王冠をかぶろうとする者、その重さに耐えろ〜相続者たち〜 |
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第20話 屋上。 ヨンド「寒いな・・・」 タン「寒くて・・・真っ暗だ」 (二人の今の心理を表している) そのまま真っ暗なカンナムを眺めている。 ミョンスの母に。 ミョンス母「法定代理人を変えるって?」 タン「ええ、父さんは今入院中なんです」 ミョンス母「議決権が理事長に委任されるわね。経営権の争いなの?」 タン「経営権の防御です」 ミョンス母「理事長から誰に変えるの?」 タン「兄さんにです」 ミョンス母「帝国グループの弁護団の中に、わたしを知らない人は一人も居ないわ」 タン「わかってますがそれでもお願いします。現在のところ当社グループの弁護団は信じることができないんです。臨時株主総会の前に、必ず法的代理人を変えてください。おばさん。わたしの弁護人引き受けてください」 大きなため息をつくミョンスの母。 持株比率。 ユン副社長「会長の持分が13.6%に理事長本来の持分が4.7%、会長の兄弟の方々トータル5.2%、合計が23.5%です。社長とタンの持分が23.1%に帝国ホールディングスが保有する5.37%を合わせれば約28.5%になります」 ウォン「カギは父の側の人々が管理する借名株式の4%、外国人の持分19%、国内株主が持っている25%をどのように分けるのか、ということですね」 ユン副社長「その内の社長の友好持ち分が何%になりますか?」 ウォン「ハァ〜、一旦、父の側の人々から会ってみましょう」 タン「皆、父さんの側の人なんだって?けれど、どうして誰も来ないんだ?」 ユン副社長「義理と実利の間で実利を選択したようだ」 ようやく二人やってくる。 ウォン「来てくれてありがとうございます」 幹部「会長とは20年です。来ますでしょ」 ウォン「他の方たちは考えが違うようだ・・・」 一方。 ジスク「よくいらっしゃいました。後悔なさるようなことが無いように死ぬ気で努めてみるつもりです。RSイ代表まで参加してくださってるので心強いわ」 エスト「わたしはまだ決めてません。どちらの側に立つか。わたしが立ちたいのはキム会長の反対の側なんですがよくわかりませんね。こちらが反対側なのかそれともキム社長のほうが反対側なのか」 参戦。 ウンサン「会長が倒れられたって?」 チャニョン「ああ、昨日の昼に。意識がないみたいだ」 ウンサン「それで連絡がなかったのね。どこの病院にいらっしゃるの?」 チャニョン「タンは病院にいないよ。ウチの父さんと出張に行ったんだ」 ウンサン「出張?」 チャニョン「10日の予定だそうだ。海外の株主たちに一人一人に会って委任状を受けてこないといけないそうだ」 ウンサン「会社に何か起きたの?」 チャニョン「そう見えた。父さんの表現では出張じゃなくて参戦だって。今頃飛行機の中だろう」 大きなため息をつくウンサン。 タンの存在意義。 ユン副社長「震えるか?」 タン「すこし」 ユン副社長「おまえが一緒に行かなければならない理由、わかってるだろ?」 タン「はい。わたしはすぐに父を失うかもしれない幼い少年であり、会長が特に愛している幼い息子でしょ?」 ユン副社長「そうだ。ビジネスというものは結局は誰かの心を動かしてサインを受けることだから」 タン「父さんはこんな戦いをどうやって20年もされてきたのでしょう?」 ユン副社長「まったくだ。休んでおけ。スケジュールが洒落にならない」 タンの置き土産。 タンの手紙『連絡できなくてごめん。これ、欲しかったみみずくであってるだろ?連れてきたから許せよ。電話できないかもしれない。出張だから。オレがいないからって浮気したらぶっ殺すからな。行ってくる。すごく会いたくなるよ、チャウンサン』 タンがウンサンのために用意したみみずくのぬいぐるみを抱えるウンサン。 拘束捜査。 ヨンド「父さん、もしかして・・・」 ヨンド父「拘束捜査になるようだ。明日自ら出頭しようと」 ヨンド「そうしたらどうなるの?拘束されるの?」 ヨンド父「これからわたしの言うことをよく聞け。その、誰も信じずにホテルに関連することは副社長だけ信じればいい。わたしに伝える言葉や誰かがおまえの意見を求めるときには必ずチェ弁護士を通してだけ話をしろ。わかったか?」 