鮫〜愛の黙示録〜
第18話

古本屋。

チェ・ビョンギと父親が一緒に写った写真を見つめるイス。

カフェ。

ヘウは、カン・ヒスを治療していた医者から話を聞いている。

医師「最も恐れていた拷問官を“影”と呼んでいました。そしてボールペンの音をとても恐れていました」

ヘウ「拷問官のクセだったんですね」

医師「いいえ。“影”を監視している人がいたようです」

ヘウ「拷問官が二人だったということですか?」

医師「ええ。本当に残念です。今頃は平穏に暮らしていて息子さんとも会えると思っていましたのに」

ヘウ「息子・・・ですか?」

キム係長の車中。

キム係長は縛られて意識を失っている。

イスからの電話の呼び出し音で意識が戻る。

後ろの席からチェ・ビョンギが拳銃を突きつけている。

古本屋。

スヒョン(キム係長)が電話に出ないことに不安を感じイスは急いで車に乗り込む。

キム係長の車中。

キム係長「奥さんのことを考えて自首してください・・・」

ビョンギ「カン・ヒスの息子にこうやって会うとは考えてもみなかったよ。君の父親を殺したのはハン・ヨンマン、君が絶対的に信じているハン・イスの父親だ。君の父親を拷問したのもハン・ヨンマンだ」

写真を見せるチェ・ビョンギ。

ビョンギ「これがハン・ヨンマンだ」

キム係長「お前の言葉なんか信じられない。いや、信じない・・・」

チェ・ビョンギが引き金を引くが弾は入っていない。

ビョンギ「私の言葉が嘘ならお前はここでもう死んでいる」

チェ・ビョンギは写真を置いて立ち去る。

車のキーを投げ捨てる。

チョ会長。

囲碁を打つ会長。

チョ会長「(ちっ)駄目な手を打ってしまったな」

カフェ。

カン・ヒスと同じ大学出身者で一緒に投獄された学生運動家を探してほしいと頼むヘウ。

スヒョンは縛られていた縄を解いて外に出る。

チェ・ビョンギの言葉を振り払うように走り出す。

そしてイスのマンションに来る。

イスの部屋。

写真を見つめ考えるイス。

チョ会長に電話する。

イス「何のマネだ」

チョ会長「写真を見つけたようだな。写真を見た感想は?」

イス「驚かせようとしたのなら成功だ。だがそれ以上ではない。どうせチェ・ビョンギはあなたの手下だから父さんと顔見知りだったくらいのことは十分あり得るから」

チョ会長「いつか君に話しただろう。どんな人間でも他人を見る目は純粋でも完璧でもないと」

イス「あなたのような人間がいう言葉ではない」

チョ会長「私の忠告を受け入れるべきだったな」

イス「どんな卑劣な手を考えているのか知らないが俺には通用しない」

チョ会長「証拠を探して証明すると言っていたな。君が何を証明することになるのか大いに期待しているよ」

電話を終えて父親の言葉を思い起こすイス。

“今日、父さんはとても幸せだ。やっと許してもらえた”

“お前たちが受ける傷を考えたらとても申し訳なくて胸が痛むよ”

そしてチョ会長の言葉。

“君の父親のことを考えても過去は伏せておくほうがいいのだ”

