鮫〜愛の黙示録〜
あとがき

12年前、イスは電話ボックスごとトラックにひかれる大事故にあった。
もちろんイスの父が残した極秘文書を持つイスごと証拠隠滅するためのチョ会長の陰謀だ。
だけど警察がどれだけ探してもイスの亡骸は見つからなかった。
あの時、カン・ヒス殺害事件の捜査に当たっていた担当刑事はイスが何を訴えても聞こうとしなかった。
そして追尾捜査すらしようとしなかった。
だがあの時、直接担当ではなかったピョン刑事だけが何かがおかしいと気づいた。
だからこそ最後に公衆電話から泣きついてきたイスの話を聞きに行こうとしたのだ。
父が死んだあの時、最後に頼れるのはピョン刑事しかいなかったから。
だがほんの数分の差でイスは事故にあった。
ピョン刑事の到着は間に合わなかった。
悲惨な事故現場を見れば誰もがイスの死を信じざるを得なかった。
そして前々からイスに目をつけていたヨシムラが事故現場からイスを連れ去り膨大な金をつぎ込んでイスを助けた。
死んだ自分の息子の代わりに。
それが現在のイスの顔だ。

最愛のイスを失ったヘウをいつも隣で支えてきたのはイスの無二の親友となったジュニョン。
ヘウの心にいつもイスがいることを知った上でずっとヘウを見守ってきた。
絵が大好きだったヘウは美大に進むはずだったのをやめイスが目指していた検事になる。
勉強が大嫌いで家庭の愛に恵まれず荒れていたヘウはイスと出会って必死に勉強するようになった。
ただイスに好かれたいがために。
それがこんな形で戻ってくるとは誰も予想していなかったが。

12年前のあの日、湖でのビデオ撮影でイスはヘウから『何が好き?』と聞かれる。
ヘウはもちろん自分のことを言って欲しくて聞いたのだがイスは『鮫』と答える。
『鮫は浮き袋がないから止まると死ぬ。生きるためには動き続けなくてはならない。そして誰も鮫を好きではなさそうだから可哀そうだ』と。
『鮫』という返事に意気消沈したヘウから『もし私がいなくなったらどうする?』と聞かれたイスは『必ず探し出す。君を探し出すまで僕は死ねないから』と答える。
父の後を追って死のうとするイスを見たヘウはイスの好きな鮫のペンダントを作ってプレゼントする。
手を傷だらけにしながら。

ついにジュニョンとヘウが結ばれようとしたあの日、イスが帰ってきたのだ。
『ヨシムラ・ジュン』となって。
12年前の約束通りヘウを探し出したイス。
12年の時を経て戻ってきたイスはヘウが結婚すると聞いても揺れることはなかった。
胸に秘めた復讐の誓いはそれほど固かった。
だが結婚式場で一目ヘウを見たイスは手の震えを必死でこらえながらたった一度だけ振り返る。
これが残忍になりきれなかったイスの唯一の誤算であり唯一の救いでもあった。
ヘウにとってはいつもかばってくれる優しいおじいさんだけが唯一の家族と呼べた。
そしてイスの復讐目標はその『優しいおじいさん』だ。
最愛のヘウに刃を向けることになるのを承知の上でイスは鬼になった。

カン・ヒスの息子のスヒョン。
唯一の家族だった父親を殺人事件で亡くしたスヒョンはまだ幼いうちに孤児院を抜け出した。
その頃イスと出会う。
攻撃目標は同じチョ会長。
イスの後援でスヒョンは検事となり、肉親のない二人は家族も同然の仲となる。
ヘウの検事事務所に入り込みイスの手足となって動くが、調べていくうちに自分の父親を殺したのはチョ会長ではなくイスの父親だったことが解る。
一度はイスに憎しみを抱くが憎しみの矛先はイスの父親であってイスではないと腹を決めるスヒョン。

そして最終話。
大事な妹イヒョンの手術に自分の身体を提供すると決めたイス。
イヒョンに適合するのは自分しか残っていない。
『生きてるのは奇跡だ』
拳銃で首を打ち抜かれながらも妹のために必死で生きようとする。
自分の命と引き換えに妹を助けたイス。
妹の中でイスはいつまでも生き続ける。