シンイ〜信義〜
第20話〜生きて、そして、きっと出会う〜

少し離れた場所で王が描いた絵を見ているウンス、王妃、尚宮、ドチ。

ドチ「皇宮に戻って色をお塗りになるそうです」

王妃がヨンを見る。

王妃「隊長が医仙を見ております。愛・・・なのですね」

ウンス「はい」

王妃「教えてあげましたか?その言葉と意味を」

ウンス「隊長は天界語を話したがらないんです。王妃様?それからチェ尚宮さん、ドチさん。すみませんがあちらに並んで下さいますか?」

尚宮「王様のお隣にですか?」

ウンス「はい。皆さんのお姿を見ておきたくて。ご一緒に覚えておきたいの」

王妃「解りました」

5人を順番に眺め、そして最後にヨンを見る。

仏頂面のヨンに『笑って』と合図を送るウンス。

チョニシにいるウンスは今夜の準備をしている。

トクマン「医仙様、こちらがノクチュ毒です。危険物ゆえ取扱いにご注意を」

ウンス「ありがとう」

トクマン「ほんの少しの量で即死だとか」

ウンス「解ってる。千倍以上に薄めて使うわ」

毒を飲もうと決めたウンスはその準備に勤しんでいる。

その頃ヨンは自分に部屋に戻ってみると誰もいない。

テマンに聞くとチョニシに行ったと言われ自分もチョニシに向かう。

チョニシ。

トギが水に毒を溶かしている。

話を聞きつけて先に飛んできたのは尚宮。

尚宮「試すのですね」

ウンス「叔母様」

尚宮「お伝えしましたのに。人の命を奪う毒なのですよ。懲りずに新たな毒まで飲むおつもりですか?」

ウンス「この方法はちゃんと根拠もあって・・・」

そこへ駆けつけたヨン。

ヨン「何なのですか?毒って何のことだ?」

ウンス「これなの、今夜試したいことって。隊長の力を借りなきゃできない。傍で手伝ってくれる?」

部屋に戻った二人。

ヨン「毒を飲み毒を制す?」

ウンス「そうよ」

ヨン「成功の確率は?」

ウンス「正直な所、解らない。試したことないから。でも言わせて。このまま何もしなかったら熱が上がって死ぬだけになる」

ヨンはウンスが書いた天門が開く日までのカレンダーを机に叩きつける。

ヨン「これは天門が開くまでの日数ですね?」

ウンス「ええ」

ヨン「これだけ日数があればいろいろして差し上げられる。でも今夜失敗したら俺には何も出来ない!笑わせることも」

腕の包帯をとって見せるウンス。

ウンス「もう時間がないの」

ヨン「どうして・・・そんな平気な顔が・・・できる?」

ウンス「じゃあもうお別れかもって泣いて過ごすの?悔しすぎるわ。私はうまくいくと信じてる。きっと成功して助かる。あなたの傍で生きていける。大丈夫よ」

夜。

トギがヨンの部屋に解熱剤をもってくる。

ウンス「毒が反応を起こせば高熱が出るはずです。意識を失うかもしれませんが見守って下さい。毒が毒と戦ってる証拠です」

尚宮「承知しました」

ウンス「朝になっても熱が下がらなければ解熱剤を飲ませて下さい。熱が長引くと危険です。水分補給も頼みます」

ヨン「俺がやります」

尚宮「しかし・・・」

ヨン「俺がずっと付き添う」

毒を飲んだウンスの髪を解き、くしでとかしてあげるヨン。

苦しみだしたウンスを思い切り抱きしめる。

翌朝、尚宮が様子を見にやってくる。

ヨンは一晩中ウンスの手を握り看病し続けた。

尚宮「ご様子は?」

ヨン「熱が下がらぬ。朝なのに」

尚宮「高熱だ。少し休め。私が見てる」

ヨン「この方はずっと戦ってる。夜通し、決してあきらめず」

尚宮「解ってる。そういうお方だ。長期戦になるやもしれぬ。休みなさい」

握っていたウンスの手を布団に入れ歩きだすがふと立ち止まるヨン。

目に入ったのはウンスから貰ったアスピリン。

ウンスに言われた言葉を思いだし急いで残り2錠を取り出す。

それを自分の口に入れ噛み砕いてから、ウンスに口移しで飲ませる。

