〜個人の趣向〜
第16話〜今日の天気予報は?〜

家でリンゴをかじるケイン。

彼女はいつもリンゴを縦ではなく横に切る。

それを見て笑う父。

父「こいつ。相変わらずだな」

ケイン「横に切るとおいしいの」

父「どれ、私も食べてみよう」

半分を父に渡す。

かじろうと手に持って、父はふと何かに気付く。

父「これは・・・」

ケイン「何?」

父「そうか。チョン・チノ・・・彼の設計のモチーフはこれだ」

ケイン「チノさんの作品のモチーフがサンゴジェじゃなくて、リンゴですって?」

ケインは思い出す。

『おわび(サグァ)のリンゴ(サグァ)よ』

そういってあの日渡した木で作ったリンゴのモチーフを。

父「彼はお前と出会って新しいアイデアがひらめいたようだ」

ケイン「パパ、ちょっと出かけてくる」

父「どこへ?」

ケイン「遅くなるから先に寝てて」

ケインは急いで走り出す。

チノはその頃、館長の別荘で一緒に釣りをしたあの場所に立って遠くを見つめている。

激しい雨の中、傘も差さずに・・・。

過去があれこれ蘇る。

『私はあなたの言うことしか信じない。それだけが真実だもの。盗んでないと言ってよ。サンジュンさんがパパの設計図を持ち出したんでしょ?』

『自分のせいだと認めたくないだけでは?』

『君に何が解る』

『芸術院の依頼を断ったのはこの家に欠陥があったからです』

『うそつき。あなたの言うことはうそばかりね』

『これで、会うこともない』

ケインを背負って歩いたあの夜。

『最悪だわ。出会わなきゃよかった。チャンニョルさんと別れてつらかった時あなたなんかに頼るんじゃなかった。そうすれば今頃笑っていられたのに』

雨が降りしきる中傘も差さずに遠くを見つめ続ける。

すると後ろからそっと傘が差しだされる。

振り向くとそこにイニが。

イニ「湖に飛び込みそうな顔してるわよ」

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また蘇る記憶。

イニ「迷惑なのは解ってる。あなたに会うまではクールな女で通ってたのに職場まで押しかけるなんて」

チノ「僕の趣向(ゲイ)は知ってるよね?」

イニ「私みたいな女より男の方がマシ?」

チノ「君に特別な感情はない」

イニ「あなたが女性を好きになれなくても私はあなたを男として愛せるわ」

チノ「僕たちは仕事上の知り合いにすぎない」

イニ「チャンニョルさんと別れて次は尊敬できる人を選ぼうと決めたの。ハン会長に堂々とものを言うあなたを見てこの人だと思ったわ。愛されなくても構わない。心から愛せる人とやっと出会えたの」

