〜個人の趣向〜
第3話〜ゲイ?まさか・・・〜

ケイン「やってみなさいよ!あんたは彼の好みじゃないわ。彼はゲイだもの!」

部屋の中でそのやり取りを聞いてしまったチノ。

イニ「ゲイ?」

ケイン「そうよ。試しに誘ってみたら?あんたが迫れば女を好きになるかも?」

イニ「嘘でしょ?」

ケイン「嘘なんかついてない。あんたとは違う」

イニ「そう。それが男を連れ込んだ言い訳?」

ケイン「ただの下宿人よ。友達を裏切るような人に部屋を貸すよりゲイの方が安心よ」

イニ「いい気なものね。男に会う時も敗れたジャージ着て女扱いされなくて当然よ。恋人を奪われたのは自分自身のせいでしょ?」

ケイン「出てって。これ以上話す気力がないの。早く帰って」

イニ「帰る所が他にないの」

ケイン「イニ、人の気持ちを考えたら?」

イニ「ケイン、変わったわ」

ケイン「誰のせい?」

イニ「行く当てがないのよ!」

ケイン「もう言い争うのはたくさん。出てって」

イニ「そう。今日の所はしかたないわね」

ケイン「あんたとは二度と会いたくない。もう来ないで」

イニ「そうはいかないわ」

ケイン「信じられない・・・人を傷つけておいて・・・」

部屋の前で鬼の形相で立っているチノに驚くケイン。

チノ「さっき何て言った?」

ケイン「何?」

チノ「誰がゲイだ?」

ケイン「ごめん」

チノ「よくもあんな嘘が言えたな。許せない」

ケイン「そりゃ隠したいわよね。つい成り行きで・・・でももうとっくにバレてるわ」

チノ「何?」

ケイン「偏見は持ってないから安心して。誰を愛そうと自由だけど二股かけるのは・・・」

チノ「二股?」

ケイン「昨日の先輩の他にモーテルの彼とも・・・一人に絞るべきよ。裏切られた人の気持ちを考えてみて」

チノは荷物を全部カバンに詰め込み出ていく準備を始める。

チノ「携帯の番号を」

ケイン「は?」

チノ「言ってみろ」

ケイン「010-879-0299よ。なぜ?」

チノ「0299ね。僕の口座。保証金の返金先だ。荷物は後日運ぶ」

そのまま出て行ってしまうチノ。

翌朝、事務所で。

サンジュン「おはよう。どうした?」

チノ「まいったよ」

サンジュン「何?彼女と何かあったか?やっぱりな。変な女だと思ったよ」

ケイン「ああ」

サンジュン「初日に襲うことはないよな?いくらお前がいい男でも・・・まあ仕方ない。目を閉じて身を任せろ」

チノ「先輩、何と言われたと思う?」

サンジュン「付き合おう?まさか、結婚して?」

チノ「いや。ゲ・・・ゲ・・・何でもないよ。入居はしない。最初から乗り気じゃなかった。美術館のコンペは他の作戦で行こう。考えたんだ。DAセンターの設計案を応用して伝統様式の中庭を取り入れる。資材は耐久性の高いものを」

