〜個人の趣向〜
第13話〜誕生日に願いを込めて〜

サンゴジェの地下室にいるチノ。

電球を取り替え改装の案を練っている。

チノ『ガラス天井の見積もりに、壁の塗り直し・・・直したら喜ぶぞ』

嬉しそうなチノ。

そしてやっぱり立てかけられた黒い筒に目が止まる。

それを手にとって中身を出してみる。

まさしく探し求めていたサンゴジェの設計図だった。

チノの事務所。

サンジュンとヨンソンはケインの誕生日をどう祝うかを相談している。

サンジュン「解ってないな。派手な演出はかえってシラける。何ていうかしみじみと幸せに浸れるような厳かな場にするべきだ」

ヨンソン「えらそうに。恋人もいないくせに知ったような口をきいちゃって。基本アイテムを挙げて」

サンジュン「基本て?」

ヨンソン「一番大事なのはケーキね」

サンジュン「それと?」

ヨンソン「バックに流す音楽とロウソク」

サンジュン「とっておきのワインをキンキンに冷やして・・・」

ヨンソン「グッド!」

サンジュン「コルクを抜いてグラスに注ぐ。乾杯。酔いが回った所で二人は見つめあい・・・」

二人、本当に見つめ合って気まずくなる。

そして一緒に叫ぶ。

二人「いいアイデア!」

ヨンソン「これで決まりね」

と言いながらまた見つめあっているところに、ちょうどチノが入ってくる。

慌てる二人。

そして今日がケインの誕生日だと知るチノ。

スケート場にやってきたチノとケイン。

チノ「デートコースの定番だな」

ケイン「タダ券を貰ったの」

チノ「本当かな?」

ケイン「男性からのプレゼントよ」

チノ「男だって?」

むっとするチノ。

チノ「じゃなぜ僕と?」

ケイン「あなたを誘えって言われたの。館長よ。もううまく履けない・・・」

紐を結んであげるチノ。

チノ「転ぶなよ」

ケイン「チノさん、よくドラマでこういうシーンがあるわよね。恋人同士が手を繋いで滑るの。ずっと憧れてた」

チノ「どうりで・・・」

ケイン「え?」

チノ「ずいぶんと積極的だと思った」

ケイン「誤解しないで!」

慌てて手を離す。

チノ「隠すなよ。僕と手を繋ぎたくて来たくせに」

ケイン「券を貰ったから来ただけよ」

じゃれ合いながらスケートを楽しむ二人。

ケインが転んでしまう。

チノ「大丈夫?」

チノが差し出した手をわざと引っ張って転ばせるケイン。

倒れ込んだ拍子に顔があと少しの所に接近。

チノはちゅっとケインにキスをする。

二人で笑いあう。

サンゴジェ。

用意を終えて門から出てきたヨンソンとサンジュン。

ヨンソン「今夜はクールなチノさんも野獣と化すわ」

サンジュン「きっと成功するさ!姉さんほど気配りが出来る人はいないな。友達になれて嬉しいよ」

ヨンソン「友達って?」

サンジュン「その・・・ほら俺達友達だろ?」

ヨンソン「私達の関係って説明しづらいわよね」

サンジュン「俺達はいい友達だ」

ヨンソン「そうね」

サンゴジェに帰ってきたチノとケイン。

何も知らないのはケインだけ。

チノ「素直じゃないな」

ケイン「自分だって喜んでたくせに」

チノ「僕がいつ?」

ケイン「ニヤニヤしてたわ」

そこでケインは気づく。

ロウソクで綺麗に飾られた室内に。

テーブルにはケーキとごちそうが。

言葉をなくしてチノを見つめるケイン。

ワインを注いであげるチノ。

チノ「今日誕生日だろ?なぜ黙ってたんだ?」

ケイン「さっきまで忘れてたの。あ、吹き消すわね」

チノ「待って!願い事をしないと」

目を閉じて何かを祈るケイン。

そしてロウロクを吹き消す。

チノ「おめでとう」

ケイン「ありがとう」

チノ「何を願った?」

ケイン「お互い相手に正直でいられますように」