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チノ「なぜここに?」

イニ「滞在中必要なものを持ってきたの」

チノ「何もいりません」

それだけ言って歩き出すチノ。

後を追いかけるイニ。

その頃ケインはタクシーの中。

館長に電話している。

ケイン「あの・・・館長。別荘の場所を伺ってもいいですか?」

館長の別荘。

真っ青な顔でタオルを首に巻いて出てくるチノ。

力なくソファに座る。

イニも隣に座る。

イニ「チノさん、大丈夫?」

チノ「いえ、お気遣いなく」

チノの額に手を当てるイニ。

イニ「熱があるわ」

イニの手をどかすチノ。

チノ「寝れば大丈夫です。帰って下さい」

イニ「病人を置いていける?解熱剤あったかしら?いろいろなことがあって無理をしすぎたのね。薬があるかどうか見てくる」

チノ「お願いだ。帰ってくれ。ここにいても僕の目に君は映らない。熱が出たのは会いたい人に二度と会えないからかもしれない」

イニ「私は気にしないわ。これからもあなたをしつこく追いかけ続ける。そうすればいつかあなたも私のことを必要とするかもしれないわ」

チノ「以前君は、僕らは同類だと言ったね。確かに昔の僕は君のように目的のためには手段を選ばなかった。でも今は違う。愛する人を守るためなら自分を捨てられる」

イニ「つまり、ケインのために身を引いたというの?おかしいわ。愛してるのに諦めるなんて」

立ち上がって歩き出すチノ。

イニ「どこへ?」

チノ「車で寝るよ」

傘を差して一人別荘から出てくるイニ。

そこへ到着するケイン。

イニが別荘にいることに驚く。

イニ「彼に会いに?」

ケイン「なぜここにいるの?」

イニ「彼が大変な時に支えてあげたいからよ。もう別れたんでしょ?」

ケイン「あんたに私の代わりは出来ない」

イニ「あんたなんか大嫌い。最初から気に入らなかった。正直に言えば?親を亡くして貧しい私をさげすんでたんでしょ?」

ケイン「私達は家族も同然だった。そうでしょ?」

イニ「いいえ、違うわ。あんたの機嫌をとるために合わせてただけよ」

ケイン「本当に?」

イニ「追い出されないように必死だったわ」

ケイン「パパに叱られるたびにかばってくれてママの写真だって一緒に探してくれたわよね。あれも全部私の機嫌をとるため?」

イニ「そうよ。嫌だったけどしかたなかったわ」

ケイン「やめて。嘘なんでしょ?」

イニ「嘘じゃない。あんたが死ぬ程憎いわ。私は欲しいものが何も手に入らないのにあんたは全て持ってる」

ケイン「そんなことないわ。解ってないのね。どんなに恵まれてるか」

返す言葉がなくなるイニ。

別荘に向かうケインを黙って見送る。

部屋の中を走り回って必死にチノを探すケイン。

呼んでも返事はない。

別荘から出てくるケインを待っているイニ。

イニ「具合が悪いみたい。車で寝てるわ」

ケイン「かなり悪いの?」

イニ「自分で確かめて。私と部屋にいるのが嫌なのね。私じゃ無理みたい。彼が求めてるのは、私じゃない。そうよね」

ケインは悲しい目でイニを見送る。

急いでチノの車を探すケイン。

雨の中一人歩くイニは、思い出している。

『以前はあんたのことが羨ましかった。いつも堂々として自分に自信を持ってるから。でも今はそうは思わない。自分さえよければ平気で人を傷つける、そういう人よ』

『偉そうに。私に説教なんかして後悔するわよ』

『説教じゃない。最後の、思いやりよ』

イニ『この私があの子のために身を引くなんてね』

自虐気味に笑うイニ。

チノの車に駆け寄るケイン。

ケイン「チノさん、大丈夫?チノさん?ねえ、しっかりして」

チノはわずかに目を覚ましてケインを見るが黙って目をそらす。

ケイン「歩ける?」

別荘のベッドルーム。

眠るチノの額を濡れタオルで冷やし看病するケイン。

目を覚ますチノ。

ケイン「チノさん、気がついた?」

チノ「ケインさん?」

はっきりしない意識の中で幻でも見てるような目で見るチノ。

ケイン「無理するからこんなことになるのよ」

チノ「構わないでくれ」

ケイン「無理よ」

チノ「僕は大丈夫だ。帰れ」

ケイン「熱があるのよ?」

チノ「お父さんが心配する。帰るんだ」

ケイン「余計なお世話よ。タオルで冷やさないと」

チノ「構うな。帰れ」

ケイン「解った。心配ないみたいね」

立ち上がったケインの腕をとっさに掴むチノ。

チノ「行くな」

ケイン「放して」

掴んだ腕を引っ張ってベッドに座らせケインを後ろから抱きしめる。

チノ「行くなよ」

ケイン「あなたを信じてる。例え百回、千回、騙されたとしてもそれでもいい。人のいいのが私の取り柄だもの。チノさんになら何度騙されても構わない。信じ続ける。あなたとは別れられないから」