サンジュン「(力なく)いい案だ。未来建設のような大きな会社にも勝てそうだな。連中が同じような案を出して裏金をバラまいてもきっと勝てるだろうよ」

チノ「続きを聞け。だから・・・」

サンジュン「まあ落選してもどうってことない。お前は事務所を畳んで他に就職し俺は実家のスーパーを継ぐ。死ぬ程嫌だけど・・・大根やら白菜やら性に合わない」

サンゴジェでは。

ケイン「イニの奴どういうつもりよ」

ヨンソン「その場にいたらぶっ飛ばしてた」

ケイン「チノさんを見て男を連れ込んだって」

ヨンソン「ちゃんと言い返してやった?」

ケイン「もちろんよ。あいつはゲイなのよ、誘ってみれば?ってね」

ヨンソン「彼の耳には入らなかったわよね?カミングアウトしてないのにバラすなんて!」

ケイン「そうよね。だから怒って出て行っちゃった」

ヨンソン「どうする気よ。出ない?」

チノに電話するケイン。

でも出ない。

するとメールで返信が。

『すぐに返金を』

ヨンソン「せっかく救いの主が現れたのに」

ケイン「もういい。もともと気が進まなかったしね」

ヨンソン「選り好み出来る立場?」

ケイン「ウォノからお金を回収すれば保証金はすぐに返せる。あんな男お断り!」

街中を歩き回ってウォノを探すケイン。

まさかこんなことになるとは思っていなかったケインは、チノに返すべき保証金を使い込んでいたのだ。

病院で足の包帯を取って貰うケイン。

チノの事務所。

まだサンゴジェを調べている。

サンジュン「どう見てもよくある韓国式家屋だ。チェ会長が魅せられた訳は?」

チノ「教授いわく、妻と子にささげる家らしいがピンとこない」

サンジュン「あの家に戻って探れ」

チノ「断る。金が戻ったらオサラバだ」

サンジュン「そう言わずに彼女とうまくやれよ」

チノ「よしてくれよ!」

サンジュン「うまくいけば一石二鳥だ。コンペで入選しパク教授の娘と結婚すれば将来が約束される」

チノ「うるさい!」

そこへテフンが入ってくる。

テフン「何の相談を?」

チノ「何の用だ?」

テフン「お客さんだよ?」

やってきたのはケイン。

ケイン「私は口が堅い方なの。その・・・昨日はどうかしてた。だから許してくれない?私って思ったことをすぐ口にしちゃうの。直そうと努力はしてるけど・・・」

チノ「話は以上?じゃあ」

ケイン「まだ!まだ続きが。もう誰にも言わない。戻ってきて」

チノ「早く返金してくれ」

ケイン「ちょっと!」

バッグから箱を取り出してチノに渡す。

チノ「これは?」

真っ白なテーブルとイスを小さくしたモチーフだ。

ケイン「プレゼント」

チノ「賄賂では?」

ケイン「感謝のしるしよ。この前治療費を出して貰ったでしょ?だからその負担に思わないでね。入居を断られても人としては礼儀は尽くさないと」

チノ「あの日苦労したのは確かだ。貰っとくよ」

ケイン「じゃ、その・・・戻ってくれる?」

チノ「いや。餞別をどうも」

さっさと戻ってしまうチノ。

事務所の机に飾ってあるケインに貰ったミニチュアのテーブルとイスに気付くサンジュン。

サンジュン「なんだ?買ったのか?」

チノ「もらった」

サンジュン「誰から?」

チノ「さあな」

その時ヘミが怒り心頭で入ってくる。

ヘミ「あのメモはどういうこと!?急に家を出るなんて!」

チノ「ごめん。またな」

ヘミ「おば様が心配してる!家出する歳でもないし・・・」

チノ「決めたのさ。同じ家に住むのは不自由だろ」

ヘミ「全然。私なら大丈夫。あなたといられるのよ」

チノ「考えてみろ。年頃の男女が同じ家に住むのは世間体が悪いしご両親も心配する」

ヘミ「もしかして私のため?うれしい!」

チノ「結婚する時に嫌がられるぞ。それからここは職場だ。勝手に入るな」

館長室。

ニヤけながら入ってくるハン会長。

館長「早いですね。説明会は30分後です」

会長「承知してます。その前にお話ししたいことが」

館長「そちらへ」

会長「今回の増築プロジェクトは父君である会長同様館長のご尽力も大きい。歴史に残る名建築家になりますよ」

館長「どうも」

会長「どうぞ。私の宝物でしてね。館長が所蔵された方が絵も喜ぶでしょう」

大きな絵を渡す。

館長「すみません。仕事がありますので」

受け取らずに言ってしまう館長。

自分の父とは違いあくまで公平を貫く館長。

説明会。

司会「タム美術館設計コンペ説明会を始めます」

館長「こんにちは、館長のチェです。大部分の方は詳しい内容をご存知ないと思います。今回の計画は単なる増築ではなく当美術館の新境地を開く一大事業です。新しく建設される施設の名称はタム芸術院です。施設の敷地面積は5万9千坪。総工費は4千億ウォン。作品を展示するだけでなく芸術家が居住し創作に専念できるよう住居型スタジオを500室設けます。伝統建築の様式と最新技術を用いた世界に誇れる芸術院。参加される方々の独創的なアイデアに期待しています」

