鮫〜愛の黙示録〜
第19話

12年前:カン・ヒスのアパート。

カン・ヒスはハン・ヨンマンが“影”と呼ばれた自分を拷問した拷問官だと気づいてヨンマンを追いつめる。

ヒス「私を覚えていないのか?いっそ殺してくれと哀願したのに半殺しにしておいて」

耳を塞ぐヨンマン。

ヒス「あなたは気楽に生活しているんだろう。私は一日も気楽に眠った日はないのに。あなたがどんな人間なのかあなたの子供は知っているのか?」

これを聞いて豹変したヨンマンはカン・ヒスの首を絞めて殺してしまう。

クローゼットから出てきたチェ・ビョンギが死んだカン・ヒスを見下ろす。

現在:イスの部屋。

拳銃を取り出すイス。

ヘウからの電話にも出ようとしない。

イス「振り返るな。けりをつけよう。ハン・イス」

オルフェウスの絵の前でつぶやき拳銃を腰に刺して部屋を出る。

チャン秘書は車で出かけるイスを見て心配する。

ヘウ車中。

ヘウはイスに電話をかけ続けるがイスは出ない。

そこにピョン刑事からの電話。

警察署。

ピョン刑事「ユン教授に事実を確認しに行ったって?」

そばでスヒョンも聞いている。

イスの部屋。

チャン秘書は盗聴器を外しに入ったイスの部屋で空の拳銃のケースを見つけてしまう。

ヘウ車中。

ヘウはチャン秘書に電話してイスの所在を確かめる。

チャン秘書「代表は拳銃を持って出て行きました」

茫然とするヘウ。

しかしすぐにイスの行先を察して車で向かう。

チョ家。

突然現れたイスに驚くパク女史。

パク女史「どうなさいました?」

イス「会長はどこに?」

パク女史「書斎にいます。いらっしゃったことをお伝えします」

イス「必要ありません」

書斎に向かうイス。

パク女史「私と話をしましょう」

引き止めるパク女史の手を払って書斎に入って行き鍵をかける。

チョ会長の書斎。

チョ会長「何の用だ?」

イスは拳銃で会長に狙いを定める。

イス「初めからこのように終わらせるべきだった。あなたのような人間はこの世に存在してはいけなかった。証拠、真実、証明、あなたには贅沢なだけだ」

チョ会長「正直に言ってみろ。君は真実に向き合う自信がなくなった、そうだろう?」

イス「あなたには真実という言葉を口にする資格さえない」

チョ会長「君には資格があると思うのかね?」

イス「あなたと私は違う。チョン・ヨンボ、おまえが立っているのはおまえに踏みにじられた罪のない人々の墓の上に過ぎないのだから」

チョ会長「ハハハ。独立闘士でもなったようだね。たかだか復讐心すら克服できない情けない偉人だがね」

イス「黙れ!!」

イスの行先を察して急いで帰ってきたヘウ。

ヘウ「ダメよ、イス!」

ヘウが書斎の外から叫ぶ。

書斎には鍵がかかっている。

ヘウ「こんな風に終わらせれば、間違いを正すこともできなくて何も明らかにすることはできないわ。あなた一人が殺人者になるだけよ」

イスの銃口がわずかに揺れる。

ヘウ「あなたは今逃げようとしているわ。以前私が逃げようとしたように。あなたが今まで探してきたのは真実よ。あなたが想像さえできない恐ろしい真実に向き合ったとしても逃げてはいけない。私たちのせいじゃない。あなたも私も自分ができる事をするしかないの。ひとりの死で空しく終わらせてはダメなの」

ヘウはイスが拳銃を持っていることを知っているから必死だ。

ヘウ「あなたのお父さんは真実を明らかにしようとした。過ちを悔いて自ら許しを請うのは誰でもできることではないわ。お父さんの死を無駄にするようなことはしないで。どうかあなた自身を捨てないで」

チョ会長「私を撃て!君の手によって死ぬのも悪くない。血はだますことができないということを殺人者の息子であるお前が結局は証明することになるのだから」

イスは再び会長を狙うが撃てない。

チョ会長「何を迷ってるんだ!ここにはお前と私と二人だけだ」

ヘウ「ダメよ、イス! ダメ!!」

チョ会長「私は今死んでも心残りはない。私が生きてきた時間を絶対に後悔しない。凄惨な時代を生き延びるために仕方のない選択をしただけだから」

イス「凄惨な時代だった?その時代を凄惨なものにした張本人は誰だ?貴様のような人間たちだ」

チョ会長「お前たちが享受している豊かさを誰のおかげだと考えるか。戦争で廃虚になった祖国の未来のために今まで私は最善を尽くしてきた。誰も私を非難することなどできん。私は愛国者なのだ!」

