シンイ〜信義〜
第16話〜あなたと逃げる・・・〜

チョルの屋敷。

自宅謹慎を命じられたチョルは自由を奪われ半ば半狂乱の状態。

生きたままトックングンを連れて来いと大騒ぎしている。

もうチョルの頭は天界でいっぱいになっている。

ヨンはトックングンがまたウンスに毒を使ったことでトックングンがいる牢に出向くが中は空っぽだった。

見張りに聞くと王が呼び出したと知り王の間へ急ぐ。

その頃王の間では王がトックングンに『国と引き換えにしても守りたいものはあるか?』と問う。

そしてトックングンは『己だ』と答える。

それを聞いて『そなたよりいい王になれそうだ』と安心しトックングンを解放せよと命を出す。

そこへヨンが。

ヨン「王様、この者を取り調べたく思います」

王「ならぬ」

ヨン「どうか。また医仙に毒を使いました」

王「真ですか?」

トックングン「言いがかりです」

王「隊長、事情があるのだ。ゆえに・・・」

ヨン「事情をお聞かせ願えますか?」

王「王妃に元より知らせが届いた。今開京に元皇帝の断事官(タンサガン)が来ておりトックングンを高麗王に封じる旨の勅書を持っておると。今トックングンを処罰すれば戦端を開くことになろう。よって・・・」

