鮫〜愛の黙示録〜 |
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第17話 イスの執務室/チョ会長書斎。 イスとチョ会長の電話が続いている。 イス「あなたの孫娘のことで私を脅迫するのですか?相手を間違えているようですね。私はあなたの孫娘が不幸になることを望む人間です」 チョ会長「そうかな?他のものはだませても愛はだませないものだからな。ヘウは君の弱点だ、私のではない。私は大きなことのために個人の犠牲は仕方ないと考える人間だから」 イスは会長が写真を公開すれば“文書”を公開すると言う。 しかし会長は“文書”はヨシムラ会長が作り出した空想小説だ、そして写真は当分自分が保管するという。 チョ会長はチェ・ビョンギに電話する。 チョ会長「君にやってもらうことがある。今度は絶対に失敗は許されない」 イスはあの写真が撮られたときにムン社長の手下が言っていた言葉を思い出す。 “あの女に気をつけろ!” そこにジュニョンから電話。 チョ検事室。 ヘウはピョン刑事の言葉を思い出している。 ピョン刑事『拉致容疑者はチェ・ビョンギ、古本屋の店主。元警察官だが退職後の記録が全く無い。私は退職した警察の先輩を当たってみるから君は検察側から調べてみてくれ。それとイスが“文書”を持っているかもしれない』 キム係長からの報告を聞く。 キム係長「チェ・ビョンギ名義の電話は無い。プリペイド携帯を使っているようです」 ヘウは電話番号を書いて渡す。 ヘウ「最近一ヶ月間の通話内訳を照会してください。私の祖父の番号です」 通路。 ジュニョンがイスを呼び出す。 イス「何の用ですか?」 ジュニョン「イス、お前がどうしてヘウにこんなことができるんだ?どうしてヘウを利用するんだ、どうして!お前が経験したのと同じようにそのまま返すのが筋だと思ってるのか?俺の父親にそのまま仕返したからこれで満足なのか?俺がお前を許すと思うのか?」 イス「許すな」 ジュニョン「俺も毎晩出かけて行ったよ。弟のジュノを殺した奴に同じように仕返ししようと毎晩そいつの家の前を通った。だけどできなかった。どうしてだかわかるか?ジュノが死にながら俺に残したものが復讐心だけだなんて我慢できなかった。ジュノが俺に残したのはそんなものじゃなかったのにジュノが残した沢山の思い出を復讐心に替えることはできなかった」 イス「説教するつもりならやめろ。俺は俺が選んだ道を行くだけだ」 ジュニョン「以前のハン・イスは本当に輝いていたのに今のお前には闇だけだな」 イス「関係ない。俺はもう闇の人間だから」 ジュニョン「ヘウまで闇の中に引きずり込むな。オ・ジュニョンがハン・イスに見せることができる友情はここまでだ。これ以上は絶対に我慢できない。それと父親のことは必ず責任を取ってもらうからな」 ジュニョンが帰っていくとイスはムン社長に電話する。 イス「社長の行動隊長に会わなくてはなりません」 バー。 ドンスはバーのオープン準備をしているバーテンダーと話している。 そこにヨシムラ会長とチャン秘書がやってきてドンスは慌ててカウンターの下に隠れる。 バーテンダーに席を外させて話をする二人。 ヨシムラ会長はチャン秘書にイスの監視はやめてホテルの仕事に専念するようにと言うがチャン秘書は自分が続けるほうが会長のためにもなると言う。 ヨシムラ「気の向かない仕事だと思っていたが私のためにやってくれるのか?」 チャン秘書「はい。指示されたとおり代表室にも盗聴器を設置するつもりです」 話を聞いて驚くドンス。 イス車中/ヘウ車中。 ムン社長の行動隊長に会いに行く途中のイスにヘウから電話。 重要な証拠の“文書”を自分に渡すようにというヘウ。 『今はダメだ。ヘウを信じられない』と言ってイスは電話を切ってしまう。 ヘウはキム係長から祖父の通話記録の中の身元未詳番号を教えてもらう。 ヘウ「私に考えがあります」 建物裏。 イスはムン社長の手先から“あの女”がチャン秘書だと聞かされる。 チャン秘書がイスを尾行して写真も撮っていたと知ってショックを受ける。 イスの部屋。 イスは自分の部屋に帰ると盗聴器を探す。 盗聴されていたことに怒りを覚えるが見つけた盗聴器をもとの場所に戻す。 