〜個人の趣向〜
第12話〜サンゴジェの秘密〜

チャンニョルと一緒にロビーに戻ってきたケイン。

エレベーターに向かう。


エレベーターの中でチノとイニ。

イニ「サンゴジェに下宿した理由を当ててみましょうか?」

チノ「やめてくれ」

イニ「なぜ?痛いところを突いてるから?」

チノ「君には関係ない」

イニ「もしケインと結婚出来れば有名な建築家であるパク教授に・・・」

頭にきたチノはイニを黙らせようとイニの肩を掴んで壁に押し付ける。

チノ「黙るんだ」

イニ「予想が当たったようね」


ケインはエレベーターにいる二人の光景を目にする。

ケインに見られたと知ったチノは、黙って一人行ってしまうがケインは追いかける。

ケイン「チノさん、チノさん待って・・・黙ってないで何とか言って。なぜイニと?」

チノ「君こそ今まで奴と何をしてた?」

ケイン「仕方なかったの。彼が・・・」

チノ「言い訳は聞き飽きたよ。奴に甘い顔をするから親まで勘違いして家に来るんだろ?」

ケイン「誤解しないで!はっきり伝えるために会ってたの」

チノ「こんな遅くまで?」

ケイン「病院にいたのよ。車にひかれそうになった私をかばって頭を強く打ったの」

チノ「よほど深い縁だな。ずっと切れそうにない」

ケイン「本音じゃないくせに」

チノ「悪いね。僕はもともと心の狭い男なんだ」

二人が言い争う様子を、じっと遠くから見つめるチャンニョル。

ケインと喧嘩した後一人外で頭を抱えているチノ。

やはり一人で散歩していた館長がチノに気付く。

館長「正直に打ち明けたことを後悔してないか?黙っておくことも出来たのに」

チノ「実を言うとだいぶ迷いました。でも僕は館長にも彼女にも誠実でありたいとそう思ったんです」

館長「今頃言っても遅いのでは?でもおかげで短い間だけでも夢が見られた。幼いころからずっと自分が人と違うことについて悩んできたがある時気づいた。悩もうが悩むまいがどうせ苦しい人生を送る運命なんだ。だったらせめて自分で自分を大事にしようと」

チノ「嫌な思いをさせてすみません」

館長「いいんだ。ハン理事の前でゲイだと言った時君の顔に表れていたよ。私を思いやる気持ちがね。残念だがこれまでの君との想い出は全て忘れる。大切な友人を失いたくないから」

翌朝。

『仲直り出来たか?』とヨンソンに聞かれるケイン。

怒られるのも愛されてる証拠だとヨンソンに論されるケイン。

建築セミナーが終わり会場から出てくるチノとサンジュン。

サンジュン「さすが内容に重みがあるよな。聞いてると眠くなる」

チノ「要点は掴んだか?」

サンジュン「いや」

チノ「まったく・・・」

そんなくだらないやり取りをしている所に、チャンニョルが。

チャンニョル「話がある」

海辺に移動した二人。

チャンニョル「昨日ケインは病院で付き添ってた」

チノ「聞いてる」

チャンニョル「もう諦めると伝えるために会ってたんだ」

チノ「そうか。他にも話が?」

チャンニョル「親父がケインの家に押しかけたそうだな。口に出すのもシャクだが気を悪くさせたなら謝る。お前とケインがどうなろうと関係ないが俺のせいであいつを悲しませたくない」