イス「あなたはやはり救いようがないな」

イスが引き金を引く。

イス「あなたには楽に死ぬ資格はない」

銃弾は会長の後ろの窓ガラスを貫いていた。

イスが書斎から出てくるとヘウが心配して祖父に駆け寄る。

ヘウ「おじいさん、大丈夫ですか?」

ヘウの頬をピシャリと叩くチョ会長。

チョ会長「今までお前を信じて、お前のために生きてきたこの私は何だったんだ」

出ていくイスにパク女史が声をかける。

パク女史「イス、絶対に悪い考えを起こしちゃダメよ、わかってるわね」

ヘウの部屋。

辛そうなヘウをパク女史が慰める。

オ検事長の病室。

父親のひき逃げ事故の犯人がチョ会長だと知って今までの様々なことがやっと理解できたジュニョン。

病室を出てどこかに向かう。

警察署。

ピョン刑事とスヒョンがカン・ヒス殺害事件の真相を推理している。

ピョン刑事「やっと辻褄が合いそうだ。ハン・ヨンマンがカン・ヒスを殺害しその時文書を手に入れたのではないかと思えて仕方がない」

スヒョン「カン・ヒス氏の文書を持ってくるようにとチョ会長が殺人教唆したということですか?」

ピョン刑事「それは違うようだ」

スヒョン「違うとは?」

ピョン刑事「カン・ヒス事件現場からみると殺人は偶発的だった。指紋が無いというのが気にかかるところだが」

スヒョン「指紋がないなら計画的だということでしょう」

ピョン刑事「正確なことはわからないがハン・ヨンマン氏が犯人だとすれば明らかに偶発的だった」

スヒョン「根拠は?」

ピョン刑事「ハン・ヨンマンは殺害される直前に真実を明らかにするという言葉を息子に伝えた。今までは文書の内容を明らかにしようとしたのではないのかと推察してきたが・・・もしかしたらカン・ヒスを殺害したということを自白しようとしたのかもしれん。殺害された場所も警察署の前だったし」

スヒョン「そうだとしてもカン・ヒスを殺害したという事実は変わりません。悪質顧問官だったということもです」

ピョン刑事「そうだとしても自首を決心するというのは容易なことでないのさ。そしてハン・ヨンマン氏が最後に会わなくてはならない人がいるという話をしたと聞いた。多分カン・ヒス氏の家族に会おうとしたんだろう」

スヒョン「そんなはずがありません」

ピョン刑事「なぜそう思う?」

スヒョン「いや、なんとなくそのような気がしたので」

そこにジュニョンがやってくる。

ジュニョン「ピョン刑事に尋ねたいことがあって来ました。私に何も隠さずに事実そのままを教えてください」

スヒョンは席をはずして外に出ていく。

チェ・ビョンギの言葉を思い出しどこかに向かう。

今はチェ・ビョンギとチョ会長を関係付ける証拠がないというピョン刑事。

ジュニョン「とうてい信じられません。よりによっておじいさんが・・・信じられない」

驚くジュニョン。

ジュニョン「文書の内容は何だと考えられますか?」

ピョン刑事「真実が明らかになってから知っても遅くはありません」

ヘウの部屋/警察署。

ヘウはイスに電話をかけ続けるがつながらない。

ピョン刑事から電話。

ピョン刑事「イスからはまだ連絡ないのか?・・・(立ち上がって)何?電源も切ってるのか。あいついったい何を考えているんだか・・・」

ヘウ「耐えるのが大変なんでしょう。今までイスが信じてきたことが根こそぎ揺らぎましたから。とても不安です。もしも悪い考えでもしているならば・・・いいえ。そんなことはあり得ません」