黙って頷くヨンド。 ヨンド父「もしも、わたしが早く出てこれなければ叔母さんの家に行け。一人で家にいることなく。わかったか?わたしが居ないからとおまえがしている厨房の業務を投げ出すことなく・・・すぐに出てくるから・・・食え」 翌日、トンウクが拘束捜査のため出頭するシーンがニュースに流れる。 テレビのスイッチを切るヨンド。 いたたまれない表情だ。 そこに、チェ弁護士がやってくる。 ヨンド「父さんは?」 チェ弁護士「座ってください。パク弁護士とイ弁護士は法院に入って来られませんでした」 ヨンド「どうなってるのかって」 チェ弁護士「父さんがどうして弁護士を7人も使うのかわかりますか?父さんの心配は我々がするからヨンド君は心配するなという意味です。そのまま普通に生活すればいいです。学校もしっかり通って」 チェ弁護士「ホテルは当分の間副社長体制で行くだろう。ホテルの心配もしなくていい」 ヨンド「はい」 チェ弁護士「あ、父さんが伝えろとおっしゃってたんだがルールはなくてはならないと、反則はダメなんだぞと」 謝罪。 以前いじめていたチュニョンの学校を尋ねるヨンド。 友達1「どうした?誰だよ?」 チュニョン「チェ・・・ヨンド」 友達2「チェヨンド?お前をいじめてたやつ?」 友達3「あ〜、あいつが?その、ホテル家の息子?」 チュニョン「どうして来た?まだやり足りないのか?」 ヨンド「そんなんじゃ・・・ない。すまなかったという言葉を言いたくて来た・・・すまなかった、本心から。謝罪する。本当に悪かった」 チュニョン「おまえが謝罪もできる奴ということに驚いたが、おまえがほんとうにオレに悪いと思うなら一生罪悪感を感じて生きろ」 ヨンド「そうだな。そうするよ」 チュニョン「オレはおまえの謝罪を受けないぞ。永遠に。二度と探しに来るな・・・行こう」 王冠をかぶろうとする者達の悲哀。 SNSに書き込みをするウンサン。 『あなたがいないソウルは、なんとなく普段よりほんの少し寒い』 そして、ニュースでヨンド父を目にする。 『たった今、ニュースでヨンドのお父さんを見たわ・・・』 アメリカ。 ユン副社長「またお目にかかれて嬉しいです、スティーブ」 ユン副社長がタンとともに委任状獲得の交渉を始めている。 スティーブ「この方がキム会長の次男ですね?」 互いに挨拶するタンとスティーブ。 ウンサンのSNS『全国民が見るニュースで、家族の顔と向き合うのはどれくらいの重さの不幸なのだろう?』 アメリカ。 別の株主「ここにサインをすればいい?」 ユン副社長「はい、会長がお喜びになるでしょう」 ウンサンのSNS『みんなの憧憬の対象であるその世界の中で、あなたとヨンドと生徒たちはどのくらい傷ついたのだろう。毎日朝一番に学校に到着してみて、死体保存線を書いている誰かを目撃するようになったの。ずいぶん驚いたわ。犯人は一人じゃなかったの。ある日はヒョシン先輩だったり、ある日はイェソルだったり、ある日は、いつも明るくて想像もできなかったミョンスだったり、またある日はラヘルだったりもしたの。そして今日は・・・ヨンドだった。みんなが犯人だということがわかってからかな?わたしは前のように、あの子たちをひたすら羨ましがったり憎んだりすることもできなくなった。タン、あなたも早朝一人で、死体保存線を描いたことがあるの?』 ヨンドは名刺を頼りに母の元へ行く。 数年ぶりに見る母の姿。 母がこちらを見ると思わず隠れてしまう。 ウンサンのSNS『とても重すぎたり、とても過酷すぎたり、とても悲しすぎても、いつも怪我するだけではないように』 機内でもタン達の株主への説得は続く。 ウンサンのSNS『その重さが、あなたたちが潰れる理由にならないことを(願って)。会いたいよ。キムタン』 タンのいない朝。 ウンサンは一人、王冠をかぶろうとする者達の悲哀を感じる。 帰国。 病室で。 タン「帰ってきたよ、父さん」 ウォン「状態はずいぶん良くなった・・・脳浮腫は治まり始めたと。(ユン副社長に)事はどうなりましたか?」 ユン副社長「心を決められない人もいて肩入れしないという人もいましたが、かなり多くの株主が委任状にサインしました。タンの役割が大きかったです」 ウォン「遠い道を行ってきて、ご苦労だったな」 タン「韓国の状況はどうだった?」 ウォン「予想通り、父さんの解任案が株主総会に上程された。