〜個人の趣向〜 |
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第8話〜ケインのリベンジ作戦〜 チノはさっきの自分の言葉を思いだし荒れていた。 『そうだ。僕は・・・ゲイだ』 館長の悲しい目を見たら本当のことなんて言えるわけなかった。 ケインは心配でチノに電話するが出ない。 チノは一人夜の海を見つめている。 そしてさっきのケインからのメッセージを思い出していた。 『チノさん、心配で電話したの。もし車を運転してるならいったん止めて深呼吸して。何も考えずに深く息を吸って吐くの。いいわね?』 チノは深呼吸してみる。 ふと携帯を見ると母からメールが。 『今日は父の命日よ。帰ってくるでしょ?』 自宅に戻ってきたチノ。 命日にサンジュンも来ている。 いつものようにサンジュンにからかわれるが、沈んだままのチノ。 サンジュン「美術館で何かあったのか?」 チノ「いや」 サンジュン「妙だな。におうぞ。ただならぬにおいがする」 やってきたヘミに『本当にゲイみたい』とバカにされますます頭を抱えるチノ。 サンゴジェでは、ケインがヨンソンに今日の出来事を話していた。 ヨンソン「本当?チノさん、勇気あるわね。公言するなんて」 ケイン「電話には出ないしどこにいるのか・・・それとね」 ヨンソン「まだあるの?」 ケイン「ビンタしちゃった」 ヨンソン「誰を?」 ケイン「チャンニョルさん」 ヨンソン「嘘!あんたが?チャンニョルさんを?」 ケイン「そうよ!」 ヨンソン「いったいどういういきさつで?」 ケイン「殴るつもりはなかったのよ。チノさんのことを馬鹿にされてカーっとして思わず・・・」 ヨンソン「ひょっとしてチノさんに特別な感情を持ってない?」 ケイン「特別な感情って何よ?」 ヨンソン「友達以上に思ってるってことよ。一緒に暮らしてるうちに自然とそういう気持ちに・・・」 ケイン「ちょっとヨンソン!勝手な想像しないで。正真正銘の友達よ。私達は純粋な友情で結ばれてるの。それを変に勘ぐって・・・」 ヨンソン「友情?」 父の命日が終わり、サンジュンと飲みに来るチノ。 チノは何も語らず黙ってただ酒をあおり続ける。 サンジュン「おい、どうした。車で帰るんだろ?」 チノ「先輩、全て投げ出したい」 サンジュン「何かあったのか?」 チノ「コンペの件は諦めようか」 サンジュン「まだ希望を持ってたのか?」 サンゴジェに帰ってきたチノ。 ケイン「遅かったのね」 チノ「起きてたのか」 ケイン「眠れなくて。飲んできたみたいね」 チノ「少し」 ケイン「いつかみたいに記憶がなくなる前に早く寝て。チノさん・・・なぜあの場で正直に言ったの?こんなこと聞くなんて・・・ごめん。おやすみ」 行こうとしてたチノだが、思い直してケインの隣に座る。 チノ「チャンニョルに館長を利用する気かと言われた時館長が通りかかった。その目がとても悲しそうでつい口から出てしまった」 ケイン「そうだったの」 チノ「でもよく解らない。本心は違うのかもしれないな。例え館長を利用してでもコンペで入選したい、それが本心かな」 ケイン「そんなことない」 チノ「なぜそう言える?」 ケイン「友達だから。いつもあなたの味方よ」 チノ「お人よしめ」 ケイン「あなたがどんな人か知ってるもん」 チノ「実は・・・その・・・」 真実を伝えようとしたその時、ケインが立ち上がる。 ケイン「仕事に戻るわ。あのね。木はコブや傷があった方がありがたみがあるのよ。おやすみ」 また言いそびれたチノ。 もうチノの中でケインは特別な存在となっている。 