ピョン刑事「ああ、そんなことあるはずがない。あ、そういえばたった今ジュニョンが寄って行ったよ」

ヘウ「あの人がですか?」

満月を見上げるジュニョン。

河川敷。

イスはカヤホテルのキム秘書からUSBを受け取る。

秘書「チョ社長が保有している国内銀行借名口座と米国と日本に借名で買いとった建物の内訳、そしてペーパーカンパニーの内訳が入っています」

イス「お疲れさま。明日朝の飛行機でしょう?楽しい旅をされるように願っています」

イスの片棒を担いでいた秘書を海外に逃がしたのだ。

チョ会長の書斎。

イスを忌々しく思って腹を立てるチョ会長のところにスヒョンから電話が入る。

スヒョンは会長と取引をしようと持ち掛ける。

スヒョン「会長の願うことをして差し上げます。何がいいですか?」

チョ会長「ハン・イスを始末できるか?」

スヒョン「チョ検事も一緒に始末すればイスに最大の苦痛を与えられます」

チョ会長「ヘウには手を出すな!ハン・イスさえ消えればいい」

スヒョンは代わりに50億ウォンをチェ・ビョンギに届けさせるようにと命令する。

スヒョン「チェ・ビョンギも私の手で始末します。会長もそのつもりだったのでしょう?」

チョ会長「ひとつ条件がある。ハン・イスが死んだという確実な証拠を見せろ。金はそのあとだ。ことが終わったら連絡しろ」

電話を切る。

チョ会長「上手くいけば一挙両得。でなくても両アタリにはなるな」

高笑いするチョ会長。

河川敷。

一人で父親のことを考えているイスのところにスヒョンから電話が入る。

スヒョン「一緒に酒でも、と思って」

イス「今日は無理そうだ。明日会おう・・・スヒョン、すまない」

スヒョン「どうしてそんなことを言うんです?」

イス「明日電話するから」

もう解っている二人。

ユン教授のマンション。

イスはユン教授を訪ねる。

イス「夜遅く申し訳ありません。教授と一緒に投獄された方の中にひょっとして九屯(クドゥン)駅近所に住む方がおられるかを知りたくてきました」

ユン「なぜそれが知りたいのですか?」

イス「父の遺品がそこのロッカーにありました。父が誰かに会いにそこに行ったということがやっと分かりました」

ユン「何の話なのか理解ができませんね」

イス「影という顧問官が・・・私の父です」

ユン「ええ?」

驚くユン教授。

チャン秘書の部屋。

落ち着かないチャン秘書。

ヨシムラ会長にイスが拳銃を持って出て行ったと報告する。

そして会長が部屋にいないことを知ったチャン秘書は会長の部屋に入り一つのUSBを持ち出す。

チョ会長の書斎。

チョ会長「キム記者に会ったそうだね。君には知られないように局長には何度も頼んでおいたのに酒の席で失言したようだ」

チョ会長がジュニョンにイスとヘウのキス写真を見せる。

チョ会長「君にはショックが大きいということはわかるがヘウを止められる人間が君しかいないから仕方なく見せたのだ。ヘウはキム・ジュンに利用されている。この写真を流出したのもキム・ジュンだ。ヘウはもう私の言うことを聞かなくなっている。君が説得して一緒に海外支店に行ってもらうのがいいと思うのだが。“去る者は日日に疎し”というからね」

ジュニョンは考えておきますと答える。

写真を持って書斎を出たジュニョンはパク女史から『今日イスが家に来た』と聞かされる。

イヒョンの家/イスの部屋。

イスはイヒョンの声が聞きたくなったのか電話する。

イヒョンは明日父親のところ(散骨した場所)に行こうと誘うがイスは明日は無理だからまた連絡すると言って電話を切ってしまう。

イスの部屋。

イスはユン教授からイスと同じ写真を持ってきた男性にも“影が誰か”と聞かれたと言われていた。

自分の父親がスヒョンの父親を拷問していたことをスヒョンも知ってしまった。

それでスヒョンが自分に会おうとしているのだろうと察する。

考えを巡らせていてふと蓋の閉まった拳銃のケースが目に入る。

(自分は開けておいたはずなのに)