チノ「彼女に関わるな」

チャンニョル「言ったな。笑っちまうよ。そんなに熱くなったところを見るのは初めてだ。冷静なお前がケインが病院に付き添っただけでやきもちか」

チノ「話は済んだな」

チャンニョル「うらやましいよ。あいつと喧嘩が出来て。俺は言い争いも出来なかった。あいつが我慢して終わりさ」

チノ「怪我の方は?」

チャンニョル「何だって?心配してくれるのか?人間が丸くなったな」

チノ「彼女が世話になった。礼を言う」

ケインの部屋の前まで来たチノ。

ドアをノックしようとして躊躇する。

勇気が出ない。

チノ『電話くらい出ろよ・・・』

チッと舌打ちして歩き出すが、またドアまで戻る。

チノ『しょうがないな』

ノックしようと手をあげた瞬間にドアが開き驚く。

チノ「電話したのに」

ケイン「あらそう」

行こうとするケインを手で邪魔するチノ。

ケイン「何か言うことでも?怒ってごめんとか?」

チノ「君こそ言うことは?怒らせてごめんとか?」

呆れたケインはチノの腕をすり抜けて歩き出す。

チノ「どこへ?」

チノの手を振り払ってまた歩き出す。

チノ『まったく・・・』

ケインを追いかける。

免税店に来る二人。

ケイン「こんな免税店昔来た時はなかったわ」

チノ「買う気もないくせに」

ケイン「あるわよ!」

チノ「何を?」

ケイン「関係ないでしょ?」

チノ「じゃなぜ誘ったんだ」

ケイン「道が解らないからよ」

チノ「口ばかり達者だな」

近くにあったスカーフを眺めるケイン。

チノ「古臭いな。そんなの母の年代でも選ばないよ」

ケイン「お母さんの好みってどんなの?」

チノ「母にお土産?」

ケイン「たいしたものは買えないけど気持ちを伝えたくて」

嬉しくて思わず笑うチノ。

ケイン「これ、だめかな?」

店内を歩いてると、イベントブースを見つける。

ケイン「数字を当てて時計を貰うんだって」

チノ「一緒にやりたい?」

ケイン「なぜあなたと?」

チノ「カップルが対象だぞ」

ケイン「こういうの苦手なの」

チノ「だろうな。僕みたいに知的じゃないと」

ケイン「自信ある?」

挑戦する二人。

ケイン「そんなに悩んでたってダメだってば」

チノ「少し黙っててくれ」

ケイン「意外と単純な数字が当たるのよ」

チノが何度も試すが当たらない。

ケイン「どいて。私がやってみる」

打った番号は1,2,3,4,5,6。

大当たりで時計が出てくる。

チノ「まさか!・・・当たり?」

ケイン「だから言ったじゃない!」

海辺でじゃれ合う二人。

しばし幸せな時間。

ホテルに戻る車中。

ケイン「最高!すごく幸せ!」

チノ「いい男と一緒だからさ」

ケイン「自分で言ってて恥ずかしくない?」

チノ「こういうところも好きなくせに」

ケイン「まさか」

チノ「じゃ嫌い?もう気が変わったか?」

ケイン「大好きよ」

そして叫ぶ。

ケイン「チョン・チノ!愛してる!海よりも深く愛してる!!」

ニヤニヤしながら運転してるチノ。

カフェにチャンニョルを呼び出したイニ。

イニ「芸術院のコンセプトを知ってる?」

チャンニョル「世界に誇れる文化複合施設だろ?」

イニ「サンゴジェよ」

チャンニョル「サンゴジェ?ケインの家じゃないか」

イニ「会長はあの家の建築様式を取り入れたいのよ」

チャンニョル「なぜ知ってる?」

イニ「秘書室長に聞いたの。館長にも知らせてないそうよ。チノさんはなぜあの家に下宿を?偶然にしては出来すぎてない?」

チャンニョル「つまりサンゴジェの内部を探るためだと?」

イニ「理解が早いわ」

チャンニョル「ケインと付き合ってるのもそのためか?」

イニ「そう考えるのが自然でしょ」

チャンニョル「あいつ・・・」

イニ「彼はあなたよりはるかに利口な人間よ。本当にケインを愛してると思う?」

チャンニョル「あのゲス野郎・・・」