もし可決されれば帝国グループの主人が変わることで、終わりもない長い裁判が始まるだろう」 タン「どうなろうと、心の準備はしておくよ」 ウォン「家も空けておくのはやめよう。父さんがいない時はオレたちが家を守らなければな。一緒に帰ろう」 ウォンとタン、二人一緒に家に帰る。 ウォン「話がある。ヨンドに会って欲しい。完全に仲が歪んだんじゃないだろ?チェ代表、今検察調査中だ。株主総会には来られないし議決権をヨンドが委任を受ければ良いことなんだが」 タン「会ってみるよ。その代わり一つだけ約束して」 ウォン「なんだ?」 タン「チェ代表が拘束されてもホテルゼウスとすることにした事業は最後まで一緒にして」 ウォン「オレが社長である限りは守るよ」 ウンサンのもとへ。 バイト中のウンサン。 外の席の空いたカップを回収している。 顔を上げると目の前にタンが居た。 タン「仕事、頑張ってるな。チャウンサン」 両手を広げるタン。 タンの胸に飛び込むウンサン。 ウンサン「会長はまだ目覚めないの?」 タン「うん」 ウンサン「株主総会は開催されるの?」 タン「うん」 ウンサン「出張はうまくいった?」 タン「うん」 ウンサン「わたし、浮気しなかったわ」 笑うタン。 タン「オレがかわいそうになると優しいんだな、チャウンサン。それでなんだけど、オレの手を握ってくれるってのはダメか?」 手を握るウンサン。 タン「おい、力ずくで握るやつがどこにいる?心で握らないと」 ウンサン「わたしは心も力が強いの。なによ!じっとしてて」 タン「心配かけたな、ごめん」 無言で首を横に振るウンサン。 タン「ちゃんと勝ち抜いてみせるよ」 無言で首を縦に振るウンサン。 タン「会いたかった」 ウンサン「頑張って、キムタン」 タン「うん」 ヨンドのもとへ。 タン「こんな時期に、オレの問題で訪ねて来てすまない。株主総会関連だ」 ヨンド「お父さんの解任案上程されたのか?」 タン「ああ」 ヨンド「理事長が?」 タン「ああ」 ヨンド「母親が居なくても、多くても、問題なんだな」 タン「助けてくれ。俺達が友達ではなくてもいつかこの借りは返すよ」 ヨンド「今返せ。おれが今までおまえの母さんにひどい言葉を言ったこと、これでチャラにしてくれ」 タン「直接来る必要はない。弁護士を通じて委任状だけ送ってくれ」 ヨンド「ああ・・・お父さんは大丈夫なのか?」 タン「お前の心配でもしろよ」 ヨンド「心配してやってもそれかよ」 タン「ありがとうな」 ヨンド「帰れよ!オレは皿洗いに行くから」 タン「皿洗い?」 ヨンド「今オレにできることは、皿洗いだけだから」 皿洗い中、指を切るヨンド。 エストのもとへ。 エスト「どうしたのよ?」 ユン副社長「帝国建設副社長として来たんだよ」 エスト「あ〜、座って」 少し落胆するエスト。 ユン副社長「おまえはそのままそこにいろ。おれはおまえにお願いしに来たし必ずおまえの約束を取りつけなければならなくて、オレはここで最大限謙虚に哀れにやるから」 エスト「フッ、株主総会のために来たんでしょ」 ユン副社長「オレは副社長になってすぐこれだ。オレが帝国グループにとって災難なのかな」 エスト「今日のコンセプトは同情心発揮なの?」 ユン副社長「効くなら何でもするつもりだ」 エスト「ビジネスしに来ておいてどうして対価もなしに魅力でなんとかする気なの?」 ユン副社長「通じる魅力ならいいんだが」 しばらくの沈黙のあと。 エスト「委任状をちょうだい。サインしてあげるわ。忙しくて直接はいけないわ」 ユン副社長「ありがとう」 エスト「ずっと、元気でね」 ユン副社長「おまえも」 タギョン(ウォンの見合い相手)のもとへ。 ウォンはタギョンと会う。 タギョン「ウチの父の議決数がかなり重要になったようですね?」 ウォン「はい」 タギョン「その話はまかり間違えば結婚するという話になるのはご存知でしょ?」 ウォン「はい。臨時株主総会来られますか?」 タギョン「私と結婚してもいいのですか?」 株主総会。 次々と株主や代理弁護士がやって来て着席する。 投票が始まりすぐに開票となる。 キム会長の解任案は反対52%、賛成44%で否決される。 ウォンとタンの勝利だ。 閉会後。 ジスク「勝ったと喜ぶのは早いわ。幸いだと安心もしないで。今日はあなた達がわたしに勝ったけどこれは戦争が始まっただけよ」 ユン副社長に電話が入る。 