ケインは涙を浮かべている。

そこまで聞いたチノは抱いていた腕を解きケインにゆっくりキスをする。

ケインの下着の肩ひもに手をかける。

ゆっくり降ろそうとするが、その手をケインが止める。

それを拒否だと受け取ったチノは諦めの表情で手を離しうつむく。

ケインはチノの手を自分の胸に当てじっとチノを見つめる。

不安と期待の入り混じった目で。

チノは優しくケインにキスをする。

そしてそのままベッドに・・・。

翌朝。

ケインが先に目を覚ます。

隣を見ると裸で眠るチノが。

それを見て微笑む。

チノを起こさないようにそっとチノの頬に触れてみる。

指でチノの唇をなぞってみる。

ちょっと動いたチノに、慌てて寝たふりをするケイン。

目を覚ましたチノ。

寝たふりを決め込むケインを笑って見る。

ケインのおでこにそっとキスをする。

チノ「起きてるくせに。言ったろ?君は演技が下手だって」

ケイン「知らない」

布団をかぶるケイン。

チノ「おいで」

布団の中にもぐり込んでじゃれ合う二人。

二人分のコーヒーを入れて持ってくるチノ。

チノ「どうぞ」

ケイン「ありがとう。ああ、幸せ」

チノ「出来ることなら・・・」

ケイン「何?」

チノ「誰かにタイムマシンを作って欲しい」

ケイン「変わった願い事ね」

チノ「それに乗って過去に戻りたいんだ」

ケイン「過去って?」

チノ「君が5歳の時」

黙り込むケイン。

チノ「その頃にさかのぼって5歳の君に会う。言ってあげたいんだ。『あれは事故だった』と。『決して自分を責めちゃいけない』とね」

見つめ合う二人。

ケイン「タイムマシンなんていらないわ。あなたに会えたんだもの。そして今こうして慰めてくれてる」

ヨンソンとサンジュンは芝生の上でヨンソンの弁当を食べている。

そしてヨンソンの旦那が浮気してるかもとサンジュンに話している。

口が軽いサンジュン。

残業ばっかりしてるから肌がカサカサよと心配するヨンソンに『最近は早く帰ってる』という。

『昨日はチノさん帰ってないわよ』とサンジュンに言うと『昨日チノは出勤してないぞ』と答えてしまうサンジュン。

ヨンソン「誰といたのかしら・・・?」

サンゴジェの前。

ケイン「パパに会って誤解を解かなきゃ」

チノ「まだ早いよ。コンペが終わって潔白が証明されてから会うよ」

父「何をしている?」

慌てて繋いでいた手を離す二人。

父「入りなさい」

向かい合って座る3人。

父「弁解したくないのなら私から聞こう。私の設計図を盗んだのか?」

チノ「はい」

ケイン「館長に見せたのはサンジュンさんでしょ?」

父「どうなんだ?」

チノ「持ち出した僕にも責任があります」

父「部屋を借りたのは家の内部を探るためか?」

チノ「確かに始めはそうでした。資金繰りに困っていて芸術院の仕事が欲しかったんです。でもそのうちケインさんを本気で好きになりました」

父「だから私の設計を取り入れず別のアイデアを練ったと?」

チノ「はい」

父「予備審査に通ってよかったな」

驚くケイン。

ケイン「本当?なぜ言ってくれなかったの?」

チノ「本審査の結果が出てから言うつもりだった」

ケイン「何でも話してって言ってるのに」

チノ「ごめん。これからはそうする」

ケイン「もう、ひどい」

二人のやり取りを怖い顔で見ている父。

父「娘のどこが好きなんだ?答えられないのか?」

チノ「その・・・どこが好きなのか考えたことがありません。いつの間にか自然に惹かれていたので・・・でもこれから交際をしながら考えてみます」

父「覚悟はあるか?」

チノ「え?」

父「私と徹夜で飲む覚悟だ」

ケイン「無理よ。彼、ゆうべ熱が出て寝込んだの」

父「恋人の味方か?」

ケイン「そういうつもりじゃ・・・」

チノ「お酒を買ってきます」

ふっと笑う父。

ヨンソンのモデル仕事に付き合っているチノとサンジュン。

今回は化粧品のモデルだ。

チノに頼むと引き受けて貰えないことが解っているのでヨンソンはサンジュンに頼んだのだ。

『なんかイメージが違うわね、こまったわ』と言いながらうまくいいくるめて、結局チノがやらされている。

不審に思うケインに言うヨンソン。

ヨンソン「サンジュンさんが使用前、チノさんが使用後よ」

ケイン「それじゃ詐欺じゃない!」

チノの自宅。

ヘミが買い物から帰ってくるとチノ母がキッチンで何やら料理をしている。

ヘミ「いいにおいですね」

母「あるところに持っていくの。分けてあげられなくてごめんね」

チノの事務所では。

ケインが仕出しを買い込んで持ってきたので皆で開けている。

サンジュン「豪華だな!」

ケイン「頑張ってるみんなに差し入れです」

チノ「いつ用意したんだ?」

ケイン「気が利くでしょ?どうぞ」

そこへチノ母が入ってくる。

ケインと母の2人は喫茶店へと移動する。

母「チノがどう考えていようと私は認めていないわ」

ケイン「解っています」

母「チノはつらくても弱音を吐かない子なの。黙って耐えてばかりで。力になってやれなくて情けない母親だわ」

ケイン「彼はお母さんが大好きなんです。お母さんと電話で話すのを聞くと羨ましく思います。とっても仲がいいんですね。もしも母が生きていたらそんな会話が出来たのに・・・」