尋問のため牢から出されるチョルは王のもとへ連れていかれる。

チョルは薬師から受け取った最後の薬を飲んでいた。

王の前まできたチョルは繋がれていたはずの鎖を内功で吹き飛ばす。

ウンスに付き添っていたヨンはテマンの笛の音に気付く。

尚宮「何事だ?」

テマン「大変です!あの男が王に迫って」

尚宮「あの男?」

テマン「プオングンのキチョルです」

尚宮「急げ。医仙は私が診る」

少し迷うヨンだがテマンを連れて急いで王のもとへ向かう。

大事な剣を置いたまま。

チョルが王の間で尋問を受けている間に華佗の形見とウンスを探しにきたチョヌムジャとファスイン。

次々と近衛隊を殺していくチョル。

逃げようとする王を止める。

王「正気の沙汰ではない。いったい何の真似か?」

チョル「騒ぎませぬゆえ私のものをお返し下さい。王様の他は皆はずして頂きたい。面倒でなりませぬ」

あちこちで死んでいる部下達を見るヨンの怒りは頂点に達する。

チョルと対面する。

王「プオングンは常軌を逸しており見境もつかぬ」

ヨン「プオングン様、何事ですか?」

チョル「医仙を出せ。共に参りたい所がある」

自分の右手を見るヨン。

それを見るトルベ。

槍を構えチョルに向かっていってしまう。

ヨン「よせ・・・」

トルベ「こっちだ!」

ヨン「やめろ!」

チョルに首を掴まれたトルベは内功にやられ氷漬けになってしまう。

一方ウンス。

尚宮が解熱剤を用意しに行っている間に目を覚ます。

ヨンの右手になろうとしたトルベ。

ヨンは倒れたトルベに駈け寄り必死で声をかけるもトルベは命を落とす。

ヨン「剣をくれ」

トクマンが差し出す。

ヨン「下がってろ。下がれ!」

チョル「虚勢をはるな」

ヨン「副隊長、王様を頼む」

王「援護しろ。一人で戦わせるな」

ヨン「手出しは無用。近づけば斬る」

剣を引きずりながらチョルに向かっていくヨン。

ヨン「副隊長急げ」

王「余は残る。隊長の後ろにおる」

チョル「医仙を連れて来い」

ヨン「断る」

チョル「医仙を出すまで宮中の者を一人ずつ斬る。それが私の策だ」

ヨン「勝手は許しませぬ」

チョル「そんな手で何が出来る?」

王「隊長、一度くらい引いてもよい」

ヨン「ご心配なく王様」

王「手が悪いことは知っておる」

ヨン「何ともありませぬ。ただ、剣が重いのです」

チョル「くだらぬ意地を」

打ち合いをしているとチョルの剣が折れる。

チョル「その剣はいったい・・・」

ヨン「申したはずです。重い剣だと」

一方ウンス。

尚宮が解熱剤を持ってくるとウンスが起き上がろうとしている。

尚宮「気がつきましたか?解りますか?」

ウンス「あの人は?」

ヨン「宮中に用があり行きました。夜通し高熱に苦しんだとか。ご気分は?」

ウンス「少し・・・めまいがします。何だか体中が痛くて・・・よかった」

尚宮「真に何より。まったく無謀な方ですね」

ウンス「全て夢だったような気がする。夢の中でも不安でした。ものすごく怖かった」

尚宮「ヨンが一晩中付き添っていました」

ウンス「あの人・・・心配したでしょうね」

尚宮「その・・・解毒出来たのですか?」

ウンス「解りません」

尚宮の手を掴んで自分の額に当てるウンス。

尚宮「熱はありませぬ」

ウンス「ええ。早くて不規則だった脈が・・・戻ってる。叔母様、私・・・助かったんだわ」

急にほっとして泣き出すウンスを優しく尚宮が抱きしめる。

華佗の形見の品を取り戻したチョヌムジャとファスインは今度はウンスを探している。

チョルと対面しているヨン。

ヨン「王様、この者にご用がありますか?なければここで息の根を止める許可を」

王「プオングン、余を殺したかろうが余はそなたを殺めとうない。話し合わぬか?そなた も高麗の民。令妹キ皇后も祖国を思うてくれておる。願わくば互いに生きる道を・・・」