ウォン「誰が味方で誰が敵なのか、見当をつけて下さってありがとうございます」 ジスク「偉そうなふりしないで。きっとまた会わなければね。一年後になるか一ヶ月後になるか、そうでなければ半月後になるのか。誰がわかるというの?」 去ろうとするジスク。 ユン副社長「会長が目覚めました」 その言葉を聞きジスクは歩みを止めよろめく。 安心するウォン。 キム会長の手術スケジュールもすぐに決まり手術がはじまる。 手術中。 気が気ではないキム家の人々。 ドアが開き医師たちが出てくる。 タン「どうなりました?」 医師「浮腫が少し残っていて心配だったが手術自体は成功だ。目覚めたら回復の経過を見よう」 ウォン「ありがとうございます」 むせび泣くギエ。 タン「自分を追い出した男のどこがいいんだか・・・泣かないで」 ギエを抱くタン。 母との再会。 ヨンド母「いらっしゃい」 振り向くヨンドの母。 店に入ってきたのは客ではなくヨンドだった。 ヨンド母「ヨンドヤ・・・」 ヨンド「こんにちは」 ヨンド母「元気で・・・いるの」 『いいえ』と心の中でつぶやくヨンド。 すでに涙目の二人。 ヨンド母「こんなに背が高くなったのね。わたしの息子・・・すごくかっこよくなったわ」 ヨンド「母さん」 ヨンド母「うん」 ヨンド「母さん」 ヨンド母「母さんが、母さんが・・・ごめんね。母さんが長く待てなくてごめんね。すぐに会いに行こうとしたんだけど会いに行けなくてごめんね」 固く抱きあう二人。 参考書。 ヒョシン「オレが見た中で大丈夫なものだけを選んできた。進出頻度の高いものなどすべてチェックしてあるしオレがいろんな意味で大事にしていたものだ」 ウンサンに参考書を渡すヒョシン。 家庭教師だったヒョンジュとの思い出の品だ。 ウンサン「わ〜、棚ぼたゲット。ありがとうございます。先輩!」 ヒョシン「オレが感謝しないと。殺伐とした高校生活に温かい一コマとなってくれてありがとう、チャウンサン」 ウンサン「なんですか?どこかに去っていく人のように」 ヒョシン「勉強しっかりして、タンとは甘すぎて退屈なロマンス映画になってね」 ウンサン「本当にどこかへ行くのですか?」 ただ笑みを返すヒョシン。 エストの変化。 RSの新作のためのミーティング。 無条件にスリムに見えるものと指示を出すエスト。 そこにラヘルが入ってくる。 ラヘル「わたし、今回の作品は全体的に気に入ってる。ところで高校生の好みをこのように反映してもいいの?」 エスト「あなたは才能があるの。感もいいし。全体的な感じを見て貰うだけよ」 ラヘル「全部温かく見えていいわ。わたしは寒いのはほんとに嫌なの」 エスト「わたしたち、暖かいところへ旅行に行こうか?モルジブはどう?」 ラヘル「母さんとわたしとで新婚旅行の地に?結構よ」 エスト「婚約者のいない二人の女性のシングル旅行程度でもダメなの?」 ラヘル「なんで呼び出したの?急に旅行話もおかしいし」 エスト「あなた、母さんの睡眠薬を飲んでるようだけど」 ラヘル「ただ眠れなくて。常習じゃないわ。心配しないで」 エスト「母さん全部理解するわ。ハン博士に電話しておくから行ってしっかりと処方を受けて」 ラヘル「うん」 秘密の共有。 病院。 ラヘル「ユ・ラヘルです」 受付で言うラヘル。 受付「座って少々お待ちください」 すると診察室からヒョシンが出てくる。 ヒョシン「ここに通ってるのか?」 ラヘル「初めて来たの」 隣に座るヒョシン。 ヒョシン「オレはここに通ってる」 ラヘル「どうしてここに通ってるの?」 ヒョシン「生きてみようと通ってる・・・おまえどうしてここに初めてきたんだ?」 ラヘル「眠れなくて」 ヒョシン「あ〜、でも大変だな。おまえとしきりに秘密を共有することになるから。どう見てもオレたちはドラマを撮る仲じゃないんだけどな」 ラヘル「勉強でもしなさいよ。浪人生の分際で」 ヒョシン「オレは軍隊に行くんだ」 ラヘル「えっ?」 ヒョシン「これも秘密だぞ。皆はまだ知らない」 ラヘル「待ってくれる女性はいるの?」 ヒョシン「さ〜な〜」 軍隊へ。 タン「おい、イ・ヒョシン!」 ヒョシン「わ〜、どうやって知ってきたんだ?おまえがウチの母さんより早いとは思わなかったよ」 タン「急にどうしたんだよ?なんで急に軍隊なんだよ!卒業もしてないくせに!!」 ヒョシン「大げさだよ。