ヨシムラ会長への不信感を振り払おうとするイス。 イスの執務室。 チャン秘書に続いてドンスもやってくる。 ジュースを持ってきたドンスに『イヒョンさんにも会いましたか』と聞くチャン秘書。 ドンス「イヒョンは具合が悪くて出てきてなかったんですよ」 チャン秘書「この前の私の話で傷つきましたか?」 ドンス「あ、いえ。本来男女問題は思い通りにはいかないものだから・・・世の中本当に生きて行くのは難しいですね」 チャン秘書の表情が暗いのは“気の向かない”仕事のせいか・・・。 チョ会長の書斎。 チョ会長が留守の間にヘウはキム係長に教えてもらった身元不詳の番号に会長の電話から電話をかける。 チェ・ビョンギが出るが何も言わない。 ヘウが一方的に話しかける。 ヘウ「おじさん、私と会って話をしてください。おじさんが決めた場所に私が一人で行きますから。いつまでも隠れてはいられません。私が・・・」 切られてもまたかけ直そうとするヘウ。 書斎の外でそわそわしているパク女史。 書斎に入ろうとするチョ会長に話しかけて引き止める。 ヘウが書斎から出てくる。 チョ会長は話があると言って書斎に入る。 ヘウは急いでキム係長にメールする。 乗り捨てられた車。 チェ・ビョンギが奪っていったキム係長の車が見つかる。 イスに報告している。 キム係長「この場所がチェ・ビョンギに結びつくとは思えませんが念のため調べてみます」 電話を切るとヘウからのメールに気付く。 ヘウ『緊急にこの番号の位置追跡を要請してください』 チョ会長の書斎。 チョ会長はヘウに写真を見せキム・ジュンが新聞社に送ったものだと言う。 キム・ジュンに利用されてはいけないという会長にヘウは誰にも利用されはしない、自分の意思で動いていると答える。 ジュニョンのことを考えろという会長。 ヘウ「ジュニョンのお父さんをあんな目に遭わせたのはおじいさんです!」 チョ会長「感情的になって真実を正しく見ることができないんだな、胸が痛い」 ヘウ「私も胸が痛いです、おじいさん」 ヘウ車中/ジュニョン本部長室。 外に出たヘウは車の中からジュニョンに電話して会う約束をする。 バー。 ヨシムラ会長が自分の父親とチョン・ヨンボ、チョ会長の関係をイスに話している。 イス「話しておいてくだされば誤解することもなかったでしょう」 ヨシムラ「お前のやり方を尊重しただけだ。それだけお前を信頼しているということだ・・・これからどうする?チョ会長に沢山のことを知られてお前は不利になった」 イス「それは、チョ会長も同じです」 イスの執務室/チョ社長室。 イスがチョ社長に電話する。 イス「ヨシムラ会長と事業のことで議論されたと聞いて連絡しました」 チョ社長「ヨシムラ会長と直接話をするから気にするな」 イス「会長は私にすべての事業権限を渡しました」 チョ社長「君とは格が会わないから相手にしたくない」 イス「それはよかった。ではチョ会長に連絡します。会長がすべての決定権をお持ちですから」 チョ社長は自分にホテルに関する決定権が無いことを指摘されて怒るが何か考え付いた様子。 イスはチョ社長がどうでるか楽しみな表情。 チョ検事室。 ヘウのチェジュ支庁への転勤が発令される。 部下「どうしましょう。あと1ヶ月しかありません」 ヘウ「1ヶ月も残っているじゃありませんか」 キム係長からチェ・ビョンギの携帯位置を知らせる電話。 キム係長「すぐ行かないとチェ・ビョンギがいなくなってしまいます」 ヘウ「どこですか?」 イス執務室。 イス「ヘウを一人で行かせたのか?」 キム係長「私も行くんですがちょっと手間取ってて。チョ検事が先に・・・」 イス「わかった」 慌てて電話を切るイス。 キム係長「もしもし・・・」 遠くからチェ・ビョンギがキム係長を見ている。 イス車中。 ヘウのもとに急ぐイス。 “私は大きなことのために個人の犠牲は仕方ないと考える人間だから”というチョ会長の言葉が頭をよぎる。 路地。 ヘウが細い路地でチェ・ビョンギを探しているとイスがやってくる。 ヘウ「どうなってるの?」 イス「どうしてこんな無謀なことを。本当にチェ・ビョンギに会ったら一人でどうするつもりだ。もうこんなことはするな。あいつはプロの殺し屋だ。