イニ「落ち着いてよ。無駄よ、よく考えて。彼に詰め寄った所でその通りだと認めると思う?怒りをぶつけるだけじゃ何も解決しないわ」

チャンニョル「どうしろって言うんだ」

イニ「決定的な瞬間を待ってケインに彼の本性を教えてやるのよ」

チノの車でサンゴジェに帰ってくる。

ケイン「帰って」

チノ「え?」

ケイン「お母さんが待ってるでしょ?帰らないと寂しがるわ」

ヨンソンも同意する。

チノ「じゃまた」

寂しそうな顔で諦めるチノ。

ケイン「気をつけてね」

帰ってくるなりヘミの攻撃が待っている。

そして母の攻撃も。

またしても『あの家と関わりのある子なんて嫁に出来ない』と怒られるチノ。

息が詰まったチノは事務所にやってくる。

母の言葉を思い出し頭を抱える。

翌日、チノ達は事務所の立ち退き命令を受ける。

チャンニョルはチノを陥れるためにチノの事務所を買い入れたのだ。

美術館では館長がイニに二人分の昼食を用意しろと命じている。

ケインと食べるから呼んでこいと。

キッズルームまで呼びにくるイニ。

イニ「館長から昼食のお誘いよ。どう取り入ったの?館長はいつも一人で召し上がるのに」

ケイン「そんな言い方しかしないのね」

イニ「腹が立つからよ。努力しなくても人に好かれる。私のように何かを手に入れるために努力する者の気持ちが解る?」

ケイン「だからチャンニョルさんを奪ったのね」

イニ「ええ」

ケイン「今度はチノさんを奪うの?」

イニ「済州島で私と彼が一緒にいたのが気になるのね」

ケイン「いいえ、何とも思わない。彼を信じてるから」

イニ「裏切られたらどうする?」

ケイン「彼は裏切らない」

イニ「彼はあんたが思うより賢くて野心的な人よ。変だと思わない?そんな人があんたを好きになるなんて」

ケイン「好きなだけバカにしたらいいわ。結局自分が惨めになるだけよ」

イニ『惨めなのはどっちよ』

食事にやってきたケイン。

館長「あんまりだ。彼から全て聞いたよ。私は君を信用して悩みを打ち明けたのに。私に悪いと思わないか?」

ケイン「その・・・私もずっと彼をゲイだと思っていたんです」

館長「とにかくこれは私に不愉快な思いをさせた罰だ。バツの悪い思いをしながら食事をして貰う」

ケイン「本当にすみません」

館長「おめでとう」

ケイン「え?」

館長「片思いは卒業だ。チノ君が相手だったんだね」

ケイン「はい」

館長「ずいぶん悩んでたようだがよかった」

ケイン「そう言って頂けて嬉しいです」

館長「だったら時々はこうして相手をして欲しい」

ケイン「はい、喜んで」

館長「食べよう」

食事を終えて出てくると、家具業者から電話が入る。

独身者向けの家具を発売する予定でケインのデザインを採用したいと。

その夜。

ケインとチノはワインで乾杯している。

チノ「いいニュースって?」

ケイン「誰かさんはバカにしてたけどすごいのよ。トイル家具を知ってる?」

チノ「家具メーカーだろ?」

ケイン「そこの新シリーズのデザイナーに抜擢されたの」

チノ「本当に?」

ケイン「疑ってるの?」

チノ「トイル家具みたいな大企業が君を?」

ケイン「失礼ね」

チノ「突然で驚いたのさ」

ケイン「誰にするかずっと話し合ってて今日決まったそうよ。後日契約を交わすの」

チノ「よかったな」

ケイン「契約したらお金が入るから貸してあげる」

チノ「え?」

ケイン「利子は安くしとくわ」

チノ「恋人相手に商売か?」

ケイン「恋人でもきちんと返してね」

チノ「結構がめついな」

ケイン「銀行よりも安く貸すわ。だから遠慮なく借りて」

チノ「やめとく」

ケイン「いいから使ってよ。どうせ使い道がないもん」

チノ「肩代わりした借金を返せよ」

ケイン「それでも残るわ。貸してあげるから預金しとけば?」

チノ「君に何の得が?」

ケイン「投資よ。コンペで入選したら大金が入るわ」

チノ「落選したら?」