そのケインの寂しそうな顔を見る母。

ケイン「チノさんのようにお母さんと仲良くしたいんです。そうなれませんか?」

母「今度うちにきて。食事でもしましょう」

ケイン「ありがとうございます」

嬉しそうなケイン。

海辺で一人たたずむチノ。

記憶をたどっている。

ケインに貰ったリンゴのモチーフを見ながら必死な思いで設計図に向かったこと。

チノ『大丈夫だ、チョン・チノ。うまくいく』

本審査発表日。

未来建設のの発表、檀上に立つチャンニョル。

チャンニョル「タム芸術院は世界中の芸術家が集う・・・一つの村です。そこで韓国の伝統的な集落にヒントを得ました。長屋のような家が連なる構造です。家が集まり村を形成します。そして各施設を繋ぐのは路地に見立てた橋です」

M建築事務所の発表、檀上に立つチノ。

チノ「主要な施設は3つ。樹木をモチーフにした駐車棟、白頭(ペクトゥ)山脈の地層を模した住居棟、リンゴの形をした作業棟です。作業棟の中庭に作られた渓谷では四季折々の風景が楽しめます。私達は多くの人々が芸術に親しめる環境を目指しました」

いよいよ最後の発表の時。

教授「最終審査に残ったのは未来建設の『空の音色』と建築事務所Mの『アップル・タム』です。未来建設の『空の音色』は建物と空間の融合という点に高い芸術性が認められ多くの審査員から高評価を得ました。建築事務所Mの『アップル・タム』は文化複合施設という概念を形にした点が高く評価されました」