玄関のチャイムが鳴るが誰もいない。

スヒョンはイスに会うことなくマンションから出ていく。

警察署。

ヘウはピョン刑事からロバート・ユンがカン・ヒスと同じように投獄された経験があると聞くと電話してすぐに会いたいと言う。

ロバート・ユンのマンション。

出かけようとするユン教授にスヒョンが尋ねる。

スヒョン「あなたを拷問した人がこの中にいますか?」

ユン「顔が分かるのは一人だけです」

写真の中のハン・ヨンマンを指さすユン教授。

スヒョンは力なく歩き出す。

イスからの電話にも出ようとしない。

カフェ。

ユン教授から話を聞くヘウとピョン刑事。

チェ・ビョンギの写真を見せて尋ねる。

ヘウ・ピョン刑事「“影”はこの人ですか?」

ユン「違います。ここに来る前にこの人と影が一緒に写った写真を見ました。写真を見せられて、影は誰かと聞かれたんです」

イスの部屋。

スヒョンがイスを訪ねてくる。

スヒョン「焼酎ありますか?」

駐車場。

ヘウとピョン刑事が話し合っている。

ピョン刑事「ユン教授を訪ねたのはイスだろうか?」

ヘウ「いいえ。イスが探しているのはチェ・ビョンギであって影ではありません。影を探しているとしたらカン・ヒス氏の息子ではないかと思います」

ピョン刑事「カン・ヒスの息子と影は私が探してみよう」

ヘウ「私は明日コチャン(居昌)に行かなくてなりません。ある人を訪ねて」

イスの部屋。

スヒョンはイスに初めて会った日の話をする。

スヒョン「兄貴に出会って違う人間になったような気がします」

イス「後悔してるのか?」

スヒョン「いいえ・・・もう帰ります」

イス「スヒョン、何かあったのか?チェ・ビョンギがお前の顔を見た。もうカン・ヒスの息子だと気づいているかもしれない。気をつけろ」

スヒョン「心配しないでください。ところで何故うちの父さんだけ殺害方法が違うんでしょう?」

イス「関係のない事件のように見せるためだろう・・・地検長の容態はどうだ?地検長がチョ会長について証言をするなら・・・」

イスは地検長の身の危険を感じヘウに電話する。

イス「地検長を病室で一人にしてはいけない。地検長は唯一の証人だ。 チェ・ビョンギが地検長を狙うかも知れない」

ヘウ「ジュニョンが病室にいるから電話してみるわ」

ヘウが電話するがジュニョンは携帯を病室に置いたまま出かけている。

チョ会長の書斎。

チョ会長はジュニョンを呼んで全財産を使って財団を設立する準備をするようにと言いつける。

地検長の病室。

刑事を装った殺し屋が地検長の命を狙うがちょうどドンスが見舞いに来たので殺し屋は帰っていく。

ヘウが入れ違いに病室に入ってくる。

見舞いを終えたドンスが帰り際盗聴がどれ程の罪になるのかとヘウに尋ねる。

ヘウ「キム・ジュン代表が誰かに盗聴されているということなの?」

ドンスは違うとごまかして帰っていく。

病院入り口。

ジュニョンは知り合いの記者に声をかけられる。

ヘウがキム・ジュンと深い関係だと言われたジュニョンは怒り出す。

記者がすかさず上司に報告する。

記者「オ本部長に会って(情報を)流すことはしました」

病室。

ヘウは戻って来たジュニョンに話があると言うがジュニョンは冷たくヘウの手を振り払う。

チョ検事事務室。

スヒョンは知り合いの刑事にハン・ヨンマンについて調べるよう頼んでいた。

「(わかったことを)メールで送ってくれ」

イヒョンの部屋。

イヒョンは望遠鏡で星を見ながらスヒョンのことを思い浮かべる。

“君、僕のことが好きだろう。僕も君のことが好きだ。君も僕を好きになってもいいってこと”

嬉しそうなイヒョンだがまた鼻血を出す。

イスの部屋。

イスはソファで眠っている。

今までの悪いことが夢に現れうなされている。

その時玄関のチャイムが鳴って目を覚ます。

玄関にはドアの隙間から入れられた封筒が落ちていた。

ドアを開けると酒に酔ったヘウが壁に寄りかかっている。

ヘウ「イス、あなたってとても悪い人ね」

倒れたヘウをイスはベッドに寝かせる。

ヘウがイスの手をつかんだまま離そうとしない。

イスも仕方なくヘウの隣に横になりいつの間にか眠ってしまっていた。

ヘウは目を覚まし隣でイスが眠っているのを見て驚く。

イスが目を覚ました時にはヘウはいなくなっていた。

ヘウが持ってきた封筒の中身はハン・ヨンマンの経歴書だった。

右肩に赤い字で『ハン・ヨンマンの真実』と手書きされている。

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 1980.2〜0980.12 キョンギ グンポ警察署

 1980.12       退職

 1988.5        カヤホテルグループ入社
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チェ・ビョンギと同じ8年間の空白。

そして気になる備考欄の光州鎮圧軍投入という記載。

チョ家。

ヘウが家に帰るとパク女史がジュニョンも夜明けに帰って来たと心配している。

パク女史の機転でヘウのことは夜勤していることにしてくれていた。

チョ家2階。

ヘウが部屋に入るとジュニョンが寝ずに待っていた。

ジュニョン「夜勤だって?疲れただろう」

ヘウ「夜勤したんじゃないの。実は・・・」

ジュニョン「君はどこまで残忍なんだ。僕がどれだけ大変な思いをして耐えているかわからないのか。僕が何事もなかったようになんでも無いように振舞ってなんとか持ちこたえているのに。君もそうしてくれ」