ケイン「絶対に大丈夫。確実な投資先だわ。頭が回るでしょ?」

チノ「とにかく乾杯しよう」

二人はリビングでケインの昔の写真を見ている。

チノ「いつの写真?」

ケイン「幼稚園の時」

チノ「今よりいい」

ケイン「これはダメ!」

チノ「見せて。普通の写真じゃないか」

ケイン「今と違うでしょ」

チノ「確かに変わったね」

ケイン「成人して美人になったの」

チノ「こっち(写真)がいい。お母さんの写真は?」

ケイン「小さい時火事で焼けちゃったんだって。焼けずに残った写真もパパが捨てちゃった」

寂しそうなケインの肩を抱くチノ。

ケイン「チノさん、お母さんと喧嘩しないで。解って貰えるまでいつまでも待つわ。だからあなたも焦らないで欲しいの。解った?」

うんと頷くチノ。

ケイン「そろそろ帰った方がいいわ」

チノ「いや、その・・・まだダメだ」

ケイン「どうして?」

チノ「酔いをさまさないと。飲酒運転で捕まる」

まだ帰りたくないチノはなんとか誤魔化す。

ケイン「免許停止になったら困るわね」

チノ「うん」

ケイン「じゃそれまで何する?」

チノ「そうだな・・・えっと・・・」

二人はテレビを見ている。

ケイン「DVDでも借りてくるんだった。酔いを覚ましたいなら部屋で寝れば?」

チノ「眠れそうにない。チャンネルを変えようか」

テレビ「チンパンジーの交尾時間は約6秒です。発情期の間繰り返し交尾を・・・」

気まずくなる二人はまたチャンネルを変える。

映画のラブシーンが流れている。

さらに気まずくなる二人。

チノ「やっぱり寝ようかな」

ケイン「急に眠くなってきた」

お互いの部屋へ行きベッドに横になる。

チノはケインのコンタクトを探してあげた時のケインの裸を思い出している。

チノ『だめだ、眠れない』

ケインはシャワーを浴びた直後のチノの裸を思い出している。

ケイン『暑いわね、夏みたい』

どうしても眠れない二人は、同時に部屋から出てくる。

そして二人とも水を1杯飲む。

チノ「やっと酔いがさめた。じゃあ」

ケイン「そう」

チノ「事務所に行くよ」

ケイン「私も仕事の続きを」

事務所にきたチノ。

チノ『今更ドキドキするなんて・・・どうしたんだ?』

そしてケインから貰ったリンゴのモチーフを取り出す。

ケインから貰った白いテーブルとイスのモチーフの隣に並べて飾る。

ニヤニヤしながらそれを見つめる。

翌朝、ケインに貰ったリンゴのモチーフを手にしながら眺めているとサンジュンが入ってくる。

ケインをものにしてお前はエライと騒いでいる。

そしてケインがトイル家具との契約をこぎつけたことも知っているサンジュン。

トイル家具に知り合いがいるから契約金がいくらなのか聞いてみようと言う。

ケインの契約金をあてにしているサンジュンに渋い顔のチノ。

そして戻ってくる。

調べた結果ケインのトイル家具との契約には未来建設が関わっていることが解る。

チャンニョルが仕組んだことだと。

それを知ったチノはチャンニョルを呼び出す。

チノ「済州島での話は嘘か?まだ彼女に未練が?それとも罪滅ぼしのつもりなのか?」

チャンニョル「はっきり聞いたらどうだ?」

チノ「トイル家具」

チャンニョル「さすが情報が早いな。感心するぜ。他に何を聞きたい?」

チノ「なぜこんな真似を?」

チャンニョル「遊んでていいのか?事務所の立ち退きで忙しいはずだろ?新しい持ち主が誰なのかまだ知らないのか?」

チノ「卑怯な奴め」

チャンニョル「こっちのセリフだ」

チノ「どういう意味だ?」

チャンニョル「お前自身がよく解ってるだろ」

チノ「彼女のことは諦めろ」

チャンニョル「これからが見物だな。まさかトイル家具の件をケインに話すつもりなのか?これはあいつにとって大きなチャンスだ。それを潰そうって?チノ、ケインは絶対に渡さない。俺の方があいつを幸せにできるからだ」