司会「最終審査の発表です」

館長に封筒を手渡す教授。

この中に勝者の名が記されている。

祈るチャンニョル、そしてチノ。

館長「発表します。タム芸術院、設計コンペ入選作品は・・・『アップル・タム』です」

手を叩いて勢いよく立ち上がるサンジュンとチノ。

肩を落とすチャンニョルと席を立つチャンニョル父。

そして会場に頭を下げるチノ。

会場の外で今か今かと待っているケイン。

肩を落として出てくるチャンニョル。

ケインを見つけ寄ってくる。

チャンニョル「コンペの前に決めてたことがある。全力で勝負して負けたら身を引こうと」

手を差し出すチャンニョル。

チャンニョル「おめでとうの握手さ」

チャンニョルの手を握るケイン。

チャンニョル「今回は正真正銘実力で負けた。チノの勝ちを認めるしかない」

思わず顔がほころぶケインだが、慌てて笑顔を引っ込める。

チャンニョル「気を使うなよ」

ケイン「ごめん」

チャンニョル「一度は決意したのに諦められなくてチノからお前を取り戻そうと必死だった。だけどもう、忘れるよ」

去っていくチャンニョルを複雑な目で見送るケイン。

チャンニョルを見送るケインの後ろにやってくるチノ。

ケイン「おめでとう」

満面の笑みで。

チノ「ありがとう。リンゴ(サグァ)は君を悲しませたおわび(サグァ)のしるしさ」

満面の笑みで。

ケイン「いいわ。許してあげる」

チノの事務所で。

サンジュン「今日は最高にめでたい日だ。チョン所長のあいさつの前に・・・ケインさんに歌って貰おう」

『歌え、歌え』と喝采するみんな。

ケイン「やめてよ。歌えないわ」

テフン「代わりにイッキだ!」

『イッキ、イッキ』とはやし立てられるケイン。

ケイン「解った、解ったわよ」

チノ「ちょっと待て!大丈夫か?」

ケイン「心配ないわ。強いんだから。いくわよ」

チノ「おい・・・」

心配そうな目で見つめるチノ。

今までケインが酒に酔うとロクなことがなかった。

そして家では父が待っているはずだ。

それに構わずがぶ飲みしてしまうケイン。

まだ飲ませようとするサンジュンに怒るチノ。

大丈夫よと大笑いするケイン。

案の定、酔いつぶれたケインを抱いて帰ってきたチノ。

庭では父がウロウロしながら待っている。

父「遅かったな」

チノ「すみません」

父「こっちへ」

チノ「いえ、僕が」

父「早く」

ケインを受け取ろうとする父だがその重さに腰を痛めてしまう。

チノ「大丈夫ですか?」

父「ああ、まあな」

チノ「寝かせてきます」

その姿にふっと笑う父。

ケインをベッドに寝かせ布団をかけてあげる。

そして眠るケインの頬に触れ愛おしさがこみ上げる。

それを覗き込む父。

父「君に話がある」

教授についていくチノ。

父「礼を言いたくてな」

チノ「いいえ」

父「昔芸術院の設計を依頼された後設計図の一部をもとにこの家を建てた。仕事中の妻が娘の姿を見られるようガラス天井にした。だが私のミスが原因であんな事故が起こり幸せな生活が壊れてしまった。それを直視できずにケインを遠ざけてたんだ」