だが、自分がゲイじゃないこと、コンペ入選のためだけにサンゴジェとケインに近づいたこと、それを伝えるタイミングを見つけられずにいた。 ケインは作業場で仕事をしている。 通りかかったチノは切っていた木を黙っておさえてあげる。 ケイン「いいのに」 チノ「慰めてくれたお礼」 ケイン「しっかり支えて」 定規を手にしたケインに間髪入れずにえんぴつを渡すチノ。 ケイン「共同事業はどう?助手にしてあげる」 チノ「僕の将来を潰す気か?」 ケイン「こんな家具売れないと思ってる?」 チノ「ああ」 ケイン「頭にきた」 チノ「僕が出世したら全部買ってやるよ」 ケイン「同情は結構」 チノ「本気?」 ケイン「プライドを捨てたらおしまいよ」 チノ「口だけは一人前だ」 チェーンソーを手にするケイン。 飛び退くチノ。 チノ「やめろ!君なら本気で切り刻みかねない」 ケイン「私はただ・・・」 チノ「こっちに向けるな!」 ケイン「私の作品は?」 チノ「世界一。降ろして」 ケイン「よろしい」 翌日。 綺麗に化粧して身支度を整えて美術館に向かうケインだが、チノに車で送って貰う。 ケイン「ねえ、いつもと違うでしょ?」 チノ「同じに見えるけど?」 ケイン「帽子もかぶったし口紅も塗ったわ」 チノ「髪は洗った?」 ケイン「洗ってない」 ちょうどいたバスを見つけて降ろして貰う。 走り出したバスを無理やり止めて、頭を下げながら乗り込むケインをニヤっと笑いながら眺めてるチノ。 そしてバスの窓から手を振るケインをみて笑いながら通り過ぎる。 車中ニヤニヤしっぱなしのチノ。 美術館に到着したケインは、チャンニョルに呼び止められる。 チャンニョル「話がある」 ケイン「私はない」 チャンニョル「頼む」 ケイン「早く用件を言って」 チャンニョル「お前変わったな。今の方がいい。以前は俺が何をしても怒らないから張り合いがなかった。昨日は本当に驚いたよ。ひっぱたくなんてな。正直腹は立ったが別人のようなお前に新鮮さを感じた。付き合ってた頃も正直に感情をぶつけて欲しかった」 ケイン「何がいいたいの?」 チャンニョル「お前のことをもっと知りたい。虫のいい話だけどお前とやり直したい。すぐに許して貰えるとは思ってない。だけど待つよ。なんと言われてもいい。イニの代役を引き受けてくれて感謝してる。以前の俺はお前の大切さが解らなかった。あんなに尽くしてくれてたのにな。ケイン、お前を失いたくない」 ケイン「今更何を言いだすのよ」 チャンニョル「やり直そう、ケイン。俺が許せないなら怒鳴りつけてひっぱたいてもいい。今度は俺がお前の全てを受け止める」 ケイン「もう何も聞きたくない」 バッグを掴んで立ち去るケイン。 チノの事務所。 コンペに予備審査が設けられたと大喜びしている。 浮かない顔のチノをよそに従業員達は大騒ぎしている。 チノ「無駄話はやめて仕事しろ。はしゃぐな。ハードルは高いぞ」 一方チャンニョル達親子。 予備審査が設けられたという報告に憤慨しているハン会長。 慌てて館長の父に電話するがあっけなく切られまた憤慨する。 チノのコンペ参戦はまぬがれないと覚悟したハン会長。 チャンニョルに『心してかかれ』と叱責する。 チャンニョルはその足で探偵と会う。 そしてチノを徹底的に調べあげろと頼む。 別の場所ではサンジュンとヨンソンが会っている。 そしてヨンソンからチノがカミングアウトしたことを聞かされ飲んでいたものを吹き出すサンジュン。 サンジュン「チノが公言したと?」 ヨンソン「そうよ!びっくりした?館長といい雰囲気だってのも初耳?」 頭を抱えるサンジュン。 チノが沈んでいた理由をやっと知る。 用事を思い出したと逃げるサンジュン。 