チノ「汚いぞ」

チャンニョル「何だと?汚いのはお前じゃないか」

チノ「いったい何の話だ」

チャンニョル「胸に手を当てて考えろ。自分が何をしているのかをな。お前の正体を暴いてやる。見てろよ」

チノは済州島でのイニの言葉を思い出す。

『ケインと結婚出来ればパク教授に・・・』

事務所で頭を抱えているチノの所に、先日の工事現場での事故で治療費を建て替えた時の監督がお礼にやってくる。

監督「元気か?」

チノ「これは監督、どうぞ」

壁に貼られたサンゴジェの絵に目を止める監督。

そして大工になって初めての仕事がサンゴジェだったと言いだす監督。

サンゴジェに詳しい監督はあれこれ話して聞かせる。

サンゴジェに戻ってきたチノ。

さっきの監督の言葉を思い出している。

監督『覚えてる限りで言うと伝統家屋には珍しく地下室があった。掘るのに苦労したよ』

チノ『地下室?』

辺りを見回す。

家の中を散策してみる。

そして今まで気づかなかったドアを一つ見つける。

ただの倉庫のようだが、床に1枚色の違う板を見つける。

開けてみるチノ。

地下への入口だった。

降りてみると天井からは蜘蛛の巣が、全ての物にはほこりが積もっている。

長いこと使われていない作業場のようだった。

電気をつけてみるがつかない。

机にはトンカチや工具などが綺麗に並べられている。

チノはふと、写真立てを見つける。

ケインの母が幼少のケインを膝に抱いた写真だった。

綺麗に蘇らせようと掃除を始めたところにケインが帰ってくる。

ケイン「チノさん!」

チノ「おかえり」

ケイン「大掃除してくれてるのね?気が利くんだから。キスしていい?」

チノ「あ・・・あとでね。いいもの見つけたよ。お母さんの写真」

ケイン「ママの写真?」

ケインをさっきの地下室に案内するチノ。

チノ「お母さんの仕事部屋に続いてる」

不安そうな顔でチノの後ろをついていくケイン。

ケインは母の写真を手に取って眺めている。

チノ「もう一つ発見がある。ここの工事をした人の話によるとここの天井はガラス張りだったらしい。晴れた日に日の光が入るようにね」

そういって天井板をはずすチノ。

暗い地下室に光が差す。

チノ「ここなら仕事しながら君の様子も見える」

天井から差す光を目にしながら幼少の時を思い出すケイン。

ガラス天井の上でぬいぐるみと遊んでいるケインを、下の仕事場から時々見上げる母。

母にこっちを見て欲しくて、ガラスをたたく小さなケイン。

でも母はトンカチを叩いていてこっちを見てくれない。

チノ「でも不思議だな。なぜふさいだんだ?」

ガラスが割れて母の頭に降り注ぐ。

その時、ケインは『いやあ!』と叫びながら頭を抱えてその場にうずくまってしまう。

叫び続けるケイン。

チノ「どうした?おい!!」

そのまま意識を失う。

チノ「ケイン!目を開けろ!パク・ケイン!!」

ケインのベッドに運んだチノ。

ケインはベッドでうなされている。

チノ「大丈夫か?おい。ケインさん」

気がつくケイン。

チノ「気がついた?」

ケイン「怖い夢を見たの」

唇が震えている。

ケイン「ママが・・・私が・・・ママに・・・」

チノ「薬を買ってくる」

行こうとするチノを止めるケイン。

ケイン「行っちゃだめ。そばにいて。怖いの」

チノ「大丈夫だ。ここにいる」

安心したケインはチノの手を握ったまま眠りにつく。

その後目を覚ましたケインは頭痛がする頭を押さえながら起き上がる。

その頃チノはさっきの地下室に戻り、ケインの母の写真を手にとって眺めていた。

ふと目にとまった黒い筒。

サンゴジェの設計図かもしれない。

サンジュンの言葉を思い出す。

『サンゴジェ完成後に教授は妻と死別。以来30年近く一般公開されていない。建築界の偉才が建てたにしては地味な家だ』

その黒い筒を手に取ろうとした所に、ケインの声が。

ケイン「チノさん?いるの?」

黒い筒に後ろ髪をひかれながらケインのもとへ。

チノ「具合はどう?」

ケイン「もう大丈夫」

ケインの額に手をあてるチノ。

チノ「バスタブにお湯を入れておいたよ」

ケインがお風呂に行ってみると、泡でいっぱいのバスタブにバラの花びらが散りばめてあった。

ケイン『すてき・・・』

ケインの髪をドライヤーで乾かしているチノ。

チノ「こんなことするのは初めてだ」

ケイン「私も乾かして貰うのは初めてよ」

笑いあう二人。