沈んだ顔になるチノ。

まだもう一つ、ケインに話していないことがある。

ケイン「誰かさんには前科があるしね。あなたなら何を願う?」

チノ「君が信じてくれますように」

ケイン「何を?」

チノ「知りたい?」

ケイン「ええ」

チノ「聞いても驚かないで欲しい」

ケイン「う・・・うん」

チノ「どう話そうかと何度も考えた。僕は君を・・・」

ケイン「待って!い・・・言わないで。願い事は言ったら叶わないわ」

チノ「どうしても・・・」

ケイン「それよりケーキの他にプレゼントはないの?」

チノ「欲張りだな。僕がいるだろ?」

ケイン「あなたが・・・プレゼント?」

チノ「うん。嫌かい?」

またいつもの早とちりケイン。

意味を勘違いしている。

ケイン「ちょっと・・・準備してくる」

そう言って自分の部屋に走る。

チノ『準備?いったい何の・・・話すのは今度にしておくか』

また、ここに住んだ理由を説明するタイミングを逸したチノ。

その頃ケインは部屋のベッドに座りチノJrを抱きしめていた。

------------------------------------------------------------------------
想像のシーン。(ケインの頭の中)

チノの部屋のドアが開く音。

ゆっくりと自分の部屋に近づく足音。

そしてチノがケインの部屋のドアを勢いよく開ける。

ケイン「チノさん」

ケインに駆け寄るチノ。

ケインが抱きしめていたチノJrを放り投げてケインの手を自分の胸に押し当てる。

チノ「感じるだろ?この胸の鼓動を」

ケインの耳元で。

チノ「静められるのは君だけだ」

そしてケインをゆっくりベッドに・・・。

------------------------------------------------------------------------
チノJrに話しかけるケイン。

ケイン『チノ、私どうかしてる』

そしてチノの言葉を思い出す。

『つまり奴の言葉の意味はこうだ。お前が俺と寝てくれないからオサラバした。解ってるのか?』

ケイン『いつか求められるわよね』


一方チノは机に向かっていたが設計に集中出来ない。

チノ『もう限界だ!』

鉛筆を放り投げてドアに向かう。

部屋を出ようとしてケインの言葉を思い出す。

『だけど男と女は寝ないと愛し合ってるとは言えないの?』


ケインの回想。

『愛する人に触れそして抱きたいと思うのは男の本能なんだ』

チノの回想。

『たとえ身体の関係がなくてもかけがえのない人っているでしょ?』


ケイン『ねえ、どうしたらいい?彼の傍にいたいけど何だか怖いの。このままじゃ嫌われちゃうよね。思い切って勇気を出すべき?』

その時、大きな雷の音。

奇声をあげながらチノの部屋に駆け込むケイン。

何事だ?と振り向くと、枕を抱いたケインが。

ケイン「ここで寝ちゃだめ?」

チノ「だ・・・ダメだ」

ケイン「一人じゃ寝られない」

チノ「僕が来る前は?」

ケイン「イニがいてくれたわ」

雷の音に怯えるケイン。

それを見て諦めたチノ。

チノ「来て」

チノのベッドで二人。

チノ「大学時代は勉強しかしてなかった。毎日大学と家を往復するだけだった。聞いてる?」

ケインを見ると、チノに寄り添ったままもう眠っている。

眠るケインの頬にそっと触れため息をつく。

チノ『僕はゲイじゃないぞ。いつまで耐えられるかな』

眠るケインのおでこにキスをする。

『おでこへのキスは君を信じてる』

ケインの天気予報『雷を口実に勇気を振り絞ってみたものの、内心ビクビクの私に彼は優しくキスしてくれた。下手くそな演技に気付かなかった?明日も雷が鳴って欲しいと願 う、シャイな私です』