この世が終わってしまったかのような目のヨンは王を見ようとしない。

王「隊長?」

ヨン「承知しました」

それだけ言ってさっさと出ていく。

チョルの命でトックングンを連れ戻すために皇宮に来たファスインとチョヌムジャ。

たがアンジェ率いる禁軍が行く手を止めている。

チョヌムジャが笛を吹こうとした瞬間、前から解放されたトックングンが歩いてくる。

二人を見たトックングンは慌てて引きかえし逃げる。

捕まるのは解っているからだ。

トックングンを元に逃がすために送り込まれた隠密の使いが開京に忍び込んでいた。

逃げようとしていたトックングンを連れてかくまう。

そしてその隠密の使いはこっそり手紙をチョニシに置いていく。

なんとなく置かれた手紙を手に取る薬員はたまたま通りかかったヨンに渡す。

ウンスに会いにきたヨン。

ヨン「書簡です」

部屋でウンスは解毒薬を作っている。

ウンス「書簡?」

ヨン「誰かが置いて行ったとか」

ウンス「私漢字に弱いんだってば。読んでよ。ラブレターなら返事も代筆してくれる?」

開けてみたヨンは内容に驚き言葉をなくす。

ウンス「何て?」

ヨン「医仙・・・」

ウンス「どうしたの?」

ヨン「私と一緒に逃げましょう。元の使臣が医仙を望んでいます。連れていくと。元へ」

旅支度をしている二人。

ヨン「私が医仙といることを知るのはトックングンのみです。奴は元の使臣と通じています。まだ着替えているのですか?」

隣の部屋から着替えを終えて出てくるウンス。

ウンス「元の使臣に従わなきゃだめ?嫌だと言えば?」

ヨン「この世界では通用しません。王命が下っては逃げられませぬ」

ウンス「一緒に逃げるの?近衛隊長でしょ?」

ヨン「私は王にご挨拶して後を追います」

ウンス「でもこの状況で許してくれるかしら?」

ヨン「許しは請いませぬ」

ウンス「じゃあ私のために辞表でも出す気?」

ヨン「医仙は王の保護下。使臣は王に願い出るはず。考えたくありませんが私は臣下である以上元へ送れと言われれば従うしかなく。解りますか?」

ウンス「なんとなく」

じっとウンスを見つめ急に黙るヨン。

ウンス「なあに?」

ヨン「心配です。離れるのが」

ウンス「何かしでかす前に来てね」

ヨンはテマンを呼び先にウンスと発てと命を出す。

王にも勅書が届く。

トダン会議を開くゆえお越し願いたいとの内容で。

王が会議の席に到着すると元のタンサガンもいる。

王「呼びつけたのはそなたか?」

タンサガン「ソン・ユでございます」

王「それで?用件は何だ?」

タンサガン「元皇帝がこうおっしゃいました。この10余年幾人も高麗王を替えたが皆王たる器にあらずと。もはや高麗王は信じられぬとも」

ジェヒョン「これほどの蔑みを受けねばなりませぬか?」

セク「聞くに堪えませぬ」

タンサガン「それで?王様は元の国璽を粗末に扱いましたか?皇宮からもお逃げに?」

王「真だ。続けよ」

タンサガン「これで名分が立ちます。才気のない王を廃位し高麗は元に組み込みます」

王「断る」

タンサガン「では元との戦は避けられませぬ」

王「黙って国は奪われぬ。受けて立とう」

タンサガン「戦に勝利出来ると?」

王「負け戦であろうと戦うべき時があろう?」

タンサガン「ご立派なお言葉ですが徴兵され血を流すのは罪なき民でございます」

