王冠をかぶろうとする者〜相続者たち〜
あとがき

全20話を制覇してみて思うこと。
まず腹違いの兄のウォン。
あれほど憎み続けてきた腹違いの弟を最後には受け入れたこと。
そして憎まれていることを知りながら18年もの歳月をかけて執拗に兄の心をノックし続けたタン。
本当によかった。
欲を言えば、ウォンの恋も成就してくれればよかったのに。
それが王冠の重みを表現するこのドラマのやり方だったんでしょうね。
最初に自分が何を求めたか。
ひたすら最上階を求め続けて愛を後回しにしたウォン。
愛を自分の世界にするために全てを投げ打ったタン。
これが二人の人生を左右する分岐点だったのでしょう。
でもなんだかんだ言ってもタンは次男だから自由に生きれた、が正解なんだよね。
自分は会社に関与しなくても兄ちゃんが社長やってるんだもん、何も困らない。
ま、おそらく遅かれ早かれタンも経営学を学んで経営に携わるのだろうけど。

18年間ただ愛人として幽閉されて生きてきたタンの実母ギエ。
自由に外を行き来することも出来なかったギエの心の拠り所でもあったウンサンの母フィナム。
この二人のコントは唯一笑える部分でもあった。
最後に全ての殻を脱ぎ捨てて青い空を眺める姿が印象的だった。
ある意味、タンが今まで隠し通してきた秘密の全てを暴いたことから見出した希望でもあったと思う。
これから世界の旅、するのかな。

人を愛する方法を教わることなく育ってしまったラヘル。
ドラマの中ではひたすら嫌な奴で通してきたけど実はとても可哀そうな存在でもある。
最後にヒョシンとの進展を匂わせて終わったがその後やいかに。

あれほどトラウマだったヨンドの母との再会は不幸中の幸いだった。
初恋もしかり、母との再会もしかり、小学生だったヨンドもこれで中学生くらいには成長したってことなんだろうね。
その後のヨンドの世界はあくまで想像の中でしかないけど、これがあったから彼自身の王冠の重みに耐えうる器が出来た、とでも言うべきか。

そしてウンサンの大金星。
早くに父を亡くし3歳の時に病気で言葉を話せなくなった母と二人で助けあって、そしてこの生活から抜け出す唯一の希望でもあった姉との約束も果たされず、『いつかきっと成功して母に贅沢な暮らしをさせてあげる!』と毎日毎日学校とバイトを行き来する人生を強いられてきたウンサン自身が、世界の帝国グループの子息を捕まえてしまったこと。
自分の意思とは裏腹に。
まぁそれがよかったのか悪かったのかは神のみぞ知る。

しかし・・・一番見上げるは、タンの一本気。
18歳という未熟な歳のなせる業を表現したかったのかもしれないし、欲しいものが手に入らないと解ると余計に欲しくなる子供の心理を描いたのだろうけどそれにしても大した執念だったわ。
『18なら(知恵を絞れば)大人には出来ないことが出来たりするよ』
タンが兄ウォンに言い放ったセリフ。
このセリフにもこのドラマの言わんとする内容が凝縮されてたように思う。

そして最後に。
『ウリチベカルレ?』(訳:俺んち来る?)
物語の一番最初に、アメリカでウンサンを置き去りにして去ったはずのタンが車で引き返してきてウンサンに言ったセリフ。
そして物語の一番最後に、じゃれてタンがウンサンに言ったセリフ。
ここから始まり、ここで終わる。
なんともドラマチックじゃないですか。
そして物語にちょくちょく出てきたセリフ『チクチン!』(訳:直進!)
『敷居』もそうだけど、こういう言葉の言い回しに苦労させられたドラマでもある。
タンの誕生日が12月12日、そして最終回が12月12日だったこと。
こういうひっかけた小細工に、キム脚本家のちょっとした遊び心が伺える。

残念で仕方なかったのは、最後の空想上のパーティーでのキスシーンでのウンサンの髪型。
髪を結ばないのが好きだとタンが言ったにもかかわらずウンサンの髪が結ばれていた。
せっかくドレスアップしているのになんで髪を結んでいたのかも意味不明。
まぁウンサンのうなじにドキっとしたタンがそれを他の男たちに見せたくなくて髪を結ぶなと言った可能性もあるけど。
そして一番最後の二人で手をつないで歩くシーン。
その前に『高3になった』と言っているのだから4月なのにかなり雪が降っていたこと。
(いや、勘違い。韓国の新学期は3月だった)
そしてタイトルを担う王冠の重みに耐え抜いたのは結局、兄ウォンだけだったという結末。

いろんな意味で韓国ドラマは無茶をする。
まず、ウンサンが学校にタンに買って貰ったみみずくのぬいぐるみを持って行ったこと。
普通学校にぬいぐるみは持っていかない。
日本ドラマなら自分の部屋に飾られた一つの小道具として使われる。
そしてヨンドとヨンド父が最後に柔道対決した時、ヨンド父が胴着の下にアンダーで着ていたシャツがアシックスだったこと。
喧嘩売ってるのか日韓友好なのか。
ミノちゃん以外のいろんな韓国ドラマを見て思うこと。
まず主人公が告白に至るまでにはだいたい5〜6話くらいは使う場合が多い。
でも『相続者たち』はタンがウンサンに告白するまで2話しか使っていない。
そしてヨンドがウンサンに恋をするまでの時間、兄ウォンとタンの心の譲歩までの時間、ラヘルとヒョシンが恋に至るまでの時間、いろんな部分でこのドラマは『超急展開』の様相を見せた。
18話であれだけ盛り上がってしまったら続く19話20話が多少がっかりで終わるのは仕方ないよねとの声も。
主人公のイ・ミンホとパク・シネはともかくこの『相続者たち』で一躍脚光を浴びたのはヨンド役のキム・ウビン。
今まで脇役として活躍してきたウビンもこの大ブレークを機に主役抜擢されることも期待されるとどこかに書いてあった。
この『相続者たち』のキャスティングがあまりにも勢揃いすぎたこともあるが、初の役どころを完成させたキャストも多い。
ラヘル役をこなしたキム・ジウォンもストーリーを通してひたすら嫌な役を演じたのは今回が初。
賛否両論の一部。

世間の総評では18話で一気に盛り上がった後の19話、20話の盛り下がりについて酷な意見もあちこちで見かけたが、ラスト19話、20話でキム・タンが抱えている王冠の種類はかなり多かったはず。
1:親子の対立で断絶していた家族関係の修復。
2:家を出た実母ギエを守ること。
3:持ち株で揺れる兄ウォンを助けること。
4:反対勢力を味方にしようとする理事長(ジスク)を牽制すること。
5:昔の親友ヨンドとの友情を取り戻すこと。
6:中間テストの最下位を期末テストで挽回すること。
7:そしてウンサンとのハッピーエンドを迎えること。
19話開始時点でこれだけの重さを抱えた状態でいったいどんな精神状態を保てばいいのか普通なら予想も出来ない。
あくまで“ドラマの中の世界”として。
だって18歳を表現するにはあまりにも酷すぎるもの。

私が一番気に入っているのはウンサンがタンを守るために言い放ったセリフ。
『・・・あんたは私を守り抜けない。あんたは自分でも守りなさいよ!』
18歳を表現する中で夢を大事にする男と、現実を大事にする女の全てがこの一言に凝縮されてる気がする。