その後会場でチャンニョルと揉めるチノ。

勇敢ではっきりと物言うチノにときめいてしまうイニ。

そして正々堂々と宣戦布告するチノを見る館長。

帰り道の車中でチャンニョル親子。

会長「DAセンターで館長はチノの作品を気に入っていた」

チャンニョル「あいつが入選するもんか。父さんが裏で手を回せば決まりさ」

会長「今回は通用せん」

そこまで聞いたチャンニョルは、今回ばかりは全面的に俺に任せて欲しいと父に懇願する。

裏工作が通用しないのなら正々堂々とチノと戦いたいと。

チノに1本の電話が入る。

請負業者先で事故が起き作業員が怪我をしたと。

工程がきつすぎると訴える作業員達。

サンジュン「もうおしまいだ」

チノ「大事故じゃないから心配するな」

サンジュン「建築主が不渡りを出して逃げた。お手上げだ」

考えるチノ。

サンジュン「どうかしてるぞ!この状況で治療費を肩代わりするなんて」

チノ「責任はないと言って帰れるか?」

サンジュン「事務所は倒産寸前なんだぞ?」

チノ「こうなったらサンゴジェに戻るしかない」

サンジュン「よく決心した。骨をうずめる覚悟でいけ」

サンゴジェに帰ってくるチノ。

そして相変わらず散らかり放題の家を見て呆れる。

チノ『まるで豚小屋だ』

ケインが帰ってくる。

チノ「汚すぎる」

ケイン「帰ってきたの?おかえりなさい。一緒にラーメン食べない?」

無視してケインを引っ張っていくチノ。

ケイン「どこいくのよ!」

スーパーにやってきた二人。

エプロンやら日用品をカートに詰め込むチノ。

レジ「9万4千ウォンです」

ケイン「私は買うなんて言ってない」

チノ「日用品は大家がそろえるものだ」

ケイン「財布がない」

チノ「僕もだ」

ケイン「本当?じゃ、さっさと返そう」

チノ「解ったよ。携帯で払います。クーポンは2枚で」

ケイン「携帯でクーポン?」

チノ「今や常識だよ」

ケイン「へ〜」

チノ「一つ持って」

サンゴジェ。

チノ「最後に掃除したのはいつ?」

ケイン「出ていく人には関係ないでしょ」

チノ「保証金は?返ってくるまで住む。言っとくが僕は人間らしく暮らしたい」

ケイン「失礼ね。今だって十分快適よ。生活していれば・・・物が散らかることだってあるのに」

チノ「いいかい。価値ある伝統家屋が台無しだ」

ケイン「解った!掃除すればいいんでしょ。そうすれば出ていかない?そうよね?」

チノ「ゲイ呼ばわりしないと約束しろ」

ケイン「もちろんよ!ゲイ・・・あなたの秘密は誰にも言わないわ」

必死で掃除するケイン。

指示を出すチノ。

いつの間にかチノが掃除していることに気付きケインを探すとベッドに寝そべるケインが。

ケイン「終わった?」

チノ「ああ。君の分までね」

ケイン「ごめんなさい。これを片付けようと・・・」

チノ「ままごと道具か?」

ケイン「古い形見よ。あなたが生まれる前からの物なんだから。母が作ったの。私と同じ家具デザイナーでね」

チノ「それでお母さんは・・・」

ケイン「実物より素敵。この犬はチノさん」

チノ「まだゴミだしが残ってる」

ゴミの中にチャンニョルと二人で写る写真立てを見つけるチノ。

チノ「これも捨てるのか?」

黙って捨てるケイン。

チノ「写真立ては外して資源ゴミへ」