急いで事務所に戻ったサンジュン。 サンジュン「チノ、お前・・・美術館のロビーでゲイだと公言したんだって?」 チノ「誰に聞いた?」 サンジュン「姉さん」 チノ「何が姉さんだ」 サンジュン「事情を説明してくれ。いったいなぜ・・・」 チノ「美術館へ行く」 サンジュン「何しに?」 チノ「館長に会う」 サンジュン「デート?」 ゲイじゃないことを打ち明けるというチノを必死で止めるサンジュン。 チノはサンジュンを押し切り、館長に会いに来る。 館長「待ってたよ、かけて。礼を言うつもりなら遠慮しとくよ。私は挑戦の機会を与えただけだ。関門を突破し建築家として飛躍出来るかどうかは君次第だ」 チノ「すみません。機会を頂けて有難いのですが、お気持ちは受けられません。応募条件が変わった後で言うのはずるいのですが、今正直に打ち明けないと館長を利用しているようで・・・」 館長「見損なわないで欲しいな。コンペを餌に気を引くつもりはない。いつか釣りに行こう。大物を釣ってみせる。じゃこれで」 チノ「ご好意には仕事で答えます」 館長「何よりうれしい言葉だ」 結局言えなかったチノ。 そこへイニが。 イニ「おめでとう。頑張ってね」 チノ「どうも」 イニ「お礼にごちそうしてもらおうかしら」 二人で食事にくる。 イニ「昨日、大事件があったの。ケインがチャンニョルさんを殴ったのよ。あなたのことでね。もしかしてあの子あなたのことが好きなのかしら?3年前館長が就任して以来、私は部下として働いてきた。傍についてるうちにMSグループの御曹司に嫁ぐのもいいなと思ったわ。玉の輿狙いってやつよ。でもね、なんか妙なの。海外出張に同行したり二人きりで遅くまで残業もしたけど一緒にいても男を感じないの。私って勘が鋭いほうなのよね」 チノ「何が言いたいのか・・・」 イニ「明らかにあなたは館長とは違うわ」 チノ「なぜこんな話をするのかさっぱり・・・」 イニ「何を言いたいのか解ってるくせに」 チノ「すみませんが先に失礼します」 イニ「チノさん、なぜサンゴジェに下宿を?部屋を探してたら偶然見つけた?」 何も言わずに去るチノ、ニヤっとほくそ笑むイニ。 夜、ケインはサンゴジェに戻ると門の前でチャンニョルの父が待っていた。 ハン会長は、ケインが教授の娘だと知り今度はケインに目をつけたのだ。 ケインに媚を売るハン会長。 自分を嫁に取れば教授も手に入れられると匂わせるハン会長を凝視するケイン。 そしてチャンニョルとよりを戻して欲しいと懇願する父。 帰ってくるなり頭を抱えるケイン。 『ハン・チャンニョル。あいつ、どこまで人を馬鹿にする気?』 そこへ訪ねてくるヨンソン。 ケインの売れ残った家具をヨンソンの通販サイトに載せたのだが、それが全部売れたと報告するヨンソン。 そしてそれを買い占めたのがチャンニョルだと告げる。 更に憤慨するケイン。 ケイン「もう信じられない」 チノが帰ってくる。 作業場で音がする。 ケインの叫び声で作業場に駆けつけるチノ。 手から血が流れている。 チノ「そそっかしいな。見せて」 ケイン「ほっといてよ」 チノの手を振りほどいて洗面所に向かうケイン。 それを追うチノ。 チノ「どうした?よくないぞ。怒りを自分にぶつけてどうする?」 ケイン「自分が情けない。あんな奴に舐められて」 翌日、ケインの元に飛んでくるチャンニョル。 ケインの手には包帯が。 チャンニョル「電話貰って驚いたよ。手をどうした?」 ケイン「説明して。椅子を買い占めた理由よ」 チャンニョル「そのことか。ヨンソンさんともギクシャクしてたろ?連絡しようとして偶然サイトを見たんだ」 ケイン「それで?なぜ買い占めたの?