チョル「初めはただ軟弱で自尊心の強いお方とばかり。王様に政の手腕がおありとは。チェヨン、お前程の男なら天下取りも夢ではない」

ヨン「口を慎め」

チョル「この王はお前を猟犬として重宝するのみ。用済みとあらばすぐ煮立つ湯に投げ入れる。だがその時もお前は喜んで入ろう」

ヨン「黙れ」

チョル「民草は王の名すら知らぬ。だがお前の名を知らぬ者はおらぬ」

チョルの言葉でヨンは思い出す。

そして師匠が先王に殺された時と全く同じ展開だと気づく。

王「何を申しておる」
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先王『国の民草は余よりこの者達を頼りにする。貴様は民草が王である余より信を置く赤月隊の隊長か?答えよ』

師匠『王様』

先王『はたしてそうか?民草を守るのは王である余ではなく赤月隊か?』
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チョル「そもそも王様の今の座は自ら築いたものですか?己の血を流して?朝廷の忠臣達もこの者が集めました。開京の禁軍、国境の守備隊もこの者に従います。王様にあるのは王という肩書のみ。どうだ、チェヨン。王にならぬか?元皇帝の勅書ならすぐもらってこよう」

王「隊長」

ヨ「はい、王様」

王「あの者に答えよ」

ヨン「王様に申し上げます。7年前ある方が同じように返答を迫られました。問いがあまりに重くその方は自らの命をもって返答しました。今解りました。それは誤りだったと。あの方は間違ったのです。なぜなら逃げたのですから」