ケイン「(呆れて)よほどの掃除好きね」

チノ「当たり前のことさ」

チノが行った後、黙ってじっとその写真を見つめるケイン。

そしてチャンニョルの結婚式の場面を思い出す。

『俺はお前を愛してなかった。何て言うか俺にとってお前は雨に濡れてさまよう子犬のような存在だった』

新居に帰ってきたチャンニョルは玄関を開けようとするが暗証番号が変えられてて入れないことに気付く。

新居をイニに占領される可哀そうなチャンニョル。

サンゴジェでは。

チノはシャワーを浴びている。

ケインを訪ねてきたヨンソンはすっかりピカピカになった家を見て驚く。

ケイン「いらっしゃい」

ヨンソン「なんだか今日は家の中の空気がキレイね」

ケイン「まいったわ。大掃除したせいで体中が痛い」

ヨンソン「掃除?あんたが?」

ケイン「あいつが。人間らしく暮らしたいと言うから」

ヨンソン「戻ったのね?」

ケイン「賄賂渡したの」

ヨンソン「よくやった!ご機嫌をとっといてよ。私のためにもね」

ケイン「ひょっとして彼を入居させたがる訳は・・・」

ヨンソン「解ってるでしょ?モデル探しも一苦労なの。肩揉むわ」

ケイン「ところで急に何の用?」

ヨンソン「忘れてた」

受け取った紙を見て。

ケイン「ウォノの住所じゃない!」

ヨンソン「刑事の夫なんてこんな時にしか役に立たないわ」

ケイン「助かった!お礼を言っておいて。さすがはヨンソン!」

シャワーが終わり身体を拭こうとしていた所にケインが急にドアを開ける。

チノの裸を見てしまうケイン。

反射的に急いでドアを閉めるが、また開ける。

チノ「覗くな!」

ケイン「見てないわ。眼鏡かコンタクトがないと視界がぼやけちゃうの。何も見てないから怒らないで」

部屋に戻ったチノ、思わず独り言。

チノ『僕の頭じゃ理解出来ない。このままじゃ寿命が縮まるよ』

寝ようと思い電気を消すと、部屋の外でケインとヨンソンの会話が聞こえてしまう。

ヨンソン「で。見たの?」

ケイン「眼鏡もコンタクトもしてなくて・・・でもバッチリ見たわ。それなりに引き締まってた」

チノ『(独り言)それなり?』

ヨンソン「肝心なところは?」

ケイン「どこよ?」

ヨンソン「アソコ」

ケイン「ちょっとやめてよ」

チノ『(独り言)アソコ?』

ケイン「もう!そんなに知りたい?」

ヨンソン「じらさないでよ」

ケイン「そうね・・・これくらい?こうかな?」

ヨンソン「そんなに?」

ケイン「いや、もっと小ぶりかも?」

ヨンソン「なーんだ」

チノ『(独り言)黙って聞いてれば・・・』

その時電話が。

チノ「もしもし?」

ヘミ「おば様がいない!」

チノ「何だって?」

慌てて飛び出すチノ。

行きつけのバーに行ってみるとそこに母が。

ほっとするチノ。

チノ「お一人で?ご一緒しても?」

どうぞと母。

チノ「美人が一人でいたら危ない」

母「息子はもちろん誰からも相手にされないおばさんよ」

チノ「誰がおばさん?」

母「たまにここが恋しくなる。昔よく来たわね。決まって私がワインでパパがコーヒー、あなたはジュース。3人で話し込んだわ。お酒が好きなパパもここに来た時は一滴も飲まなかった。あなたの頭を撫でてチノが大人になったらヘミも連れてこよう。その頃にはチノに車の運転を任せて僕もワインが飲める、そう言ってたのに」