マンションエントランス。

カヤホテルのキム秘書からイスに電話が入る。

秘書「チョ会長が全財産を社会に還元する計画をオ本部長に任せられたようです」

イスはスヒョンに電話してチェ・ビョンギと同じ署にいた刑事の連絡先を聞く。

キム係長「どうしてですか?」

イス「ちょっと調べることがあって」

スヒョンは自分の車に問題が起きたのでレンタカーを借りる。

イスの執務室。

ドンスはチャン秘書が盗聴器を仕掛けたと思い込み探していた。

それをチャン秘書に見つかる。

チャン秘書「何をしているんですか?」

最初はごまかしていたが・・・。

ドンス「チャン秘書、こんなことをしてはダメです。代表は孤独な人です。友人もなくて家族もなくて。その上に少数者(ゲイ)なので恋愛も好きなようにできなくて。とても孤独です!信じられる人はチャン秘書と私くらいなのにそのチャン秘書が盗聴するなんて。失望しました」

出ていくドンス。

ドンス「失望した、は言うんじゃなかった」

つぶやいて後悔するドンス。

カヤホテル社長室。

イスはチョ社長を訪ねて新しい事業でカヤホテルをパートナーにしたいと言う。

チョ社長「名前だけの社長だといって無視していたのにどうして私のところに?」

イス「ヨシムラ会長がチョ社長をとても信頼しておられたことを見れば私の判断が間違っていたと考えました」

チョ社長を持ち上げる。

そして帰り際。

イス「チョ会長が全財産を社会に還元するために財団設立を構想しておられると聞きましたが事実なら資金調達が難しくなると思います。もし資金で問題があればいつでもご相談ください」

イスがいう。

チョ社長「私にもその程度の力はあります!」

怒るチョ社長。

チョ会長書斎。

チョ社長がさっそくチョ会長に確かめに来る。

チョ社長「全財産を財団設立のために注ぎ込むという話は事実ですか?」

チョ会長「事実だ」

チョ社長「そんなことはやめて会長の椅子を私に渡してください。私に渡すくらいなら財団を設立して父さんだけ英雄になろうとするのですね。父さんがそう出るなら私は父さんの正体を暴露します」

チョ会長「そんなことをして私が倒れたらお前も転落することになる。お前だけでなくヘウまで罪人の子にしたければそうしろ。お前にはそんなことはできんだろう」

チョ社長室。

チョ社長はキム秘書を呼んで余剰資金を確認する。

キム秘書はイスに報告する。

秘書「代表のおっしゃる通り進行しています」

イスはスヒョンに教えてもらった元刑事の家を尋ねる。

元刑事「どなたですか?この家の住人ですが」

イス「もしや、ド・ジングさんですか?」

元刑事「そうですが、どちら様で?」

イス「シニョクと申します。チェ・ビョンギ氏とは1980年に同じ署に勤められていたと存じ上げています」

元刑事「そうですが」

イス「失礼な質問かもしれませんがあなた(刑事さん)もひょっとして光州(クァンジュ)抗争の時・・・」

元刑事「気になっていることは何ですか?」

イス「ハン・ヨンマンという人をご存知ですか?」

元刑事「ハン・ヨンマン?」

イス「はい。署は違いますがチェ・ビョンギ氏と一緒に鎮圧軍にいました」

元刑事「ハン・ヨンマンという・・・名前は記憶にありませんが」

写真を見せるイス。

イス「この方です」

元刑事「あぁこの人の名前がハン・ヨンマンだったのか?」

イス「思い出されましたか?」

元刑事「光州にいるのがとても大変だと言っていたよ。その当時指揮官がチェ・ビョンギだったんだが警察を辞めたいと言ったらとてもひどい仕打ちを受けました。ん〜そんな人が後で全くの別人になったよ」