チノはケインの髪を乾かしながら二人の今までの出来事を思い出している。

バスの中でケインのお尻を触って大騒ぎしたこと。

結婚式場から呆然とした表情で歩き去るケインを見たこと。

モーテルで鉢合わせした時のこと。

サンゴジェに入居する時に契約を交わした時のこと。

二人で大掃除したこと。

チノの裸を見られてしまった時のこと。

『ママからの贈り物だわ』と抱きつかれた時のこと。

チノの車の中で思い切り叫んだこと。

生理痛で苦しむケインのお腹をさすってあげたこと。

パーティ会場からケインの手を掴んで歩き去った時のこと。

チャンニョルにフラれて泣き叫ぶケインに叩かれたこと。

そして、『ゲームオーバーだ』とケインに激しいキスをした時のこと。

切なくなったチノは乾かしていた手を止めケインのうなじにそっとキスをする。

そして後ろから抱きしめる。

チノ「大丈夫だ。僕がついてる。何も心配しなくていい。ずっと君の傍にいる」

チノはケインの肩に毛布をかけてあげる。

そこへサンジュンとヨンソンが一緒にやってくる。

ヨンソン「邪魔しちゃったみたいね」

サンジュン「見せつけるために呼んだのか?」

ヨンソン「何よその格好。ミノムシみたい」

ケイン「身体を温めろってチノさんが巻いてくれたの」

サンジュン「やれやれ・・・」

ヨンソン「お粥を届けてあげたのにのろけ話まで聞かされて・・・」

チノに電話が。

チノ「テフン、どうした?」

テフン「大変だ!訴状が届いた!すぐ来てよ」

チノ「え?」

サンジュンに目で伝えるチノ。

チノ「プリンターが動かないって?」

テフン「何冗談言ってるんだよ?」

チノ「メーカーに電話したのか?すぐ行ってみてやる」

心配させないように話をわざと誤魔化したチノ。

後で説明しサンジュンと共に急いで事務所に向かう。

ヨンソンに持ってきてもらったお粥を食べるケイン。

ヨンソン「それにしても病人にしては明るい顔してるわ。実は仮病?」

ケイン「本当に大変だったのよ」

ヨンソン「本当によく食べるわね」

ケイン「無理して食べないと彼が心配する」

ヨンソン「まったく能天気なんだから」

ケイン「何のこと?」

ヨンソン「解ってないのね。いつまでも子供でいたら彼が苦労するの」

ケイン「私もやっと大人になったわ」

ヨンソン「ひょっとして最後まで・・・」

ケイン「キス・・・」

ちょっとガッカリするヨンソン。

ヨンソン「された場所によって意味が違うのよ。手の甲は離れたくない、おでこは君を信じてる、鼻のてっぺんは君に夢中」

ケイン「そ・・・それじゃ・・・首筋は?」

ヨンソン「君を抱きたい、よ。されたの?首筋に?」

ケイン「うん」

ヨンソン「ついにきたか!おいで」

チノ達は病院に来ている。

先日サンゴジェのことを教えてもらった監督に会いに。

事故の後検査した時は異常なかったはずなのに後遺症で訴えられたチノ達。

費用をチノの事務所で取り持つことになる。

そして費用を持ってもらう代わりに訴えを取り下げるよう説得してくれる監督。

監督の話を聞いているうちに、どうやらチャンニョルが絡んでいることが解る。

チャンニョルに会いにきたチノ。

チノ「何をたくらんでる?」

チャンニョル「何の事だ?」

チノ「とぼけるな」

チャンニョル「お前の方があくどいと思うけどな」

チノ「僕が何をしたって?」

チャンニョル「あの家に下宿したわけは?コンペで入選するためだろ。ケインが知ったらどう思うかな。ゲイのフリまでしやがって」

チノ「始まりがどうあれ今は本気で彼女が好きだ」

チャンニョル「チノ、今のお前を例えるならオオカミ少年かな。誰もお前を信じない」

チノ「彼女なら大丈夫だ」

チャンニョル「そうか、頑張ってみろ。いつまで強気でいられるか楽しみだな」

チノ「いいだろう。勝負は受けて立つ」

チャンニョル「そこまでこだわるのは親父への恨みを晴らすためか?復讐のためにケインの思いを踏みにじるのか?」

チノ「何とでも言え」

サンゴジェの地下室にいるチノ。

電球を取り替え改装の案を練っている。

チノ『ガラス天井の見積もりに、壁の塗り直し・・・直したら喜ぶぞ』

ニヤっと笑うチノ。

そしてやっぱり立てかけられた黒い筒に目が止まる。

それを手にとって中身を出してみる。

まさしく探し求めていたサンゴジェの設計図だった。

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