泣き出す母。

しばし懐かしい話に耳を傾けるチノ。

ウォノの住所を頼りに訪ねてきたケイン。

ケイン「すみません。あの・・・ごめんください」

祖母「あら・・・どうぞ。今日来る日だった?ボランティアの子とは違うね?」

ケイン「その実は・・・私がこちらに伺ったのは・・・」

ボランティアの子と間違えてる祖母。

字が読めないという祖母の手紙を代わりに読んであげるケイン。

でもそれは借金の督促状。

年老いた祖母にこれを読むわけにいかないケインはとっさに考えて適当に読む。

結局何も言いだせずに力を落として帰るケイン。

その頃チノは、従業員達を労い事務所の庭でバーベキューをしている。

テフン「うまそうだ」

サンジュン「おい、ぜいたくだぞ」

チノ「必要経費さ」

テフン「さあ焼けたぞ!」

サンジュン「牛肉?」

チノ「今度のコンペにはうちの未来が懸っている。みんなで力を合わせて頑張ろう」

サンジュン「成功を祈って!乾杯!」

サンゴジェに戻ったチノ。

何やら奇声が聞こえる。

慌てて声がする方へ駆け込むと。

ケインが裸でコンタクトを探していた。

ケイン「早く閉めて!」

チノ「悲鳴をあげるからだ。そそる身体でもない」

ケイン「何ですって?」

そこで彼がゲイだと思いだす。

ケイン『あぁ・・・彼なら平気よね』

ケイン「チノさん!女性に興味がないこと忘れてた」

チノ「君に興味がないだけだ」

ケイン「私にまで隠そうとしなくても・・・手を貸して貰える?」

チノ「何だ?」

ケイン「コンタクトを落としちゃった。よく見えなくて探せないの。協力して」

チノ「先に服を着てくれ」

ケイン「裸でいても何も感じないくせに」

チノ「当然さ。感じるわけない。どの辺だ?」

ケイン「この辺なんだけど・・・こっちかな?」

接近する二人、気づくとチノの目の前にケインの胸が。

気になって仕方ないチノ。

チノ「どいてくれ」

チノ、何かに気付く。

ゆっくりケインに手を伸ばし、濡れた肩に張り付いたコンタクトを取ってあげる。

ケインのお腹が鳴る。

ケイン「焼肉を食べに行こうよ。カルビが食べたい」

チノ「もう食べてきた」

ケイン「おごるわ」

チノ「遠慮するよ」

ケイン「ルームメイト同士仲良くしようよ」

チノ「あくまでも他人だ」

部屋に戻ったチノは上着に消臭剤をかけて丁寧にしまう。

諦めきれないケイン。

チノの部屋の前で聞こえるようにたたみ掛ける。

ケイン「ああお腹ペコペコ。一緒に食べてもくれないのににおいだけ嗅がせるなんて血も涙もないルームメイトね。飢え死にしそうなのに食料はない。お店に行くにしても一人で焼肉なんてね。一緒に食べてくれる人がいればなぁ。お一人様ですか?って・・・」

そこまで聞いてドアを開けるチノ。

チノ「解った。行こう」

支度をして出てきたケイン。

まるでボロ雑巾みたいな身なりで。

チノ「その格好で?」

ケイン「だめ?変?」

チノ「恥ずかしくないか?」

ケイン「ファッションにも細かいのね」

チノ「君は無頓着すぎる」

ケイン「じゃ着替えてくる」

チノ「もういいよ。行こう」

焼肉屋で。

もうケインは既に酔っている。

ケイン「ハン・チャンニョル。あいつはこう言った。お前は雨に濡れてさまよう子犬のような存在だ。子犬・・・その子犬とキスしたアイツは野良犬かしら。男なんてみんな同じ。イニみたいに美人でセクシーな子しか女と思わないんだから。でもチノさんはそういう男とは違うから嬉しいわ」