チャン秘書の仕業かと思ったイスが盗聴器を確かめると盗聴器がなくなっていることに気付く。

その時、玄関のチャイムが鳴る。

連絡がつかなくて心配したヘウが訪ねてきた。

ヘウは顔を見て安心したから帰ろうとするがイスはヘウの腕をつかんで玄関の中に引き入れてキスをする。

イス「もうここへは来るな」

ヘウ「明日また来る」

それだけ言ってヘウは帰っていく。

マンションの外でジュニョンが待っていた。

ヘウとジュニョン車中。

ヘウはこれ以上ジュニョンを傷付けたくないと言う。

ジュニョンはヘウの心に永遠にイスがいることが分かっていてもヘウと別れることはできないと言う。

検察。

検事「カヤホテルの隠し財産について匿名で通報がありました」

昨夜送られてきたというUSBを上司に報告するキム検事。

しかし上司はカヤホテルには手を出すなと言う。

オ本部長室。

出勤してきたジュニョン。

ジュニョン「キム秘書はまだ出勤してないんですか?」

部下「携帯も電源が切れている状態です」

検察から電話。

ジュニョン「通報ですか?どんな内容の?」

チョ社長室。

ジュニョンはチョ社長に隠し財産について検察に通報があったことを知らせる。

チョ社長はチョ会長に知らせてもみ消してもらおうとする。

チョ家前庭。

チョ会長はすでに検察幹部と話をしていた。

チョ会長「お前が誰に守られているか、肝に銘じておけ!」

チョ会長はチョ社長を怒る。

イスの執務室。

チャン秘書はドンスを呼んでヘウに直接届けるようにと封筒を渡す。

ヨシムラ会長の部屋。

USBがなくなっていることに気付いたヨシムラ会長は誰の仕業かと考える。

九屯(クドゥン)駅近くの家。

イスはユン教授から聞いた家に行って住人のおばあさんから話を聞く。

イスの父親はこの家の息子を拷問で殺してしまったことを悔いて十年間この家に通って許しを乞い続けていたと聞く。

住人と別れたところにスヒョンから電話が入る。

話があるというスヒョンと夜会うことにする。

スヒョンはそのままチョ会長に電話する。

スヒョン「現金を準備しておいてください。今日決行します」

チョ社長室。

会長のところに行ったらもう話が済んでいたというチョ社長。

通報はキム秘書の仕業だろうと聞いたジュニョンは急いて部屋を出ていく。

チョ検事室。

ドンスがヘウにチャン秘書から預かったUSBを持ってくる。

中身は“チョン・ヨンボの真実”だった。

カフェ。

ヘウはチャン秘書に会ってUSBを送った意図を尋ねる。

ヘウ「ドンスから受け取ったUSB、キム・ジュン代表が届けさせたものですか?」

チャン秘書「違います」

ヘウ「ではひょっとしてヨシムラ会長が持っていたんですか?」

チャン秘書「答えることはできません」

ヘウ「チャン秘書の立場は理解できます。これを私に届けた理由は何ですか?」

チャン秘書「このことを終わらせることができる人はチョ検事しかいないと考えました」

ヘウ「どういう意味でしょうか?」

チャン秘書「代表も同じ内容が入ったUSBを持っておられますが多分チョ検事には見せないでしょう。チョ検事をこれ以上傷つけることはしたくありませんから。代表を助けたいのですがその方法が見つかりません。チョ検事の立場が大変なことは分かりますがチョ検事は私よりずっと強い方だから必ずその方法を見つけられると考えました」

ヘウ「チャン秘書の気持ち、イスも知っているんですか?」

チャン秘書「どういう(気持ち)?」

ヘウ「分かりました。信じてくださってありがとうございます。もう行きましょうか?今からすべき事が多いと思いますので」

公園。

ヘウはUSBの内容を友人のコ記者に見せて記事にしてほしいと頼む。

孤児院。

ピョン刑事はカン・ヒスの息子を探して孤児院まで来た。

スヒョンがその息子だとわかってとても驚く。

スヒョンは高校1年の時に孤児院を出ていた。

チョ検事室。

ヘウはピョン刑事からスヒョンがカン・ヒスの息子でイスの協力者だったと聞く。

ピョン刑事「カン・ヒスを拷問して殺害した人がイスの父親だという事をキム係長は知っている。違うことを願うがもしかしたらイスに報復しようとするかも知れない」

ヘウはイスとスヒョンに電話するがどちらも繋がらない。

ビルの屋上。

スヒョンからの電話。

イス「わかった。そこに行く」

スヒョン車中。

車でイスに会いに行くスヒョンをチョ会長の新しい殺し屋が尾行している。

きちんと実行されるか確認するために。

編集長室。

コ記者はヘウからもらった情報を編集長に見せるが証拠が不十分で記事にはできないと言われる。

ヘウとピョン刑事車中。

ヘウとピョン刑事は携帯の位置情報を頼りにイスとスヒョンを探している。

河川敷。

待っているイス。

スヒョンが車で到着する。

イス「よく来たな。待ってたよ。すまない、スヒョン」

スヒョン「その話は死んでから、オレの父さんにしてください」

スヒョンは拳銃でイスを狙う。

イス「ありがとう」

スヒョン「礼はいりません。オレも兄貴のおかげで50億儲けたから」

チョ会長の殺し屋が遠くから二人を見ている。

ヘウとピョン刑事車中。

ピョン刑事「車を停めろ。(携帯追跡の)信号がここで止まってる」

車を降りて高架から周りを確認するヘウとピョン刑事。

高架下の河川敷にいるイスとスヒョンを見つける。

車に戻ろうとした瞬間、銃声が聞こえイスが川に落ちるのを見てしまう。

レスキューと救急車を呼ぶピョン刑事。

河川敷。

スヒョンは殺し屋が見ていることを確認すると車でその場を離れる。

チョ会長書斎。

報告を受け嬉しそうなチョ会長。

河川敷。

現場に到着したヘウとピョン刑事はイスを探すが見つからない。

ヘウはそこに落ちていたサメのペンダント(金属製)を拾いあげじっと見つめる。

第20話(最終話)へ