王「小賢しい言葉でごまかすな。亡国の危機。戦を恐れる民がおろうか?」

タンサガン「私は元の官僚ではありますが高麗人でございます」

王「それで?」

タンサガン「高麗人として最後に祖国が存続できる道を模索すべく参った次第」

ヨンは王に会いに来るが通して貰えない。

会議の席。

タンサガン「手元にトックングン様を高麗王に封じるという勅書があります。ただし条件があります。あの方をもって最後とし自ら高麗を終わらせ行省の丞相となることです」

王「当然。承知しただろう?」

タンサガン「いかにも」

王「最後に一つ。高麗を存続させる道はあるか?」

タンサガン「ございます。一つ、元から賜った国璽を再び使うこと。2つ、王様を惑わした元凶を裁くことです」

王「元凶とは?」

タンサガン「医仙と称される女人」

王「医仙?」

タンサガン「王様ばかりか王族やホグンの心まで乱す者。処刑なさいませ」

王「何だと?」

タンサガン「王様の手で処刑するのです。さすれば元の耳に入れましょう。高麗王は国を脅かす妖魔を処刑し聡明さを取り戻されたと」

王「罪なき女人だ」

タンサガン「元にまで噂がとどろく女人です。いけにえには好都合」

会議の部屋の前で王が出てくるのを待っていたヨンだが終わっても会いたくないと追い返される。

それはそうだ。

一番の忠臣であるヨンの愛する女を処刑しろと言われるなど寝耳に水。

一人苦しむ王。

自分の部屋で荷物を整理しているヨンのもとに副隊長がやってくる。

副隊長「近衛隊を200名に増やせとのご指示です。それには資格要件を緩めねばなりますまい」

ヨン「この7年実際の指揮官はお前だった」

副隊長「ある面ではそうとも言えますが」

ヨン「元のタンサガンだが」

副隊長「はい」

ヨン「隊員をつけろ」

副隊長「護衛ですか?それとも尾行で?」

大きなため息をつくヨン。

ヨン「いや、いい。王は昨夜も寝付けぬご様子で?」

副隊長「明け方まで台帳を見ておられました」

ヨン「元の使臣はトックングンと通じておるな。ゆえに・・・」

副隊長「どうしますか?」

ヨン「護衛を・・・」

言いかけてまたため息をつく。

副隊長「増員ですか?」

ヨン「事が起きてからでは遅い。予測して考えろ」

副隊長「御意」

ヨン「王はお悩みを抱え込む方だ。あまりにもひどければ王妃のもとへお連れしろ」

副隊長「はい」

ヨン「それから・・・頼んだぞ」

副隊長「はい」

返事をしてから何かがおかしいと気づく副隊長。

ヨン「俺の私物が入ってる」

副隊長「どこへ置きます?」

ヨン「適当に処分しろ」

歩き出すヨンの背中に。

副隊長「廃棄ですか?」

いつもの調子で指示を出しそうになる度についたため息は自分に対して。

ヨンはここを出ていく覚悟だったから。

もう2度と戻らないつもりで。

村の中を歩くテマンとウンス。

テマン「9歳頃から1人で生きてきました」

ウンス「幼い子がどうやって山で?」

テマン「平気です」

ウンス「本当なの?それで?」

テマン「13歳か14歳で隊長に出会ったんです」

ウンス「よかったわね」

テマン「いいえ。出会った時隊長の手足に噛みつきました。逃げたら追ってきて捕まったら噛みついて。それで5日過ぎました。俺が疲れて寝ちゃったら隊長が魚を焼いてくれました」