翌朝。

ケインが目覚めるともうチノは出掛けていなかった。

何もなかったことに安堵するケイン。

チノの枕を抱きしめて幸せを実感する。

チノは事務所で電話している。

チノ「ひどいイビキだった」

ケイン「私が?冗談でしょ?」

チノ「そのうち歯ぎしりまで始まってさ」

ケイン「嘘つき!」

チノ「よだれも垂らしてた。それでも女か?」

ケイン「もう切るわよ」

ニヤニヤしてるチノ。

サンジュン「めでたい」

チノ「ああ、驚いた」

サンジュン「ついにやったな」

チノ「何を?」

サンジュン「自分が本物の男だと証明したんだろ?何よりだ」

チノ「勝手な想像するな」

サンジュン「どんなふうだったか話してみろよ」

そこにテフン。

ヘミが可愛そうだと言い張るテフン。

男なら自分でなんとかしろとバカにされる可哀そうなテフン。

チャンニョルの父、ハン会長はサンゴジェが設計図の一部にすぎないことをチャンニョルに話している。

ケインからその全容をなんとか入手できないものかと相談している。

チノは事務所に持ち帰ったサンゴジェの設計図を取り出して見ているがまだピンとくるものが見つからない。

だが、筒の奥に更にまだ入っていることに気付く。

別の青焼き設計図だ。

実はこっちがサンゴジェの全容だった。

『パク教授が建てた伝統家屋サンゴジェに魅せられ美術館の設計を頼むが断られた。サンゴジェ完成後に教授は妻と死別。以来30年近く一般公開されていない』

『サンゴジェは妻と娘が夢を見るための小さな世界だ』

そのすごさに目を奪われるチノだが、急いで筒にしまう。

サンジュンが入ってきたので急いで筒を隠す。

サンジュンはまだ必死でサンゴジェを調べているが、目を引く点がどうしても見つからないとブツブツ言っている。

そしてお前からケインに聞いてみろとしつこく言い寄っている。

チノ「先輩、聞けると思うか?」

サンジュン「おい、置かれてる状況を考えろよ。作業員には訴えられるし事務所を追い出される寸前だ。いったいどうすればいいんだ」

チノ「なんとかするよ。コンペの件に彼女を巻き込まないでくれ。頼む」

喫茶店で向かい合って座るチノとケイン。

チノ「何?」

チノの鼻についたクリームを指ですくい取ってあげるケイン。

せっかく取ってあげたのに、チノにクリームをつけられる。

ケイン「何するの!」

テーブルをどかしてチノはケインに近づく。

ケイン「え?」

ケインはそのまま後ろに倒れそうになるが、チノが抱き留める。

チノ「これだから目が離せないんだ!」

ケイン「そんなに美人?」

チノ「え?」

ケイン「目が離せないほど?」

チノ「よくぬけぬけと言えるよな」

ケイン「それはそうと1日中忙しくて何も食べてないの」

チノ「そういうことは早く言わないと」

チノはケインの鼻を拭いてあげる。

チノ「行こう!」

ケイン「食事しに?」

別の喫茶店。

チノの母とイニが会っている。

母「ヘミによると私に話があるそうね」

イニ「ずいぶん迷いましたがお伝えすべきだと思って」

母「何を?」

イニ「チノさんは今とても困っています」

母「チノが?」

イニ「ケインさんのせいなんです。チャンニョルさんは彼女とよりを戻したくてチノさんの仕事を妨害しています」

母「何ですって?」

イニ「彼女がチャンニョルさんときっぱり別れていればこんなことには・・・ケインさんは二人と同時に付き合っていたんです。このままではチノさんがどんな目に合うか・・・」