チノ「そうか。出よう」

ケイン「まだよ。お酒がこんなに残ってる」

チノ「最後の1杯だぞ」

だがそこへ偶然館長がやってくる。

チノ「いいから出るぞ」

ケイン「チノさんて思ってたより優しい人なのね」

チノ「早く食べてくれ」

ケイン「ちょっとトイレへ・・・」

フラフラと歩き出すケイン。

チノのテーブルに酒が1本運ばれてくる。

チノ「頼んでませんよ?」

すると近くの席に座っていた女性客がウインクを送ってくる。

それを見た旦那が怒り狂ってチノに襲いかかる。

旦那「人妻をたらし込む気か?」

ケインが慌てて戻ってくる。

ケイン「ちょっとやめてよ」

旦那「あんた騙されてるぞ。ミエミエなんだよ。金目当てさ」

ケイン「チノさんはそんな人じゃない!」

旦那「邪魔するな。俺の女を誘おうとするのを見たぞ」

チノ「ずいぶん視力が悪いようですね」

旦那「この野郎、とぼけても無駄だ。ふざけやがって」

ケイン「誤解だってば!この人はゲイなのよ!」

そこにいた全員が聞いてしまうケインの発言。

もちろん、館長も。

酔っているケインはこの空気に気付かない。

ケイン「だから誤解だと言ったのに。いいがかり・・・」

慌ててケインの口をふさぐチノ。

ケイン「チノさん。お金・・・財布が空なのを忘れてた」

結局チノが払うことに。

怒って出ていくチノ。

チノ「またゲイ呼ばわりしたな」

ケイン「ごめんなさい」

チノ「酔っていたとしても許せない」

泣き出すケイン。

慌てるチノ。

チノ「おい、急になんだ」

ケイン「ごめんなさい、チノさん。また約束破っちゃった。あなたが因縁をつけられてるから何とかしなきゃと思って・・・店にいた人達にあなたがゲイだとバラしちゃった。なんて馬鹿なの。パク・ケインの大ばか者」

チノ「いいから泣きやめ。どうせ手遅れだ。ケインさん帰ろう」

そこに寝てしまうケイン。

ケインを置いて立ち去るが、ため息をついてまた戻ってくる。

チノ「ケインさん。おい、起きろ。帰るぞ」

足を痛がるケイン。

ケイン「またひねったみたい」

仕方なくおんぶしてあげるチノ。

チノ「いくらなんでも重すぎる」

ケイン「ああ、いい気分。春の空気って気持ちいいわね」

チノ「いい気なもんだ」

ケイン「頑張ってるからこれあげる。チノさん頑張れ!」

自分が巻いてたマフラーを巻いてあげる。

ケイン「背中がすごく温かい。パパの背中も温かいのかしら」

チノ「おんぶされたことは?」

ケイン「誰かにおんぶして貰うのはこれが初めて。人の背中ってずっと冷たいものだと思ってた。チノさんがルームメイトで本当によかった」

ケインの天気予報『まだ肌寒さは残るけれど隣の部屋から吹いてくる温かい風に春の陽気を感じられそうだ』

サンゴジェに着いた二人。

チノは酔いつぶれて眠ってしまったケインをソファに降ろす。

ケイン「何してるの?」

チノ「足がつるぞ?部屋で寝ろ」

ケイン「楽でいいわ。他の男なら大声をあげるとこだけどあなたは女の足なんて興味ないんだもんね」

チノ「さっさと寝てくれ」

足を痛がるケイン。

チノ「またか」

足を揉んでもらうことに。

ケイン「うん、そこ・・・チノさん、痛い。もっと優しく・・・」

チノ「うるさいぞ」

ケイン「チノさん、そこ・・・ああ、いい・・・最高」

チノ「気が散る。もう終わりだ」

ケイン「あと少しやってくれない?」

チノ「手が動かない。僕は召使いか」

ケイン「ありがとう、助かったわ。ゲイのルームメイト最高!」

苦虫をかみつぶすチノ。

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