イス「別人になったとは?」

元刑事「そんなに優しかった人が毒蛇のように変わったと言わなければならないか?」

イス「ひょっとしてその後の消息も知っていらっしゃいますか?」

元刑事「そこまでは知らないが警察記録を調べてみれば勤務地が出てくるはずですが?」

イス「警察記録には1980年に退職したものとされています」

元刑事「1980年ならチェ・ビョンギと同じ年度だが・・・ひょっとして南営洞(ナミョンドン)に一緒に行ったのか?」

イス「絶対にそんなはずはありまん。それは、それは絶対に違うはずです。お話ありがとうございました」

オ本部長室。

チョ会長の財団設立の情報がどこかから漏れたようだ。

キム秘書を呼んで情報がどこから漏れたのか調べるようにというジュニョン。

コチャン。

ヘウはスヒョンと一緒にコチャンに来ている。

父親の生母のことを聞いている。

生家「孫だって?子供はいないと言っていたのに」

ヘウ「ヤン・スンオクおばあさんは一生一人で暮らされましたか?」

生家「子供のようにかわいがっていた人が一人いてその人が葬式も出していたよ」

喫茶店。

ヘウはおばあさんの世話をしていた人に話を聞く。

世話人「初めは子供はいないと言っていましたが亡くなる数日前に息子が一人いると教えてくれました」

ヘウ「なぜ息子を探さなかったのか理由は聞きましたか?」

世話人「息子のため、としか聞いてません」

おばあさんはとても寂しく暮らしていて遺品もカバンひとつに収まる程度。

住所を教えれば送ってくれると言われる。

そしておばあさんの顔写真をもらう。

『大丈夫ですか』と心配するスヒョン。

『まだ希望はあります』というヘウ。

キム係長「どういうことですか?」

ヘウ「ソウルに帰るなら急がなくては」

地検長の病室。

病室で付き添っていたジュニョンが出かけようとしている。

『すぐ母さんが来ますから』というジュニョンを見つめる地検長。

意識はあるがまだ話せない。

ジュニョン「何か私に言いたいのですか?」

犯人のことをジュニョンに伝えたいようだ。

ジュニョンは父親に目で合図するように言って尋ねる。

「キム・ジュンを知っていますか?」「NO」

「キム・ジュンがイスです。イスがしたことですか?」「NO」

「犯人をしっているんですか?」「YES」

「名前もわかりますか?」「YES」

ジュニョンはボードに苗字を一つずつ書いて合っているか尋ねる。

『キム』『イ』『パク』『チェ』『ユン』・・・どれも違うらしい。

『チョ』「YES」

「チョ・ウィソンですか?」「NO」

「じゃあ、ヘウの家族とは関係ない人ですか?」「NO」

「まさかおじいさんのことを言ってるんですか?」「YES」

驚くジュニョン。

ヘウとスヒョン車中。

ソウルに帰る途中ピョン刑事から電話がかかってくる。

ピョン刑事「今までハン・ヨンマンについて安易に考えていたようだ。彼も元警察官でチェ・ビョンギと似ている点がとても多い」

ヘウ「イスのお父さんも拷問官だったということですか?」

ユン教授のマンション。

イスはユン教授に写真を見せて尋ねる。

イス「この人を知っていますか?答えてください」

ユン「“影”と呼ばれていた拷問官でした」

イス「拷問官・・・ですか?この人のことでしょう?」

チェ・ビョンギを指さすイス。

ユン「その人ではありません。影は・・・この人です」

ユン教授はイスの父親を指さす。

ショックを受けるイス。

ふらふらとよろけながら街を歩くイスは幻聴を聞く。

“世の中には均衡が必要だろう”

“必ず会わなければならない人がいるんだ”

“父親のことを考えても過去は伏せておくほうがいい”

“今日やっと許しを受けた”

“君は知らないことが多い”

“・・・”

イス「やめろ!!!やめてくれ!!」

イスは地下駐車場に駆け込み一人泣き叫ぶ。

しばらく感情を失くしたようにただ立っているイス。

警察署前。

ヘウとスヒョンが警察署に着く。

するとユン教授から電話。

ヘウ「誰が来たんですって?写真ですか?その人に教えたんですか?」

目をつぶり大きく息をするヘウ。

スヒョンの車を借りてイスのもとに向かう。

イスの部屋。

帰って来たイスは引き出しから拳銃を取り出す。

ヘウからの電話にも出ようとしない。

オルフェウスの絵の前で小さくつぶやく。

イス「振り返るな。終わらせなきゃな。ハン・イス」

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