母「私に出来ることはある?」

チノにデパートに買いだしに連れてこられたケイン。

ケイン「うちに来て3日目よ。今日は実家に帰ってね」

チノ「他に帰るところがない」

ケイン「だからお母さんが待ってるわよ」

カップを物色するチノ。

チノ「ケインさん、これどう?」

ケイン「もう聞いてる?」

チノ「追い出されたら事務所で寝るしかない」

ケイン「ずっと帰ってないの?」

チノ「今更どこに帰れって?大丈夫だよ。母に許して貰うまで手は出さない」

ケイン「意地を張らずに帰ればいいのに」

チノ「君と一緒にいたい。必ず認めて貰える日がくる」

ケイン「ありがとう。こういう時は素直に感謝しなくちゃ」

サンゴジェに戻った二人。

全部二つずつ揃ったお揃いのお皿やカップ達。

ケイン「お腹いっぱい。ごちそう様」

そういって椅子から立ち上がるケイン。

チノ「どこへ?」

ケイン「え?」

座れ、と手で合図するチノ。

ケイン「食べ終わったのに?」

皿洗いを命じられたケイン。

隣で監督してるチノ。

チノ「洗い残しがある」

チノが目をそらした隙にこっそり皿を落とそうとするケイン。

間髪入れずに皿を受け取るチノ。

チノ「全部お見通しだ。後でチェックするから綺麗に洗えよ」

後でヨンソンから電話。

ヨンソン「何してる?」

ケイン「仕事に行く準備よ」

ヨンソン「日曜だっていうのに熱心ね」

ケイン「日曜?」

ヨンソン「彼氏といると時間まで忘れちゃう?」

ケイン「まあね、今どこ?」

ヨンソン「通販サイトで売る品を物色中よ。彼とはどう?」

ケイン「それがね、前ほど優しくないの。皿洗いの後いちいちチェックするのよ。まるで姑みたい」

ヨンソン「なるほど、そうきたか」

ケイン「え?何なの?」

ヨンソン「調教する気よ」

ケイン「調教?」

ヨンソン「ここで結婚後の力関係が決まるわけ」

なるほど・・・とうなずくケイン。

部屋からシーツを持ってチノが出てくる。

ケインも部屋から出てくる。

ケイン『負けるもんか』

ケイン「何してるの?」

チノ「布団を洗おう」

ケイン「嫌よ。忙しいんだもの」

チノ「そうか。そういうなら君は昼食抜きだな」

ケイン「何を言うかと思ったら・・・ずるい」

チノ「今日は麺にするか」

ケイン「いいな・・・ダメダメ」

チノ「味付けはコチュジャンにゴマ油」

ケイン「(耳をふさいで)聞こえない」

チノ「キムチをたっぷり・・・」

ケイン「食べる!」

慌てて部屋に戻る。

チノの作戦勝ち。

二人で布団干し。

チノ「初めてだろ?」

ケイン「まさか」

チノ「こうやるんだ」

ケイン「気持ちいい!」

チノ「やって正解だろ?」

二人でハイタッチして笑いあう。

手を繋いでベンチにやってくる。

ケイン「どこかへ出かける?映画は?」

チノ「そうだな・・・ここでのんびりしたい」

二人、顔を寄せ合ってベンチに横になって眠っている。

ケイン「チノさん、寝てる?」

ケインの膝枕で寝てるチノ。

ケイン「まつげが私より長い。チノさんのおでこ、チノさんの鼻、チノさんの唇。毎日見てる顔なのにドキドキしちゃう」

その時チノの携帯が鳴る。

起こさないように慌ててチノのポケットから抜き取るケイン。

見るとイニからだ。

ため息をついて無視する。

ケイン「チノさん、ずっと私の傍にいてね。どこへも行かないで」

寝てるチノのおでこにキスをする。

わずかに笑うチノ。

美術館では館長含め会議をしている。

コンペの予選審査には特別審査員が一人加わると説明している。

ケインの父、パク教授だ。

父の帰国は近い。

サンゴジェでは。

眠っているケインを抱いて連れてきたチノ。

ケインのベッドに降ろしてあげる。

チノ『疲れたんだな。ぐっすり寝てる』

ケインが寝てる間にチノは地下室のペンキ塗りをしている。

サンジュンと電話で話している。

チノ「資料はあったか?」

サンジュン「そっちはどうだ?」

チノ「構想を練ってる」

サンジュン「イメージが浮かんだか?」

チノ「ああ」

サンジュン「教えろよ」

チノ「晴れた(ケイン)空みたいに澄み切った感じかな」

サンジュン「ばか!」

目を覚ましたケインは部屋から出てきてチノを探す。

地下室から出てきたチノを見つける。

ケイン「そこで何を?」

チノ「音がしたから・・・」

ケイン「何の音?」

チノ「ネズミみたいだ」

それを聞いた瞬間ケインは叫び声をあげチノに抱きつく。

ケイン「どうしよう?大変!」

チノ「ちょっと・・・重いよ」

ケイン「私ネズミって大嫌い!」

チノ「そんなに僕に抱きつきたい?」

ケイン「本当にこの世で一番苦手なのよ!」

チノ「解ったよ」

ケイン「本当だってば!」

チノ「じゃ地下には行くな。明日薬をまいておく」

ケイン「でも・・・すぐに上がってくるかも。今すぐ猫を連れてきたら?」

チノ「猫はもういる」

ケイン「え?」

チノ「貸して。手だよ」

ケイン「手を握り合ってる場合?」

チノ「この爪」

血が出てる自分の首を見せて。

チノ「ほら。いつ切った?」

ケイン「覚えてない」

ケインの爪を切ってあげるチノ。

チノ「じっとしてろよ」

ケイン「あんまり深く切らないでよ」

チノ「すぐ伸びるだろ」

ケイン「待って・・・切りすぎじゃない?」

チノの携帯が鳴る。

母からだ。

チノ「飲んでるの?チャンミさん。チャンミ・・・」

切られてしまう。

チノの母は、あの時イニに言われた話を真に受けて苦しんでいた。

チャンニョルの事務所でも同様にサンゴジェの様式を懸命に調べていた。

サンゴジェに詳しい専門家まで雇い。

今までのチャンニョルとは違い、かなり真剣で必死だ。

そこへ訪ねてくるイニ。

チャンニョル「忙しいから用件だけ言え」

封筒を差し出すイニ。

イニ「審査員の名簿よ」

受け取ろうとしてやめるチャンニョル。

チャンニョル「持って帰れ」

イニ「チノさんと実力で勝負する気?」

チャンニョル「勝てないと思ってるのか?今までの俺ならそう思われても当然だ。だが今の俺は違う。親の力を借りなくても勝ってみせる」

イニ「もっと早く今の姿を見せて欲しかったわ。こんなに人を変えるなんて愛の力ってすごいわね。それともただの執着心?そうだわ。特別審査員が加わるの。誰だか知りたくない?」