おまえは軍隊に行かないつもりか?」 タン「いくらなんでもこれはないだろうが!両親が許したのか?本当に?」 ヒョシン「19歳の人生で何か許しを貰った記憶はないな。こっそりと行くんだよ。考える時間を稼ぎにな。いまごろ、手紙を発見しているだろうな」 タン「狂ってんな、ホント」 ヒョシン「ウチの母さんを止めるためには、これくらいじゃないといけない気がしたんだ」 タン「おい、このサイコ野郎!」 ヒョシン「違うとは言えないな」 笑うヒョシン。 タンは大きくため息をつく。 タン「怪我すんなよ、サイコ野郎」 頷くヒョシン。 固く抱き合う二人。 ヒョシン「行ってくるよ」 ヒョシンの目にはうっすらと涙が・・・。 姉。 ウンサン「何してるの?ミスカル作るの?」 母に聞くウンサン。 頷く母。 ウンサン「だけどわたしたち二人だけなのに作りすぎじゃない?」 母「(手話)姉さんに小包で送ってやろうと」 ウンサン「姉さん、連絡が来たの?」 母「(手話)メール。就職して、スマホも買ったって」 ウンサン「それだけ?持って逃げたお金の話はしてないの?番号は何番?ちょうだい」 母「(手話)どうして?何というの?」 ウンサン「何をって?母さんはすごく元気で、わたしはもっと元気で、姉さんにすごく会いたいって。わたしたちは幸せにうまく過ごしてるから、自分の心配でもしろって」 母「(手話)本当に幸せなの?こんな母のせいで苦労ばっかりして」 ウンサン「何言ってるのよ。わたしは母さんの娘でこんなに幸せなんだから。早く大きくなって贅沢な暮らしをさせてあげるから。愛してる。母さん」 抱き合う二人。 電話が鳴る。 ウンサン「彼氏だわ・・・うん、わたし。どこ?病院?会長がいらっしゃる病院?」 せっかく感動してたのにさっさと電話に出るウンサンを叩こうとする母。 離婚。 会長「チョン・ジスク女史。わたしが横になってる間にやってしまったと?」 ジスク「別に得るものはありませんでしたわ」 会長「だからもう少し待てばよかっただろうが?おまえは長い間大人しく耐えてきたじゃないか。なんで自分の手でその補償の機会を蹴るんだ?」 ジスク「もっと手にいれようとしたんです。とても長い計画でした」 会長「わたしにもそんな計画がひとつある。だから呼んだんだ。チョン・ジスク女史、離婚しよう」 ジスク「そうしましょう。今度はしっかり準備しなくてはいけませんね。帝国グループ丸ごと飲み込むことは出来なくても、半分にすることは出来る。それが戸籍の力でしょ」 会長「聞いただろ。離婚訴訟準備をしろ」 弁護士「はい会長」 借り。 タンとウンサンが入ってくる。 タン「父さん、ウンサンが来たよ」 ウンサン「健康を回復されて良かったです。退屈なときに読んで貰えればよいかと思って」 本を2冊足元に置くウンサン。 会長「わたしに可愛がられる必要はない」 ウンサン「それでも可愛がられたいです」 タン「勇気を出してきたんだ。可愛がって下さい」 ウンサン「借りは徐々にお返しします。わたしが全てお返しするまでお元気でいてください」 会長「その貸しをすべて受けとるには、長生きしなければならないな」 タン「(ウンサンに)なんの借りだ?」 ウンサン「それではおいとまします」 会長「再度来る必要はない。本はありがとう」 笑顔で会釈するウンサン。 歩く。 カンナムの道の真ん中を歩くギエとタン。 タン「気分はどう?母さん」 ギエ「すごく楽しいわ、母さん」 タン「特別にどこか行きたいところはない?」 ギエ「また今度ね。母さん今、足に感覚がないの。無理しすぎたみたい。自由を謳歌するって楽じゃないのね」 タン「だからなんでそんな高いヒールを履いたんだ。今度は運動靴を履いてよ」 ギエ「それは困るわ、息子。母さんミスコリアが夢だったんだもの。ヒールは絶対諦められないわ」 呆れ笑いするタン。 そして互いに笑い合う。 (※ギエを演じるキム・ソンリョンは1988年のミスコリア) 父子。 ユン家の男二人で湖畔に釣りにやってくる。 ユン副社長「人はやはり、自然と生きなければならないな」 チャニョン「父さんがすごく忙しいから、そうなんじゃない」 ユン副社長「父さんが忙しいからこそ、おまえが食って暮らせるんだ」 チャニョン「忙しいふりをするんじゃなくて?」 チャニョン「父さん、スマイル!1・2・3」 写真を撮るチャニョン。 ユン副社長は変顔をする。 