チョル「チェヨン、王になりたくないか?なぜ欲を出さぬ?」

ヨン「既に王を得ながら他に何を望む?王様ご命令下さい」

王「余は・・・」

チョル「いい時間稼ぎが出来たわ」

そういって出ていくチョル。

ヨンの部屋へ伝令に駆けつけるテマン。

テマン「あいつらが来ます!笛男と火女です!」

急いでウンスに上着を着せる尚宮。

皇宮へ連れていくと。

そこへファスイン。

とうとう見つかってしまう。

テマンが相手をしているうちに逃げようとすると近衛隊の一人がウンスを助けにやってくる。

テマンが火功でやられているのを見た尚宮はウンスをそこに隠し剣で加勢する。

助けにきた近衛隊に連れられていくウンス。

だが近衛隊に扮したチョルの手先だった。

尚宮とテマンの機転でこの時、ファスインの息の根を止めることに成功する。

捕まったウンスは薬師の眠り薬で眠らされてしまう。

倒れているファスインを見つけたチョヌムジャ。

今度はチョヌムジャの怒りが頂点に達する。

首を焼かれながら必死でヨンを探しにきたテマン。

テマン「医仙様がいません。王妃のコンソン殿に行くと言ったのに姿がないんです」

ヨン「何だと?」

急いで行こうとするがテマンの首に気付く。

テマンの頭をひとなでして足早に歩き出す。

この騒ぎに王のもとへやってきた王妃。

王「まだ調べておる最中だ」

王妃「何が狙いでしょう?」

ドチが床下に隠してあった華佗の形見である錆びた手術道具を見つける。

王「医仙の天の道具か?」

王妃「違うものです。これには錆がついております」

王「医仙にしか解らぬ品だ」

王妃「隊長はどこですか?」

王「開京中を捜索させておる。だが隊長にはここで知らせを待つよう指示した」

王妃「医仙は身体の具合も悪く」

王「まったくだ。そんな医仙を置いて余のもとへ参った」

王妃「こうは思いませぬか?私のために天の方を無理にお連れしました」

王「かどわかしたようなものだ」

王妃「この国にいてはならぬ方。天がお怒りなのでは?」

王「解らぬ。余が医仙を連行し引き留めたのだ。天の怒りは余が受けるべきだ」

王妃「では私も共に罰せられましょう」

王「王妃も?」

王妃「けれどまず医仙を探しましょう。解決したらお話が」

王「何の話か?」

王妃「医仙に教わった天界語です」

王「申せ」

王妃「改めて。王様に慶事のあった折お耳に入れます」

王「双城総管府を廃止し北方を奪還したら?」

王妃「その折に」

王の手をそっと握る王妃。

王妃「今は隊長と医仙のことを」

王「そうだな」

ヨンが自分の部屋に戻ると尚宮一人が座り惚けていた。

ヨンの目にはうっすらと涙が光っている。

尚宮「火を使う女の遺体が消えた。チョヌムジャが運んだのか。だが遺体を担いで医仙までさらえぬ。他にも協力者がいるはず」

ヨン「医仙の様子は?」

尚宮「一晩高熱が続いたのだろう。よくはない」

ヨン「毒は?」

尚宮「医仙は解毒できたと言うが」

ヨン「急がねば」

歩き出すヨンに。

尚宮「どこへ?王も知らせを待てと申しておる」

ヨン「待ってる!だけど・・・」

尚宮「ここで待っててやれ」

ヨン「生きていけぬ。このままじゃ・・・俺・・・」

自分の剣を掴んで出て行く。

決意を胸に。

王の間。

王「国境の村まで検問を敷いた。それから・・・」

ヨン「行き先は天門です。場所は知っています」

王「もし医仙を見つけ取り戻せたらそなたも行くのか?」

ヨン「それを聞くために私の足止めを?」

王「いいや。居場所を突き止め動く方がよい。それに『共に行く』という返事を聞くためだ。隊長は疲れ果てておろう。どうだ?医仙と行くか?」

ヨン「返答は既にしたはず。私の師が出した答え。それと同じ過ちは犯しませぬ。ゆえに王様のもとに戻りました。どうか私の大事な方を救えるようお力添えを」

近衛隊に間者がいたと報告を受けるヨン。

眠り薬で眠らされていたウンスが目を覚ますと横にチョル達。

チョル「お探しするのに苦労しました。もしやどこか具合でも?毒のせいですか?」

ウンス「私は誘拐されたの?」

チョル「いいえ、お連れしたのです」

ウンス「なら言えば帰してくれるの?」

チョル「無理です」

ウンス「私に構わないで」

チョル「共に天門へ行くのです。そして天の世界まで。おっしゃったはず。3つ目の形見に天界へ行く方法が記してあると。お持ちしました」

薬師が包みを持ってくる。

スリバンの家では情報集めに奔走している。

叔母「それで?」