ほんの少し乗り気になるが、やっぱり聞かずにやめるチャンニョル。

母を心配して自宅に戻ったチノ。

ベッドに眠る母を見つめながら、母の言葉を思い出している。

『あの家と関わりのあった子を嫁には出来ない』

一人ベッドに横になるケインはチノJrに話しかけている。

ケイン『何を考えこんでるの?大丈夫よね。チノさんが言ったもん。必ず認めて貰える日が来るって』

その時、ケインの部屋のドアの前に人影が見える。

チノが戻ったことに気付いたケインはわざと眠ったふりをする。

ドアが開きチノが覗きこむが、ケインは寝ている。

ケインの寝顔をじっと見つめて、そのままドアを閉める。

しまったドアを見つめるケイン。

翌朝。

チノの車で送って貰うケイン。

ケイン「バスに乗ればよかった。専用車線だから早く着くわ」

チノ「かわいくない言い方だな。おかげで僕まで遅刻だよ」

ケイン「謝るつもりがこの口ったら」

チノ「素直じゃないよな」

ケイン「ねえ、これ見て。ジャジャーン!プリクラ!携帯は?」

先日、ケインが男装した時のものだ。

チノ「嫌だよ」

ケイン「早く出して」

チノ「ここだよ!」

ケイン「あった」

チノ「女子高生かよ」

ケイン「恋人同士の証よ」

チノ「すぐはがせる」

ケイン「素直じゃないわね」

チノの事務所を訪ねてきたチノの母。

チノはまだ出勤しておらず代わりにサンジュンが相手をする。

母はこの間イニから聞いた話をサンジュンに話している。

そしてそれは事実なのか?と問われるが、サンジュンは適当に言葉を濁し誤魔化す。

今ケインを悪者にしてしまったらコンペでの入選の可能性が台無しになるからだ。

入選の鍵はなんとしてもサンゴジェが握っている。

キッズルームでチノの寝顔の写メを眺めながら一人笑うケイン。

そこへイニがやってくる。

イニ「まるでままごとね」

ケイン「それでも計算ずくの恋よりはいいんじゃない?」

イニ「恋は出来ても結婚はどうかしらね。お母様には認めて貰えた?」

ケイン「ええ」

イニ「本当に気楽でいいわよね。誰からも好かれると思ってる。もしチノさんがあんたを好きじゃなかったら?ゲイのふりして館長を騙そうとした人よ。信じていいの?」

ケイン「私を好きなふりをして何の得がある?何もないわ」

イニ「あんたのどこがいいのかしら」

ケイン「何を言われても平気よ」

イニ「平気ですって?」

ケイン「イニ、以前はあんたのことが羨ましかった。いつも堂々として自分に自信を持ってるから。でも今はそうは思わない。自分さえよければ平気で人を傷つける。そういう人よ」

イニ「えらそうに。人のことより自分の心配をしたら?私に説教なんかして後悔するわよ」

ケイン「説教じゃない。最後の、思いやりよ。今のままじゃ最後は一人ぼっちだわ」

チノの事務所。

姿が見えなかったサンジュンにどこに行ってた?と尋ねるチノだが、まさかチノの母と会ってたとは言えないサンジュンはトイレにいたとごまかす。

そして話をそらすために『サンゴジェに特別な点はどうしても見えない』とまたこぼしている。

だがサンゴジェの設計図を隠し持っているチノは心が痛む。

チノ「サンゴジェは全体の一部だ」

サンジュン「何だって?」

チノ「え?ああ・・・アイデアの一つという意味さ」

言ってしまってから焦るチノ。

サンジュン「他にもあるのか?」

チノ「そのうち話す」

サンジュン「いつまで待たせる気だ!もうすぐ受付が始まるぞ?・・・悪い。お前の苦労を知りながら・・・机の上がごちゃごちゃだ。彼女に似てきたな。おばさんに好かれるにはかなりの努力が必要だな。厳しそうだ」