ユン副社長「ボナに送ってやるのか?」 チャニョン「一時間ごとに顔を見せないと息ができないとか何とか言って・・・」 ユン副社長「オレが見るに、おまえが大学に行くやいなやボナに主導権を奪われそうだな」 チャニョン「それはそれで楽しみだな。ところで、父さん。再婚するつもりはない?恋愛しないの?」 ユン副社長「生活だけでも厳しいのに恋愛なんて。オレを食わすつもりはないのか?」 チャニョン「なんで父さんは遊ぶ気しかないんだ?この前クビになった時も嫌じゃなさそうだったし」 ユン副社長「お前も大人になれば解る。社会生活というのは簡単じゃないんだ。時には恋愛より熱く、痛く、気力を吸われたりするんだ」 ウォン「わたしの事を言ってるんですか?」 ウォンが声をかけてくる。 タンも一緒だ。 ユン副社長「社長!」 驚くユン副社長。 50位V.S.1位。 椅子にはタンとチャニョンが座り、大人二人は樹の下でコーヒーを飲んでいる。 チャニョン「釣りと言うものは歳月を釣るということなんだ。周国姜太公というのを知っているだろ?」 講釈を垂れるチャニョン。 タン「うるさい、こいつ!」 (※姜太公は太公望のこと) ユン副社長「コーヒーが飲みたいというだけでここまで来て下さるとは思いませんでしたが」 ウォン「わたしは元々その気になれば限りなく優しい男です。釣りにはよく来るんですか?」 ユン副社長「父子間の愛情を確認する一種の儀式みたいなものです。期末試験も終わったし息抜きもかねて」 ウォン「(タンに)あ〜、おまえ、期末試験はどうなった?まさか、またか?」 タン「知ったら驚くぞ?チャニョンに聞いてみて」 チャニョン「キムタン50位でした」 ウォン「50位?」 ユン副社長「ホントに?」 同時に驚く、保護者の二人。 満面の笑みを浮かべるウォン。 ウォン「まったく、よくやりました」 ユン副社長「よくやったんですか?わたしは帝国高校に50位もあることを知りませんでしたよ」 ウォン「チャニョンは何位なんですか?」 ユン副社長「チャニョンは毎回一位ですから、成績表にドラマがないからもう面白くもなく興味もなくてよく確認もしません」 立場がなく渋い顔のウォン。 タン「おい、おまえこの雰囲気どうするんだ!クソ。ユンチャニョン、オレについてこい!」 その場を走って離れるタン。 それにしぶしぶついていくチャニョン。 笑うウォンとユン副社長。 ユン副社長「いつもこんな日ばかりだといいですけどね。タンはまだ知らないのでしょう?」 ウォン「知ってどうしますか」 ユン副社長「記事は明日出るでしょう」 ウォン「はい、出しましょう。ここいいですね。わたしも今度来てみます」 翌日。 バス停でウォンとタギョンの婚約の記事を見て一人泣くヒョンジュ。 離別。 カフェでヒョンジュと会うウォン。 ヒョンジュ「もう、約束守ってよ」 ウォン「どんな約束?」 ヒョンジュ「願いができたら片方を握ってやると言ったじゃない。願いができたの」 ウィッシュボーンを取り出すヒョンジュ。 リアクションしないウォン。 ヒョンジュ「もう握ってくれない?わたし一人でする?こっちはウォンさんこっちはわたし」 ウォン「やめろ」 ヒョンジュは躊躇なく裂く。 ヒョンジュ「わたしのほうが長いわ。私の願いが叶えられるんだ。別れましょ、わたしたち。それが私の願いよ。わたしたちはいつも近くに向かい合って座っていても、はるかに遠い人だったわ。覚悟していたんだから気を悪くしないで」 涙するヒョンジュ。 ウォン「ごめん、すまない、本当にすまない」 ヒョンジュ「手を振ってあげるといったじゃない、わたしが・・・さよなら、ウォンさん」 涙を必死でこらえながら手を振るヒョンジュ。 一人座るウォン。 テーブルにポツンと残された、二つに割れたウィッシュボーンを見つめる。 弟。 力なく家に帰るウォン。 タン「記事は何だ?兄さん結婚するの?なんで急に結婚なんだ?」 ウォン「会社を守るにはオレたちだけじゃ足りない。それがこの結婚が必要な理由だ。それが、オレのかぶる王冠の重みなんだ」 タン「だけど」 ウォン「おまえの意見は必要ない。オレがした決定だ。とやかく言うな。オレたちの取引についても考えてみた。お前をアメリカに送るということ。アメリカに行くな。代わりにオレの後ろにいろ。オレの味方として。もうおまえは別の夢を見るなということだ。経営の授業をちゃんと受けろ。