スリバン1「物乞いにも知らせた。すぐに引っ掛かるさ。白髪の男(チョヌムジャ)が人目につくから遠くまではいけない」

叔母「なんとか探しとくれ。見つからなきゃまたヨンが死人みたいになっちまう。あんな姿は二度と見たくねえ」

思いつく叔母。

スリバン1「何?」

叔母「薬房をあたれ。プオングンには薬が要るんだろ?」

スリバン1「薬師が薬を買い占めてた!調べてくる」

叔母「気をつけな!」

チョルに差し出された最後の形見の品を確認するウンス。

箱から出てきたのは時間がたって黒く汚れたハンディタイプのプロジェクタ。

チョル「どうしました?医仙?これはいったい・・・」

驚きで言葉も出ないウンス。

ウンスを探しに出掛けるヨン。

副隊長「スリバンの情報によればプオングンの一味が馬車で西京を超えたと。後を追います」

ヨン「指示を待て。俺が行く」

夜の薄明かりの中、必死で馬を駆るヨン。

ひたすら静かに手を合わせる王妃。

玉座の前で落ち着きなくウロウロする王。

ウンス達一行は途中食事のため村の飲み屋に立ち寄る。

ウンスはそこにあった囲炉裏の炭を掴みこっそりと壁に書置きを残す。

その後、同じ飲み屋に来たヨン。

店内を見回しウンスがいないことを確認して出て行こうとするがふと壁の落書きに気付く。

この時代にはないハングル文字。

立ち止まりその文字を見て思い出す。

『(1枚目)大丈夫よ。(2枚目)心配しないで。(3枚目)うまくいくわ。(4枚目)そうでしょ?』

『大丈夫よ』あの日、ウンスが紙に書いた1枚目の言葉と同じだった。

村の宿に来たチョルの一行。

金を掴ませて人払いをしドアに鍵をかける。

村に宿は一つしかない。

宿にたどり着いたヨン。

ウンスがこの世界に初めてやってきた時の宿だ。

うめき声をあげながら眠れない様子のチョルに声をかけるウンス。

ウンス「脈を診せて」

チョル「心の通わぬ者に我が身を委ねろと?断ります」

ため息をついてまた寝台に横になるとドアを叩く音が。

ヨンがドアを蹴破って入ってくる。

立ち向かうはチョヌムジャと薬師。

戦いが始まったことを知ったチョルはウンスの手を掴んで逃げようとする。

とっさに足首につけてあった短剣を取り出しチョルの手を切りつけるウンス。

チョヌムジャと薬師の息の根を止めたヨンはウンスを探しに行く。

チョルは一人裏口から逃げていく。

ヨンがドアを開けると後ろからウンス。

ヨン「お身体は?」

うんうんと頷く。

ヨン「痛みなど・・・」

首を横にふる。

ヨン「それじゃ・・・助かったのですね?」

ウンス「ええ」

もう泣いているウンス。

ヨン「では・・・これより俺の傍に・・・」

ウンス「いるわ」

夢中でウンスを抱きしめるヨン。

止まらない涙。

一つの寝台に一緒に横になる二人。

ヨン「明日、天門が開きます」

ウンス「そうね」

ヨン「いいのですか?会いたい方々がいるのでは?」

ウンス「会ってきてもいい?」

ヨン「天門へお送りします」

ウンス「プオングンが来るかも」

ヨン「承知です」

ウンス「戦って勝てる?」

ヨン「おそらく勝てます」

ウンスの顔をじーっと見てるヨン。

ウンス「何?」

ヨン「ずっと見ていたい。医仙、もう忘れなくてもいいですね?」

ヨンの顔にそっと触れるウンス。

その手に口づけするヨン。

ヨン「眠って」

目を閉じたウンスの髪に愛おしそうに触れる。

翌日。

チョルは一人天門へとやってくる。

息を切らしながらはやる気持ちを抑えて。

ウンスの予告通り、天門は開いていた。

なんとか入ろうとするが何度試みても跳ね返されてしまい入れない。

そして天門へやってくるウンスとヨン。

黄色い菊が見事に咲いている。

天門の向こうには1本の太くて大きな木。

二人は腕を組んで笑いながら歩いている。

意気消沈しながら目の前に現れるチョル。

チョル「天門が開かれました」

ウンス「計算通りね」

チョル「教えて下さい。どうやって入るのですか?」

ウンス「ただ入るだけよ」

チョル「まだ偽りますか?私の切なる願いをこれほど残酷に」

ヨン「(ウンスに)物陰に隠れて」

チョル「教えよ!」

ヨン「諦めろ」

チョル「この世しかないのか?死んだら終わりか?続きはないのか?」

ウンスに手を出そうとしたチョルに後ろから剣を投げ突き刺すヨン。

そしてチョルの手を掴んだヨンは必死で内功を発するが、最後の薬を飲んだチョルの渾身の内功にやられその場に倒れてしまう。

氷漬けになって意識の薄れていくヨンに必死で声をかけるウンス。

ウンス「嫌よ!だめ!!」