チノ「ケインさんと同じくらいつらかったでしょう」

父「懺悔してる気分だな」

チノ「すみません」

父「娘をよろしく頼む。私はイギリスに戻らねばならん」

そこまで言って父はチノの顔を見る。

父「もしもあの子を悲しませたら容赦しないぞ」

チノ「はい。ご安心下さい」

父とチノ、二人で夜空の月を見上げる。

翌日。

ケインは洗面所で歯をみがこうとしている。

そこに2本の歯ブラシが差してある。

歯ブラシで遊ぶケイン。

チノの歯ブラシ『どうも、チノです』

ケインの歯ブラシ『私はケインよ』

チノの歯ブラシ『よろしく』

ケインの歯ブラシ『こちらこそ』

チノの歯ブラシ『洗面所に落ちている髪の毛は君のだろ?』

ケインの歯ブラシ『気になるならあなたが掃除したら?』

そこへチノも歯磨きにやってくる。

ケインが持っていた自分の歯ブラシを奪って歯磨きを始めるチノ。

チノ「後で使った人が掃除を」

ケイン「何してるの?」

チノ「歯磨き」

ケイン「私が先よ?」

チノ「一緒に使った方が早い」

ケイン「何ならシャワーも一緒に浴びる?」

チノ「そうだな。いい考えだ」

チノはその場で服を脱ごうとする。

慌ててキッチンへ逃げるケイン。

チノ『ちっ。まったく・・・』

ニヤニヤしてるチノ。

ケイン『何よ、あの言い方。このままじゃずっと向こうのペースだわ』

シャワーを浴びようと風呂場にきたチノ。

服を脱いで鏡の前に立つ。

チノ『チョン・チノ、お前も変わったな』

居間でジェンガをしてる二人。

倒した方がデコピンを受けるルールだ。

真剣な目で抜くチノだが、また倒してしまう。

ケイン「ほら。早く」

チノ「解ったよ。軽くね」

思いっきりデコピンするケイン。

さっきの恨みだ。

痛がるチノ。

ケイン「そんなに痛かった?」

チノ「力を入れすぎだよ」

ケイン「おでこを見せて」

チノ「嫌だね」

ケイン「これで5回目だもんね。やだ、赤くなってる。フーフーしてあげる」

チノ「いいよ」

ケイン「少しは違うわよ」

チノ「いいって・・・」

チノのおでこに息を吹きかけているケインの顔が目の前に。

チノ、ケイン「あっ・・・」

気まずい空気。

チノ「少しは手加減しろよ!」

飛び退くチノ。

ケイン「あなたが本気でやれって言ったのよ!」

チノ「僕に恨みでもあるのか?」

ケイン「やめてよ、ゲームごときで。男らしくないわね」

チノ「悪かったね」

お互いの部屋に逃げる。

洋服売り場の試着室から同時に出てくる二人。

お揃いのペアルックで。

寄り添って携帯で写メを取る。

携帯のカレンダーに『お揃いの服』と書き入れる。

公園で二人乗り自転車に乗っている二人。

しばし幸せな時間。

ベンチに座り一人チノを待つケインの所に子供が次々に風船を持ってくる。

訳も分からず受け取るケイン。

大量の風船に驚いていると、チノが風船を持ってやってくる。

チノ「これはプロポーズだ」

チノが持っていた風船の紐には指輪が括り付けてある。

ケイン「チノさん・・・」

感動したケインは思わず持っていた風船を全部手放してしまう。

風船は木に引っ掛かって止まっている。

チノ「手を離すなよ!」

ケイン「怒鳴らないでよ」

チノ「まいったな、もう。肩車だ!」

チノの肩車で必死に取ろうとしているケイン。

ケイン「あともう少し・・・」

チノ「こっち?」

ケイン「もう、なぜ風船に指輪をつけたのよ?」

チノ「いい演出だと思ったんだ」

ケイン「普通に渡せばいいのに」

チノ「しかし重いな・・・まだ?」

ケイン「やった!」

チノ「取れた?離すなよ!」

美術館。

館長は飾られたカンディンスキーの絵を眺めている。

そこへチノ。

館長「おめでとう。結婚するそうだね」

チノ「はい、ありがとうございます。館長には本当にお世話になりました」

館長「いや、君は私が思った通りの人だった。頻繁に会ってくれる友達がいなくなって寂しいな」

チノ「電話をくれれば会いに来ます」

館長「君たちから多くを学んだ。世間と戦う勇気を貰ったよ。お幸せに」

二人、固い握手を交わす。

チノ「感謝します」

深々と頭を下げて歩き出すチノ。

ヨンソンに呼び出されてやってくるケイン。

ケイン「待ち合わせの場所が銀行の前?」

ヨンソン「契約金が入るんでしょ?私が相談に乗るわよ。まずは結婚資金を見積もって残りのお金は財テクに回さなきゃ」

ケイン「まだ受け取ってもいないのよ?結婚だってまだ・・・」

ヨンソン「ダメよ。ちゃんと準備しておけば彼の親も安心する」

ケイン「めんどくさい」

ヨンソン「お黙り」

チャンニョルに呼び出されて喫茶店にやってきたチノ。

チノ「中国に行くって?」

チャンニョル「行ったきり戻らないかもしれない」

チノ「元気でな」

チャンニョル「芸術院の施工を任せてもらえるとはな。もっと前に礼を言うべきだった」

チノ「うちで請け負うのは無理だ」

チャンニョル「他も選べただろう?」

チノ「未来建設は親父が一生をささげた会社だ。思い入れがある」

チャンニョル「覚えてるか?ガキの頃キャンプに行ったな。お前の家族とうちの家族でだ」

チノ「そうだったな。お前は昆虫学者が夢で虫取りに熱中してた」

チャンニョル「一緒に集めた虫の標本、今も持ってるよ。親父のことがなければ親友になれたのに」

チノ「帰国したら連絡しろよ」

チャンニョル「新居に呼んでくれるのか?」

チノ「難しいだろうな。フィアンセは料理の腕がイマイチでね」

思わず笑うチャンニョル。

チャンニョル「チョン・チノ、結婚おめでとう」

笑いあう二人。

携帯ショップでヘミの新しい携帯を選ぶテフン。

人目を避けてチューしている。

一方、ヨンソンに引っ張ってこられたケインは、下着売り場にいる。

ヨンソン「ほら見て、いいでしょ?」

ケイン「恥ずかしいからやめて!」

ヨンソン「解ってないわね。これも彼へのサービスでしょ」

ケイン「変なこと言わないでよ」

ヨンソン「恥ずかしがってる場合?手は握るため、唇は重ねるためにあるの。まあいいや。どれ・・・これがいいわ」

ヨンソンからモデル料として女の子を紹介して貰ったサンジュンはレストランへやってくる。

一人で座るイニを見かけ驚く。

イニもまた見合いで来ていた。

二人とも別々の席で相手に退屈している。

後で二人で飲んでいる。

サンジュン「君のような女性を振るなんて同じ男として理解出来ないな。チノはどうかしてるよ」

イニ「あなたなら私とケインのどっちを選ぶ?」

サンジュン「正直な話、君はまさに俺の理想のタイプだ」

イニ「サンジュンさん」

サンジュン「何?」

イニ「私と付き合う?」

その夜、サンゴジェの二人。

チノがケインの肩を抱いて座っている。

ケイン「サンゴジェには互いを思いやるという意味があるそうよ。ママが名付けたんだって。これからもこの家で幸せに暮らしたい」

チノ「そうだね。君のご両親の分まで幸せになろう」



ケインの天気予報『人生は晴れの日ばかりじゃない。例え暗闇に包まれる日があってもこの人と一緒なら勇気を出して前に進めそうだ』


チノの天気予報『いくら走っても前に進めなかった僕。でもこの人に出会い時には立ち止まって深呼吸することの大切さを知った』

THE END