それだけだ。寂しいから」 タン「おれがいたら寂しくないのか?」 ヒョンジュの存在を知っているタン。 ウォン「それでも寂しい。けれどいないよりはマシだろう」 とうとうタンに弱みを見せた、ウォンの心の雪解けでもあった。 愛する人を失った代わりに・・・。 初対面の記憶。 店員「チューニングじゃなくて点検のために来たって?最後に点検を受けてから、3ヶ月しか立ってないんだけど」 バイクショップのスタッフ。 ヨンド「快感よりも安全を選んでみようと。ヘルメットはあっちで見ればいいでしょ?」 ヘルメットを選ぼうとして、指の怪我に目が行く。 その時、チキンの配達がやってくる。 ウンサンではないがウンサンに会った日のことを思い出す。 ヨンド「(独り言)オレたちの最初の出会いは、オレたちの記憶よりも前だったんだな」 そして以前ウンサンにもらったバンドエイド(カットバン)を指に巻く。 18。 ボナ「ミョンス来られないって」 イェソル「来ないんでしょ。女といるんじゃないの?」 チャニョン「友達より女が重要な年頃でもあるな」 ボナ「友人であるウンサンより、女であるわたしがさらに重要だという間接告白なの?」 チャニョン「そうかもな。オレが先に主題を決めるぞ・・・18!」 ボナ「あ〜、のっけから難しい。もっと簡単なのを出してよ」 イェソル「わたしから始めるわよ?」 カードを出すイェソル。 イェソル「18は自分自身に傷つけて」 チャニョン「寂しく」 ボナ「時には巨大な敵と戦わなければならないけど」 イェソル「熱い心臓を持って」 チャニョン「大いなる夢を見る子だ」 ボナ「ああ、何よ!わたしのカードには18に合うものがひとつもないわ。二人グルになってるんじゃないの?」 チャニョン「イボナ、アウト!おれ、願いを言うぞ。キス!」 頬を指すチャニョン。 イェソル「ちょっと!」 ボナ「あ〜ちょっと〜。もうなんでそんなことを。恥ずかしいじゃない、見る目もあるのに。どっち?こっち?」 キスしようとするボナ。 そのタイミングでボナの方を向き口づけをするチャニョン。 ボナ「ちょっと!急に動いたらダメでしょ!どうしよう!」 チャニョン「ごめん、それならまた返すよ」 キスしようとするチャニョン。 イェソル「この人達、ホント!私の願いは、あなた達二人が別れることよ!」 それっぽいカードを示すイェソル。 嫌な顔をする二人。 日記帳。 『アメリカから来たもののようです』と家政婦から小包を受け取るタン。 アメリカで先生に提出した自分の日記帳だった。 先生『あなたがかぶろうとしている王冠の重さは何だった?金?名誉?でなければ愛?』 先生のメッセージがあった。 その日記帳に書き足すタン。 『書斎の主人が変わった・・・兄さんは登りたいところへ登り、さらに強くなって夜には泣いた。兄さんの流刑地は兄さんが生涯生きてきたこの屋敷ではないだろうか』 書斎でウィッシュボーンを見つめ涙するウォン。 高3。 登校するタン。 タンの心の声『そしてオレは絶対にオレとは関係ないと思っていた高3になった』 いつものように天然岩盤水を纏うミョンスがいる。 タンを見つけて一枚写真を撮る。 タン「こういうのが肖像権の侵害だとお母さんがおっしゃってなかったか?(ちょっと方言)」 ミョンス「記念する瞬間だから、一枚撮ってみた」 タン「何を記念して?」 ミョンス「なんというか・・・世界の敷居を越えてみた者の顔。そんな感じ?行くぞ!」 少し進むと右手からラヘルが出てくる。 目が合うが会話はしない。 続いてチャニョンとボナが左手からやってくる。 チャニョン「明日が最初の模擬試験だって知ってるよな?期待してるぞ」 タン「おまえの座でもしっかり守れよ。おれ、もともと中間はないぞ(次は1位宣言)」 ボナ「また100位なんだわ!」 タン「こいつら!」 進むタン。 ヨンドとすれ違う。 会話はない。 タンの心の声『けれど何も変わったことはない。うまく別れたり洗練された仲直りの方法を、いまだにオレたちは知らない』 想像上のパーティー。 ウンサンの心の声『けれどわたしたちは知っている。18、あの厳しい時間の中で互いにどれだけ痛く、泣き崩れたのかを。わたしたちがどれだけ激しかったのかを』 タン「おまえ、思ったより顕示欲があるな!イボナが見たらどうするんだ?」 ウンサン「見せてるのよ。彼氏が買ってくれたよって」 タン「こいつ見ろよ!