買ってやれば感謝されると思った?」 チャンニョル「そうじゃないよ。ケインの大切な作品だからさ。離島の学校に寄付するつもりだった。少しはいいことをしようと思ってさ。誤解するなよ」 ケイン「本気で私とやり直したいの?」 喜ぶチャンニョル。 サンゴジェで逆立ちをしているケイン。 チノ「何のマネだ?」 ケイン「雑念を振り払ってるの。昔は5分もったのに。私も年ね」 チノ「逆立ちで精神統一?」 ケイン「こうすると頭の中が真っ白になるのよ」 チノ「何かあったのか?」 ケイン「だめだ。走ろう!」 公園を走るケイン。 それを見つめるチノ。 チャンニョルの『やり直したい』という言葉、ハン会長の『教授の娘を嫁に貰えば』という言葉を思いだしながら必死で走っているケインだが、チノに止められる。 チノ「慣れないことをするな」 ケイン「チャンニョルに復讐する。決めたの。あいつを人生から完全に消し去ってやる」 チノ「ソクラテスは言った」 ケイン「汝自らを知れ」 チノ「君にその言葉を送るよ」 ケイン「言われなくても解ってるわよ。私一人じゃ復讐できっこない」 チノ「その通り。逆立ちしても無理だ」 ケイン「だから協力して欲しいの。私を利用しようとしたことを心の底から後悔させてやりたいのよ」 チノ「僕は母が大事だ」 ケイン「いきなり何の話?」 チノ「だからこそ母を思うと切なくなる。君と同じだ。母にも復讐したい人がいるが実行できない。復讐しても悲しみは癒えないからだ。君と友達になれたのは母に似てるからさ。復讐なんてできっこない」 ケイン「このままじゃ心の決着がつかない」 泣きすがるケイン。 家で。 ケイン「宣誓。パク・ケインはチョン・チノが『ゲームオーバーだ』と言ったらハン・チャンニョルに別れを告げます」 チノ「本当に君にできるか?疑問だな」 ケイン「日々精進し、必ず復讐を果たしてみせます。目的を果たすまで決してひるみません」 チノ「やめるなら今だぞ」 ケイン「何を言うのよ」 チノ「気が進まない」 ケイン「私の決意は固いの。目には目を!鼻には鼻を!」 チノ「目には目を、歯には歯を、だ」 ケイン「ごもっとも」 チノ「常識だぞ」 鏡の前にケイン。 チノ「始めて」 ケイン「だめだ。とても言えない」 チノ「決意はどうした?」 ケイン「やっぱ無理。恥ずかしい」 チノ「やめるか?自信をもって。始め!」 ケイン「『私は美人』」 チノ「その調子だ」 ケイン「『私はジェ(セ)クシー』」 チノ「噛むなよ」 ケイン「慣れなくて・・・」 チノ「そのうち本当にセクシーになれる」 ケイン「『愛されて当然だ』『私は完璧だ』」 ニヤニヤしてるチノ。 そして二人でデートに出掛ける。 門の外で車を用意してケインを待つチノ。 門からケインがでてくる。 その姿に、言葉をなくしてただ茫然と見つめるチノ。 でも悟られないように笑ってごまかす。 自分でドアを開けようとするケインにドアを開けてあげる。 チノ「お嬢様、どうぞ」 ケイン「やだ気持ち悪い。やめてよ」 チノ「大事に扱われて当然だと思うこと。いいね?さあ、お嬢様」 ケイン「悪いわね」 映画館に来た二人。 ケイン「お礼にここは私が払うわ。ポイントがたまってるの」 チノ「男に払わせてポイントためたとか?」 ケイン「まさか」 チノ「何を見たい?」 ケイン「あなたは?」 チノ「君が決めろ」 ケイン「あなたが選んで」 チノ「いつもそうなのか?」 ケイン「何が?」 チノ「相手の希望に従うだけか?」 ケイン「思いやりよ」 チノ「男は自己主張の強い女に惹かれるんだ。アクションが見たい」 ケイン「冗談でしょ。ラブコメにして」 チノ「そうだ。いいぞ。