ウンス「それが縁で?」

テマン「はい」

笑いあっていた二人だが、テマンがふと怖いになる。

前から歩いてくる男の足音がしない。

それに気づいたテマンは警戒しながらやり過ごす。

ウンスを連れて急いで歩き出す。

最後に尚宮に会うヨン。

ヨン「王が会って下さらぬ」

尚宮「王にご用が?」

ヨン「当分お暇を頂きだめなら・・・」

尚宮「許すと仰せだ。許可するから直ちに発てと」

尚宮の記憶。
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王「医仙を連れて直ちに逃げよと伝えよ。一心にな」

王妃「医仙によろしく伝えて」
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尚宮「王は医仙の引き渡しを決断なさった。ゆえに王が決断する前に発ったことにせねば王命に背いたことになる」

ヨン「なぜ医仙を欲しがる?元の役に立つとも思えぬ」

尚宮「一つ聞くが天門の場所へ医仙を連れていくのか?」

ヨン「そうだ」

尚宮「お前は留まりスリバンの子に頼むのはどうだ?」

ヨン「来月15日まであと20日しかない。なのにその時間を諦めてここで別れろと?」

尚宮「ここまで積み上げた功績を20日で台無しにする気か?戻ってこれぬかもしれぬぞ?」

ヨン「叔母さん、俺はこの7年間宮中で生きてきた。だが思い出が何一つない。失う物などない。行くよ」

尚宮「捕まるなよ。元に連れていくのではない。タンサガンは医仙の公開処刑を望んでおる」

驚くヨン。

ヨン「医仙がいなくなったら王の身はどうなる?」

尚宮「タンサガンによれば・・・」

ヨン「いや。言わなくていい。聞いたところでここには残れぬ。今皇宮を去れば戻る資格もない。なのに王の身を案じても仕方ない」

ウンスの元へ向かう。

スリバンの家に身を寄せていたウンスとテマンはヨンと合流する。

叔母「道中気をつけるんだよ」

ウンスの手を握りしめる叔母。

タンサガンのところに身をひそめているトックングン。

早く勅書を発動し自分を王にして終止符をと訴えるが受け入れないタンサガン。

今の王はうかつに刺激すれば戦も辞さない覚悟だと。

つまり黙っていろと一喝されるトックングン。

山中を歩くヨンとウンス。

ウンスの荷物を木の根元に置き『ここに座れ』と合図する。

そして手の包帯を取り傷を確認する。

ウンス「大きさも変わらず水泡もない。発熱も他の症状もないから心配しないで」

ヨン「天界へ戻れば治るんですね?」

ウンス「もちろんよ。検査1回、注射1本よ」

ヨン「信じます」

包帯を巻き直してあげる。

ウンスの隣に座るがウンスが肩を回しているのを見る。

ヨン「それは?」

自分の肩を叩くヨン。

ヨン「どうぞ」

ヨンの肩にもたれるウンス。

ヨン「歩くのに慣れてませんね」

ウンス「乗り物が便利だもの。この世界で一生分歩いたわ」

ヨン「よかったですか?この世界に来て」

ウンス「どうかしら・・・」

ヨン「悪いことばかり?1つも?」

ウンス「あった!」

ヨン「何です?」

ウンス「言ってみて」

ヨン「何を?」

ウンス「それよ。『何を?』『何です?』『何してるんです?』」

笑いあう二人。

黙ってウンスの肩を抱くヨン。

その目は遠くを見ているようで何も見ていない。

皇宮。

重臣達と近衛隊、禁軍を呼び会議をしている。

元を牽制することが最優先だと言う王。

緊急のためその全指揮をホグンであるアンジェに取れと命令するがチェヨンのほうが適任だと反対するアンジェ。

だがヨンはもういない。

まだヨンがいなくなったことを知らないアンジェを押し切りアンジェに新たな任務を与える。

重臣達から元との戦争を回避する考えはないのかと問われる王。

『隊長はどう思う?』とつい言葉を発し気づく。

もういないのだと。

チョルの屋敷を訪れたトックングン。

ヨンとウンスが北の国境付近を目指しているようだとチョルに教えてしまう。

なぜそれを知っている?とトックングンに詰め寄り殺そうとするチョルだが内気が逆流し始めそこに倒れる。

チョルの身体は着々と弱っていた。

それでも天界に行きたくて仕方がないチョルは医仙を生け捕った者には千両やるとし人相書きを広めろと部下に命ずる。

夜。

食事のため飲み屋に立ち寄ったヨンとウンス。

入口でしばし警戒し、中に入る。

飲み屋に入ると客が一斉に二人を見る。

ヨン「つまみを2品頼む」

店員「はい」

ウンス「一杯やらない?」

首を横に振るヨン。

自分達を狙っている者達がいることにヨンは気づいている。

ウンス「お姉さん!」

勝手に酒を頼むウンス。

ウンス「よく似たお店を知ってるわ。マッコリが最高なの」

客の一人がこっそり出ていくのをヨンは見る。

ウンス「お腹すいた。さあ食べよう」

外に出た客は持っていた人相書きを確認する。