ウンスは必死で心臓マッサージをする。

ヨンの心の声『なぜこの方なのか』

必死で立ち上がったチョルはウンスの腕を掴んで天門の方へひきずっていく。

ヨンの心の声『その答えを探して時間を無駄にしました。父上、やっと解りました。遅すぎましたか?』

薄れていく意識の中でヨンは初めてウンスを目にした時の衝撃を思い出す。

檀上で発表していた輝くような笑顔を。

必死な思いで天門まで来ると、チョルを残しウンスだけが消える。

そう、ウンスだけが飛ばされてしまったのだ。

そしてそこに残されたチョルは自らの内功が逆流し己が氷漬けとなり、ここで息絶える。

2012年のソウルに飛ばされたウンス。

辺りを見回すと見慣れた景色。

突然声が聞こえる。

『あの方ならこう言います。大丈夫、遅すぎはしない、これが始まりだと』

ウンスは夢中で走り出す。

ついたのは病院。

懐かしい人達に声をかけられ邪魔されながらも急いでカメラマンが持っていた大きなバッグを奪って急いで医局へ走る。

机にあった想い出の品と、棚に並ぶたくさんの医療道具や薬を手当たり次第にバッグに詰め込む。

そして天門に夢中で戻る。

ウンスの心の声『あの人を助けたい一心でソウルを走った。あの時どこでボタンをかけ違えたのだろう?再びあの人のもとへ帰るには何が必要だったのか』

意を決して天門をくぐる。

ウンスの心の声『足りなかったのは想う気持ちか。それとも信じる気持ちか』

高麗時代に戻ったウンスは必死でヨンを探す。

しかし大きな木の根元にヨンの姿はなかった。

ウンスの心の声『私は再びあの人と引き離された』

天門へ引き返すも、もう門は閉じていた。

ウンスの心の声『命が細りゆくあの人を残して100年前の世界に一人残された』

ウンスは一人、手当たり次第に詰め込んできた思い出の品を取り出してみる。

ネックレス、手帳、ハンディタイプのプロジェクタ、そしてフィルムケース。

取り残された100年前の世界でウンスは医者をしながら手帳に手紙を書いている。

過去の自分へ。

ウンスの心の声『それでも私は今日も信じてる。あの日あの人は助かったのだと信じる』

手帳『ウンスへ・・・』

プロジェクタのスイッチを入れてみると父と母の懐かしい映像が流れる。

母「ウンス、風邪は治った?」

ウンス「(独り言)とっくに治ったわ。いつひいたと思うの?」

母「野菜を送ったけど届いた?」

ウンス「(独り言)お母さんのジャガイモが恋しい。ここにはないの」

母「あなたも何か言ってよ」

父「俺はいいよ」

母「一言くらい、ほら」

ウンス「(独り言)お父さん久しぶり。歳とらないね」

父「ウンスか?」

そこで電池が切れる。

1年が過ぎ、再び天門を訪れるウンス。

ウンスの心の声『誰かが言ってた。強い願いは縁を結び切実な願いと思い出が二人を巡り合せると』

そして計算通りに開く天門。

門をくぐり抜け一度ソウルに戻り、そしてまた高麗時代へ戻るため天門をくぐる。

切なる想いを込めて。

途中で立ち寄った飲み屋。

近衛隊の鎧を着た兵達が食事をしているのを見る。

ウンス「お尋ねいたします」

近衛隊「何だ?」

ウンス「なぜ高麗の兵士がここに?元の領土にいて平気なのですか?」

近衛隊「元からテホグン様がアムノッカンより西を奪還したのだ」

ウンス「元と戦をしたのですか?」

近衛隊「山籠もりでもしてたのか?」

ウンス「先代の王の名を教えて頂けませんか?」

近衛隊「忠定王(チュンジョンワン)だ」

ウンス「では、今の王が即位して何年たちますか?」

近衛隊「おい!今の王になって何年たったか?」

別の近衛隊「5年ほどです」

近衛隊「聞いた?」

奥で話している近衛隊を見るとトクマンとテマンだった。

トクマン「あの配置は何だ?外の奴らを見てみろ!」

あのトクマンが少し偉くなっている。

近衛隊「改めます。守備を2重にしますか?」

テマン「確実に、しっかり守れ」

あのテマンがヨンの受け売りを口にしている。

近衛隊「はい」

そこへ副隊長が。

副隊長「テホグンは?」

トクマン「いつもの場所です。あの大きな木の所」

テマン「差し入れしないと。行くと3日は帰ってこない」

副隊長「なら前もって了承を得とけ。まったく」

その会話を聞いたウンスはあの木の根元へ走る。

木の根元に座りゆっくり振り返るヨンがいる。

ヨンは5年、ウンスは1年の歳月を経て再会を果たす。

言葉にならない喜びと再び会えた感動を胸に抱きしめ、涙を流しながら微笑みあう二人。

THE END