ベリーグッド」 手を叩いて褒めるチノ。 そこへ、チノが呼び止められる。 振り向くと、昔の彼女ウンスが。 隣のケインを見て尋ねるウンス。 ウンス「ひょっとして先輩の彼女?」 チノ「彼女じゃないぞ」 ケイン「彼でもないわよ」 ちょっと笑う3人。 喫茶店に移動する。 しばし昔話を。 解らないケインは黙って聞いている。 『友達をやめようと言ったくせに』というウンスの言葉に気まずくなる二人。 なんとなく察するケイン。 一緒に夕食をと誘うケインだが、お邪魔しちゃ悪いと断るウンス。 ケインに『待ってて』といいウンスを送りに行くチノ。 それを複雑な思いで見送るケイン。 外で。 ウンス「彼女がいるのにこんな話をして悪いけど聞いてもいい?覚えてる?引き留めてくれたら留学しないと言ったこと」 チノ「うん」 ウンス「私を行かせたこと後悔してない?」 チノ「ごめん」 ウンス「クールよね。そこがいいんだけど。次に偶然会うときは私にも恋人がいるといいな。10年後にまた会いましょ。ケインさんて、いい人ね」 それだけ言って去っていくウンスの後ろ姿をじっと見つめるチノ。 そしてあの時を思いだす。 二人、海辺で花火をしている。 チノ「なあウンス」 ウンス「何?」 チノ「話がある。僕たち、友達やめないか?友達は卒業だ」 ウンス「先輩・・・」 抱き合って笑う二人。 ケイン「まるで昔の恋人に会ったみたいね」 チノ「これまでの出会いの中で一番心惹かれた人だ」 ケイン「私もとても魅力的な人だと思うわ」 チノ「目標に向かって突き進んでいく姿を見て同志のように感じてた」 ケイン「私もウンスさんみたいになりたい。あなたが同志だと思ってくれるような人にね」 展望台で夜景を眺める二人。 チノ「好きです」 ケイン「チノさん?」 チノ「君といると楽しい」 ケイン「でも・・・あなたはその・・・」 チノ「高い所にのぼると気分が盛り上がって告白する勇気が湧く」 ケイン「え?」 チノ「今後のために覚えておけよ」 ケイン「あぁ・・・」 チノ「勘違いした?」 ケイン「別に?勘違いも何も・・・」 チノ「今日の講義は終了」 ケイン「チノさん、前を向いて」 背中に文字を書くケイン。 チノ「何を?なんて書いてるんだよ?」 ケインの天気予報『ライラックの香りが鼻をくすぐる春。親友の背中に文字を書き連ねる。もしも、もしもあなたが生まれ変わったら女の人を好きになるといいな。復讐のことはしばし忘れてしまった素敵な夜でした』 次の日。 チノに車で送って貰うケイン。 チノ「男を魅了するにはユーモアのセンスが必要だ」 ケイン「それなら自信あるわよ。お笑いの才能あるでしょ」 チノ「才能というより生活自体がお笑いそのものだ」 ケイン「世界一笑える小話。気象庁の運動会で雨が降る」 言って自分で笑う。 ケイン「次はあなたの番よ」 チノ「そうだな・・・思いつかない」 ケイン「師匠がお手本を見せてくれなきゃ。思いついたら電話して」 チノ「待ってろよ」 事務所でチノは、サンジュンとテフンに尋ねる。 テフン「笑える話?」 サンジュン「女が出来たか?」 チノ「え?」 サンジュン「ギャグで女の気を引くつもりだろ」 テフン「ヘミが泣くよ?」 チノ「いや・・・この場の雰囲気を盛り上げようと・・・」 サンジュン「笑える話なら俺の専門だぜ。まず顔からして笑えるだろ?」 納得するテフンに怒るサンジュン。 サンジュン「果物を積んだ車の話を知ってるか?」 ケインの携帯が鳴る。 ケイン「チノさん?」 チノ「リンゴと桃と梨を積んだ車が走ってる」 ケイン「はい?」 チノ「犬が飛び出してきて急停止した」 ケイン「あぁ笑える話ね」 チノ「車から落ちたのは?」 