ウンス「将軍に乾杯!」

乾杯するがヨンは飲まない。

ウンス「飲まないの?そういえば一緒にお酒を飲むのって初めてね。でしょ?」

ヨン「はい」

ウンス「お酒は嫌い?」

ヨン「好きではありません」

ウンス「なんで?」

ヨン「医仙。今、と言ったら伏せて下さい」

ウンス「こう?」

ヨン「今!」

客が一斉にヨン達を襲ってくる。

全員倒しふとウンスを見るとテーブルの横で怯えて小さくなっている。

ヨン「無事ですか?」

安堵してせき込むウンスはそこにあった酒をがぶ飲みする。

客の一人が持っていた人相書きを手にするヨン。

見るとヨンとウンスの似顔絵と漢字がたくさん羅列している。

ウンス「これ私達よね?指名手配ってわけ?」

ヨン「人相書きです。高額の懸賞金がかけられているようです」

ウンス「こんな顔してないわ!ずいぶんよね!」

ヨン「これほどの懸賞金では行く手は困難を極めます」

聞いてないウンス。

ウンス「似てる?似てるかな?」

その頃皇宮。

王を心配する王妃は怖い顔で王の間へやってくる。

王「もう参ろうかと・・・」

黙って机の上を片付ける王妃。

王「真だ。しまうところだった」

王妃「さあおっしゃって。今日の問題は何です?」

王「今日?」

王妃「日々問題は起こるばかり。一度には伺えませぬ。今日の件のみお話し下さい。共に考え夜を明かさんと参りました」

王「今日はこれだ。独立を守りたいなら覚悟を示せとな」

王妃「元が強いた国璽を使い医仙を処刑しろと?」

王「だが医仙はおらず元の国璽もない」

王妃「抗えば進軍すると?」

王「この国を差し出し省長に収まるのを拒めばな」

王妃「・・・戦うおつもりですか?」

王「どうしたものか?それが解らず眠れぬのだ。王妃」

王妃「はい、王様」

王「もしも余がお上の命で戦に駆り出される民ならどうする?その妻ならどう思うか?」

王妃「私は・・・私ならば」

そこまでいいかけて急に気分が悪くなった王妃は口に手をあてて倒れ込む。

王「王妃?どうした?しっかりしろ。早く、誰かいないのか!」

飛んできたのは尚宮とドチ。

王「王妃の具合が悪い。これはいったい?」

王妃を連れていく尚宮。

王「ドチ、我が妻、余の王妃が・・・」

わずかに笑っているドチ。

ドチはもう解っている。

王妃の寝所で診察するチャン侍医。

チャン侍医は後ろに立つ尚宮に目で合図する。

手を叩いて喜ぶ尚宮。

王妃のご懐妊だった。

気をもみながら待っていた王はチャン侍医から懐妊を知らされ王妃のもとへ飛んでくる。

王「気分はどうか?」

王妃「ご心配なく」

王「痛みは?」

王妃「ありませぬ」

王の目には涙が光っている。

王「余はよくぞそなたに巡り合えたものだ。余の王妃よ」

王妃を優しく抱きしめる王。

王「ありがとう。余は果報者じゃ」

一方、部屋で寝ているウンスは夜中にふと目を覚ます。

部屋を見回すとヨンがいない。

外に出てみるとヨンはウロウロしながら見張りをしていた。

ヨンは一点をじっと見ている。

ウンスに気付いたヨンは隣に座る。

ヨン「夜襲を警戒しておりました」

あくびをかみ殺すウンス。

ヨン「戻って寝て下さい。私に構わず」

ヨンをじっと見るウンス。

ヨン「何です?」

ウンス「そっちは皇宮がある方向よね?昨日の夜も寝るまでずっと見てたでしょ?」

ヨン「寝ないと朝がつらいですよ」

ウンス「心配よね。王様のこと。こうしましょ。私が最初に着いた村の天門の場所でいい。ついたら戻って。そこまでで許すわ」

ヨン「戻れません」

ウンス「なんで?」

ヨン「近衛隊長がこんな体たらくでは下の者に示しがつきません」

ウンス「こんなって?」

ヨン「武士の剣に迷いは命取り。武士が迷いを抱えては主君を守れませぬ」

ウンス「これまでの人生で命令に従ったり頼みを聞いたりじゃなく、気ままに過ごしたことはある?」

少し考えた後。

ヨン「昨日・・・そして今日」

そこまで言って危険を感じるヨン。

急いでウンスを連れて部屋へ戻る。

ヨン「今度は物騒です。ここにいて下さい」

うんうんとうなづくウンス。

剣を抜き部屋のドアを蹴って出る。

刺客は二人。

一人を斬り捨てる。

ウンスがこっそりドアを開けるとヨンと刺客が睨みあっている。

ヨンが二人目の刺客を斬り捨てるのを見る。

スリバンに頼んでトックングンを調べているトルベとトクマン。

タンサガンの所に身をひそめていると報告を受ける王。

王はタンサガンがここに元の国璽がないことも医仙がいないことも承知の上で条件を付きつけたと知る。

王はスリバンに必要な物は十分に与えろと命をだし、トックングンとプオングンの関係も調べろと付け足す。

王の間。

タンサガン「昨日独立を保つ案を進言しました。王様、簡単なことです。医仙の処刑を命じる勅書に元の玉璽を押し実行なさいませ。しからば私は元皇帝に懇願する所存。高麗を見守って頂きたいと」