チャンニョル親子は車中で『教授の帰国日が決まったから出迎えに行く』と話している。

更に闘志を燃やすチャンニョル。

キッズルームにいるケインは携帯を握りしめながら、チノから電話が来ないかと念を送っている。

ケイン『電話よ、かかってこい。チノからの電話よ、かかってきなさい』

大きなため息をついて携帯を置くと、目の前にチノが。

幻かと思い目をこすってみるが、やはり本物だ。

チノが手を振っている。

ケイン「あれ?幻が見える。会いたかった?」

チノ「そんなに暇じゃない」

予備審査受付に来た二人。

チノ「こう見えて所長だからね」

隣で笑うケイン。

同じく受付にやってきたチャンニョル親子。

ケインとチノが一緒にいる所を目撃し憤慨する。

イニから特別審査員が教授であることをこの時聞かされるチャンニョル。

チノの正体を暴きケインを取り戻すことが出来るのは教授を手中に収めること。

チャンニョル親子の頭にはそれしかなかった。

チノの車まで手を繋いで歩いてきた二人。

ケイン「すぐ事務所に戻る?みんな待ってるもんね」

何も言わずただケインの頬に手を添え見つめるチノ。

ちょっと気まずいケイン。

ケイン「人が見るわよ」

チノ「行く前によく顔を見ておくんだ」

ケイン「夜には会えるのに。早く行って。ここで見送る」

チノ「いいの?」

ケイン「やめてよ。永遠に別れるみたい」

チノ「しばらくは帰れない」

ケイン「近くにいるんだもの。すぐ会えるわ」

チノ「忙しくなる」

ケイン「私の顔を見る暇もないほど?」

ケインの髪をくしゃくしゃにするチノ。

ケイン「ごまかさないでよ」

そのまま行ってしまう。

ケイン「行っちゃうの?」

車から叫ぶ。

チノ「やあ、パク・ケイン!浮気したらぶっ殺すからな!!」

笑顔で手を振るチノ。

ケイン『何よ。言いたいことだけ言って・・・』

事務所ではサンジュンがチノの帰りを今かと待ちわびていた。

帰ってきたチノと『気合を入れるぞ』と話している所へテフンが飛んでくる。

渡された紙は退去命令。

所有者の名はハン・チャンニョルだった。

チャンニョルのたくらみでチノ達は事務所を追われたのだ。

やっとの思いで見つけた仮の事務所に引っ越しをしているチノ達。

チノ「元気だせ。最初は倉庫が事務所だったろ?」

サンジュン「そうだな。逆戻りってわけか」

チノ「いい時があれば悪い時もある。よし。僕が焼肉をおごってやる」

テフン「これからは節約して早くいい場所に移ろうよ」

チノ「バカ。おごる金くらいある。早く片付けよう」

サンジュン「ここを見つけるのも大変だったろ?」

チノ「しばらくの辛抱だ。必ず入選してみせる」

サンジュン「ここもそう悪くない。狭いながらも楽しい我が家ってな。和気藹々といこうぜ」

チノ「手を動かせ」

サンジュン「悪かったな」

その夜。

ケインはチノに電話している。

ケイン「ねえ、考えたんだけど差し入れしようか?ケイン特製おにぎり。意外とイケるのよ」

チノ「もう恋しくなったのか?」

ケイン「会いたいわけじゃないわ。大事なコンペだもの。事務所の人達を励ましたいの」

チノ「来られたら困るよ」

ケイン「どうして?」

チノ「君の顔を見たら仕事が手につかない。傍にいて欲しくて家に帰さないかもしれない」

ケイン「も・・・もう・・・言ってて照れない?解った。私の夢でも見てね」

チノ「それも我慢だ。コンペが終わるまでは仕事に集中する。君のことは頭から追い出すよ」

ケイン「ちょっと、そこまでするわけ?」

チノ「今だけ、心の中にしまっとく」

ケイン「コンペ、頑張って」

ケインがここに来たら今までの事務所を追われたことがバレてしまう。

理由がどうあれ心配をかけたくなくて甘い言葉でごまかしたチノの心情。

サンジュンとテフンが事務所で仮眠をとっている間、チノは隠しておいたサンゴジェの設計図を手に取る。

そして設計図を取り出してもう一度見る。

チャンニョルに罵倒された言葉を思い出し悩む。

これを起用すればコンペで入選出来るだろうが、同時にケインを失うことになる。

その狭間で揺れ動くチノ。

第14話へ