ケイン「それってなぞなぞじゃない」 チノ「笑えるかどうかが重要だ」 ケイン「桃かな?」 チノ「はずれ。落ちたのはスピードだ」 ケイン「切るわよ」 チノ「おい、もしもし?」 悔しがるチノ。 ケインは木材問屋に来ている。 また携帯が鳴る。 ケイン「はい?質のいい木材を探して飛び回ってるのよ」 チノ「今どこ?」 ケイン「楊平にある木材問屋よ。今度こそ笑える?」 チノ「もっとも美しい(イェップン)アルファベットは?」 ケイン「A B C D(イェップ)G。師匠、まだまだですね」 チノ「解りました。出直します」 チノ『くそ・・・もうネタがないぞ』 業者と一緒に木材を見て回っているケイン。 また携帯が。 ケイン「今度は外さないでよ」 チャンニョル「何の話だ?」 チノだと思って出たケイン。 ケイン「チャンニョルさん?」 木材問屋にいると教えるケイン。 ケイン『ついに計画を実行する日が来たか』 また携帯が。 ケイン「師匠には正直がっかりです」 チノ「今度こそ笑える。おばあさんが持病で倒れた。慌てた嫁は家族にメールを送ったが字を打ち間違えた」 ケイン「なんて?」 チノ「おばあちゃんが痔病で倒れた」 思わず笑うケイン。 チノ「笑ったね?僕に追い付けるように努力したまえ」 ケイン「解りました」 その時。 上に積んであった木材が大量にケインの頭に降ってくる。 頭から血を流して倒れるケイン。 そのまま意識を失う。 チノ「もしもし?ケインさん?どうした?おい!」 慌ててカバンを掴んで走り出すチノ。 チノは運転しながら木材問屋に電話すると、病院に運ばれたと知らされ方向転換する。 病院にかけつけるとベッドに横たわるケインが。 近寄ろうとするが、先に来ていたチャンニョルがケインに水を持ってくる。 その二人を見て立ち止まるチノ。 ----------------------------------------------------------- 想像のシーン。 ケインのベッドに近寄る。 チノ「大丈夫か?」 ケイン「チノさん」 チャンニョル「なぜお前が?」 チノ「怪我のほうは?」 ケイン「たいしたことないわ」 チャンニョル「何のつもりだ?お前は男でも相手にしてろ」 チノ「僕が決めることだ。(ケインに)起きられる?」 ケイン「え?」 チノ「行こう」 チャンニョル「ケインに触るな」 チノ「これからは僕の女だ。手を出すな」 涙目でチノを見つめるケイン。 ケインの手を引いて歩き出す。 ----------------------------------------------------------- 自分の手に、ケインの手はなかった。 チノ『復讐に協力するはずがなぜ出来ない。バカだな、チョン・チノ』 受付でケインの怪我の程度を尋ねるチノ。 受付「CTでは異常ありません。軽傷なのでご安心を」 チノ『僕が出来るのはここまでだ』 そのまま帰ってしまう。 チノの事務所では、チノと連絡が取れないと騒いでいた。 いつも冷静なチノが血相変えて飛び出していくなんて初めてだと一様に驚いている。 そこにイニが訪ねてくる。 チノは出かけていないと伝えるがそのままチノを待つイニ。 ケインはそのままチャンニョルに車で送って貰う。 ケインはチノへ『連絡して』とメッセージを送るが、チノは無視して見ない。 飲み屋で出来上がっているイニとサンジュン。 ずいぶんと酒が入っていて、サンジュンはイニの質問に次から次へと答えてしまう。 チノがゲイではないことまで。 一人事務所に戻ったチノ。 明かりを一つだけ灯し、ただ一点を見つめている。 第9話へ |