君が考えているよりはるかに恐ろしい奴だ。わかったか?もう行こう」 ヘウ「写真のことだけど・・・写真を送ったのがあなたでないことはわかってる。私に文書を渡してくれないのはその写真のせいなの?おじいさんがあなたに何か言ったのね。何と言われたか知らないけど、私は大丈夫だから文書を渡して」 チョ会長の言葉を思い出すイス。 チョ会長『愚かにもヘウは君をために自ら破滅の道を選択した。私に直接それを宣言したよ』 ヘウ「私の心配はしなくていい」 イス「お前を信用できないだけだと言っただろ」 ヘウ「すべての始まりはあの文書よ。だから・・・」 イス「俺の計画を完成させるのは君だ。だから君は傷ついてもいなくなってもダメだ。自分で自分の身を守れ」 ヘウ「どういうことなの?」 イス「俺の言葉を肝に銘じろ」 ヘウ「何かあったのね?イス!」 いなくなったイスを探すヘウの前にキム係長が到着。 キム係長「遅くなりました・・・誰か探しているんですか?」 ヘウ「いいえ」 チョ会長の書斎。 チョ会長「ハン・イスを手助けしているのが誰だかわかったか?・・・それは驚いた。本当に驚くべきことだ」 キム係長と秘密裏で繋がっていることがバレてしまう。 チョ社長「父さん、私です!」 大声を上げながらウィソンが書斎に入る。 ウィソン「父さん、相談があります」 チョ会長「その前に私から話がある」 最近大変なことがあって疲れただろうからしばらく休暇を取って空気のいいところで休養するほうがいいと言われたウィソンは逆にチョ会長に休養を勧める。 ウィソン「ホテルのことは私にまかせて空気のいいところで好きな本を思う存分・・・」 チョ会長「黙れ!」 怒るサングク。 しかしウィソンは今までのように父親のことをもう少しも怖くないと言う。 ウィソン「拉致されたとき電話で話すのを全部聞いていました。地検長のことも父さんがやったんでしょう。私の本当の名前は“チョン・ウィソン”なんでしょう。心配しないでください。父さんの秘密が明るみに出れば、私にもいいことは一つもありませんから。ホテル経営、全権を私に渡してください」 チョ会長「それは私が勝手に決められることではない」 ウィソン「父さんは神でしょう!人の命を思い通りにしてるじゃないですか。神にできないことがありますか。父さんがどうして母さんを無惨に放り出したのか、やっとわかりました。私は、これまで一瞬も母さんのことを忘れたことはないんですよ!今週中にホテルの全権を渡してください。私もこれからはまともに生きてみせますから」 カフェ。 ピョン刑事が退職した警察の先輩にチェ・ビョンギのことを聞いている。 警察資料では1980年に退職したことになっているチェ・ビョンギ。 先輩の話ではナミョンドン(南栄洞)の公安分室で拷問官をしていたらしく8年間の記録がないのは身分洗浄したためではないかとのことだった。 ピョン刑事はカン・ヒスのことを思い出す。 公園。 ピョン刑事はヘウにチェ・ビョンギが拷問官だったことを話す。 ピョン刑事「もしかしたらカン・ヒスとチェ・ビョンギはすでに知っていた可能性がある」 カン・ヒスが学生運動で投獄された時期とチェ・ビョンギの空白の8年間が重なっていてカン・ヒスを拷問していたのがチェ・ビョンギである可能性が高い。 そしてピョン刑事はカン・ヒスが殺された理由が文書とは関係ないかもしれないと言い出すがヘウはそれを否定する。 二人の話をキム係長が真剣に聞いている。 ピョン刑事はチェ・ビョンギがどうやってチョ会長の下に入るようになったのかを調べ、ヘウはカン・ヒスがかかっていた精神科の医師に会うことにする。 イヒョンの家。 イヒョンは養母の隙を見てアルバイトに出かけようとするが見つかって止められる。 養母「父さんが当分家にいろと言っていたでしょう」 養母と一緒に出掛けて夕食も食べてこようと誘われるがイヒョンはそのまま家にいることにする。 イス執務室。 イスはチャン秘書に写真のことを聞きたいのをこらえて代わりに傷の治療をしてくれた礼だけを言う。 イス「チャン秘書がいてくれて本当に良かった」 チャン秘書はきまり悪そうに部屋を出ていく。 退屈でたまらないイヒョンが『会いに行っていい?』と電話して来るがもう少し我慢するようにと言うイス。 