王「なんと回りくどい」

タンサガン「何ですか?」

王「高麗の滅亡が目的だろう?」

タンサガン「任務はいかにも」

王「ならば任務をまっとうせよ。玉璽だの医仙だのと騒ぐな。余は力の限りを尽くし戦おう」

3日以内に決断しろと言い残して帰って行くタンサガン。

その頃王妃あてに密使が届く。

差出人はタンサガン。

内容は『お母上のお言付けがありポジェ寺まで』と書かれている。

王妃はそれを誰にも見せずこっそり戸棚にしまう。

逃避中のヨンとウンス。

ウンス「何よ嫌がってばっかり!馬の乗り方とか短剣の使い方とか教えて貰ったからお礼がしたいだけよ」

山道を歩きながら無視し続けるヨンの周りをウロウロしているウンス。

ヨン「結構です」

ウンス「ちゃんと聞いてよ!名付けて天の呪文よ。天界の魔法の呪文なの。しっかり覚えてちゃんと唱えて。近衛隊にも伝えて」

ヨン「前置きが長い」

ウンス「じゃあ拳を作って。やってみて。ファイト!」

ウンスをじっと見るだけでやらないヨン。

ウンス「落ち込んでもう寝ちゃえって時にこうやってファイト!って。早く」

やっぱり無視して歩き出すヨン。

ウンス「これがこんなに難しい?2秒かからないのに」

追いかけてヨンを止める。

ウンス「ねえ、チェヨン将軍!止まりなさい!この世界では口約束が基本でしょ?でも言うだけじゃダメ。こうやって・・・」

ヨンの手を掴んで無理矢理やってみせるウンス。

ウンス「これなら命をかけなくても済むわ」

ヨン「覚えておきます」

ウンス「まだあった!ハイタッチよ。言葉はいらないわ。心で受け取ってね」

ヨンの手を叩いてみせる。

ウンス「元気だせ、頑張ろうって。王様ともやってね」

怪しい目でウンスを見てるヨン。

ウンス「なあに?」

ヨン「何をたくらんでいるのかと」

ウンスがたたいた手を掴んで歩き出すヨン。

ヨン「後ろより前にいてくれた方が守れます」

ウンス「まだあるの」

ヨン「結構」

ウンス「一つだけ」

ヨン「十分です」

村についた二人はたくさんの兵達を見る。

ウンス「私達の追手かしら?」

ヨン「いえ、両界の兵です。軍服や武器が新しい。新たに募った兵かと」

ウンス「確かめれば?私は薬を買ってくるから」

ヨン「もしや症状が?」

ウンス「薬の予備が欲しくて。あとで来てね」

薬屋に行き飛虫の毒について尋ねると解毒薬はないと言われる。

代わりに痛みを抑える針を教えて貰うウンス。

一方募兵に志願している者達に質問していると物陰から怪しい奴がヨンを見ていることに気付く。

急いでウンスを探しに行く。

軒下に座り手を振るウンスの手を引いて急いで歩き出す。

皇宮。

出掛ける王の支度を手伝っている王妃。

王「構わぬ。そなたは座っておれ。すぐ戻る。余がおらねば解決せぬゆえ行くだけだ」

王妃「ごゆっくり」

王「ゆっくりとは?」

王妃「ポジェ寺へ参ります。王様の安寧とそれから・・・安産祈願をしようと思いまして」

王「用が済み次第余もポジェ寺へ参ろう」

王妃「ご心配なく」

王「一緒の方がご利益があろう?」

王妃「職務を疎かにしては下の者が笑いましょう」

王「解った」

王はプオングンの屋敷に行き元の玉璽を返してくれと請う。

その見返りとして謹慎を解くと。

玉璽を返して貰う。

王妃は尚宮と数人のムガクシのみを連れてポジェ寺へとやってくる。

先日受け取った書簡のためにわざとお付きを減らしたのだ。

尚宮の目を盗んでどこかへ行く王妃。

尚宮が気づいた時には王妃の姿は消えていた。

急いで探し回るが見つからなかった。

王妃はその頃奥の別室にいた。

声をかけるが誰も出てこない。

出ようとするが鍵がかけられていて出られず閉じ込められてしまう。

山中を走って逃げているヨンとウンス。

大きな岩場にたどり着く。

ヨン「ここにいて下さい」

ウンス「もう動けない」

息も絶え絶えなウンスは岩場に隠れて待つことにする。

立ち上がった拍子に髪飾りが取れて落ちてしまう。

岩の隙間に手を入れてなんとか髪飾りを取り戻したウンスはその隙間にまだ何かあることに気付く。

取り出してみるとそれはカメラのフィルムケース。

この時代にはないものだ。

藻がはえていてかなりの時間がたっているようだ。

恐る恐る開けてみると中には手紙が。

手帳の続きだった。

手紙を読んで半ば放心状態の所へ刺客3人を片付けたヨンが戻ってくる。

ヨン「医仙、どうしました?何かあったのか?誰かきたとか?」

ウンス「いいえ・・・」

ヨン「顔色が悪い。具合でも?」

ウンス「ただ黙って・・・抱きしめて」

ウンスの肩を抱いて座るヨン。

ヨン「どうしたのです?」

後ろを振り返るウンス。

この手紙があった場所を。
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未来のウンスがフィルムケースに自分あての手紙を入れ岩場の隙間に隠している。

『ここに手紙を隠したわ。読むのはあなただけ。これを読んでるってことはあの人も一緒にいるのね。あの日のこと忘れられないわ。私を見つめる真っ直ぐな瞳。温かい胸。そうよウンス。私は未来のあなた』

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