金を使った甲斐があるな!」 ウンサン「ところであなた、誕生日のろうそくを消した時何を願ったの?ずっと気になってたの」 タン「オレが知ってる全ての人達を幸せにしてください」 ウンサン「なんだ・・・」 タン「マジだぞ」 タン「10年後ぐらいに、ウチでパーティーをするんだよ」 ウンサン「パーティー?10年後だとわたしたち29歳ね」 タン「うん」 ウンサン「みんな来たの?」 タン「ああ、ボナとチャニョンはパーティーに来ても忙しいんだ」 ----------------------------------------------------------------------- 想像上のシーン。 ボナとチャニョンは席について慌ただしく商談をしている。 ヒョシンとイェソル。 イェソル「先輩、デビュー作がアジア映画祭コンペティション(競争)部門に進出したんですって?」 ヒョシン「本格軍隊痴情映画に一線を引いたんだよ」 イェソル「次回作にはわたしも呼んでくださいね、先輩!・・・イ・ボナ!」 そこにラヘルがやってくる。 ラヘル「そのあやしい才能を、いまだに使ってらっしゃるのですか?」 ヒョシン「ああ、知らなかったか?RS社屋では、インターネットはダメなのか?」 ラヘル「毎シーズン準備するのに忙しいのに、そんなのを覗いて見る時間がどこにあるのよ!」 ヒョシン「試写に招待すれば、どうする?」 ラヘル「イヤよ。映画を見る趣味はないのよ」 ヒョシン「それならオレを見に来いよ」 ラヘル「考えてみるわ」 カメラを持つタンに敬礼するヒョシン。 ヨンド「おまえが休暇で出てるのに、どうしてオレのスケジュールをチェックする?連絡するな。切るぞ!」 ウォン「ミョンス?まだ上等兵か?」 ヨンド「兵長です。年取って軍隊に行ったから苦労が多いようです」 ヨンド「それと、JGコンベンション済州今月からわたしが担当します。期待されるでしょ?」 ウォン「チェ代表は不安がるだろうな」 ヨンド「なんてことを言うんですか?頑張りたくなるじゃないですか。うまくやらせようと!・・・タンが来ましたね」 ウォン「来たのか?父さんは書斎にいらっしゃる」 ウォンが指差す。 年をとったキム会長がユン副社長とともに出てくる。 ジスクもいる。 階段の踊場にはギエとウンサンの母。 ギエ「あら、おばさん、わたしより年下だったの?カード(住民登録証)見せて!カード見せてよ!信じられない!あら、息子!」 タンは自分の部屋へと歩いていく。 そこにはウンサンがいる。 長いキスをする二人。 ----------------------------------------------------------------------- タン「そして10年後にも、18歳のオレがおまえに向かって夢中で走ったように、道の上にはオレが、道の終わりには結局おまえがいるようにと、ろうそくを消しながら願った」 ウンサン「想像の中でしか笑うことのできない人たちだね」 タン「だから願いだ」 ウンサン「そうなったらいいわね」 タン「もしかしたら、いつかは」 手をつないで歩き出す。 同じように街を歩く二人。 タンの心の声『18歳のオレたちは、惚れて好きになり、泣き、逃げ、跪き、互いに向かって数えきれない程背を向けた』 ウンサンの心の声『それにもかかわらず、18歳のわたしたちは互いに向かって走って来て手を握り、互いを力いっぱい抱きしめた』 それにもかかわらず・・・直進。 タン「ところでおまえ、メシはいつおごるんだ?」 ウンサン「ご飯をおごるという話を信じてたの?誘う時はなんだって言えるでしょうが」 タン「へ〜、おまえもしかしてわざとメシを奢らないんじゃないか?(オレに)直接作ってあげたくて?毎朝?もしかしておれ、おまえにプロポーズされたのか?」 ウンサン「違うと思うよ。それはいくらなんでもいきすぎだわ」 舌を出し逃げていくウンサン。 タン「おい、チャウンサン。ちょっと待て。おまえ、オレが背を向けたら何をすると言った?なんで言い訳しないんだ!オレの家に行くか?夢でだけ会えてうれしいのか?」 ウンサンの心の声『わたしたちはまた再び倒れることもあり、また再び跪くことになるかも知れない。けれどわたしたちは・・・』 タンの心の声『それにも関わらずオレたちは・・・直進!!』 THE END |