イヒョンはキム係長に電話する。 警察。 キム係長がピョン刑事に電話する。 キム係長「イヒョンさんが退屈そうだから一緒に映画を見に行っていいでしょうか?」 ピョン刑事「イヒョンにデートの申し込みしてるのか?」 キム係長「はいそうです」 ピョン刑事「あ・・・いや・・・真面目な話なのか?」 キム係長「はい。私はイヒョンさんが好きです」 ピョン刑事「おい!お前・・・」 キム係長「私が家まで安全に送りますから」 ピョン刑事「(言葉にならないピョン刑事)あ、そう、か」 イスの部屋。 イヒョンはキム係長に頼んでイスの部屋に連れてきてもらう。 スパゲッティを作ってあげると張り切っている。 その間にキム係長はイスにチェ・ビョンギが拷問官でカン・ヒスを拷問していたらしいと話す。 イヒョンの困った顔を見てイスが声をかける。 材料が足りないらしい。 冷蔵庫を開けてニンニクを探すイス。 冷蔵庫の中身を見てイヒョンはイスがちゃんと食事しているのか心配する。 チェ・ビョンギから電話がかかってくる。 今すぐ古本屋に行って机の引き出し取り出してみろと言われる。 イヒョンをキム係長に頼んでイスは出かけていく。 洋服店。 ジュニョンはヘウを病院ではなく洋服店に連れていき服を買ってあげる。 夜の公園を歩く二人。 ヘウはジュニョンに話があると切り出す。 ヘウ「私、イスに会ったの。言おうとしたけどなかなか言い出せなくて」 ジュニョン「その話はしなくていい。キム・ジュンがイスだということは僕も知っている。これ以上イスの話はするな。僕たちは何も変わらないんだから」 ヘウ「いつから知ってたの?」 ジュニョン「そんなことはどうでもいいだろう。重要なのはイスが君を利用しているということだ。そして僕の父さんをあんな風にしたのもイスだということだ」 ヘウ「お父様の事故はイスがしたことではないわ」 ジュニョン「君がイスに同情して哀れに思う気持ちはわかる。でもこれ以上イスに巻き込まれることは容認できない」 ヘウ「同情や憐れみのためじゃないわ。あなたに対する気持ちも変わってない。でもイスを一人で闇の中に置いておくことはできないの」 ジュニョン「やめろ、聞きたくない。どんなことがあっても僕たちは何も変わらないよ。僕は病院に行くから君は家に帰れ」 チョ検事事務室。 ヘウは家に帰らずに職場に戻るとカン・ヒスを治療していた医者からの電話を受けすぐに会うことにする。 古本屋。 イスはチェ・ビョンギに言われた通り古本屋に入り机の引き出しを取り出してみる。 引き出しの下には1冊の本。 その中から1枚の写真が落ちる。 警察学校の前でチェ・ビョンギとイスの父親が並んで写っているようだ。 イス「(独り言)どうなってるんだ?」 イスには訳がわからない。 まだ別の秘密があるようだ。 イヒョンの家前。 キム係長がイヒョンを家まで送ってきた。 イヒョン「ありがとう、アジョッシ(おじさん)」 キム係長「ちょっと呼び方を考えよう。“スヒョンさん”“オッパ”どっちにする?」 イヒョン「どっちも良くないんだけど」 キム係長「じゃあ“スヒョンオッパ”と呼んで」 イヒョン「ええ?」 キム係長「そしてこれからは頼み事もいっぱいしてもかまわないから」 イヒョン「気をつけて帰ってください」 嬉しそうに家に入るイヒョン。 車に乗ろうとしたキム係長に後ろから拳銃を突きつけるチェ・ビョンギ。 ビョンギ「動くな」 カフェ。 ヘウはカン・ヒスを治療していた医者と会っている。 ヘウ「カン・ヒス氏は拷問の後遺症がひどかったそうですね」 医師「はい、私の患者のうち最もひどいケースの一人です。それで覚えていました」 ヘウ「カウンセリングの間にチェ・ビョンギという名前は出てきませんでしたか?」 医師「拷問官は別名で呼ばれていたので直接名前を聞いたことはありません」 ヘウ「覚えている別名はありますか」 医師「はい。カン・ヒスさんから“影”を拭い去るのが私の目標でしたから」 ヘウ「影とは拷問の残像のようなものをおっしゃっているんですか?」 医師「いえ、カン・ヒスさんが最も恐れた拷問官を“影”と呼んでいたようです」 ヘウ「影・・・」 古本屋。 写真をじっと見つめるイス。 第18話へ |