体内に入れ毒に勝つという方法ですが危険ゆえ勧めぬとチャン侍医も書いています。だから特には言わずおいたのでしょう。ご理解を」 ウンス「だけど理にかなった方法よ。私の世界でこの研究のセミナーにも行ったわ」 尚宮「危険すぎます」 ウンス「あの人剣を置いていくの。次は何を置くのか・・・私怖いんです」 夜、ヨンは自分の部屋で剣を見つめている。 思い出す。 ********************************************************************************** ウンス『さっき投げたでしょ?投げてたわ。いつも肌身離さず持ってた剣をえいって投げた』 ヨン『重くなったのか』 ウンス『剣が重くなったって?』 ヨン『あり得ますか?急に剣が重く感じるなど』 ********************************************************************************** 寝台で眠るウンスの布団を治してあげると1枚の紙が落ちる。 ウンスが書いた天門が開く日までのカレンダーだ。 ウンスの寝顔を見つめた後ウンスの額に触れ熱を測り、そして自分の額を触ってみる。 ウンスが起きないようにそっと髪を撫でじっと寝顔を見つめる。 兵舎では新たに発足するための新人の力観察をしている。 副隊長「新人達ですが実力に幅があります。家柄や身分が違うため衝突が絶えませぬ」 ヨンは自分が書いた計画書を副隊長に渡し、この通りに隊を編成し鍛えろと指示を出して行ってしまう。 それを見たトルベがヨンに走り寄る。 トルベ「関係ありませぬ」 ヨン「何がだ?」 トルベ「手です。原因は解りませんが」 ヨン「誰から聞いた?」 トルベ「いいえ、違うんです」 ヨン「だから何だ?」 トルベ「剣を落とすのを見て」 ヨン「それで?」 トルベ「手など構いませぬ。このまま隊長でいて下さい。俺が手になります。隊長の剣には及ばずとも槍の腕は確かです。槍で隊長の手になります」 トルベの頭を叩くヨン。 ヨン「偉そうに言うな。己の頭も隙だらけだ」 飛んできたのはテマン。 テマン「あいつが来ました!隊長に会いたいって」 テマンに連れられて駆けつけるとチョルとチョヌムジャとファスインが。 チョル「待ちかねたぞ」 ヨン「大逆賊キチョル。王室の侍医を殺害し脱獄まで犯した罪人二人。直ちに投獄する。武器の携帯を調べよ」 ヨンの隣で必死な形相で槍を構えるトルベを複雑な目で見るヨン。 トルベに命を無駄にして欲しくない。 チョル「自らの足で獄に入ろう。代わりに頼みがある。医仙に会わせてくれ」 ヨン「医仙に会うために自首するのですか?」 チョル「願ってもない話だろう?後ろの弟妹が素直に従うようなたまか?今のお前には我ら3人を相手にはできまい?」 ヨンの部屋で待っていると入ってきたのはトクマン。 トクマン「医仙様、こちらに?」 ウンス「はい」 トクマン「両陛下が遊山に参られます。随行の隊員に医仙をご指名です。私も参ります」 ウンスの前でデレデレしているトクマンを投げ飛ばして入ってくるヨン。 ヨン「断って下さい」 ウンス「何が?」 ヨン「プオングンがお会いしたいと来ています」 ヨンに連れられてチョルがいる牢に来た二人。 ヨン「怖いですか?」 ウンス「傍にいてね」 ヨン「もちろん」 ウンス「なら大丈夫」 牢に入る。 チョル「思い出した。確かあの時は互いの立場が逆だったな」 ヨン「そうでしたね」 チョル「あの時殺さなかったことが悔やまれる」 ヨン「お連れしました。危害は加えないと誓えますか?」 チョル「もちろんだ。誓おう。無礼なこともせぬ」 ウンスを見たチョルの目が輝く。 チョル「どれほど探したことか」 ウンス「チャン侍医まで犠牲にして」 チョル「弟妹は手加減を知りませぬ。お許しくだされ。私は心を病んでおります。治して下さい」 ウンス「本題を言って」 チョル「天人ではないのですか?」 ウンス「違うわ」 チョル「ではどこの方か?」 ウンス「明日の世界よ」 チョル「明日?」 ウンス「今から600年以上も先の世界。つまりここの子供達が大人になり子をもうけ、そうやって絶え間なく続く先の世界」 チョル「そこに行けば私の病は治りますか?」 ウンス「どこが悪いの?」 チョル「この身体は欲しいものは何でも手にいれました。うまそうなもの、美しいもの、貴重なもの、しかし満たされませぬ。満たされず王を替え満たされず・・・人の目もくり抜きました。なのに心は飢えたまま。その飢えが私の身体をむしばんでおります。でもその世界に行けば」 ウンス「その病気は治らないわ。私の世界にはあなたのような病人ばかり。皆際限なく飢えていく」 チョル「まだそんな嘘を。空飛ぶ馬車(飛行機のこと)があるのだろう?」 ウンス「あるわ」 チョル「それほどのものを持つ世界の住人が満たされぬはずがない!」 一同は王の遊山に来ている。 ぞろぞろと護衛を連れて。 王妃がモデルとなり王が描いている。 少し離れた場所を歩くヨンとウンス。 ウンスと手を繋ごうとするがウンスがよけるので繋げないヨン。 2回繰り返し、3回目にウンスの手を半ば無理矢理掴むヨン。 熱があると気づいたヨンと、気づかれたくなくて避けてたウンス。 ヨンはウンスのおでこに手を当てる。 ヨン「熱があるのでは?」 ウンス「少しだけ」 ヨン「いつから?」 ウンス「今朝から徐々に」 ヨン「熱が出るのが早すぎる。発症はまだ先のはず」 ウンス「それで考えたの」 ヨン「発熱から7日しか持たない」 ウンス「知ってる。チャン侍医も言ってた」 ヨン「天門が開くまであと10日。ならば今から・・・」 ウンス「話を聞いて。まだ微熱よ。今のうちに試したい方法があるの。熱が上がれば手遅れになるから」 ヨン「手立てがあるのですか?」 ウンス「今夜試したいの。協力してくれる?」 ヨン「対処できるのですね?」 ウンス「だから今夜に備えて今は穏やかに過ごしたいの」 ヨン「はい」 ウンス「隊長も穏やかでないと落ち着けない」 ヨン「はい。他には?」 ウンス「それだけで十分よ」 優しくウンスを抱きしめる。 でもまだヨンはウンスが何をしようとしているのかを知らない。 王と並んで座るヨン。 王「プオングンの様子は?」 ヨン「心を病んでいます」 王「己の心に穴があると以前申しておった」 ヨン「王様。今は忘れたく思います。心を平穏にせねばなりませぬゆえ。医仙に頼まれたので。どうかお願いします」 王「解った」 少し離れた場所で王が描いた絵を見ているウンス、王妃、尚宮、ドチ。 ドチ「皇宮に戻って色をお塗りになるそうです」 王妃がヨンを見る。 王妃「隊長が医仙を見ております。愛・・・なのですね」 ウンス「はい」 王妃「教えてあげましたか?その言葉と意味を」 ウンス「隊長は天界語を話したがらないんです。王妃様?それからチェ尚宮さん、ドチさん。すみませんがあちらに並んで下さいますか?」 尚宮「王様のお隣にですか?」 ウンス「はい。皆さんのお姿を見ておきたくて。ご一緒に覚えておきたいの」 王妃「解りました」 5人を順番に眺め、そして最後にヨンを見る。 仏頂面のヨンに『笑って』と合図を送るウンス。 第20話へ |